【2-14】回転焼き
屋敷に戻り夕飯を済ませた後、一先ず報告だけでもとライオネルにフェンリルの事を伝えた。
「そっか……神獣山に」
「梅雨以外はどこかに行っているみたいだけどな」
「そう。でも、良かったよ。少しだけでもどうしているか分かって」
安堵した様に笑んで彼は言うと、俺は何も言わずに頷く。と、そこにウォレスがやってくる。
ウォレスは俺を一瞬見た後、すぐにライオネルに視線を向け、耳打ちする。彼が何を言ったか知らないが、ライオネルは緩んでいた表情を引き締めるなり小さく低い声でいった。
「間違いないの?」
「……ああ」
「そう……クリアスタルに続いて厄介な奴が現れたものだね」
その言葉に、俺も眉を顰める。もしや夕方森でウォレスが気にしていたアレだろうか。
察しつつも視線を二人に向けていれば、ふとライオネルがこちらに気付き困った様に笑う。
「ああ、ごめん。話遮っちゃって」
「いや。だが、話を聞いている限り、良い話って訳じゃなさそうだな」
「まあ……ね」
言葉を濁らせつつ、ライオネルはウォレスを見る。ウォレスは考え込む様に黙り込んだ後、息を吐いて着けていた狐の面に手をやる。
後頭部に回されていた面の紐が解かれ、その下の顔が露わになると、俯いたまま「仇だ」と言った。
「仇?」
「ああ。名をマンサクという。黒狐の一族の一人で、俺達の村を滅ぼした奴だ」
「黒狐の……」
その一族の名は聞いた事ある。以前マシロが呟いていたから。確か、赤黒い刃などの術を扱うと聞いた事がある。
だが彼らは紅葉の里から出る事が出来ないとも聞いたが。
「そいつが……さっき森にいたのか?」
「ああ。恐らくは」
「まさか、そいつ。クリアスタルと通じている訳じゃないよな」
ウォレスに対して訊ねれば、ウォレスは間を置いて「まだ分からん」と言った。
「何せ、村を滅ぼした以来会っていないからな。情報も全く無かったんだ」
「そうか」
だからあの森で察した時に動揺していた訳か。
納得しつつ頷くと、ライオネルは顎に手をやりつつ言った。
「とはいえ、ウォレスの村を滅ぼした事含めて目的が見えてこないから、気味悪い所だけどね。キサラギも気を付けなよ」
「ああ。……そういうお前らもな」
自分が言えた事じゃないが、復讐に捉われると周りが見えなくなりがちである。
ライオネルはともかく、そいつが仇だというウォレスを気にしつつ、俺は二人を見た後背を向けて離れに戻った。
次の日。流浪の旅団の公演を明日に控える中、俺はマコトやレン、カイルと共に城下町を再び訪れていた。
「また明日行くというのに、飽きないな」
「だってー暇なんだもん!」
呆れてレンに言えば、不満そうに頬を膨らませてレンは返す。それにマコトとカイルが苦笑いすれば、カイルは俺を向くなり目を輝かせて言った。
「にしても先程のアユさんとの試合すごかったです! まさか、普通の刀も扱えるなんて!」
「そうか?」
すごいと言われても、試合には負けたんだが。
そう苦々しく思いつつも首を傾げて返せば、カイルは何度も頷く。そこにマコトが続けて言った。
「普段とは違う刀身の長さでも、あそこまでやり合えるのはすごいと思うぞ?」
「うんうん。何せ兄様。ウォレス相手でも勝つ事が多いからさ」
「そ、そんなに強いのか」
身内であるレンからも言われ、驚きつつも照れて呟けば、背後から「そうだよー」とライオネルが声を掛けてくる。
気配もなく突然現れたライオネルに俺は肩を跳ねた後、振り向けば、ライオネルは気にすることなく話を続けた。
「アユは幼い頃からヤマメ様に鍛えられていたのもあって、そこらの傭兵や剣士にも引けを取らないくらいに強いからね」
「へえ……」
確かに試合中、アユの攻撃を受けた際一撃一撃が重く感じた。そして太刀にも関わらず、攻撃が早いのも彼の強さの一つだろう。
そこにレン曰く桜宮家の血筋のみが使えるという、花の力が合わさると隙が更に無くなるという。
「道理で、ヴェルダ相手だというのにほぼ無傷で城の中まで入ってこれる訳だよね」
そうときめく様にライオネルは頬に手をやりつつ話す。と、ライオネルの言葉を聞いていたのか、ライオネルの背後からアユが笑みを浮かべつつ返した。
「まあ、あの時は家臣の皆さんや父上がいたからってのもあるんですけどね」
「兄様‼︎ ウォレスも‼︎」
レンが驚く。これに対しアユは笑みを貼り付けたまま「また遊びに行ったと聞きまして」と言えば、レンは気まずそうに視線を逸らす。
そんなレンをアユはしばし見つめた後、こちらを向いて言った。
「まあ、かくいう私も息抜きがてら来た訳ですが……キサラギさん達はこれからどこに?」
「俺達か? 俺達はとりあえずレンのいきつけの茶屋に行くつもりだが」
「そうですか。では私達も同乗して」
そこの回転焼きは美味しいですからと言いながら、アユは一足早くこれから行く店に向かう。アユの後をウォレスが追う中、レンはため息交じりに言った。
「兄様、昔からあそこの回転焼き好きなんだよね……」
「そういやこの間も買っていっていたな」
マコトが呟くと、レンはこくりと頭を縦に振る。して、懐かしくも寂しげな様子で言った。
「あの店は、母様の家の味だから。昔はよく母様が作ってくれてね」
だから、あたしも好きなんだ。
レンは笑って言うと、マコトやカイルもつられて笑む。ライオネルも微笑して「美味しいよね」と言うと、レンは顔を上げる。して、アユの元へ走って向かうと、俺達も遅れてレン達の元へ歩き始めた。
※※※
「はいアユ様。あんみつでこざいます」
「ありがとうございます」
(回転焼きじゃないのかよ)
流れ的に回転焼きの雰囲気だったじゃねえか。と心の中でツッコミつつ、俺は串に刺さった団子を口にしながら、運ばれてきたあんみつを口にするアユを遠くから見つめる。
レンはレンでたい焼きを食べる中、ライオネルとウォレスだけは回転焼きをそれぞれ食べていると、ふとウォレスが言葉を漏らした。
「やはり焼きたては美味いな」
「そうだねえ。……所でさ、何味食べているの? すごい色しているけど」
(すごい色?)
ちらりと視線をウォレスの手にする回転焼きに向ける。と、恐ろしい位に真っ赤に染まっている中身を見て、俺は言葉を失った。
ウォレスは飲み込んだ後、それをライオネルに向けて「食うか」と訊ねる。
「激辛麻婆茄子味だ」
「うーん……遠慮しとく。ウォレス辛いの好きだよね」
ライオネルは若干引きつつ呟くと、ウォレスはそれを平然と平らげながら「辛くはないぞ」と答える。
「まだ寒凪で食べた火鍋の方が辛かったな」
「えー……本当?」
「ああ。騙されたと思って口にしてみろ」
そうウォレスは言って、傍にあった皿から新たな回転焼きを手に取ると、それを半分に割り、ライオネルと何故か俺に片割れずつ渡す。
どうして俺までと思いつつ、恐る恐る口にすれば、舌を針が突き刺す様な痛みが襲いかかってきた。
(かっっっっ)
「からぁぁぁぁぁぁ⁉︎⁉︎」
俯き悶える俺とは別に、ライオネルが涙目で叫ぶ。そしてライオネルはウォレスを見て「嘘つきぃ!」と言う。
「寒凪の火鍋の方が何倍も優しいよぉ⁉︎⁉︎」
「そうか?」
「お前……かなり辛さに強いんだな……」
茶で流し込むが、未だに口の中はヒリヒリしている。すると、俺達と同じく別の席で辛さに悶える様な声が上がった。
そちらを見れば、昨日流浪の旅団の天幕で出会ったあの狐の獣人の青年の姿と、ウォレス同様何ともなさげにそれを口にする、右目を包帯で隠した白髪の男がいた。
「わーん! 口の中が燃えてる〜‼︎」
「大袈裟だなこの位。エメラルで食ったスパイシーチキンよりは辛くねえだろ」
「どっちも辛いよ‼︎」
そう舌を出しつつフィルは男に泣き叫ぶ。一方で男はやれやれと言わんばかりに、男はそれらを口に閉まった後、腰掛けていた長椅子から立ち上がった。
その男と目が合うと、男は瞬きした後「ああ」と言ってこちらにやってくる。
「昨日来た兄ちゃん達じゃねえか」
「ああ。昨日は邪魔したな」
会釈しつつそう返せば、男はにかりと笑って「いいって事よ」と返す。そこにフィルもやってくると、俺が手にしている回転焼きを見て顔を歪ませる。
「お、お兄さんもそれ食べてたんだ。チャレンジャーだね?」
「選んだんじゃねえよ。貰ったんだよ」
「そんなに辛いか? それ?」
不思議そうに男が言えば、茶を飲んでいたライオネルが「辛いと思うけど」と掠れた声で呟く。
そこで男とフィルはライオネルの存在に初めて気がつくと、男は目を細めて言った。
「お前……オアシスの魔術師か」
「……元ね」
男に対してライオネルもまた無表情で返す。それに男は「ふうん」と返すと、傍にいたフィルに小袋を渡して、その場を後にする。
「フィル。そこから、代金払っといてくれ」
「ぷ、プリーニオ⁉︎」
態度が変わった男に、フィルが慌てて呼び止めようとする。が、男はさっさと店を後にして外に出て行ってしまった。
フィルはそんな男に対し溜息を漏らした後、ライオネルを見て謝る。
ライオネルは気にしていない様で、笑いながら「大丈夫だよ」と返せば、フィルは眉を下げながらも笑んだ。




