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千神の世  作者: チカガミ
2章 桜宮の魔術師
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【2-12】また見た夢の続き

 その日の晩。俺は()()夢を見た。

 青空の下、今眠っている離れとよく似た建物の縁側。風が吹き、軒下で風鈴が音を鳴らし揺れている中、気配を感じ右を見ると、自分によく似たあいつが腰掛けていた。

 彼は膝の上に乗せた黒猫を撫でて愛でながら、こちらに話しかけてきた。


「彼とは仲良くなったみたいだね」

「仲良く? 」


 仲良くなったか? と疑問に思うと、青年はフッと笑う。して眉間を人差し指で突いた。


「ここが以前より柔らかくなったし」

「……」


 言われ、あえて眉間に皺を寄せると突く青年の手を払う。そうしても尚、青年は年相応に声を上げて笑うと、膝の上の猫を抱きかかえる。

 黒猫は不満げに鳴き声を漏らしつつ、青年のされるがままに前足を揉まれていたが、最終的に青年の手を甘噛みした後、膝から降りていった。

 その小さな後ろ姿を眺めつつ溜息を漏らせば、青年はこちらを向き言った。


「それで。どうだった? 話を聞いて」

「話?」

「聞いたんでしょ? オアシスの事」

「ああ……」


 ライオネルが話していた事かと、納得すれば俺は正面を向き「別に」と答える。

 何をお求めか知らないが、少なくともあの話を聞いて思った事はない。それでもじっと見つめてくる青年に、俺は目を逸らし身を引くと、渋々口を開いた。


「ライオネルの話はオアシスが滅ぶ前までの事だ。頭領達の話題は出ていなかった」

「そうだね。……で?」

「……何が聞きたいんだお前は」


 そう呆れ気味に返せば、青年はキョトンとした後、前に出していた身を引く。そして、正面の並ぶ低木を見つめながら言った。


「まだ復讐する気なのかなって思って」

「……」

「だって……仲良くなったんでしょ? ライオネルとは」


 だったらもう頭領の為に生きる事はないじゃない。そう彼は言って縁側から立つ。

 初夏の風が吹き込む中、青年の影差した背中を見つめた後、俺は俯き呟いた。


「復讐相手はライオネルじゃなくなった。それだけだ」

「なるほどね」


 息を吐きつつ青年は返す。して顔だけこちらを振り向くと、笑みを浮かべ言った。


「ま、そう考え直してくれたのは僕としてもありがたいけどさ」

「……」

「んで。 その復讐の為に君はどうするの? 桜宮(おうみや)とは手を組んだけど」


 待つだけのつもり?

 青年の問いに、俺は間を置いて頭を横にする。とはいえ、まだやる事はさほど決まってはいない。


「とりあえず……マコトの事もあるし、桜宮の命令で動く事にはなるだろうな。それからどうするか考える」

「そう」

「……後は、自分の記憶も気になる所だが」

「あ、一応気にはしていたんだ」


 意外だと言わんばかりに、青年は目を丸くする。その反応に俺は頭を掻きつつ「一応な」と目を逸らしつつ返せば、青年はこちらに歩んで、見下ろしてくる。

 俺は俺で青年を見上げると、青年は俺と同じ青い瞳を細め、口を開いた。


「僕と対話出来ている以上、君の失った記憶はそう遠くない内に思い出すだろうね。……けど」

「?」


 言いかけた青年は俺の肩を掴み、覆い被さる様に身を寄せる。顔が近づき、額が重なると彼は目を伏せた。


「思い出した時、僕と君は別れる事になるだろう。ここにある器は一つだけ。その主に誰がなるのか。それ次第だけどね」

「器……」


 青年は目をゆっくり開くと、俺の左胸をトントンと指で突いてくる。俺は青年をじっと見返すと、青年はフッと笑って身を離した。


「まあ、それは追々。それよりも今はこれからについてだ」


 そう言って青年は人差し指で円を描きつつ、俺の隣に腰掛ける。


「遅かれ早かれ、ヴェルダやクリアスタルとはぶつかる事にはなるだろうけど、今の君達の戦力を考えると正直言って心許ない。だから僕としてはもっと仲間を増やした方が良いと思うんだ」

「仲間?」

「そう仲間。そうだな。例えば……フェンリルとか。ライオネルの話に出てきたでしょ」

「フェンリル……な」


 確かに話には出てきたが。だが、ライオネルの話によれば、あいつは確か魔鏡守神(まきょうのまもりかみ)の血を引いているのではなかっただろうか。


「それに今は確かライオネルに封じられているんだろ。封印を解いたとしても、手を貸してくれるかどうか……」

「良いから良いから」


 言いかけた俺を遮って、青年はにこにことして手を握ってくる。

 何故そこまでフェンリルを推してくるのか知らないが、かと言ってやる事も決まっていない。気が進まないが、ここは素直に彼の案に乗るしかないだろう。

「分かったよ」と渋々返せば、青年はより笑顔になる。


「じゃあ、後はよろしくね。キサラギ」

「……はあ」


 息を吐くと、青年は俺の右肩を軽く叩いた後、縁側から立ち上がる。

 瞬間、視界が早朝の離れの天井に変わると、俺は瞬きした後、「夢か」と言って二度寝に入った。


※※※


 夢といっても、あれは随分と現実味のある夢だと思う。

 二度寝をしたのに、未だに脳裏にはっきりと浮かぶ中、俺は一人母屋に向かっていると、丁度アユの部屋から出てきたライオネルと鉢合わせした。


「あ、おはようキサラギ」

「ああ」


 頷いた後、「ちょっと良いか」と訊ねれば、彼はキョトンとした後「良いけど」と若干笑んで返す。

 そこから、少し歩いて離れに向かう途中の軒下までやってくれば、ライオネルが話しかけてきた。


「何かあった?」

「いや、聞きたい事があって」

「聞きたい事?」

「その、昨日オアシスの話してくれた時に、フェンリルとかいう半神? の話もしてくれただろ。そいつの居場所を知りたいんだが」

「え、フェンリル」


 何でまたとライオネルは驚く。

 何でと言われても、夢で見たあいつが気になっていた……とは口が裂けても言えず。唸った後、苦し紛れに「興味を持ったから」と嘘をつけば、ライオネルはニヤリとして左右色違いの双眸を細める。


「へー、興味を持ったねえ? キサラギにしては珍しい」

「い、いいだろ別に。それで、どうなんだ。知っているのか?」

「そうだね。それこそ最後に会ったのがあの神殿で封印した時だったから……今はどうしているやら」


 噂ではオアシスが滅亡する直前、フェンリルが何者かによって封印が解かれたらしい。故にそれ以降の行方など、ライオネルが知る筈もなく、彼は申し訳なさそうに手を合わせて謝ってきた。


「まあ、強いて言えばだけど……近々桜宮に流浪の旅団が来る予定だから、その時に聞いてみたら良いんじゃない? 彼ら各地を転々としているからさ」

「流浪の旅団……な」


 それもそうだなと返せば、ライオネルは笑顔で頷く。してこうも話していた。


「本当はスターチスに聞くのが一番手っ取り早いんだけどさ。今朝、置き手紙をして居なくなっちゃったし……」

「置き手紙?」

「そう。ほら、『朝食の握り飯二つ貰った。さらば!』 って書いてある置き手紙」


 スターチスの声真似をしつつ、ライオネルは袖から筆で書かれた紙を取り出す。

 それは聖園式の文字で書かれていたが、紙の右下にはご丁寧にスターチスらしき似顔絵と、二つの握り飯の絵もあった。忙しいと言いつつ、手の込んだ置き手紙を置いていったりと相変わらずよく分からない奴である。


「あいつは神出鬼没だから、期待しない方が良いかもな」

「そうだね」


 その方が良いかもと、ライオネルは苦笑する。

 一先ず、フェンリルの情報は流浪の旅団に期待する事にし、ライオネルと別れた後、離れに戻ってくればマコトが縁側に座ってカイルと話していた。

 どうやら昨晩の城下町の話をしていた様だったが、そこに俺が来た事で、カイルがこちらを見て声を掛けてくる。


「あ、おかえりなさいキサラギさん」

「ただいま。……昨日の話か?」

「ああ! 昨日は全て回りきれなかったからな。近々旅する劇団が来るとかで、レンにまた誘われた際にどこ行こうか話していたんだ」


 キサラギもどうだ? とマコトに言われ、俺は「そうだな」と言って誘いに乗る。旅団には俺も用があるし、誘いを断る理由もなかった。

 少し熱い陽射しから避ける様にマコトの隣に座ると、カイルが再び話しかけてくる。


「キサラギさんは好きな食べ物ってありますか」

「好きな食べ物……」


 強いて言えば、卵焼きだろうか。マシロの家にいる時は大体それを作ってもらっていた気がする。


「質素に砂糖や塩だけでも好きだが……欲を言えば、出汁入りが好みだな」

「なるほど!」

「だし巻き卵……か」


 カイルが興味津々に返す中、マコトは目を丸くした後、どこか寂しげに目を伏せて呟いた。

 何度か見たマコトのその反応に、俺は薄らと夢で話したあの青年の顔が頭に浮ぶ。何となくではあるが、あいつはマコトの知っている人物の様な気がした。


(全く)

 

 相変わらず、考えている事が顔に出やすい奴だなと呆れつつ。俺は、その誰かさんを思い返しているであろうマコトにぼそりと言葉を漏らした。


「お前今、俺を誰かと重ねていただろ」

「! ……い、いや。そんな事はない……が」

「隠しきれてねえじゃねえか」


 頬杖をついて息を吐くと、気まずそうに目を逸らすマコトの額を人差し指で突く。

 少し強めに突いたのもあるが、「あいた」とマコトは声を上げると、両手で額を押さえる。

 そんな彼女に構わず俺は言葉を続けた。


「まあ、そいつとは近い内に会えるさ」

「……?」


 俺の言葉に、マコトは顔を上げるなり首を傾げる。

 俺はマコトから視線を逸らすと、漆喰の塀沿いに植えられた低木を眺めつつ、「あくまで勘だけどな」と言って誤魔化した。

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