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こいつ馬鹿よ

その日、オオスは迷いの竹林に一人できていた。

迷いの竹林はいつも深い霧が立ち込め、竹の成長が早く日々変化するためこれと言った目印が無く、緩やかな傾斜により方向感覚も狂うため、よほどの強運が無ければ脱出できないとも言われている。

オオスはそのようなところにたった一人で喪服できていた。

幻想郷に来て以来久方ぶりに着た喪服、月夜に照らされたオオスはその容姿と相まって普段とは違い、儚く淡くその姿は神秘的にすら見えた。


「ここか」

オオスはとある目的でこの竹林に来ていた。

今までのオオスならば迷いの竹林なんて絶対来ない。


だが、オオスは慧音の件で吹っ切れた。

だから、ちょっとだけ頑張るのだとオオスは自分に言い聞かせていた。


「すみません。兎さん拘束しますが、用が済んだら解きますので」

オオスは目の前の人兎に謝罪する。オオスとしても荒事は好まないが仕方がなかったのだ。


他の兎、因幡とかいう同僚らしき兎はオオスが自らの目的を話すと去って行った。

何故か古くからの親友のような感覚で話せたのだ。彼女とは後日酒でも飲みたいものだ。


だが、目の前の鈴仙とかいう人兎はどうにも好戦的であった。

下手しなくとも何もしなければオオスが殺されていたので仕方がなく拘束したのだった。


その人兎、鈴仙は足元に届きそうなほど長い薄紫色の髪に、紅い瞳を持っていた。

頭にはヨレヨレのうさみみがあり、その根元には謎のボタンが付いている。取り外し可能なのかとオオスは気になって仕方がない。

白のブラウスに赤いネクタイを締め、紺色のブレザーをその上に着用していた。


「な、何で私の力が効かないの!それも地上人風情が!」

鈴仙は拘束されているのにも関わらずオオスを馬鹿にしているようだ。

オオスは紳士なので特に何もしないが、今後このような場面に出くわした際危険なのでちょっとだけ脅すことにした。


がらりと空気が変わる。誰もいない竹林でそこだけ“寒さ”が止まらない。

鈴仙は気温以外の何かで体が震えた。


「…一つ教えてあげましょう」

オオスは口が裂ける程ニヤリと笑う。

見る者が見ればそれだけで狂気で発狂させかねない“モノ”がそこにはいた。


「人外風情が狂気で私に敵おう何て幾億年早いわ」

オオスは鈴仙だけを見つめる。その目は無機質であり愉悦であり狂気であった。


「…お、お師匠様」

鈴仙は思わず誰かに祈ってしまう。それは追い詰められた人間が神に縋るようでもあった。


すると、

「と、ごめんなさい。つい」

ガラリとオオスは元に戻った。オオスは鈴仙に謝罪する。

そこには先ほどと同一人物とは思えない程、何だか適当な人間の気配しか感じない。


「普通に物理で殴られたら私死にますので次の機会には是非お試しを」

そう言ってオオスは鈴仙に向かい真摯に首を垂れる。何か臭うがオオスはそれを指摘しなかった。

ほんの少しだけやり過ぎたかなとオオスは反省した。


そして、オオスは目の前の結界に手を翳して何かを唱え始めた。

次の瞬間、オオスは結界の内にすり抜けた。




そこは一言でいえば、戦場であった。

だが、爆炎の中美しい弾幕が飛び交う誰しもが見惚れてしまう美しい戦場であった。


「神宝『サラマンダーシールド』」

時計回りと反時計回りで回転する二つの弾源が絶世の美少女の周りを回転しながら外側に向けて火炎弾を発射し続ける。

美少女の名は蓬莱山輝夜。

永遠亭に隠れ住んでいる月人であり、竹取物語のかぐや姫その人である。

輝夜は三百年前に幻想郷で見つけた藤原妹紅と誰にも気づかれず、いつものように殺し合いをしていた。


「不死『火の鳥-鳳翼天翔-』」

火の鳥を模した炎弾の塊が赤い弾を残しながら飛んでいく。

それを発した少女の名は藤原妹紅。

銀髪のロングヘアー髪には白地に赤の入った大きなリボンと毛先に小さなリボンを複数つけ、上は白のカッターシャツ、下は赤いもんぺをサスペンダーで吊っていた。


火炎と火炎がぶつかり合う。不死者の二人以外がその場に入れば焼け死ぬであろう火炎が爆発した。

その一際大きな爆発に誰かがぶつかった。


「誰かが入って来たわ」

輝夜は爆発を見ながら呟いた。


輝夜は妹紅と殺し合いをしていた。

だが、それよりも輝夜の能力と永琳の仕掛け、さらには因幡てゐの力で入ってこられないはずの場所に侵入してきた存在に興味を持った。

本丸の永遠亭内ではないとはいえ、幻想郷の賢者であろうと侵入は不可能なはずだった。


最も今の爆発で死んだ可能性が極めて高いが。

死んだとしてもその存在が何者だったのか輝夜は興味を抱いた。


「なっ!」

妹紅は侵入してきたことよりも自らの攻撃に巻き込んでしまったことに驚いているようだ。

誰も入ってこないから思いっきり殺し合っていたのに死なれてはという思いがあった。


だが、

「一切皆苦…なるほど慧音が会わせないわけだ」

誰かは生きていた。あの爆発で生きているのは男であった。


「今、慧音と言ったか?誰だお前は!」

妹紅は思わず声をあげる。慧音は妹紅にとって数少ない理解者だ。

だからこそ、目の前の怪しい男の素性を問いただそうとした。


「初めまして。先ずはお二方の喧嘩の邪魔をしてしまったたことお詫び致します」

男は平然と挨拶と謝罪をする。そこには先ほどの爆発に巻き込まれたとは思えない程平然としていた。

更には男の衣服には乱れがなく、まるで堪えた様子がなかった。


「…自分で言うのも何だけどあの弾幕にぶつかっておいて、喧嘩って言うのは頭のネジが飛んでいるのかしら?」

輝夜は思わず溢した。

自分で言うのもおかしいが普通の弾幕ごっこと違い、蓬莱人同士の本気の殺し合いであり喧嘩と評するには客観的に見て頭がおかしいと思った。


「取繕って後悔するよりも強引にでも行動しようと決めていたのです」

オオスは輝夜を無視するように言葉を述べる。

それは自分自身に言い聞かせているような言葉だった。


「初めまして。慧音の友人さん。私はオオス。しがない里の紙芝居屋です」

オオスは声高らかに名乗りをあげた。そこには親愛の情が含まれているようであった。


「…ああ、慧音が偶に話していた紙芝居屋か。随分な登場だな」

妹紅は慧音が少し変な奴だけど良い奴だと言っていたことを思い出す。

“少し”変な奴ではない。物凄く変な奴だと慧音の言葉を頭の中で訂正した。


「竹林で迷子になりそうなので、こういう歪みがあるときにしか尋ねられなかったのです。お許しを」

オオスは世界中の従者が手本とするような礼をもって謝罪した。ここにレミリアがいれば誰こいつというに違いない。


「あら、妹紅の知り合いかしら?」

輝夜はちらりと妹紅を見て、そしてオオスを見て言った。

その目には自分を無視するのかという不満が見え隠れしていた。


「申し訳ありません。どこかの貴人とお見受けしますが、どなたでしょうか?」

オオスは改めてして輝夜の名を尋ねる。


「フフフ。誰かしらね。少なくとも無粋な人に名乗る名前はないわ」

輝夜はニコリとオオスに名乗らないことを宣言する。

自分が今まで男に二の次に置かれたことがなかったのでムカついたわけではない。


「ですよね。ええ、そうですよね」

オオスはここの主人を無視して会話したのは失礼だったなと思って言葉を述べた。


ふと、輝夜はオオスの喪服に気が付いた。

輝夜だから気が付けるモノをオオスは身に着けていた。


「…ちょっと待って、それって火鼠の皮衣じゃないかしら?」

無理難題の五つの神宝、輝夜ですら蓬莱の玉の枝のみ所有しているそれを男は着ていた。

しかも、オオスはそれを喪服の生地に使っている。

火葬されたくないのだろうかと支離滅裂な思考になる程、輝夜は動揺していた。


「…確かそういう呼び名もありましたね。如何にもお目が高い。

 かつてンガイの森を焼き尽くした某邪神を揶揄うために私が用意した耐火装備です」

オオスは自分の喪服の真価を知っているのに少し驚いた。

オオスの喪服はかつて邪神同士をぶつけるという嫌がらせを安全にするために特注した最上級の耐火品だった。


「材料となるは、アラル海に住む希少な石綿を食べて成長するネズミの中でも更に希少。

 もはや二度と作れない特注品です。製作費何と10億ドル。円じゃなくて米ドルですよ」

オオスは思わず口が軽くなり、聞かれてもいないことをべらべら喋る。


「かぐや姫の御伽噺はご存知かしら?まさかとは思うけど…」

一方の輝夜はわざわざ自分のところに火鼠の皮衣を持って現れた男に動揺してしまう。


だが、

「あ、これはあげませんよ」

渡さないとオオスは即答した。そして、オオスは目の前の女性の正体を見破った。


「そ、そう。妹紅この人何なのかしら?」

もし、求婚されでもしたらどうしようかと思ったら全力で断られたので動揺しっぱなしで思わず輝夜は妹紅に話を振ってしまった。


「慧音が言うには少し頭がおかしい人里の紙芝居屋だそうだ」

妹紅も自分の父親のことを思い出して、改めて目の前の男は頭がおかしいと思った。

男ならば輝夜に魅了されて即座に渡してしまうだろうが、目の前の男はやはりおかしい。


「ちょっと違います。私は極々普通の人里の紙芝居屋です」

オオスは自らの職業を誇るように言う。そこには微塵も嘘偽りが存在しなかった。


「『少し』?少しってこれが?」

輝夜は少し頭がおかしいというレベルではないだろうと妹紅に詰め寄る。


「…慧音には人付き合いに気を付けるように言った方が良いかもしれないな」

妹紅も暗に同意した。そして慧音がおかしい男に引っかかっているのではないかと心配した。


「…普段なら怒るところですが、今回はお邪魔した私に非があります。

 ですが、どう見ても善良なる一般里人たる私を変人みたいに言うのは傷つきます」

オオスは本心からそう言っているようだ。一般の意味を辞書で引くべきだ。


「知っているかしら?普通の人は自分のことを善良なる一般人とか言わないのよ」

輝夜はオオスに正論を言う。


「?」

オオスは輝夜の言葉に首を傾げた。


「おい、輝夜。理解してないぞこいつ」

妹紅は輝夜に言う。もはや先ほどまで殺し合いをしていた雰囲気はそこにはなかった。


「そもそも何しに来たのかしら」

輝夜はそう妹紅に言った。

オオスと話していると頭がおかしくなりそうなので妹紅に話を振るしかなかった。


「良くぞ聞いてくださいました!私は今回ここに来た理由それは…」

オオスは声高らかに語り始める。それはてゐが聞いて大爆笑した理由だった。


「慧音が妹紅さんを紹介してくれる前に会って、『既に知っていますけどねえどんな気持ち』と言うためです!」

オオスは真剣な面持ちで宣言した。本気かどうかはわからないが、真面目に言っているのは確かである。


「妹紅。わかったわ。こいつ馬鹿よ」

輝夜は考えることを放棄した。


「…頭が痛くなってきた」

妹紅はオオスの宣言を聞いて頭を抱えた。


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