書籍2巻発売記念書き下ろし「奥様と願いの物語」
ラスボス系悪女、2巻が5/2発売なので、それを記念した話の書き下ろしです!
本編を見終わってから読んだ方がよいです。
よろしくお願いします。
「えー、それでは、三日後に二十歳となり、結婚式と戴冠式を迎える我が愛娘、ラヴィの前途を祈りつつ……乾杯!」
「「「乾杯!!」」」
私達は例のラスボスを倒し、なんとか国の復興を頑張る日々を過ごしてきた。
そして今日はラヴィが女王として戴冠式を迎える三日前で真っ昼間から公爵邸の藤棚の下にてプチ宴会をしている。
綺麗な紫色の藤棚を眺めつつ、お酒のお供に鶏肉の鶏皮を、カリカリに揚げたものを食べて、今はご機嫌!
ハイカロリーなのは分かってる! でもお酒のツマミに最高。
「鶏皮は首の部分が美味いんですって! 料理人に頼んだからどこが首のか分からないのですけど!」
「なるほど! 流石ディアーナ様は博識ですね!」
「相わからず、変な知識ばかりあるものだな」
「旦那様!」
「陛下!」
本日は非番の騎士を呼んであるのだが、匂いに釣られたのか、旦那様もやって来た。
三日後にはラヴィが女王になるので、旦那様が陛下と言われるのはあと僅か。どのみち聖女のラヴィが、女王として立つまでの代理って決めてたからね。
「バルコニーではなくても、そなたのやることは本当に変わらんな」
「そうですね、あなたも良ければどうぞ! 鶏皮以外もあります」
「野菜の煮込み料理と骨付き肉とサラダか」
「新玉ねぎとワカメとキュウリのサラダにポトフと、こちらは豚のスペアリブですが、マーマレードと醤油と砂糖で味付けされています」
「ふむ」
静かに相槌をうちつつ、旦那様は私の向かい側の席に座った。
「この揚げ物と豚肉のツマミ達が酒が止まらない味付けなんです!」
近くのテーブル席から声があがった。
「ポトフは優しい味でほっこりします!」
非番の護衛騎士が私により、このプチ宴席に招かれて酒と料理を楽しんでいるのである。
「非番でよかったな」
旦那様が宴席にいた三人の騎士に声をかける。
以前より流石に貫禄は増しているけど、柔らかい表情もできるようになった。
「はい!」
◆ ◆ ◆
そして結婚式&戴冠式前日の昼。
勇者たるハルトとラヴィが新しく建て直した城にある庭園にて、散歩をしていたのを目撃した。
偶然私も旦那様と散歩をしていたのだけど、なんとなく大きな花木の後ろに隠れる私達。
若い二人の邪魔をしたくないからだ。
そしてハルトがカーテンのように垂れ下がる藤の花にそっと触れてかいくぐる。
各所で武者修行をしていたハルトもすっかり背の高い青年になっていた。
「ラヴィは……もうすぐ女王様になるんだな」
ハルトはすっかり美しいレディ然としたラヴィに見惚れながら、しみじみと言った。
ラヴィは本日、ちょうど藤の花に合う、薄紫のドレスを着ている。
「そうだけど、あなたは王配になるのよ」
「ああ、俺では頼りないかも知れないけど、頑張って支えるよ」
藤棚の柱に手をそえて、ハルトは誓った。
「貴方が支えるのはその藤の花の棚ではなく、私でしょ?」
「それはそうだな……」
ハルトは微笑んでラヴィに近寄り、その細い腰を右手で引き寄せ、左の手のひら越しに、ラヴィにキスをした。
なんで手のひら越しにキスしたんだろう?
唇にチョクで行けばいいのに。でも、何だかロマンチックね。
「ハルト、何故手のひら越しにしたの?」
あ、清純派のラヴィですら、やや不満そう。
「本番は結婚式だから、今はまだ……大事に取っておいた、その日の感動の為に」
「そ、そうなの? なら仕方ないわね」
頬を染めてるラヴィのなんと愛らしいことか!
しかしまずい……娘のラブシーンをめちゃくちゃ覗いてしまった。
エレン卿がここにいたら、絶対に怒られる。
今日はお嫁さんと過ごしているはずだけど!
そして照れたラヴィは足早に藤棚から遠ざかって行き、それを追うハルトも去って行く。
「ふう……なんとかバレずに済みましたね」
白い花咲く花木の後ろからそっと出てくる私達。
「最近は……ああいうキスが流行っているのか?」
急に珍しい話題をふってきた旦那様に少し面くらう私。
「さあ、そんな話は聞きません。ハルトも本番が控えているから遠慮しただけだと言ってましたし」
「そなたはうっとりした顔で見ていたようだが」
「それは……何だかロマンチックに見えましたし、 建国神話的なものを作って、それに載せてもよさそうです」
「本に書くのか」
「建国神話的なものはあった方がいいらしいですし」
私は建国神話というものが、国民の共通意識や連帯感を醸成し、誇りを持たせ、国のアイデンティティを確立する上で重要な役割を果たすとかなんとかいうことをざっくりと説明した。
「ほう……なるほどな」
「ふふ」
「本当に物語が好きなんだな、そなたは」
旦那様は柔らかく微笑んだ。私の前でしか、見せない笑顔で。
「素敵なものは紙に残したり誰かが語り継ぐなりすれば、それは永遠に近いものになりますから、それは素敵なことでしょう?」
「そうか……」
そう、だから私は……新しい国が女王をいただいて、幸せに長く続きますようにと、願いを込めて本に刻もうと思うのだ。
幸せな記憶と共に、誰かの心に永遠に残りますようと……。
了




