第四話 王立学園卒業式
王立学園の卒業式は華やかだ。アンジェリカは忙しい父のエスコートも断って、ひとりで参加した。選んだドレスは花柄ではあるが茶系のもので、茶色の髪と瞳を持つアンジェリカを映えさせるものではない。だが母のものを仕立て直したそのドレスは、アンジェリカにとっては鎧のようなものだ。
「アンジェリカさま、出席なさったのね」
「あら。何かあったの?」
「聞いてない? アンジェリカさまは、婚約を解消されてしまったのよ」
「ああ。それでリッキーさまは、ロジータさまと……」
「お可哀そうに、アンジェリカさま」
「でもアンジェリカさまは、おひとりで卒業式典に出席される度胸がおありなのですもの。どこでも生きていけますわよね」
「そうよね。お強いわ」
クスクス笑いながら囁きあい、こちらを眺めている視線を感じながら、アンジェリカは背筋をスッと伸ばした。
(こうなることを見越して、お父さまがエスコートを申し出てくださいましたけど……お父さまはお忙しいし)
王立学園を卒業する晴れの日。同級生たちは婚約者にエスコートされたり、エスコートしたりと忙しい。また大事な子どもの晴れの日を見るために、保護者である親たちも出席している。
(我が家はお母さまがいない分、お父さまに仕事が集中している。わたしのことで手を煩わせるのは違う。それに……わたしはお爺さまのところへ養子にいくのだから。お父さまに甘えてはいけないわ)
そこまで考えて、アンジェリカは祖父に来てもらえばよかったことに気付いた。
(あら、わたしったら間抜けね。お爺さまにエスコートしてもらえば、同級生から馬鹿にされるようなことはなかったのに。お爺さまは年を取ったと言っても、辺境伯さまですもの。お爺さまにエスコートしてもらえば、リッキーさまやロジータさまに、あんな表情でニヤニヤと眺められる必要もなかったわね)
アンジェリカは、挨拶のために壇上へと向かった国王の姿を目で追う。
(今年の来賓は国王さま。卒業生には公爵家の子息もいるせいかしら。今までは身分に差があるからと、お爺さまのことは意識して頼らないようにしていたけれど。これからは違う。わたしは辺境伯家の娘になるのですもの)
まだ正式に公表してはいないため、同級生たちもそのことは知らない。こちらを見てコソコソしながら嗤っていられるのは、アンジェリカが男爵令嬢だと思っているからだ。
(一番下位の貴族だから、何の気兼ねもなく馬鹿にできる。貴族にとって爵位は大事だわ。わたしが辺境伯家の娘になったら、周りの人たちはどんな反応をするのかしら?)
慌ててご機嫌伺いしてくれば面白い、とも思うし、面倒だとも思う。アンジェリカ自身、思ってもみなかった展開に戸惑っているのだ。皆も驚くことだろう。問題は、その先だ。
(辺境伯家の娘となれば、高位貴族や王族とのお付き合いも必要なのかしら? そこはあまり考えたくないわ。頭を下げていればしのげる下位貴族のほうが、わたしは気楽)
アンジェリカはそんなことを考えらながら、周囲からの不快な視線に耐え、人生の大きな門出を迎えたのだった。




