第二話 浮かれるふたり
アンジェリカとの婚約解消に、リッキーとロジータは浮かれた。ふたりはディクソン男爵家の庭で、明るい午前の降り注ぐ春の日差しを浴びながら、上機嫌で笑みを交わす。
「これで晴れて婚約を結ぶことができますのね、リッキーさま」
「ああ、そうだね。ロジータ」
アンジェリカとの婚約を解消したその足で、リッキーはロジータとの婚約を望んだ。両親は快く受け入れ、ロジータの両親も喜んでくれた。実際に両家は婚約を結ぶために動いている。いまリッキーの父であるエドモンド子爵と、ロジータの父であるディクソン男爵は、結婚に関する契約の細かい部分を打ち合わせているのだ。
リッキーとロジータは輝く未来だけを夢見て、美しいディクソン男爵家の庭を眺めながら将来を語り合っていた。ディクソン男爵家は、お金持ちである。その財力を見せつけるような庭は、男爵家のものとは思えないほど豪華だった。対してリッキーが跡を継ぐエドモンド子爵は、どちらかと言えば貧しい。爵位が上の家に娘を嫁がせることでディクソン男爵家には箔が付くし、エドモンド子爵は経済的な援助を期待できる。この結婚は両家にとってメリットがあるのだ。ふたりに憂いはない。
令嬢ロジータは細い体をくねらせながら、リッキーの腕に巻き付いた。リッキーは鼻の下を長く伸ばして、美しい顔を間抜けにゆがめながら笑う。ロジータは夢見る少女といった風情で愛しい人に笑みを向けた。リッキーの表情は更にだらしなく緩んだ。ロジータが嬉しそうに口を開く。
「ふふふ。結婚式が楽しみですね」
「そうだね。ロジータ。楽しみだ」
ロジータはリッキーに向かってコクリとうなずくと、自分の胸をリッキーの体へ擦り付けるようにしてしなだれかかった。そしてホウと溜息を吐き、頬をピンク色に染めてうっとりとつぶやく。
「男爵家と子爵家の結婚式だと思えないほどの豪華な式にしましょうね。季節も華やかなほうがいいですわ。花が綺麗に咲き乱れる春とか、素敵だと思います」
「春か。来年かい? 一年は長いなぁ」
リッキーは意味ありげな視線をロジータに向けると彼女の体を上から下まで舐めるようにしてみた。ロジータは、少し恥ずかしそうなふりをしながら笑う。
「ふふ。結婚するとなれば準備が色々とありますもの」
「そうだね。色々と準備が……楽しみだ」
リッキーはニヤニヤと嫌らしく笑った。そして表情をキリッと引き締めると口を開いた。
「その前に、王立学園の卒業式典に出席しなければ。王立学園の卒業生は貴族の令息、令嬢ばかりだ。先々のことを考えたら出席しておいたほうがいい」
「そうでしたわ」
ロジータは素直にコクリとうなずいた。
「今年の来賓は国王さまらしいですしね。今後のことを考えたら欠席するわけにはまいりません」
「ああ、そうだね。僕たちの婚約お披露目にもなるしな」
「特別な卒業式典になるでしょうね。まるでわたくしたちの婚約を祝うかのように」
「ああ、そうだね。特別で大切な日だ」
なぜ国王が出席するのか考えもしない愚かなふたりは、顔を見合わせるとウフフと笑った。




