5話 誰も成し遂げていないことを成し遂げたい
おはようございます。昨日しっかり怒られて反省した藤原雅人です!
さて、本日のミッションはこちら!
『我が主君こと母上を説得し、ダンジョンへの再挑戦許可を得ること。』
難易度はもちろん最高ランク。
「……むり!」
「いや本当にどうやってあの母さんを納得させればいいんだ?」
昨日、帰ってきた瞬間に飛んできた鉄拳制裁。いやまああれは何も言わずに飛び出した俺が悪いから何にも言えないし反省してるんだけど、今、母さんは間違いなく『ダンジョン』の話がタブーとなっているに違いない。
昔父さんに聞いたことある。母さんと口喧嘩したとき、惜しさの一言もなく惨敗しかしていないと。一切の反論も許されない。まず言わせないし、聞いたうえでも完全な反論してくるから成す術がないと。
「禁書目録!……には書いてないよなぁ。さすがに対母さんまで書いてないよな。」
自慢の禁書目録が使えないなら、俺自身の力で何とかするしかないってことなのか。
「あっ。一個だけあるじゃん!この方法なら成功率5割はあるはず!」
この方法なら絶対に説得できる!……はず。きっと、多分……。やっぱ2割くらいかも。
「当たって砕けろ!俺だって母さんの血が流れてるんだから口喧嘩は強いはず!」
早速リビングへゴー!今は、朝食を作ってるか。父さんは仕事で先に家でたし、ご飯食べる時が勝負だな。
「お、おはよう母さん。手伝うよ」
「おはよう。もう少しでできるから箸とコップ持っていって頂戴。」
「う、うっす」
一見当たり障りがないように聞こえるけど俺にはわかる。確実に怒ってる。絶対ダンジョンに行かせないと確固たる意志が全身からあふれ出てる。でも許可貰えないとダンジョンに行けないんだ。やるしかない。
「母さん」
「なに」
「ダンジョンの件なんだけど」
「駄目です」
「早い!」
あらゆる提案を想定して先回りして却下する。言い訳を聞かない最強の布陣。さすが母さん!でもそれは予想してるぜ!
「まず俺の話を聞いて」
「聞いた上で駄目です」
「なんで!?」
「危ないからよ」
くっ、ぐうの音も出させない。しかも事前に理論値の正論で殴ってくる。
「で、でも俺、昨日ちゃんと帰ってこれたし……」
「たまたまでしょ」
「ケガもしてなかったし」
「怪我してるしてないは関係ないの。あそこに行くこと自体が危険なのよ」
くそっ。全部正しい。正しすぎて何も言い返せない。
「じゃあ聞くけど昨日死んでたらどうするつもりだったの?」
「……」
「私たちがどんな気持ちになると思う?」
「……」
それを言われると弱い。かなり弱い。超弱い。
しっかりとウィークポイントをついたうえでの会心の一撃だ。さすが母上。
昨日だってあと少し判断を間違えていたら死んでいたかもしれない。そうなったら父さんも母さんも悲しむのも分かっている。でもやっぱりダンジョンに行きたいんだ。
「母さん。それでも行きたいんだ」
「……」
黙ったまま。無視してるわけじゃないのは分かってるから多分今俺の熱意がほんの少し届いたってことでいいんだよな。
「ちょっと待ってて」
ここから切り札の出番だ!
「……これは?」
よしよし、母さんが困ってるぞ。父さんは知っていても、母さんは俺が今まで何年もの間何を考えていたのか知らないからな。
「こちら、昨日みたいなダンジョンが出てきた時のためにずっと書き続けてた本です。なんと自作。」
「え?……え?」
「まだ俺の部屋に30冊くらい辞書くらいの太さのやつがあります。これは持ち運びやすいように要点だけまとめた本」
「……」
母が呆れた顔をしてる。まあそりゃそうだよな。実の息子が『もしダンジョンがいきなり現れたら』なんかを一生懸命準備してそれを今見せられてるんだから。呆れるよな。そしてここにもう1つスパイスをっと。
「そしてこちらが昨日持っていったバックになります。携帯食料に飲み物、ライト、サングラスに本、その他もろもろ大量に。」
「これ、どうやって準備したの?」
「父さんに全部買ってもらいました。」
「……あの人、私に隠してたなんてね。あとでお説教します」
アーメン父さん。グットラック父さん。裏切り者の息子をゆるしておくれ。
「見てもらって分かると思うけど、本当にずっと準備してきたんだ」
「……そ、そうね」
母さんの反応が少し良くなったぞ。少なくとも昨日は思いつきで飛び出したわけじゃなくてしっかり準備して安全な万全の状態で飛び出していったとは理解したらしい。
「剣道も習って一昨年有段になったよね」
「そうね。先生もかなり驚いていたわね。」
「勉強もしっかりして毎回上位に入ってるよね」
「そうね」
「毎日筋トレしたり、走ったりして体力作りも欠かしたことない」
「……」
「変だと思うかもしれないけど、本当にこの日のためにいろいろ準備してきたんだ。」
この日のために努力してきた数々。もちろん全部ダンジョンに行くための準備だなんて母さんは思っていなかっただろうけど、俺が十分な結果を出してきているのは知っているはずだ。
「……それでも危ないじゃない。」
「わかってる。昨日もモンスターに囲まれて危険だったし。」
「ならなんで行くのよ。」
「夢だからだよ。」
「夢?」
小さい頃からずっと考えていたこと。架空の主人公が冒険する話を読んで胸を躍らせた。未知の大地を切り開く話に憧れた。そして何より、『誰も知らない場所を見つけて、誰も知らない景色を見て、誰も成し遂げていないことを成し遂げる。』
こんな生き方にずっと憧れているんだ。
「うん。誰も成し遂げていないことを成し遂げる。これが俺の夢なんだよ。」
「……お願いします。ダンジョンに行かせてください。」
「……見せなさい」
「その本よ。内容がしっかりしているか私が見てあげる。」
「30以上あるよ?」
「そんなに読むわけないでしょバカ。あんたがまとめたって言ってるその本を見せなさい」
ふむ、真剣だとはいえ自分の書いた本を親に見られるのはちょっと、いや結構恥ずかしいな。
「……なにこれ」
「ダンジョン攻略本」
「それは見ればわかるわよ」
そう言いながらページをめくる。
「魔物の予想図?階層構造の考察?ダンジョン攻略法にステータス?ビルド?」
驚くなかれ母上よ!まだまだ食料の確保方法に武器ごとの長所と短所、など生き残るための内容がびっしり詰まっておりますぞ。
「これ……いつから書いてるの?」
「小学生くらい?」
「小学生!?」
母さんの手が止まった。
「いや、正確には何回も書き直してるよ。これは最新版」
「最新版って何よ……」
あ、本閉じた。もう読んだのかな。呆れてはいるけど昨日みたいな怒りは感じないな。
「この『ダンジョンをクリアする十の盟約』ってちゃんと守ってるの?」
「もちろん。ちゃんと守ってるし、これからも破らない。」
「絶対に慌てない……絶対に油断しない……遭難を最も警戒する……」
「うん。昨日だって、危ないと感じたからすぐに逃げ出したんだ。」
「……昨日ね、あんたが飛び出した後、お父さんと二人で探し回ったの」
「うん」
「ずっと心配してたし怒ってた。不安に押しつぶされそうになって泣きもした。」
「うん」
「でも、これをみて、あんたの努力を知って、少しだけ安心した」
「え?」
これは……!勝ったのか!?あの母さんに!?
「まだ許可したわけじゃないわよ。条件があります。」
きたきたきた!条件付き勝利!なんでも守って見せまっせ!
「まず出かけるときはしっかり伝えること、そしてダンジョンの中に入るとき、外に出たときは一番に私に連絡を入れること。」
「もちろんです!」
「次にこの本に書かれている『盟約』を絶対に守ると私に誓うこと」
「誓います!」
「最後に……毎日生きて戻ってくること。いいわね?」
「はい!全部守って母さんを悲しませないようにします!」
「よろしい。許可をします。」
母さん攻略戦線!無事!許可取得完了!
……絶対に生きて帰ろう。よし!ダンジョンに行こう!
「早速だけどダンジョンに行っていい?……あいた!」
軽く小突かれちゃった。
この後お父さんはお母さんにこっぴどく叱られたそうな。めでたしめでたし。
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