233. もう伝えたいよ、“私が居なくなった日の愛してる”も。 I want to tell you now—‘I love you’ from the day I was gone.
ゴールデンウィーク(5/2-5/7)は“毎日投稿”します。
……あぁほんとうに死にたくないなぁ……。
きょうだいで笑いあっているときもまだ眠りたくなかった。だけど明日が来るなら眠れた。
――アイちゃんが手を握ってくれるからまぶたの裏の暗闇もこわくなかった。
だけど、死んだら?ずっと暗闇?誰にも会えない?何も考えられない?無に帰る?
二度と愛する人たちと笑い合えない?
……なんで……なんでもっと笑わなかったんだろう。
なんでもっと愛を伝えなかったんだろう。
――まだ伝えてないのに、“今日の分の大好き”を。
まだ伝えきれてないのに、“私が居なくなった日の愛してる”を――。
◇◆◇
「……エゴおねえさま……?」
徒花の生に想いを馳せていると、胸の中から涙声の弟の声がした。
……駄目だ。心配させないように、笑顔でいないと。だって最期なんだから、楽しく過ごさないと勿体ない。
――だって咲いながら過ごしても、泣きながら過ごしても同じ五分なんだから。
たといもうすぐ私が往ぬとしても。
――椿の落ちるように、梅の溢れるように、牡丹の崩れるように、菊が舞うように。
……そして桜の散るように。
本当は紫陽花のしがみつくように、私も生にしがみつきたかった。だけど自分の身体だ、私のこころだ。……私のことばだ。もうその時が近いことは分かる。
「……アイちゃん……アイちゃん……アイ……アイしてる、愛してる、あいしてる……!」
いつもみたいにやさしく、じゃなくて生にしがみつくようにあいに縋りつく。
この子の命を護る為に戦ってよかった。こわい。この子のこころを護る為に誓いを立ててよかった。こわい。この子の愛を護る為に寿命を代償にしてよかった。こわいこわいこわいこわい。私は間違ってない。……死にたくない。私はあの時に戻ってもきっと同じことをする。しにたくないしにたくないしにたくない。弟を護る為だったんだから間違ってない。なんで私が死なないといけない?公王派の問題なのに。こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい。死にたくない死にたくない死にたくないしにたくないしにたくないしにたくない……。
――しにたくない!!!
なんでどうして私が?もっと罪深い人がいるでしょ?、もっと悪いことしてる人いるでしょ?なんでなんでなんでなんでなんでわたし?しぬの?え?ほんとうにしぬの?わたし?しぬ?しぬってなに?居なくなる?居たいよ痛いよいたいよ。いたい……。わたしがわたしをわたしにわたしわたしわたし……しぬの?え……?ほんとうに?
しぬって他人事でしょ?ニュースでみることで、新聞でみることで、わたしじゃない。わたしじゃないわたしじゃない。だってしなない。しなない、だってしなないんだから。しぬ?うそでしょ?だっていきてる。いまいきてる。いきてるよ。いきてるのに。こわいのにこわくない。こわくない。だってしなないんだから。だれかだれかだれか……。
「……だれか……たすけてよぉ……。」
「エゴ、おねえさま……?」
くらやみ?死んだらどうなる?天国にいく?地獄にいく?それともなにもない?ずっとなにもないがあるの?おわるの?おわるってなに?
……わたしまだしにたくないよ、だってまだろくにいきてもいないのに。
いきてもないのにしぬの?産まれて、生まれてうまれて……ずっとベッドの上?それで元気になったのに?やっと生きられると思ったのに?なのに死ぬの?なんで死ぬの?学校にだって通ってみたかったのに。
遺骨ので?死んで腐って遺骨になるの?ちがうちがうちがう――!!だって寿命を代償にしたら私だって心を使えるってエレクトラに言われた時だって、どこかで私は死なないと思ってた。
自分は死なないと思ってた。心の何処かで遠い世界の、違う場所の、何処かの誰かのことだって思ってた。だって死ぬなんてちがう。ちがう。わたしのことじゃない。だれかのことだって。死ぬ人は死ぬけどわたしは死なないもん。だってわたしは死なないもん。わたしじゃないもん。
だってわたしは……。
「……まだ、しにたくない。」
「……!!……エゴおねえさま……!!」
あれ?なんだか気持ちがいい。死ぬから?しぬまえってこうなの?もうしぬの……?
……いやちがう。これは愛だ。愛の心だ。アイのこころだ。アイちゃんの愛の心で包まれてる。おかあさんのおなかのなかみたい。
《エゴおねえさま……あいしてます……!!》
「アイちゃん、わたし、わたし。」
「……はい。」
「しにたくない……。」
「……はい……!……はい!!」
「こわいの、なにがこわいのかもわかんない。」
「はい……!」
「だけど、こわいの。暗闇なの?ずっと何もない空間に閉じ込められるの?何も考えられないの?誰にも会えないの?」
「……!」
「だって、まだわたし伝えてない。
――伝えてないよ。“今日の分の大好き”を。
まだ伝えたくないよ“私が居なくなった日の愛してる”なんて。」
「……えぇ、そうです、そうですよね……!」
「ほんとは直接会って、毎日会って、これからも毎日あって未来の分の愛してるも直接言いたいの。明日も明後日もずっとずっと先も。
アイちゃんが大人になるのを見届けて、シュヴァちゃんの卒業式にでて、ゲアーターと一緒にお祝いするの。四人でまた笑い合うの。卒業おめでとうって、成人おめでとうって。
それで、アイちゃんに恋人を紹介されたりしてね?最初はお姉ちゃんだから認めてあげないんだけど、かわいい弟のお願いだから最後は折れちゃうの。だってアイちゃんの選んだ人だから。
それでそれで、結婚式にでてね?ウェディングドレス姿のアイちゃんをみて私は泣いちゃうの。うれしくてないちゃうの。そしたらゲアーターがきっとからかってきて、シュヴァちゃんなんかアイちゃんを取られるって最後まで怒ってるの。それをまたゲアーターとなだめてからかって。
それでそれでね?貴方が産んだ子供をみて、伯母さんって呼ばれてわたしは複雑な気持ちになっちゃって、でもどこかくすぐったくて。男の子でも女の子でもアイちゃんみたいに可愛い子でね?シュヴァちゃんなんてきっとすっごく甘やかしちゃって、わたしもなんだかんだ甘やかして、それでゲアーターに怒られちゃうの。」
「……。」
「それでそれで、それで……わたししぬの?ほんとうにしぬの?いつもみたいにおひるねできないの?もうねたらおきれないの?」
……桜の匂いがする。部屋の中なのに桜の花弁か散っている。此れは――
「――アイちゃんの……愛情……?」
「あいしてます、エゴおねえさま……!!
死なないで、しなないでよぉ……。」
この花弁に包まれているとなんだかあんしんな気持ちになる。気がつけばベッドの横に桜の樹が立っていた。
そうだ。桜の花言葉。
――“あなたに微笑む”。
背中に柔らかい感触ベッドだろう。もう身体を支えてもいられない。だけど、倒れた時に舞った桜を眺めていた。
「ねぇ……アイちゃん。いつもの。覚えてる?」
“あなたに微笑んで”、伝える。
「……え?」
「貴方を愛してるわ。“私が居なくなった日の分の愛してる”を今言っておくわ。愛してる、愛してる、愛してる……。
――愛してる、だって愛してるから。」
「ねぇ、いつも一緒におひるねした時にいつもしてたでしょ?いつも言ってたでしょ?」
「……え、あ……。」
いつものあの言葉を言う、伝う。
《安らかに眠るために……手を握って……?》
「やめて!そんな死ぬみたいなこと言わないでよぉ……!」
「アイちゃん……分かってるでしょ?」
アイちゃんは手を胸の前で握り込んで、私の手をとってはくれない。
……あぁ、この子はほんとうにわたしに死んでほしくないんだなぁ……。愛してくれてるんだなぁ……。かわいいな、かわいいかわいい私の弟。
……あぁ、“あ”から始まる言葉を言いたいの。
“ありがとう”かしら?
だけどそれじゃ足りないの。
――だから、やっぱり最期の言葉は……。
《……あいしてる……。》




