231. ずっと続くと思ってた。 Never-Lasting Fairy Tale
ゴールデンウィーク(5/2-5/7)は“毎日投稿”します。
「じゃあなおさら聞きませんっ!
あいは、あいは!エゴおねえさまに死んでほしくありませんっ!今際の際みたいなことを言うエゴおねえさまなんて知りませんっ!
――そんな遺言みたいなことを言うエゴおねえさまの言葉なんて聞きたくありません!!」
アイがぎゅううぅと力任せにエゴペーにしがみつく。
「……あらあら、ほんとうにかわいいわね、アイちゃんは。ほんとうに……ほんとうにきょうだいでいろんなことがあったわよね……。」
エゴペーの瞳が追憶を見つめる。
◆◆◆
――いや、刺そうとしたのだが、その手は左手は誰かのやさしい右手によって握り込まれ制止された。
アイはこの温度を知っていた。
アイの愛する人の体温だ。
アイはこの身体の温度とお昼寝をするのが大好きだった。
「――自殺なんてしないで、アイちゃん……アイちゃんには私が――」
アイの背中を伝って身体に声が響く、後ろから抱きしめられている。アイの大好きなあの心臓の音像を感じる、アイの大好きなあの温度で――!
「――きょうだいがいるでしょう?」
アイの目が見開かれる恐る恐る振り返ると、そこには居た。
いつもアイに与えてくれる、エゴペーおねえさまが……!!
◆◆◆
「骨の心?ですか?」
「そうよ〜私の一番得意な心よ〜。……っていうか、病気のせいでそれしか使えないんだけどね〜。」
◆◆◆
「なるほど……だから自分の得意な一つ二つを見つけて、伸ばしていくと。」
「そうそう!アイちゃんは賢いでちゅね〜!」
「わぁー!」
「「あははっ」」
あたたかい。
家族との時間って感じがする。
おそろいの髪型。
おそろいのツーサイドアップ。
◆◆◆
エゴおねえさまが頬ずりしてくれる。
因みにシュベスターは頬ずりよりもあいの頭頂部の匂いを嗅ぐろうが好きらしい。
「エゴペー!貴様っ!ずるいぞ!!」
◇◆◇
あぁ……思い返すと……ほんとうに……色んなことが……。
「エゴおねえさま……?」
「ん?どうしたのアイちゃんおねむなのかな?それともおトイレにいきたい?」
「いえ、エゴおねえさま……涙が……。」
頬が温かい……そうか。
気が付かなかった。
私は泣いているのか。
気が付かなかった。
私は死にたくないのか。
気が付かなかった。
私はきょうだいたちとずっと一緒にいたかったのか。
最期は笑顔でお別れしたかったのにな、でももう遅い、いろんな意味でもう遅いのだ。今さら大事なものに気がついても。今さらあいをしても。
思ひ出がぽろぽろと泪のように溢れ出て止まらない。
◆◆◆
「病気が治った!?」
わたくしは思わず中庭で大声を出してしまう。
しかし、それほど動揺しても仕方ないというものだ。
「そうなのよ〜。もう病弱キャラは卒業よ〜。
ピースピース!イェーイ!」
エゴおねえさまが明るくお道化る。
「本当……なのですか?
わたくしどうしても信じられなくて……いえ、とても嬉しいのですが、わたくしは生まれてからずっと病に苛まれているエゴおねえさましか知りませんでしたので……。」
「あぁ〜、そうね。確かにアイちゃんが生まれてからはずっとそうだったわね。私これでも生まれてからずっと病気だったわけじゃないのよ?心の使いすぎで身体が弱ってただけで、今はもう快復したわ〜。」
「心の使いすぎ……?」
「そうよ〜だから、アイちゃんも心の使いすぎには注意よ!何かに心を砕きすぎると軽い散華状態になって免疫力も落ちて、軽い病気でも重い症状がでるようになっちゃうんだから。アイちゃんは絶対に私みたいになっちゃダメだからね!
――ほら、約束。」
右手の小指を差し出される。
わたくしはなんでかふと、わたくしが手を握っている間はエゴおねえさまが安らかに眠られることを思い出した。あれもわたくしの心がエゴおねえさまに伝わっていたからなのだろうか?
「はい……やくそく、です。」
「よくできました!アイちゃんは自分を大切にね!」
「……エゴおねえさまもですよ?」
「ええ!そうね!もう完全体エゴペーおねーちゃんだし!さいきょーよ!」
エゴおねえさまの後ろの人影に気づいてわたくしは悪戯を仕掛ける。
「ふふっ……パンドラ公国最強のゲアーターよりもですか?」
「そりゃあもう!ゲアーターなんて瞬殺よ!瞬殺!」
「……お~い、誰が誰を瞬殺だって?」
「わっ!ゲアーター?いつから聞いてたのよ?」
驚いたエゴおねえさまがバット振り返る。
「……お前が快復した〜ってとこだな。で?誰が瞬殺だってぇ……?」
「お?闘る気ね?闘ってみるかしら?」
◆◆◆
「おい!エゴペー!聞いたぞ!
療養が終わって快復したと!」
今まで見たことがないくらい上機嫌なおねえさまがエゴおねえさまに笑いかける。心のそこから嬉しいのだろう。
「シュヴァちゃん……。」
「よかったな!おめでとう。これで心も使い放題か!」
「あ……そうね、シュヴァちゃんも知らなかったか、そうよ〜!私の全盛期はすごかったんだから〜!」
◆◆◆
「四人でお昼寝かしらね?」
え?……お昼寝?なんだかいつも通りだ。
「……はぁ?……お前はいつもそれだな。私たちがお前の願いをなんでも聞いてやると言っているのだぞ?もっと何か特別なことはないのか?」
おねえさまは驚いているが、おにいさまは何故かまんじりともしなかった。
「いいのよ〜かわいい弟妹たちとかっこいいお兄ちゃんと寝られればそれだけで私にとっては特別なんだから〜。私はこういう“普段の日常”こそが“特別な日”になると思うの!」
――エゴおねえさまが太陽のように、桜のように咲う。
なんだかおねえさまもあいも気が抜けてしまった。
「そうだなぁ……そうするか!せっかくの妹のお願いだ!お兄様が叶えてやろう!」
「はぁ……まぁ本人がそう望んでいるならいいか……。」
「あはは……そうですね。きっと楽しいですよ。」
◆◆◆
「――誰にアイの隣で寝転がる権利が発生する……?」
シュベスターの声が、まるで国境線を引く宣告のように響いた途端、空気がぴんと張り詰めた。エゴペーはくすくす笑い、ゲアーターは腕を組んでため息をつき、アイはただ、胸の奥で小さな波が立つような予感に身を委ねていた。
「くじで決めよう! 公平に!」
シュベスターが枝を拾い、四本を長短に折って握りしめる。最初に引いたのはエゴペー。短い枝を見て、にっこり。
「わーい、私がアイちゃんの右隣よ」
次にゲアーター。一番短い枝を引き当てた彼は、ふっと鼻で笑った。
「……俺が左隣か。悪くない。」
シュベスターは残った二本から一本を引く。長い。外れ。彼女の肩が、ほんの一瞬だけ落ちた。栗色の瞳が、わずかに揺れる。アイはそれを見逃さなかった。いつも冷静沈着な姉が、こんなに小さく息を呑むなんて。
最後に残った枝をシュベスターが握りしめたとき、ゲアーターが静かに動いた。彼は無言で立ち上がり、シュベスターの前に屈み込む。大きな手が、彼女の細い指から長い枝をそっと抜き取り、自分の引いた短い枝を代わりに置いた。まるで武器を渡すような、儀式めいた仕草だった。
「……おい、シュベスター。」
雷鳴を思わせる低い声が、優しく降る。
「お前がアイの左隣だ。」
シュベスターは瞬きを忘れた。頬が、桜の花びらよりも鮮やかに染まる。
「だ、だが……くじで……。」
「俺は端でいい。」
ゲアーターは照れ臭そうに頭を掻き、さっさと一番左端に腰を下ろした。背中を向けながら、耳朶だけが赤い。エゴペーが、ぽん、と手を叩いて笑った。
「まあ、おにいちゃんったら。かっこつけちゃって。でも……ありがとう。」
「うるせえ。」




