再会
「お久しぶりですね、シスツィーア嬢」
エツィールド家に行った翌日
シスツィーアは礼儀作法の授業と同じ部屋で、オルレンと再会していた。
「ご無沙汰してます、オルレンさま。えっと・・・・シルジの街から戻ってくるときは、ありがとうございました。すみません、お礼を言うのが遅くなって」
先に部屋にいたオルレンに、シスツィーアは深々と頭をさげる。
シスツィーアがオルレンに会うのは、シルジの街から戻ってくるときに別れて以来
だから、あのとき助けてもらったお礼も伝えてなくて、やっと言えたことにシスツィーアはほっとして
「お気になさらないでください。状況が状況でしたし。お元気そうで・・・・とは言えませんが、またお会いできて良かった」
扉に控えているキーサを気にしつつも微笑みながらもオルレンが言うと、シスツィーアはその気遣いに申し訳なく思いながら小さく頷く。
「はい。えっと、わたしもお会いできて嬉しいです。すみません・・・・あの、今日からお世話になります」
「お気になさらないでください。私にとっても勉強になることですから」
オルレンに促されてシスツィーアが席に着くと、オルレンも向かい側に座る。
「体調はいかがですか?」
「ありがとうございます・・・・・大丈夫です」
今朝も機器は『青』色を示していたし、シスツィーアの体調にも変化はない
レオリードから魔力をもらったわけではないから、本当に『大丈夫』なのかはわからないけれど
ある程度のことはオルレンも聞いているのか、心配そうにしている。だから、シスツィーアが安心させるように小さくにこっと笑うと、オルレンにも伝わったようで
「そうですか。良かった。ですが、無理は禁物です。少しでもおかしいと思ったら、すぐに言ってくださいね」
「はい。ありがとうございます」
「積もる話はありますが、レオリード殿下がのちほどいらっしゃるそうなので、そのときに。さっそくですが、はじめましょうか」
「はい。よろしくお願いします」
シスツィーアが姿勢を正すと、オルレンはテーブルにのせてあったノートを開く。
「まず、魔力の『生成』について、わたしなりに整理してきたのですが」
そういってオルレンがシスツィーアに見せてくれたのは
(すごいわ)
几帳面な筆跡で綴られているのは『祝福』にまつわることのようで、ペンの色を変えて書いてあるところまである。
「まず、妊娠がわかった女性に神殿から『護符』を渡しています。それはご存じですか?」
「はい。以前、レザ司祭さまに教えていただきました」
「その『護符』は5歳の魔力検査のときに神殿にお返しすることも?」
「はい」
『こちらの護符は『女神の祝福』を授けるものとして、妊娠が分かった女性にお渡ししております。生まれてくる子どものために肌身離さず身に付け、そして産まれた子へと引き継ぐ。それがこの『護符』ですよ』
生まれたばかりの子は、母親の魔力と自分の魔力の境界が曖昧
だから、はじめての魔力検査のときに、女神が自身の祝福を与える者として、その子を認識する。
『護符』はそれまでの、祝福を授かる手助けをするもの
「たしか、身分ごとに『護符』の紋様は違うんですよね」
「ええ。良くご存知ですね」
一年近く前、シスツィーアがアランと神殿を訪問したとき、レザ司祭が教えてくれたことを思い出しながら言うと、オルレンはうなずき
「その『護符』ですが、意味もご存じでしょうか?」
「えっと・・・・・?」
オルレンに言われて記憶を遡るけれど、『護符』の意味に覚えはない
と言うより
「『女神の祝福』を授かるためのものではないのですか?」
あのときの話の流れからそう解釈していたけれど、ちがうのだろうか?
シスツィーアが小首をかしげると、オルレンは書かれた一文を指で示す
「ええ。正確には生まれてくる子、つまり『胎児の存在を女神に知らせ、祝福を授かる』もの、ですね」
「『女神に知らせる』?」
オルレンの説明では『女神の祝福』は妊娠している女性にのみ授かっていて、母親とお腹の子それぞれに『女神の祝福』が授かるようするためには『護符』が必要だと考えられているらしい
「えっと、つまり『女神の祝福』は」
「最初は『護符』に授かるようですよ。もっとも、建国当初からある『護符』は資料も少ないため研究者たちのなかでも意見が分かれていて、あくまでも『大多数の研究者にそう考えられている』ですが」
(だから、妊娠した方は『護符』を肌身離さず持つよう言われるのね)
奉仕活動のときのことを思い出して、シスツィーアは納得する。
きっと、妊娠した女性に必ず『護符』が渡されるようになっているのだろう。
シスツィーアは立ちあったことはないけれど、レザ司祭たちは出産の手助けもしていた。
そんなことを思いだすうちに、今度は新たな疑問が湧く
(それじゃあ、この『護符』は?)
シスツィーアの首からさげられている、肌身離さず持つよう言われた『女神像』のネックレス
(この『護符』は、誰が作ったのかしら?)
そっと、胸元の『女神像』へと視線を落とす。
(わたしのための『護符』)
シスツィーアの手のひらにおさまる、小さな『女神像』
シスツィーアの『魔力生成』の補助をしてくれると言われているけれど
「オルレンさまは、この魔道具のことをご存知ですか?」
「ええ。妊娠した女性にお渡しする『護符』と『魔力生成不全』の子どものための『護符』。両方を参考にして造られたと伺ってます」
「そう、ですか」
オルレンの言葉にシスツィーアは再びうつむく。
新しく『護符』を造るなんて素晴らしい発明だけれど
(マーシャル家が開発した『護符』・・・・)
『魔力生成不全』の子どもたちへ贈られる『護符』は、マーシャル家の初代当主であるマグノリアが造り上げたもの
(勇治さん・・・・)
いまは亡き、シスツィーアとおなじ『故郷』の『上村勇治』の記憶を持ったエリック・マーシャル
そして
(マリナ、さま・・・・)
思い浮かぶのはエリック・マーシャルの一人娘で、レオリードのかつての婚約者で、シスツィーアを傷つけ、そしてシスツィーアが傷つけてしまった女性
(いまはどこにいらっしゃるのかしら?)
たった一人の親を失い、婚約も解消され、住み慣れた王都を離れざるを得なかったマリナ
そのすべてとは言わないが、原因の大半はシスツィーアにある
連鎖して、いつもは考えないようにしていたことが引きずり出される。
ずどんと、シスツィーアの心が重くなり
「シスツィーア嬢?」
「っ!すみま、せん」
気遣わしげなオルレンの声に泣きそうになり、慌てて目をしぱしぱさせる。
(ないたら、だめ)
泣けば余計な迷惑をかけてしまう
ぐっと堪えて、ゆっくり顔を上げる
「すみません・・・・えっと、この『護符』がどうやって造られたのかと、気になって」
「新しくつくられたとあっては興味を惹かれる気持ち、良くわかります。使い方は魔道術士団長より?」
「はい。えっと、総長との訓練では「『魔力』が湧きでるところを想像しながら、左手から流して右手に受け取る」ようにしています」
シスツィーアがネックレスを外して「こんな風にです」と『魔力』を流さずに見せてみると、オルレンはうなずき
「では、今日は少しやり方を変えてみましょう。『魔力』を身体のなかから湧き立たせるのはそのままに、左手から『女神像』へ『魔力』を流し、そこで一度『魔力』をとめて、そして右手から引き寄せるように『魔力』を動かしてください」
「はい」
これまでとは違うやり方は、オルレンが考えだししてくれたのだろうか?
そんなことをぼんやりと思いながら、シスツィーアは意識を集中させた。
最後までお読み下さり、ありがとうございます。
次話もお楽しみいただければ幸いです。




