受け入れ
(・・・・・・・・)
ちらっ
レオリードの向かい側では、リネアラが静かに座って置かれたお茶へと口をつけるところ
なにが楽しいのか、うっすらと笑みを浮かべて、ほかに誰もいなければ鼻歌くらい歌いそうな雰囲気
そっと視線を、今度は左側のシグルドへ向ける
シグルドは眉間に皺を寄せ、険しい目付きでお茶のカップを見つめているが、飲む様子はない。
レオリードはそんな両親の空気に挟まれ、居心地の悪い思いで太もものあたりで両手を組んで
「ふふっ」
不意にリネアラの笑い声が響き、レオリードの肩がびくっと上がる。
「あら?ごめんなさい」
にっこり
リネアラはレオリードに笑むと、今度は添えてあるクッキーを口にいれる。
ひとり掛けのソファーが4つ、小さな四角いテーブルを囲むように置かれている、シグルドの執務室の続き間
ここには滅多に立ち入ることはないことも、両親が両隣にいることも慣れないことに拍車をかけ、レオリードはますます居心地が悪く、気を紛らわそうとお茶に手を延ばしかけ
「リネアラ」
「なんでしょう?」
「いつも・・・・ああなのか?」
疲れや呆れ、それに微かな怒りを滲ませた声のシグルドにリネアラは小首を傾げる。
「まぁ!違いまして?」
にっこり
可笑しそうな笑顔に、シグルドは「うっ」と言葉を詰まらせ、今度はレオリードへと顔を向ける。
「レオリードは」
「なにか?」
急に話を振られたレオリードはどきっとしながらシグルドを見るも、シグルドは視線を彷徨わせ、躊躇いながら
「いや。先ほどの・・・・」
「はい?」
「使者、だが・・・・彼の言うことになにか、思うことはなかったか?」
それでも探るように尋ねてくるシグルドへ、レオリードは首をかしげる
「アランのことを気にしていたと」
「違う!いや、すまない。違わないが、そうではなく」
「はい?」
「いや・・・・不快・・・・では、なかったか?」
「不快?いいえ?なぜです?」
不思議そうなレオリードに、ガクッと肩を落とすシグルド
リネアラの笑みはますます深まり
「陛下、わたくしの気持ちがわかりまして?」
「ああ。まさか、リオリースにも、か?」
「ふふっ。本人に尋ねてみては?」
「はぁ」と肩を落としたままのシグルドを横目に、リネアラはカップを置くとレオリードに身体を向ける。
「それよりも、レオリード。あなた、大丈夫なの?」
「なにがですか?」
「ずっと息を潜めていたでしょう?身体も強ばっていたようだし、なにか思うところがあったのではなくて?」
「あ。いえ。盗み聞きなど、その、ほめられたことではないので、見つかってはと思うと緊張してしまいました」
「本当にそれだけ?」
苦笑いをするレオリードを見るリネアラの瞳は険しく、少しの誤魔化しも見逃さないとの意思が見える。
「はい」
そんな母を訝しく思うもレオリードがしっかり頷くと、リネアラは「まあ、良いわ」と納得しきれていない様子ながらも話を切り上げ、今度はシグルドへ身体を向け
「ところで、先ほどのお話ですがどうなさいますの?」
「受け入れるしかあるまい」
片手で額を押さえながら、シグルドはため息を吐く。
「アランが「断った」と言ったところで、向こうは受け入れまい。無論、ミリアリザから断ったとて同じこと。であれば、訪問を受け入れ早々にお引き取り願うのが良かろう」
「そうですわね。わたくしもそれがよろしいと思いますわ」
「レオリードもそれで良いか?」
「え?」
また急に話を振られ、レオリードは困惑する。
「そなたの意見は?訪問を受け入れることをどう考える?」
「あの、それはちちう、いえ、陛下がお決めになることで、俺の意見など必要ないと」
「なにを言っておる」
いつもより力強い口調でシグルドはレオリードの言葉を遮る。
「成人した王族であるそなたの意見を聞くのは当然のことだ。遠慮せず言いなさい」
「そうよ、レオリード。あなたも王族なのよ」
「それはそうですが」
困惑して視線をシグルドとリネアラへ向けたあと、うつむくレオリード。成人王族と言えど、学園を卒業したあとは婿入り先のマーシャル家で当主教育を受けるはずだったレオリードは、国政のことへ発言することに違和感が拭えず、どうしても当たり障りのないことしか言えずにいるのだ。
「レオリード、なんでも思うことを話してみなさい」
「心配入らないわ。最終的な決断は陛下がなさるのだし、陛下ご不在の折は「代理を見事に勤め上げた」と、宰相たちも褒めていたわ。あなたの意見が必要よ」
「ああ。リネアラの言う通りだ。レオリード、心配することはない」
リネアラまでもシグルドを擁護すると、レオリードは褒められたことや両親の想いの嬉しさと、心配されることの慣れなさとがごちゃ混ぜになり、顔が赤くなる。
「あ、ありがとう、ございます」
「いや。それで、どう思う?」
「そう、ですね・・・・・・」
レオリードとしては、パルキス王国から訪問に来てもらうことはまったく問題ない。
この国が混乱のなかにあることは、向こうは当然承知しているだろう。
(体裁を繕うなど、いまさらだ)
それなのに受け入れさせようとしているのは、なにかしらの思惑があるから。断ったとしてもすぐに次の理由を探して、アランに会おうとするのは想像に難くない。
断るよりも受け入れてしまう方が良い
ただ・・・・・・・
さっきは伸ばしかけたやめた手を再びカップへと伸ばし、今度はお茶を一口飲む。
どうしても消えない懸念を振り払うようにゆっくりお茶を飲みくだしカップを置くと、レオリードはシグルドへ向き直り
「王妃さまのお見舞い、アランの快気祝い。どちらも断る理由はありませんし、陛下の仰るようにパルキス王国は引かないでしょう」
「では、受け入れるということで良いな?」
「はい」
レオリードが首肯するとシグルドも頷く
「では、宰相を通じてそう回答しよう。アランにも帰城するように言わねば」
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次話もお楽しみいただければ幸いです。




