ゆずれないもの
『・・・・・・・ひとりに、してください』
『お願いです・・・・・しばらく・・・・・ひとりに』
震えている声
(きっと、泣いている)
魔道術師団長に促され、レオリードは部屋を出るしかなかった。
けれど、ひとりになったシスツィーアはきっと泣いている
そう思うだけで胸が潰れそうに苦しい
ぐっと手を握りしめることで衝動を抑える
そばにいたい
その思いが消えないけれど、シスツィーアの『魔力不足』の原因であるレオリードがそばにいては、シスツィーアの負担になることも理解している
レオリードから『魔力譲渡』を受けるしかないことは、それ以上の複雑な思いだろう
(原因となった俺からなど、屈辱を感じてもおかしくない)
だから、魔道術師団長が検査結果を告げるときも、そのあとも、レオリードは口をはさむことができなかった
部屋の外ではキーサがシスツィーアのことを心配して待っていて、すぐに部屋へ入りたそうにしていたが
「シスツィーア嬢はしばらくひとりになりたいそうだ。キーサ殿、今後の生活について打ち合わせをしたいのだが?」
「かしこまりました。ちょうど遅番のルリも来ましたので、ふたりで伺いますわ。わたくしたちの控え室を使いましょう」
「助かる」
メイドたちの控え室に入り、今度のことを話し合う。
シスツィーアの『魔力不足』による変調は、今後顕著になる
だから、説明をしないわけにはいかないと、シグルドとも相談して決めておいたことを伝える
「シスツィーア嬢だが『『魔力』生成の機能に負った傷が予想より深く、また回復も思わしくない』今後、今回のように目覚めないことも、急に倒れることも懸念される」
魔道術士団長が告げたとき、キーサはさすがに微動だにしなかったが、まだ年若いルリは驚き叫ばないよう両手で口を覆っていた。
「まず、毎朝の診察だが」
リーリアによる診察はこのまま
授業はシスツィーアの意思と体調をみながら
メイドたちとのお茶の時間はシスツィーアが望む限り続ける
精神的な負担を防ぐため、外部からの面会の申し入れや手紙はすべてレオリードへ
日々の生活はこれまでと変わりなく、特別なことはなにもない。
変わったのは、魔力量の測定を魔道術士団長が行うことだけ
そして、魔道術士団長との『魔力生成』の授業に関しては
「すまないが、当面は私ではなくレザ家の令息がくる」
「かしこまりました」
「集中の妨げにならぬよう、これまで通り、キーサ殿以外は立ち入らぬように。キーサ殿、ふたりの近くではなく」
「扉近くに控えておりますわ」
『魔力生成』の授業に関しては、もともと『傷ついた魔力生成機能の回復を促すため』とキーサたちに説明をしているし、魔道術士団長のときにもキーサが同席しているから問題ない
それに関しては「異性とふたりきりなのは外聞が良くない」とキーサが引かず、かと言って、メイドを同席させては魔道術師団長とシスツィーアの会話でアランとの『切り離しの儀式』のことが出る可能性もあり、ずいぶんとレオリードたちは頭を悩ませた。
結果として「メイドたちのなかにも、ある程度の事情を知っている者がいた方が良い」と、キーサになら『切り離しの儀式』のことを話しても問題ないだろうと判断されたのだ。
ただし、アランとシスツィーアの魔力が繋がった原因については話すことはできない
『『魔力不足』だったアランを助けたい一心でシスツィーア嬢がアランへ『魔力譲渡』を行い、『禁呪』の存在と相まって二人の『魔力』が絡まってしまった』
『それを是正するための『切り離しの儀式』で、その結果、シスツィーアの『魔力生成機能』はより一層傷ついてしまった』と
完全な嘘とは言えない、けれど真実のなかにほんの少しの嘘を混ぜての説明
そしてキーサへは他言無用とし、『『魔力』に関すること』にはキーサが同席することになったのだ。
それでも、キーサにさえ同席してほしくないこともあり・・・・・・・
「数日おきにシスツィーアとお茶の時間をともにする。このときは人払いを」
「いけません」
即座にキーサが反論する
これまでのお茶の時間はメイドたちがいた。それを『人払い』など、魔道術師団長とシスツィーアがふたりきりより外聞が悪い。
「シスツィーアさまだけでなく、レオリード殿下の評判にも婚姻にも障りがでます」
キーサのきっぱりと強い口調での断言
けれど、レオリードも引くことはできない
「なら、執務室なら良いか?」
「レオリード殿下!?」
「王城だと、より多くの者の目につくが」
レオリードの半ば脅し
いつものレオリードとは違う、断固として譲らないとの姿にキーサは驚くも「主の名誉に関わることだから引くことはできない」と、真っ向からレオリードと見つめ合い
「なにか理由がおありなら、ご説明ください」
「・・・・・・」
お茶の時間にふたりきりになるのは、もちろんシスツィーアへ『魔力譲渡』するため
だが、これだけはキーサにも話すことはできない。
王族の『魔力』は国の安寧に使われるもので、他者に『魔力譲渡』するなどあってはならないことだからだ
(シスツィーアにしても、他者には知られたくないだろう)
緊急時に一度だけならまだしも、常態的になど外部に洩れたら醜聞どころではすまない
レオリードの『魔力譲渡』が知られれば「他の者が『魔力譲渡』すればよい」となり、そして「近くに居なければ譲渡することはできない」と、シスツィーアが王宮に住まうこともできなくなる
(これから先の彼女の人生も、また歪めてしまう)
くちさがない者たちからの中傷は、シスツィーアをどれだけ傷つけるか
それどころかシスツィーア自身が「王宮から出ていく」と言い出すのは目に見えている。
だから、知る者は最小限に
万が一のことを考えれば、人払いは欠かせない
(俺の評判など、どうなってもかまわない)
だから
「俺がふたりきりになりたいからだ」
レオリードの言葉に、さすがのキーサも目を見張り言葉を失う
まるでこれは愛の告白のようではないか
ルリは顔を赤らめ「まぁ」と黄色い声をあげるが、キーサに一睨みされて慌てて表情を取り繕う。
事の成り行きを見守っていた魔道術士団長も、さすがに口を出さずにはいられず
「殿下、シスツィーア嬢の意見も聞きましょう」
「必要ない」
「ですが、彼女の気持ちもありますゆえ」
「必要ない」
レオリードが良くてもシスツィーアが嫌がればそれまで
けれど、シスツィーアがレオリードの立場を考えて「ふたりきり」になるなど、同意するわけがない
譲る気がないレオリードに、魔道術士団長は「やれやれ」と息を吐き
「では、陛下の許可を。陛下が許可されたとあれば、シスツィーア嬢もキーサ殿も納得されるでしょう」
シグルドならまともな判断をくだしてくれると大きく頷くキーサに、レオリードも同意せざるを得ない。
「・・・・わかった。父上の意見を仰ごう」
どうやってシグルドを説得するか
レオリードの頭はそのことでいっぱいだった。
最後までお読み下さり、ありがとうございます。
次話もお楽しみいただければ幸いです。




