検査結果
「結論から言わせてもらう」
入念に診察されてから二日後
シスツィーアの部屋にはレオリード、魔道術師団長が来ていた。
メイドたちは部屋から出ていくように言われたから、部屋には三人だけ
キーサがさすがに難色を示したが、主治医のリーリアですらシグルドから同席を許可されていないと言われては部屋から出て行くしかなく
シスツィーアは魔道術士団長からなにを言われるのか、不安で仕方なく、レオリードは事前に話の内容を知っているのか、険しい顔つきなのもシスツィーアの不安を煽るばかりで
ぎゅっと両手を膝の上で握りしめて、シスツィーアは魔道術士団長を見つめる。
魔道術士団長はどこか事務的な雰囲気を纏い
「君の『魔力生成能力』だが、低下している」
「え?」
唐突に言われた言葉に、シスツィーアの理解が追い付かない
「アランディール殿下との『切り離しの儀式』のあとに測定したのは覚えているか?」
「はい。あの、そのときは・・・・問題ないと」
「ああ。だが、二日前に測ったときには低下していた」
淡々と言われたことで、事実であることがじわじわとシスツィーアのなかに染み込む
(どうして・・・・?)
誰しもが『魔力を生成』している
シスツィーアだけができないはずはない
『祝福』を授かりやすいようにと、護符までもらっているのに、授からないなんて理解できない
気がつかないうちに、もらったネックレスを握りしめる
女神像はシスツィーアが握りやすく、手にもしっくりと馴染んで、いまもシスツィーアは気が遠くなるそうになるのを支えてくれて
(しっかりしなきゃ)
考えたくはないけれど、しっかりと向き合わなくてはいけない
(なぜ測定をやり直したの?)
「あの、なぜ測定をやり直したのでしょうか?」
「茶会の翌日、君は丸一日眠っていた。目覚めたのは茶会の翌々日だ」
「えっ!?」
「原因は特定できていないが、機器は『黄色』を示していた。おそらく『魔力不足』だろう」
「そう・・・・だったんですね」
シスツィーアは自分の感覚より時間が進んでいることが衝撃的で、思考が追い付かない
けれど、起きたときに休みだと思っていたサラがいたことの説明がつく
(しっかりしなきゃ)
いまは状況を整理することが先
(そうよ。ショックを受けることなんて、あとからでもできるわ)
シスツィーアはゆっくり息を吐いて、深呼吸をする
ほんの少しだけ落ち着いて、考える余裕ができて
丸一日目覚めなかったのだから「身体に変調をきたした」と、魔道術士団長や医師たちが原因を究明するのは当然
(だから、あんなに検査されたのね)
あのときの検査はすべて、魔道術師団長からの質問も『魔力不足』に関係することなのだろう。
けれど、理由が分かったとはいえ、シスツィーアにとっては喜ばしいことではない
「・・・・・・・・あの、二日前の測定では・・・・・・『魔力量』は」
「ああ。そのときには『青』を示していた」
しっかり眠ったから回復したのだと思いたい
だけど、そんな単純なことではいことくらい想像できる
(この場にレオンが同席しているのも)
レオリードがシスツィーアの世話人であるからとも考えられるけれど、きっといざというときのことを考えてレオリードは世話人になってくれていた。
ちらりと、黙ったままのレオリードへと視線を向ける。
シスツィーアと魔道術師団長の話を邪魔しないようにしているのもあるだろう
けれど、レオリードはどこか痛みに耐えるような顔をしていて、どことなく「口をはさむ権利なんてない」と律しているようにも見えて
「・・・・・・・・レオンが、『魔力』をくれたんですね」
「・・・・・・・そうだ」
シスツィーアが『魔力不足』となったとき
その足りない『魔力』を補う必要がある
そしてシスツィーアとレオリードは魔力性質が似ている
シルジの街から王城に戻るまで、シスツィーアはレオリードから魔力を譲渡してもらっていて問題はなかったことからも、それは立証されている。
そして成人しているレオリードなら、シスツィーアに魔力を『譲渡』することも問題ない
(きっと・・・・・・・・これがレオンの『贖罪』)
公にされることのない、レオリードが犯した罪
それはレオリードの責ではないけれど、レオリードが一端を担っていることは本人も知っている。
だから、シスツィーアの世話人になった
(・・・・・・いざというとき、わたしに『魔力譲渡』を行うため・・・・・)
シスツィーアの顔色は暗く、いまにも脆く崩れ落ちそうで
「ㇱ」
「これから、どうなると総長はお考えですか?」
レオリードとシスツィーアが口を開いたのは、ほぼ同時
だけど、レオリードの声はシスツィーアの質問に搔き消される
「・・・・・・・陛下方、それに王宮医師とも話し合ったが、今後君が『魔力不足』となるのは避けられないだろう」
「・・・・・・・・はい」
「今日の測定結果は『青』だった。おそらくレオリード殿下から『魔力』をもらったことによって、いまは安定していると考えられる」
「アランに・・・・・・アランにわたしが『魔力譲渡』していたときのように、ですね」
「・・・・・・・ああ」
かつてアランの身に起こっていたことが、シスツィーアの身に起こる
(そうよ・・・・・わかっていたはずだわ)
遅かれ早かれ、シスツィーアはアランと同じようになる
それは想像できていた、予測の範囲内のことだ
それでも・・・・・・・・・・・・
(っ!)
慌てて俯いて下唇を噛みしめ、大きく肩を上下させて
「・・・・・・・ひとりに、してください」
震えないように意識しても、その声は震え
「お願いです・・・・・しばらく・・・・・ひとりに」
「分かった」
レオリードと魔道術師団長の立ち上がる気配と、しばらくして扉が開き、そして閉まる音
部屋のなかでひとりになるまで、シスツィーアは張り詰めたものを緩めることはなかった
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次話もお楽しみいただければ幸いです。




