仮説 ②
レオリードの質問に魔道術師団長はしばらく考え込むと
「・・・・・・・・強いて言えば、『魔力の減り方』・・・・・・でしょうか?」
「魔力の減り方?」
「はい。この国の、いえ、この世界の者は生きていくうえで『魔力』が必要です。日々の生活で使用する魔道具に『魔力』を使うのはもちろんですが、ただ『生きている』だけで魔力を消費しております」
「ああ」
「うん。『魔力がなければ生きていけない』って習うよね。それで?」
レオリードたちが頷くと、魔道術師団長自身も考えがまとまっていないのか言葉を探すように
「ですが、『魔力』が『枯渇』して亡くなった者を私は知りませぬ」
「え?それは、オレもだけど・・・・・・」
「・・・・・・たしかに、それはそうだな」
「ああ。神話のなかでしか聞いたことはない」
「はい。ですから「神話のなかでのこと。実際は魔力がなくとも生きていける」そう考えている者もおります」
なぜここで建国神話がでてくるのかと思いながらも、三人は魔道術師団長の言葉を待つ。
「ですが、今回のシスツィーア嬢のことがあって、『女神』が実在した信憑性は増しました。となれば『魔力が枯渇して亡くなった者』もいたと考えざるを得なくなった」
「・・・・・・・・そうだね」
「そこで思ったのです。なぜ『魔力が枯渇』するのだろうかと」
「ごめん、話が難しくて分かんなくなってきた」
さすがにリオリースが白旗をあげるけれど、総長も「これ以上はどう説明して良いのか」と困惑しながらも総長は話を続ける。
「実際に日々の生活で『魔力』を使わずとも『魔力』は失われております。ですが、どれほど消費しているのかは、未だ解明されておりませぬ。ですが、我々の保有する『魔力』すべてが失われ『枯渇』することはない。そして『魔力』は休めば回復する。『魔力不足』に陥る者はほとんどおらず、陥ったとしてもアランディール殿下のようになにかしら理由がある・・・・・・そこで考えたのです。シスツィーア嬢はなぜ『魔力不足』に陥るのだろうかと」
「え?アラン兄上に『魔力』を還したからでしょ?」
「左様です。私も最初はアランディール殿下に『魔力を還した』のだから『魔力不足』に陥って当然。そう考えておりました。ですが」
魔道術師団長は言葉を区切ると、先ほどよりも言葉を探すようにテーブルへと視線を向けて
「ですが、自ら『生成』する能力と自然と『回復』する能力。アランディール殿下にお還ししたのが『回復』する能力だとしても、『生成』する能力がある以上、『枯渇』することはあるのでしょうか?現に、マーシャル公に囚われていたときシスツィーア嬢は『魔力不足』に陥ることはなく、足りなくなったのはマリナ嬢に魔道具を付けられてからです。今とは状況が違う。そこで考え付いたのが」
「魔力の減り方、か」
「はい。我々とシスツィーア嬢の『魔力の減り方』は同じなのでしょうか?」
「「「・・・・・・・・・・」」」
リオリースが困惑している隣で、レオリードは総長の言ったことを反芻する
(『魔力の減り方』・・・・・・たしかに、考えたことはなかった)
レオリードだけでなく、ほとんどの者が『どれだけ魔力を消費して生きているか』なんて考えたことはないだろう。
「けどさ、総長の言う通り『魔力の減り方』が違うんなら、マーシャル公に捕まってたときから『魔力不足』になってないとおかしくない?」
「リオリース殿下の疑問はもっともです。私とて、この仮説を裏付けるものはなにもない。唯一考えられるのは『魔力生成能力』に変調が起こった可能性。そしてその原因として考え付くのは」
「『切り離しの儀式』か?」
「はい。あの『儀式』に関しては不確定要素が多かったので、なんらかの作用が含まれていても不思議はありません」
「あの『儀式』の魔術式って、誰が考えたの?」
「シスツィーア嬢です。『エツィールド家』に残されていた文献より創り上げたと。私はそれを現存する魔術式と照らし合わせて、不自然なところがないか、望んだ効果が出るかを確認しただけにすぎません」
総長の疑問は言われてみればもっともだし、シスツィーアの『魔力生成能力』の変調も『魔力の減り方』が普通の人よりも多いことも、どちらも『魔力不足』になっておかしくはない
「あのさ、アラン兄上の『魔力不足』とツィーア姉さまの『魔力不足』は違うってことだよね?」
「左様です」
「それで『生成』の能力と『回復』の能力だと、『回復』の方が重要ってこと?」
「・・・・・・・重要と申しますか、『回復』する量の違いが関係するのではないかと。ああ、『回復』と『女神の祝福』は同じだとお考えください。シスツィーア嬢は現在『女神の祝福』を授かっていない、もしくは授かっていたとしても、これまでとは比べものにならぬほど少ない。だから『魔力不足』になっても不思議はないのですが、それだとマーシャル公のときと説明がつかない」
「なるほど?それならちょっと分かる・・・・・・・かも」
リオリースが懸命に理解をすすめる隣ではシグルドが深刻そうに考え込んでいるし、レオリードも眉間にしわを寄せて厳しい顔つきでいる。
「・・・・・・・総長はシスツィーアの『魔力の減り方』が多いと、そして『回復』の量は少なく『魔力生成』も追い付いていないと考えているんだな」
「・・・・・・『生成』と『回復』と『魔力の消費量』。この三つが並び立つもので、均衡がとれていることが我々が生きるための条件だと仮定した場合ですが」
「・・・・・・・・・・そうか」
魔道術師団長の言っていることは整合性が取れていると思え、レオリードは受け入れるしかない。
「どちらにせよ、シスツィーア嬢の目覚めを待ち調べていくしかあるまい。総長、すまぬが頼む」
「仰せのままに」
シグルドが結論付け、その日の話し合いは終わった。
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