仮説 ①
シスツィーアの魔力量が『青』になってから数時間後
レオリードとリオリースだけでなくシグルドもともに話をすることになり、魔道術師団長も含めた四人はシグルドの執務室にいた。
本当ならすぐにでも魔道術士団長から話を聞きたかったレオリードだが
「先に少しお休みください」
他者への魔力譲渡は危険な行為だ
本人に自覚がなくとも、短時間で大量の魔力を消費したのだから身体に不調をきたしてもおかしくない
現にレオリードからは多少の疲れが見えていて「休まなければ話をしない」と、魔道術士団長は譲らず
「レオン兄上、少し顔色悪いよ。休んだほうが良いよ」
リオリースからも心配そうに言われて、レオリードは午後からの公務を取りやめて休むことになったのだ。
「して、今回のシスツィーア嬢のことだが」
「総長はなにか思い当たることがあるのだろう?」
四人でテーブルを囲い人払いをした後にシグルドが口を開くも、レオリードはそれを遮り尋ねる。
(いったい、なにが原因なんだ)
シスツィーアに使っていたレオリードたち王族の魔力量を測定する機器と、魔道術士団長が持ってきた魔道具
一体なにが違うのかと、レオリードだけでなくリオリースも顔つきは険しい
「私にもこの考えが正しいのか分かりませぬ。ですが、アランディール殿下がマーディア領に行き王都不在だったおりの、シスツィーア嬢の様子がおかしかったときのことから、ひとつの仮説が浮かんだのです」
「仮説って?」
「もしや、シスツィーア嬢の『魔力の器』は我々の想像以上なのでは?と」
「えっ!?」
「どういうことだ?」
魔道術士団長はどう話したらいいものかと逡巡すると、噛み砕くように説明をはじめる。
「魔力量の測定器ですが、通常は『器に対しての魔力残量』を測定します。王族の方々の『器』は大きく、侯爵家や伯爵家の者たちと同じ測定器を使いません。これは魔力測定の宝珠と同じ原理です」
「ああ。それは分かる」
「うん」
レオリードとリオリースは頷く
「王族の方々は『女神の祝福を受ける者』の血を受け継いでいらっしゃるので『器』も大きい。シスツィーア嬢の『器』は王族と同等と考えられましたので、王族の方々と同じ機器もしくはそれに準ずるものを使用していました。ですが、シスツィーア嬢の『器』が予想以上で、機器が測定できる範囲で魔力量を示しているのだとしたら?そう考えたのです」
「「・・・・・・」」
シスツィーアの『魔力を受けとめる器』が大きいことは分かっていた。
だが、この『器』の大きさ自体を測定する機器は開発されておらず、どれほどの大きさなのかは予想するしかなかったのだ。
だが、レオリードは機器も測定できないほどの大きさだとは思ってもおらず、リオリースとともに言葉を失い、唯一シグルドだけは静観していて
「では・・・・・総長が持ってきた魔道具は?」
「新しく総長が造ったものだ」
「え!?総長が造ったの!?」
「左様です。シスツィーア嬢の持つ『女神の祝福』をなんなく受けとめる『器』が王族の方々より大きいのであれば、既存の機器より測定の幅を拡げれば良いと、陛下より設計図をお借りしました」
やはり事前に話を聞いていたシグルドが言うと、リオリースが驚きの声をあげる。
本人はなんてことないように言うが、新たな魔道具を開発することは誰でもできることではない。
「設計図自体は判読できる状態で残っておりましたゆえ」
「それでもすごいよ!」
尊敬の眼差しでリオリースが総長を見るが、魔道術師団長は居心地悪そうに「こほん」と咳払いをして
「それより、シスツィーア嬢のことですが」
「ああ。今回のこと、総長の仮説が当たったということで間違いないのでは?」
「はい。僭越ながら私もそう考えます」
考えられないことではないと、誰しもが納得できる仮説
だが、それは
「総長、シスツィーア嬢が目覚めないのは『魔力』が足りないから。そしてそれは、アランとの切り離しの影響・・・・だな」
「おそらくは。目覚めぬことに関しては断言できませぬが、機器が『黄色』を示したのは切り離しの影響と考えるのが自然でしょう」
「では、前回の体調不良も」
「可能性は高いかと」
シグルドへ総長が首肯すると、レオリードの顔がわずかに歪み、執務室のなかに重苦しい沈黙が降りる
どれほどの時間が流れただろう
「では・・・・・・・彼女は『魔力』を」
沈黙を破ったのは、レオリードの掠れた声
「つくれていない・・・・ということか?」
それはレオリードたちが想像していたなかで、最悪の事態
リオリースが両目を見開き総長を見ると、総長はゆっくり首を横に振る。
「そうは思えませぬ。シスツィーア嬢が『魔力生成』を行っていることは間違いないでしょう」
「なぜそう言い切れる?アランのときのように調べたのか?」
「はい。シスツィーア嬢の『魔力生成能力』に問題がないかは、最初のころに調べております。ご報告したはずですが?」
「・・・・・・そうだったな。すまない、失念していた」
「父上、オレはじめて聞いた」
シグルドが机の引き出しからファイルを持って来てテーブルに置くと、リオリースが読みはじめ
「ねぇ、これってどうやって調べるの?」
「専用の機器を使います。『魔力生成』ができていれば針が動き、作る力が弱ければ針の動きが鈍く、できていなければ動かない」
「だがそれは『どのくらいの量を作れているか』は分からない・・・・そうだったな」
「・・・・左様です」
アランのときに聞いたことを覚えていたレオリードの表情は硬く、リオリースから書類を取るとじっと読み進め
「総長、シスツィーアが魔力を作る力が『変わった』ことは考えられるか?」
「・・・・・・可能性は否定できませぬな」
「一度調べたほうが良いな。総長、明日にでも調べてくれるか?」
「仰せのままに」
総長が持っていたノートに予定を書き込むのが終わったのを見計らって、レオリードはさらに質問を重ねる。
「総長、今の時点で良い。ほかにシスツィーアのことで気が付いたことはあるか?」
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次話は7月12日投稿予定です。
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