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お茶会のあと

(終ったわ)


リジーを見送り私室に戻ったあと、シスツィーアは窓近くに置かれた椅子に座り、ぼんやりと庭を眺めていた。





リジーとのおわかれ




アルデス家との決別




このまま終わりというわけにはならないと、分かっている。




だけど




新しい場所へと旅立つリジーとのおわかれは、シスツィーアの心をあたたかくして




夕方のお庭は、咲いている花を少しだけオレンジに染めて、なぜだか少し切なくて




「シスツィーアさま、いただいたお土産のお毒見が終わりました。お茶をお淹れいたしますね」


シスツィーアが顔を上げると、サラが押しているワゴンテーブルのうえに、箱がふたつ置いてある。


「こちらがルグラーシュ嬢からです」

「可愛いわ」


リジーからのお土産は、お砂糖に色を付けて小さなお花の形にしてあるもの


ひとつ口にいれてみると、すぐに溶けて甘さが広がる


「このまま食べても美味しいけど、お砂糖の代わりにお茶にいれても良さそう」

「こんなに可愛らしいのですもの。お茶会にお出しすれば喜ばれますわ」

「ええ。最近ルッザニア王国より輸入されるようになったお品で、まだ流通してないそうですし、ぜひ」


サラとルリにも勧めると、ふたりとも口に入れ顔を綻ばせる。


優しい甘さが広がり、ほっとして


「こちらはアルデス嬢からですわ」


ルリに示されたのは、どこか見覚えのある小さな缶



ドクリと、心臓が音を立てて



「むり、しなくてよかったの、に」



少しでも心証を良くしたかったのか、小さいながらも上品な焼き菓子の詰め合わせ



礼儀としてひとつくらいはと、缶のすみにある小さな四角いお菓子を持ち上げて




ギクリと身体が強ばる




(これって)




バニラの甘い香りが、つまんだ感触が、覚えのあるお菓子




つーっと背中に汗が流れ、指先が冷たくなって




「シスツィーアさま?」

「なんでも、ないわ」



震えそうになるのをこらえて、ひとくちで口に入れ




(っ!)




覚えのある柔らかな口当たりと、甘さ控え目の味



吐き出したくなるのを、無理やり飲み込む




「おいしい、わ」





流すようにお茶を飲む





口のなかでは甘さが消え、お茶の渋みが微かに残って、シスツィーアはほっと肩の力を抜き



「残りはいかがいたしましょう?」



ルリの言葉に、気付かれないように深呼吸して



「リジーからいただいたものは、明日のお茶のときに出してくれる?レオリード殿下にも召し上がっていただきたいから」

「かしこまりました」


明日は今日の報告を兼ねて、レオリードとお茶の時間を過ごすことになっている。


(リオンもご一緒できるかしら?)


ときどきお茶に砂糖を入れるリオリースなら、きっと気に入るだろうし、なにより


『美味しいものは、みんなで分け合いたい』


そんなささやかな願いが、シスツィーアも気がついてないけれど、心の奥にあって



(喜んでくれるかしら?)



そう考えただけで、心がほんわかして



「アルデス嬢からのものはいかがいたしましょう?明日お出ししますか?」

「そう、ね」


隣の缶へと視線を移す


けれど直視はできなくて、視線は少し外れていて


「アルデス嬢からのは、」


ルリとサラを見上げて、声が震えないように気をつけて、なるべく明るく


「えっと、ルリとサラで食べて?」

「よろしいのですか?」

「今日はたくさん食べたからお腹に入りそうにないし、開けたから日持ちしないでしょう?殿下にお出しするのは躊躇われるわ。せっかくですもの、美味しいうちに食べて」

「ありがとうございます」

「嬉しいですわ」


サラもルリも深く尋ねることなく、嬉しそうに受け取ってくれて、シスツィーアはほっとして


「シスツィーアさま、ただいま戻りました」

「お帰りなさい、キーサ」


メイド長のところから戻ってきたキーサが、シスツィーアの様子がいつもと違うことにすぐに気付く


「少し、お顔の色が」

「え?お茶会が終わってほっとしたからかしら?疲れたのね、きっと」


無理やりだけど、無理やりに見えないように笑みを作る


「今日はもう休むわ。お夕食はいらないから、料理長に謝っておいてくれる?」

「かしこまりました。すぐに湯浴みのご用意を」

「お願いね」


キーサの指示で、サラとルリがすぐに支度をはじめ




(疲れたわ)


入浴もいつもよりさっと済ませたからか、お肌や髪の手入れもいつもより短い時間で終わり、一時間もすればシスツィーアはベッドのなかにいた。



リジーとのおわかれ



王妃さまとの謁見



リューミラの願い



アルデス家との決別



今日一日であったことが、再び目まぐるしくシスツィーアの脳裏に浮かび上がり



(言えて良かったわ)



ちゃんと、『連絡しないで』と言えた



それはシスツィーアのなかで、大きな一歩だ。



しゃらり



寝返りを打つと、小さな女神像がシスツィーアの目の前に現れる



いつもなら、女神像は寝衣のなかにしまうけれど



瞼が重くて



身体も動かしたくなくて



(もう、眠らないと)



しっかり休んで



また明日、レオリードと会うのだから



そう思いながら、いつしか眠りに落ちていった




最後までお読み下さり、ありがとうございます。

次話もお楽しみいただければ幸いです。

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