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あたたかなおわかれ

「今日はごめんなさい、リジー」


リューミラがキーサに促されて退出したあと、シスツィーアはリジーと王城の馬車留まりまで歩いていた。



「気にしないで。と言っても無理でしょうけど、ツィーアのせいじゃないでしょう」


苦笑してはいるものの、リジーは迷惑に思っているわけではない。


今日のお茶会にリューミラも招くことは予め相談されていて、承諾したのは他でもないリジー自身なのだから




「リューミラさまのことは我が家も気になっていたし、わたしなんかがレオリード殿下と王妃さまにまでお目通りいただけたのは、リューミラさまのお陰とも言えるしね」

「ありがとう。王妃さまの前でのリジーの所作、完璧だったわ」

「ふふっ。ありがとう」


ミリアリザはいまだ療養中であるけれど、どこからかリジーのことを知り、そして「わたくしとも縁のあるご令嬢を祝したい」と、非公式ではあるけれどリジーと会ったのだ。


それだけでなく、レオリードも「無理を言ってすまない」と、リジーとシスツィーアの昼食のあとデザートを共にした。


リジーからすれば、栄誉なことどころではない、身に余る厚遇だ。



「ねぇ、ツィーア」


馬車が停まっている場所まであと少しと言うところでリジーは立ち止まり、ないしょ話をするようにシスツィーアを手招きする。


「なあに?」

「わたしが婚約できたのって、結局のところ『フォーレスト王国の貴族の血を引く』からなのよね」

「え?」


「驚いた?」と言わんばかりの、いたずらっぽい顔


シスツィーアはリジーの言いたいことがわからず、きょとんとして


「お相手のこと知ってるでしょう?」

「外交官とは聞いているわ」

「侯爵家の方なのよね」

「え?」

「下位貴族じゃなくて、よりによって高位貴族。本当ならいくら両親が伯爵家の出身とは言っても平民のわたしとの婚姻なんて、許されるはずなかったのよ。だけどね」


リジーは肩を竦めながら自嘲の笑みを浮かべ



『母親がフォーレスト王国の貴族出身なら、我が国の貴族より魔力量が多いだろう』




「彼、そう言って反対するご両親や一族の方を説き伏せたらしいの」

「・・・・そう」

「幸いなことに、わたしもシールスも母の血が濃いのか、魔力量はこの国の伯爵家くらいあるの。ルッザニア王国だと王族に近いらしいわ」

「え?そんなに違うの?」

「ええ。だから、向こうでも無碍には扱われないと思う。魔力量が豊富な子どもが生まれたら、侯爵家にとっても有益になるしね」


国が違うとそこまで違うのかとシスツィーアが目を見張ると、リジーは大きくうなずき


「お相手のことは好きよ。仕事柄、細かいところにも気付いてくれるし、さりげない気遣いだって上手。背も高いし顔だって良いわ。話しも合うし、甘いものがわたし以上に好きなところとか、可愛らしいと思えるしね」


「だけどね」と、リジーは少し寂し気な笑みを浮かべ


「だけどね。わたしが本当の平民なら、彼はわたしを選ばなかったわ。貴族であることを捨ててまで、わたしと一緒になることはなかったの」

「リジー」

「それに気付いてからはね、なんだか少し冷静になって」


お相手からの一目惚れではじまったと聞いていたシスツィーア


淡々とした口調だけれど、リジーも思い悩んだのだと伝わってくる。


「両親は「いざとなれば帰ってくれば良い」って「ルグラーシュがなにを言っても気にする必要はない」って、いってくれたの」

「・・・・・・そう」

「そんな簡単な話じゃないのにね」


国をまたいでの婚姻


そのための養子縁組


リジーはどれだけ悩んだのだろう


明るい、幸せな未来だけじゃないことにシスツィーアの胸はつまり、何も言えなくて


リジーを見つめることしかできないシスツィーアに、リジーは「ふふっ」と不敵な笑いを零す


「今日、王妃さまから下賜していただいたネックレス。あれもわたしを守って、ううん。わたしの武器になるわ」


リジーが婚姻のお祝いにと下賜されたのは、ルッザニア王国がミリアリザがまだ王女だったころに贈った原石から作られた、王女時代の花押入りのネックレス


『わたくしの祖国の令嬢となり、そしてルッザニア王国へと嫁いでいく、三か国の架け橋となるリジデリア嬢へ』


ミリアリザから直接贈られたこと、そしてその証となる直筆のメッセージカード


それはきっと、かつてこの国へ嫁いできたミリアリザだからこそ、リジーにとって必要だと贈ったのだろう


ミリアリザの気遣いに、シスツィーアは鼻の奥がツンとして




ゆっくりと、リジーがシスツィーアから一歩下がる




「ありがとう、ツィーア。あなたのおかげよ」




リジーの淑女の礼




それは本当なら最上位のものへの礼で、シスツィーアは『畏れ多い』と慌てるよりも、ますます泣きそうになって




「感謝してもしきれない。だから、今日のことは本当に気にしないで。むしろ役に立てて、少しでも恩返しができて良かったと思ってる」




顔を上げたリジーの笑みは、大輪の咲き誇る花のよう




シスツィーアも大きく息を吸うと、負けないくらいの笑みを返す。




シールスほど親しかったわけではない




だけど、大切な、小さなころからのお友だちであることには変わらない




「もう会うことがないことを願ってるわ」




自然と、シスツィーアから言葉が零れた。




「もう、会えないのは寂しい。だけど、会わないことの方が、リジーが幸せってことですもの」




さびしい




だけど、心から喜べるおわかれ




リジーにも伝わったのか、くすっと、昔から知る笑顔で


「あら。新婚旅行で遊びに来てくれて良いのよ」

「え!?」

「いつでも待ってる」


そういって、リジーはまた礼をする。


今度は辞するために


泣きそうになるのをこらえて、シスツィーアも優雅に礼をする


「さようなら、リジデリア嬢。あなたの幸せを心から願います」

「ありがとうございます。シスツィーアさまも、どうぞお元気で」


最後までお読み下さり、ありがとうございます。

次話もお楽しみいただければ幸いです。

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