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舞台裏⑤ ~リューミラ・アルデス子爵令嬢~

アルデス子爵家の一人娘であるリューミラ





彼女にとってのシスツィーアは






『時期が来たら養子縁組が解消され『平民』になる一時的な『義妹』』






そんな存在だった。





だから





シスツィーアがアルデス家をたてるのも






裕福でないアルデス家のために、家事を行うことも







専属のメイドがいないことも







全部、当たり前のことで








予定より早く『義妹』ではなくなったとしても








なにも困らないのだと








そう、思っていた






王宮でのお茶会に招かれたときも







『やっと』との







少し苛立つ気持ちと







(これで窮地から脱せるわ)







シスツィーアに会えば






会って話せば







これまでのように、アルデス家のために動いてくれると







安心した








その予想は当たっていて








『なにが、目的、ですか?』








少しだけ、シスツィーアの言い方に引っ掛かったけれど、ちゃんと言うことを聞いてくれるのだと







信じて疑わなかった







それなのに











『リューミラさま、わたしとアルデス家の縁はあの日切れました』






『わたしからご連絡することは、もうありません』






『できれば、アルデス家からも控えていただければと思います』






『陛下やレオリード殿下に、これ以上のご迷惑をおかけするわけにはいきませんから』







言われた言葉の数々



きっぱりと言い切られたことが信じられなくて、それでも何か言わないとと思ったのに


「お話し中、失礼いたします」


いつの間にか、すぐ側に年嵩のメイドが来て話しかけられて


「申し訳ありません。そろそろお時間です」

「え?」

「シスツィーアさまは医師からお茶会の時間を決められておりますので」

「まあ!もちろん、すぐにお暇いたしますわ」


有無を言わせず促され、リジーも帰るとなれば留まることもできず、そのまま部屋をでることになり






「どうだった!?」

「それが」


自宅では、アルデス夫妻がリューミラの帰りを今か今かと待ち構えており、玄関に入った瞬間問い詰められる。


リューミラがシスツィーアとのやり取りを話すと、アルデス子爵の顔がみるみるうちに真っ赤になり


「なんと言う不義理を!何様のつもりだ!」


ダンッ!


いつもなら花瓶が置いてあるテーブルに拳を叩きつけ、アルデス子爵が吐き捨てる。


リューミラは「怖い」と、この場から逃げ出したくなりながらも、お茶会で初めて知ったリジーのことを恐る恐る尋ねる


「お父さま、今回のお茶会はリジーの結婚祝いというのは?わたくし知らなかったですわ」

「ルグラン家の娘だろう?たしかに招待状に書いてあったな。平民の分際で王宮に招かれるなど、分不相応なことだ!」

「旦那さま、それは本当ですの!?」


シスツィーアから送られた招待状は、読んだ直後に子爵が怒りのあまり破り捨ててしまったため夫人は読んでいない。子爵にかろうじてあった理性が、お茶会の日時が書かれた部分を残したのだ。。


「ああ。あやつからの招待状にそう書いてあった。ふん!平民の娘が他国へ行くくらいで茶会なぞ、殿下方もアイツの良いように」

「ルグラン夫人は伯爵家の出身ですわ!」


悲鳴を上げる夫人に、子爵がうるさそうに顔をしかめる。


「だからなんだ。今は平民だろう」

「それだけではありませんわ!ルグラン夫人は婚姻前は王妃さま付きのメイドでしたのよ!」

「なに!?」


さすがにアルデス子爵も顔色を変える。


「ですから、リューミラの礼儀作法をお願いしたのではありませんか!」

「聞いておらぬ!」

「いいえ!夫人にお願いするときに、旦那さまもご一緒でしたわ!」


断言する夫人に、まだ王太子妃だったミリアリザに年の近いメイドたちが選ばれ、仕えていたことを思い出した子爵は、悔しそうに口を歪め


「ふん!だが、今は違うだろう!気にすることは」

「いいえ!事前に知らされていながら祝いの品も用意しなかったとあれば、アルデス家の評判に関わります!明日、ルグラン家にお祝いを持っていきますわ!」


いつになく強い口調できっぱりと断言する夫人に、子爵も頷かざるを得なかった。


その会話を聞いて、いまさらながらルグラン家に来ていたメイドに無理やり話しかけたことは失敗だったのだと、リューミラは青くなり


「お母さま、リジーは『父の実家のルグラーシュ家に向かう』と言っていました。『父の祖国はお相手の国と以前より交流があるから、頼った方が良いと助言をもらった』と」

「ルグラン家のご主人・・・・・・さすがにわたくしも記憶にないけれど・・・・・・お相手はどんなお仕事をされている方なの?」

「そこまでは・・・・・・・・ただ、この国には仕事の途中で立ち寄ったと。リジーの勤める喫茶店に来たことがきっかけと聞きましたから、商人ではありませんの?」

「そう・・・・・平民なのかしら?」

「・・・・・・そうだと思います」


リューミラは、リジーのお相手が貴族であるはずがないと思い込んでいた


けれど、アルデス夫人の情報によればリジーが勤める喫茶店は、まだまだ貴重な生クリームをふんだんに使ったケーキと、最近この国に輸入されるようになったコーヒーをだすお店で、物珍しさから貴族がお忍びで訪れることもあるという。


(そんな・・・・・・まさか)


リジーの相手が貴族だなんて、信じたくない。


「ふん!貴族家に嫁ぐのなら店にとっても利益になるのだ。自慢するに決まっているだろう。それをしないなど、相手は平民だ」

「そうだと思いますが・・・・・・・・」

「それよりもシスツィーアだ!くそっ!アイツを養女にして育ててやった恩を仇で返しおって!」


(お父さまの言う通りよ。お母さまの考えすぎだわ)


貴族に嫁ぐなんて、リジーは一言も言わなかった。


貴族家と繋がりができたとなれば、ルグラン商店にとっても貴族の顧客を増やす機会だと、きっと今日のお茶会で自慢していたはず。


それをしなかったのは、婚姻相手が平民でこの国との繋が薄いから


他国へ嫁いでしまえばもう関わることもないのだからと、リューミラはリジーのことよりも、今日のシスツィーアの態度で王宮に努めるメイドたちの心証が悪くしてしまったのではないかと、きちんと採用されるのか、採用されたあとに冷遇されたりしないかと不安でいっぱいで


「親のありがたみがわかってから泣きついてきおっても許さんぞ」


父の怒りはとどまることがなく、リューミラの心はさらに暗澹として


この国を離れるリジーのことより、自分の将来のこと


(どうにかして、ツィーアにもう一度会わないと)


きっと今は王宮での生活が楽しいからそんなことを言っただけで、もう少ししたら家族が恋しくなるに決まっている。


(そうよ。わたくしたちとの縁を切るだなんて、そんなことできるはずないわ)


今日だって王宮に招待してくれたのだ


時間がたてば、きっとシスツィーアも冷静になって連絡してくる



そのときのことを考えて、リューミラは不安から目を背けた。




最後までお読みいただき、ありがとうございます

次話は明日 6月21日投稿予定です。

お楽しみいただけると幸いです。

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