お茶会 ➁
(なにを・・・・言い出すの?)
『羨ましいわ。わたくしにはそんなご縁は望めなさそうだもの』
リューミラの言葉に固まったシスツィーア
すぐにリジーが取り成すけれど
「そんなことはありませんわ。リューミラさまでしたら、素敵なご縁が」
「リジーはわたくし、いえアルデス家の現状をご存知でしょう?」
「それ、は・・・・」
(アルデス家の現状?)
シスツィーアだって今日のために、レオリードに頼んでアルデス家の情報を集めた。
そこで分かったのは、シスツィーアの予想通りアルデス子爵家の評判が著しく落ちていること
(たしか『建国記念の夜会』でわたしがアランを救ったと陛下からお誉めいただいたあと『除籍』のことが明るみにでて、顰蹙を買ってるのよね)
学園では『シスツィーア・アルデス』を名乗っていたから、貴族たちは『アルデス家』を『王子を救った娘の家』と称えた。
けれど、どこからかシスツィーアの『除籍』の話が流れ、アルデス家は慌てて『除籍はしていない。養子縁組を解消しロック男爵家に戻しただけ』『それもやむにやまれぬ事情があり仕方のないことで、シスツィーアも納得していた』と釈明をしたのだけれど
『シスツィーア嬢を除籍したのも、なにかしらの思惑があったんじゃないか?』
『シスツィーア嬢を除籍することで、第二王子殿下に害をなそうとしたのでは?』
『もしや、アルデス子爵家も第二王子殿下の『禁呪』に関わっていたのか?』
そんな憶測を孕んだ噂まで流れ、他家から嫌厭されるようになったのだ。
(ロック男爵家は一貫してわたしとの関わりを黙秘していたから、なおさらね)
実際に『除籍』されたのは生家であるロック男爵家からだけど、もともとシスツィーアとの関わりを公言することはなかったし、シスツィーアがロック男爵家出身であることも、アルデス子爵が言わなければ知られることもなかっただろう。
アルツィードも学園を卒業したし、ロック男爵は領地からでてくることはほとんどない。
だから余計に、アルデス家に人々は注目した
(子爵がどんな対応をしたのかは分からないけれど、黙秘を貫けばまだ違っていたでしょうに)
下位貴族からならまだしも、シスツィーアのことを高位貴族に聞かれて、知らぬ存ぜぬを貫ける強さはアルデス子爵にはない。自分よりも弱い立場の者へしか、強く出られないのだ。
だからきっと、上位貴族には曖昧な態度をとって、それで余計な顰蹙を買ってしまった
こっそりと、心のなかでため息を吐く
そんなの、自業自得としかシスツィーアは思えないのだけれど
「ねぇ、ツィーア」
リューミラはシスツィーアに向かって居住いを正し、これまでと同じように愛称で呼ぶ
シスツィーアの心が、リューミラへの警戒でピンと張り
それと同時に
なぜだか、やるせない思いで深く沈み
「・・・・・・はい」
「ツィーアとの養子縁組を解消したことは仕方がないことで、いくらご当主さま・・・・パラデルト辺境伯の許可があったとはいえ、やりすぎだったと、わたくしは思うの」
「・・・・・・」
「ごめんなさい。あなたをつらい目にあわせて」
シスツィーアに向かって頭を下げ、謝罪するリューミラ
「どうか、わたくしたち家族を赦して」
頭を下げたのは、ほんのわすかな時間
そして、懇願する瞳でシスツィーアを見つめて
(なん・・・・で)
シスツィーアのなかに、言い表せないものが広がる
シスツィーアが除籍されることを、リューミラは知っていた
あの日、シスツィーアの呼び掛けに答えることなく背を向けたのが、それを物語っている。
なのに
(謝罪、なんて)
謝罪するくらいなら
ーーーーーーー
謝罪して、欲しくない
ぎゅっと、テーブルの下で両手を握りしめる
リューミラたちに、怒りはない
だけど
なかったことには、できない
視線を逸らしたい
それなのに
シスツィーアを見つめる必死な瞳から、目を逸らすことができなくて
嫌
心のなかで、ちいさく湧きでる
(謝罪されたら)
されたら、こまるのに
「ツィーア、お願い」
シスツィーアのなかにある、ちいさな声
赦さないといけなくなる
本人さえ気づいていないほど、ちいさな本音
それなら
ーーーーーーー
なにも言えずに、リューミラと見つめ合う
どれだけの時間が、流れただろう
「ツィーア」
リューミラの声に、微かに懇願以外の音が混じり
テーブルの下でぎゅっと握りしめていた手が、するりとほどける
リューミラの謝罪は、保身からくるもの
そんなこと、分かっている
それなのに
シスツィーアの心に湧くのは、怒りではなく
ぽっかりと、心が空いて
反論する気持ちも
罵倒する気持ちも
心のなかから、抜け落ちて
身体から、ちからも抜け落ちて
「なにが、目的、ですか?」
ちからのない声が、部屋に響いた
最後までお読みいただき、ありがとうございます
次話は6月12日投稿予定です。
お楽しみいただけると幸いです。




