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お茶会 ①

王宮や王城には、来客用の茶会室がいくつかある。


国賓を迎える茶会室、高位貴族をもてなす茶会室、そして下位貴族と面会するための茶会室


王城は公的な場所で、茶会室も政治のために使用されることから、基本的に王族主催のお茶会は王城にある茶会室で行われる。また、身分ごとに使用される部屋が分けられていて、身分が違うものたちを一堂に会すときは、広間や庭園であるのが通例だ。



一方で、王宮は王族が住まう私的な空間


茶会室は親交を深めるため、つまり親族や親しい友人と気兼ねなく会うための部屋だ。よって、王宮に招かれるのは王族と親しい間柄との証明であり、親族や側近でもないのに招かれたとなれば『王族と個人的な繋がりがある』と、家の誉れとなる。


それだけ、王宮での茶会には重要な意味を持つのだ






コンコンコン



「失礼いたします。リューミラ・アルデス子爵令嬢がおいでになりました」

「お通ししてください」



サラに引いてもらった椅子から、シスツィーアは音もなく立ち上がる



「ようこそお越しくださいました、リューミラ・アルデス子爵令嬢」

「・・・・ツィーア。それに・・・・」


部屋に入り、シスツィーアたちのテーブルへ近づいてきたリューミラが、目を見開き立ち止まる


「ご無沙汰しております、リューミラさま」


シスツィーアの斜め向かい側、主賓席と思わしき場所に座っているのは


「リジー?」


シスツィーアとともにリューミラを迎えたのは、今日のお茶会の主役でもあるリジデリア・ルグラーシュ伯爵令嬢



「はい。ご無沙汰しておりますわ」


上品な笑みを浮かべるリジーとは対照的に、リューミラの顔に戸惑いではないものが浮かぶが、シスツィーアは気づかないふりをする


「どうぞお掛けください。サラ、お席にご案内して。ルリ、お茶をお願い」

「かしこまりました。シスツィーアさまがたへも新しくお淹れいたします」

「アルデス子爵令嬢、こちらの席にお掛けください」


シスツィーアの言葉でメイドが動き、リューミラが席に着くとシスツィーアも腰かける




お茶を淹れる音が、静かな部屋に響き




お茶とお菓子がテーブルに並び、サラとルリがキーサのいる壁側へと下がると、シスツィーアはリューミラへと声をかける。


「どうぞ、お召し上がりください。お口に合うと良いのですが」

「ええ・・・・ありがとう・・・・ございます。いただきますわ」


リューミラは緊張している様子はあるものの、ちらちらと不満そうな顔も覗かせながら、シスツィーアの言葉に従ってカップを持ち上げる。


お茶の香りや美味しそうなお菓子たちが、シスツィーアたちのお茶会を彩ってくれるけれど


テーブルのまわりには、緊張を孕んだ沈黙が漂って


「いかがですか?」

「・・・・ええ」


リューミラがカップを置いたタイミングでシスツィーアが尋ねると、リューミラは小さく返事をする。


「・・・・美味しい、ですわ」


そう答えたあとは、リューミラは黙って俯いてしまい



(えっと、どうしよう?)



シスツィーアとしては、リューミラの話を聞くだけ聞いて、レオリードたちに迷惑がかからないように「もう連絡しないでほしい」と話そうと思っていた。


だけど、よくよく考えてみれば、シスツィーアも切り出しにくい話だし、リューミラにしてみればメイドたちの目があるから、シスツィーア以上に話しにくいはず


(ふたりきりの方が話しやすかったわね)


ちらりとそんな考えが過るけれど、すぐに打ち消す。


(そんなことになったら、アルデス家の思うつぼ・・・・うん。これで良かったのよ)


シスツィーアなら言いくるめられると、リューミラは情に訴えてくるだろう。


もちろん、シスツィーアも負けることはできないから応戦するけれど、それはそれで相手につけ入る隙を与えてしまう。


だから、ふたりきりで会わなくて正解


(会話の糸口を探さないと)


こっそりと意気込むシスツィーアに、リジーが微笑みかける。


「本日はわたくしのためにお茶会を開いてくださり、ありがとうございます。最後にお二人にお会いできて、きちんとお別れができて良かったですわ」

「あ・・・・そうよね。気軽には帰って来れないわよね」

「ええ。里帰りすることになっても、ルグラン家ではなくルグラーシュ家になるでしょう。この国で過ごすのもあとわずかですわ」

「・・・・・・どういうことかしら?」


リューミラの声が少し尖って聞こえたのは、気のせいではないだろう。


けれど、リジーは気にすることなく


「婚姻が決まりましたの。二か月後にはこの国を立ち、父の実家であるルグラーシュ家に向かうことになりますわ」

「・・・・・・」


理解が追い付いていないのか、リューミラが首をかしげる。


(もしかして、知らなかったのかしら?)


招待状にはリジーが婚姻のため他国へ行くこと、そのお別れのお茶会ということも書いていた。


(子爵がきちんと伝えてない可能性はあるわ)


シスツィーアもアルデス子爵が『伝える必要はない』と判断して伝えられていなかったことで、困ったことになった覚えがある。


『茶会に呼ばれた』と日程だけ伝えられたこともあり得ると、シスツィーアはこっそりため息を吐き


「招待状にも添えましたが、今日はこの国を立つリジーのお別れ会をと、このお茶会を開きました。リューミラさまもリジーとは旧知の間柄ですから、ご一緒にと思って」

「・・・・ええ。そうでしたわね。リジー、おめでとう」

「ありがとうございます、リューミラさま」


リューミラは少し強ばってはいるものの、にこりと笑みを浮かべてお祝いを述べる。


本当なら、子爵令嬢(リューミラ)伯爵令嬢(リジー)を呼び捨てるなど、上位の者に対する態度ではない。


けれど、リジーから『伯爵令嬢になったことは秘密にしてほしい』と頼まれたから教えることもできず


「ルグラン夫人はお元気かしら?」

「はい。おかげさまで」

「お相手はどんな方?どうやって知り合ったの?」

「甘いお菓子が好きな方で、わたくしの勤める喫茶店にいらしたことがきっかけですわ」

「まあ!素敵ね」


話すうちに緊張が解れてきたのかリューミラは楽しそうに次々と質問して、リジーもそつなく答えていく。


それに、ほんのり頬を染めながら馴れ初めを話すリジーは幸せそうで、シスツィーアもそんなリジーを見ていると自然と頬がほころんで


でもその一方で、これまでと同じようにリジーに接するリューミラに、なんだか良くないことが起きそうな気もしてきて


「他国の方なのよね?」

「はい。この国へは仕事の関係で立ち寄られて」

「まあ!それで、その、ルグラーシュ家?とはどういう?」

「父の祖国とは以前より交流があるので、頼った方が良いと助言をいただいて」

「そうでしたのね」


リューミラもルグラン商店の主人がミリアリザの祖国出身なことは知っている。


だけど、伯爵家の令息だったことは知らないか覚えていないのだろう


リジーは気にしていない様子だけど、遠慮のないリューミラに、シスツィーアの胃はなんだかきりきりしてきて


ちらっと控えているメイドたちに視線を走らせると、顔にはでていないものの、作法に厳しいキーサが不快に感じていることも、サラとルリも呆れているであろうことも想像できて


そんなシスツィーアの不安をよそに、リューミラはリジーとの会話を続けているけれど


(・・・・早めに切り上げた方が良いわね)


リューミラの失言は、シスツィーアには関係ない


だけど『義姉妹』だったころの、身内が誰かに迷惑をかけることでの居たたまれなさが湧きあがって


「リュー」

「羨ましいわ。わたくしにはそんなご縁は望めなさそうだもの」


「ほぅ」とため息を溢すリューミラに、シスツィーアは固まった。

最後までお読み下さり、ありがとうございます。

次話は6月10日に投稿予定です。

お楽しみいただければ幸いです。

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