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必要なのは

「すまない。君に相談もなく勝手なことをして。怒ったとしても当然だ」

「えっと、怒るなんて・・・・」


レオリードがシスツィーアのもとを訪れたのは、その日の夕方


やってくると、すぐにシスツィーアに謝罪する。


「あの、王宮ですから、機密とかありますし、手紙を読まれても仕方ない、です」

「違う。勘違いしないでほしいんだが、君を信じていないわけじゃないんだ。実際、君が出す手紙を検閲するよう指示はしていない。その返事に対してもだ」

「え?」


真剣なレオリードの声


シスツィーアは自分が考えていたこととレオリードの答えが違っていて、瞳を瞬かせる。


「ただ、君に届く手紙・・・・しばらくは療養に専念して欲しいと思い、君への手紙は控えるよう送り返し、そして王家が検閲することも併せて伝えていた」

「えっと?」


(つまり?)


シスツィーアがピンときてないのが伝わったのか、レオリードが最初から説明をはじめる。


「春先からだ。君へ手紙が届くようになったのは。だが「今は療養に専念しているから、連絡を控えてほしい」と、届いた開封することなく送り返した。そのときに、今後しばらくは、君に用があるときは俺を通すようにと一筆添えてね」


シスツィーア宛の手紙は、レオリードを通してから


心が、泥濘を踏んだときのような、じくりとした感じになる


けれどそれは僅かな、ほんの小さなことでシスツィーア自身も気付いていない



「その後、しばらくは手紙がくることはなかったんだが、夏季休暇に入る前からか、茶会の招待状が届くようになったんだ」

「えっと、そちらは?」

「「まだ、医師の許可がおりない」と返事をした。それからはまた、手紙が届くことはなかったんだが」

「アルデス家は、違ったんですね」

「・・・・ああ」


レオリードはため息とともに肯定する。


「どんな、内容でしょうか?」

「君に「会いたい」と。「会って話せば、誤解は解ける」と、そんな内容だ」

「・・・・・・」


(同じだわ)


昨日エルティから聞いたことと、ほぼ同じ


(いったい、どんな『誤解』なのかしら)


シスツィーアの話を聞くことなく、追い出したのは子爵家なのに


(話と言うのも、きっと子爵家に被害が及ばないように除籍のこととかを陛下たちにうまく取り繕えとか、そんなところでしょうね)


アルデス子爵家が社交界でどんな立場になったのかは知らない


正確にはアルデス家から『除籍』されたわけでもないけど、そもそもシスツィーアの『除籍』なんて、貴族社会には関係ない


だけど、『アランディールの身を救った』と『建国記念の夜会』で宣言されたシスツィーアの『除籍』に、アルデス家が関わっていることは明白で、社交界でのアルデス家の評判が芳しくないことは想像できる。


(もう、関わりたくないのに)


それでも、レオリードたちに迷惑がかかるのなら、どうにかしないといけない


シスツィーアの心が重くなり、だんだんと俯いてしまう


「君が気にする必要はない」

「え?」

「俺たちに迷惑がかかるとか、そんなことは考える必要ないんだ」


シスツィーアが顔を上げると、レオリードは真剣な顔つきでシスツィーアを見つめている。


「君にはただ、好きなことをして、会いたい人に会って、ゆっくり休んで、そうやって毎日を過ごしてほしい」


レオリードからは、シスツィーアを気遣う言葉しかでてこない


そしてそれは、きっとレオリードの贖罪(ほんしん)


でも、だからといって、シスツィーアが甘えてばかりで良いわけじゃない


「・・・・・・この間の、香夜祭の打ち上げにはリューミラさまは参加されて?」

「ああ。彼女だけ招待しないわけにはいかないからな。だが、個人的にリューミラ嬢と話すことはなかったし、他の者とも君のことを話すことはなかったんだ」


打ち上げのときは、シスツィーアの話をしてレオリードたちの機嫌を損ねるのを避けたのだろう。だけど、リューミラがシスツィーアと会えると思って参加していた可能性は十分ある。


(ルグラン家にいたのも、シールスと会ったことがバレたのかもしれないわ)


リューミラがルグラン家の様子を探っていたのなら、ルリたちがルグラン家に行ったときにリューミラが来たのも頷ける。


(どうしたら、良いのかしら)


迷惑をかけたリジーたちにも申し訳なさでいっぱいだし、レオリードにもこれ以上の負担をかけたくない


(・・・・・・)


テーブルに視線を向ける



誰にとっても円満な解決策



そんなものはないと分かっているけれど


「・・・・・・一度だけ」

「え?」

「一度だけ、会おうと思います」

「シスツィーア!?」



レオリードが目を見開く。


ずきり


シスツィーアの心が傷む


だけど、どれだけ考えたとしても、シスツィーアはこれしか思い浮かばなくて


「・・・・子爵とは会いません。リューミラさまだけ・・・・それで、納得してくれるはずです」


そう


必要なのは「会った」という事実


(「アルデス家をたてて、一度会った」それで、十分なはずよ)


テーブルの下で、シスツィーアはぎゅっと両手を握りしめる。


「お願いします。一度だけです」

「だがっ」

「お願いします」


シスツィーアが深く頭をさげると、レオリードはそれ以上はなにも言えず


「・・・・・・ふたりきりで会うのは、賛成しない」

「・・・・はい。ですが、レオンに同席してもらうのも良くないと思います」

「・・・・っ」


レオリードが同席するのは簡単だが、そうすれば「アルデス家はシスツィーアと和解し、王家と繋がりができた」と、勘違いさせてしまう。


それは避けたいからこそ、レオリードは同席できない


けれど、シスツィーアとリューミラがふたりだけで会うなんて論外


シスツィーアとしても、ふたりきりで会うつもりはない


そんな想いがせめぎあい、ふたりのあいだに沈黙がおりる


それは長いようで短い時間で


「少し、考えよう」

「はい」

「君がこれ以上、アルデス家に振り回されないにはどうすれば良いか、一緒に考えよう」



そういって微笑むレオリードに、シスツィーアも小さく笑みを返した。

最後までお読み下さり、ありがとうございます。

次話もお楽しみいただければ幸いです。

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