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呪いの支配者  作者: 春香秋灯
外伝-魔法使いの悪友の友達
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領地の問題

 貴族は足の引っ張りあい、という話を寄宿学校の授業で聞いたような気がする。うーん、貴族の学校だったかもしれない。悪い響きがする教えは寄宿学校、砂糖菓子みたいに甘い感じがする教えは貴族の学校、と分類しているが、一概に、そうだとは限らない。ほら、貴族って、ともかく、面倒臭いことが多いから。

 そんなことを思い出しながら、手紙一つ貰ったことも、どこかで会ったこともないような侯爵家次男ミリアムが、偉そうにふんぞり返って、俺の前に座っていた。

「というわけで、この領地は、本来、私のものだ」

「ごめん、聞いてなかった」

 というか、俺、本当は頭悪いから、理解するのに、時間がかかるんだよね。もっとかみ砕いてほしい。

「旦那様、わたくしが説明いたしましょう」

「お久しぶりですね。まさか、このような場所で会えるとは、思ってもいなかった」

「義兄はお元気ですか?」

「卑怯にもお家乗っ取りをするような男に負けないように、日々、頑張っていますよ」

 そっかー、妻とミリアムは顔見知りかー。妻の義兄繋がりだとは、知らなかった。

 そんな二人だけしかわからない会話を妻は笑顔で打ち切り、改めて、ミリアムが持ってきた書類の説明をしてくれる。

「この領地は、元子爵コクーン様の持ち物でした。コクーン様には、ちょうど、ミリアム様と歳が近いお孫さんがいました。いずれは、お孫さんがこの領地を引き継ぐこととなる、ということで、婿が必要となることから、ミリアム様と婚約したのです。この書類は、コクーン様のお孫さんとミリアム様の婚約に関する契約書です」

「けど、コクーンは貴族でなくなった。爵位も領地も、帝国に返上されたんだよな」

「そうです。ですが、この婚約の契約破棄はなされていません」

「貴族じゃないのに?」

「貴族がなくなった場合の条項が、ここにはありません」

 そりゃ、貴族でなくなった場合、なんて不吉な条項、いれないよ。婚約の契約書が縁起悪い代物になっちゃう。

「つまり、この契約は生きている。この領地は、いずれ、私がヘレン嬢と結婚し、爵位とともに引き継ぐこととなっている。それは、この婚約の契約書にも書かれていることだ」

 書いてあるけど、それは、コクーンが立派な貴族のままで、コクーンの孫ヘレンと結婚した場合だ。

「今すぐ、この領地を私に明け渡してもらう」

「そういうことは、帝国に訴えろ。だいたい、こういうことを訴えるなら、先代の時にしろよ。卑怯だなんだ言えば、爵位と一緒に領地も、あんたのものになっただろう」

 これ、先代であれば、有効なものとなっただろう。いや、有効だ。

 持ち主が定まっていない領地を先代は卑怯な方法で横取りしたのである。先代が生きている間に、この契約書を使って、帝国に訴えれば、俺だったらごり押し出来たな。

 それなのに、代替わりしてから、これを訴えても、効力が微妙なのだ。

「俺は、先代がバカみたいに作った借金も返済して、いい領地運営をしている。それに比べて、お前にはこれといって実績がない。帝国は、帝国民のための領主を選ぶだろう」

「私に実績がないのは、仕方がない。やる機会がなかったんだからな。私が領主となれば、この領地は、今よりもずっと発展する。見ててください!!」

 何故か、俺の妻に向かっていうミリアム。まだ、何も為してないのに、もう成功したみたいな顔をしている。

「俺に訴えても、はいそうですか、というわけにはいかないぞ。こちらには、領主任命書がある」

 爵位を引き継ぐ時に、領主変更の手続きをとって、しっかりと、任命されたのだ。

 実は、この領主任命書、貰ってすぐは効力がない。一定の期間、異議申し立てすることを認められているのだ。ようは、領主として相応しくない、といったことを証拠をつきつけて、帝国に提出されると、この任命書は効力を失うのだ。

 その異議申し立ての期間が三年である。

 逆に言えば、三年もしっかりやっていれば、領主として認められるのだ。

 侯爵家、先代が卑怯な手段で領地を奪った時、ミリアムが持つ婚約の契約書を使えば、領地だけでなく、子爵の爵位だって、手に入れられたのだ。

 それをしないで、今更、婚約の契約書なんぞ持ってきて、俺に訴えたって、聞き入れないよ。帝国だって、何を今更、と呆れるだろう。無知は罪だ。明らかに侯爵家のほうが分が悪い。

 というのに、自信満々なのは、何か策があるのだろう。なんとなーく、予想出来るが。

「貴様がそういうとわかっていた。だから、我が家は、貴様に、領地戦を申し込む!!」

「領地戦って、まず、我が家には、それを受けるための戦力がない。先代の借金のせいで、そういうのも全て、手放したんだ」

 歴史の古い子爵家ではあったから、私設騎士団もあったが、借金を増やすので、泣く泣く、知り合いの貴族たちに引き取ってもらったのだ。皆、元気にやってるかなー。

「あと、領地戦を申し込む前に、この婚約の契約書を有効にするためには、婚約者であるヘレン嬢が必要だ。これは、ヘレン嬢がいて、初めて、効力を発揮する契約書だ」

「だが、ヘレンは………」

「本来、引き継ぐのは、ヘレンの子だ。当然だ、爵位は血筋で継承する。これっぽっちも血の繋がりのないお前では爵位は引き継げない。女子爵となったヘレンが、ここの領主となる。お前のものじゃない」

 訴えるのならば、これは、ヘレンである。侯爵家次男ミリアムが訴えるのはお門違いだ。

「ヘレンはもう、貴族ではない。だから、私が代理として、訴えるんだ」

「御託はいい。ヘレン嬢を連れて来い。話はそれからだ。領地戦だろうとなんだろうと、ヘレン嬢がいて、初めて成立することだ。さっさと追い出せ」

「貴様、子爵の分際で!! 私は、侯爵家だぞ!!」

「貴族の学校で習っただろう。爵位を持っているほうが上だ。お前は侯爵の子だが、爵位を持っていない。男爵よりも下だ」

「っ!!」

 こんなバカを特攻させるなんて、侯爵もたかが知れてるな。

 出来る家令や執事、使用人によって、ミリアムを屋敷から放り出してもらう。

 一応、俺は見送りに出てやった。

「こんな無礼、許されると思うなよ!!」

「次は、軍神コクーンの孫娘を連れてきてくれ。その時は、丁重におもてなしする。ヘレン嬢には、それだけの価値がある」

 言外に、ミリアムは無価値だ、と言ってやる。

 ミリアムが侯爵家の家紋がついた馬車に乗って、さっさと領地から出ていった。

 馬車が見えなくなるまで見送ってから、屋敷に戻る。

「旦那様は、軍神コクーンのお孫さんに興味があるのですね」

「俺の妻が一番だよ」

 言葉の選択を間違えた。執事、家令、使用人たちは、俺から距離をとった。







 俺は、いつ仕掛けられるかわからない領地戦のために、すぐに、妻の生家に助けを求めた。

「お義父さん、どうか、騎士団を貸してください!!」

「土下座するな!!」

「頼みます!!」

 義兄もいる所で、俺は自尊心とかそういうもの、元からないので、さっさと土下座して、頼み込んだ。

 我が家には私設騎士団は廃止したけど、妻の生家には、立派な騎士団があるのだ。こんな時、持つべきものは、上位貴族の繋がりだ。

「騎士団を作れといっただろう」

「まだ、維持するための余裕がなくって」

「海の貧民街があんなに近い場所にあるというのに、騎士団を持ってないなんて。そこの所を帝国に訴えれば、それなりの支度金を支給してくれるぞ」

「その支度金は、海の貧民街との円満関係を築くために消えました!!」

「………」

 そりゃ、私設騎士団がないんだから、海の貧民街が足元見てくるよ。金寄越せ、と脅されたら、帝国の支度金を右から左に渡すしかない。支度金の情報、海の貧民街が知ってるんだもん!!

 妻方の義父に物凄く呆れられた。

「仕方がないなぁ」

 さすが、俺の妻を溺愛する義父!! 私設騎士団をぽーんと貸してくれるなんて、太っ腹だ!!!

「父上、いけません!!」

 それを邪魔するのは、常に俺を警戒している義兄である。もう、お家乗っ取りなんてしないってのに。

「こいつに武力を渡したら、我が家を乗っ取られます!!」

「あんたのトコの私設騎士団に裏切られるって、あんた、どんだけ人望ないんだよ!!!」

「そんなことない!!!」

「だったら、裏切られることないだろう」

「我が家から武力を奪って、隠し持ってる騎士団で、我が家を襲撃するのだろう」

「ないよ!!」

 私設騎士団を廃止したのにぃ。ちょっと前まで、借金でひーひー言ってたのにぃ。どんだけ、義兄の肝はちっちゃいんだよ。豆粒かもしれない。

 義兄の明後日の方向な警戒に、義父はまたも呆れることとなった。こいつが跡継ぎで大丈夫だろうか、なんて心配になっただろうな。

「えーと、それで、騎士団、貸してもらえますか?」

 当主は義父なので、改めて、確認する。騎士団の命令権の順位は、義父が上だ。

「いつから派遣すればいいんだ?」

「絶対に許さん!!」

「勝手なことをいうんじゃない」

「私は、次期当主として、この領地戦、侯爵家に味方する契約を締結しました」

「………は?」

 ちょーと、お年寄りの義父、孫までいるお年頃だから、うまく、頭が回らず、呆然となる。

 義兄は、胸を張って、契約書を俺と義父の前にばんと叩きつけるように見せてくれる。それを老眼で細かい字が読めない義父が手にとって、目を細めて読み進めた。俺は、義父の後ろに立って、流し読みする。

「え、俺の爵位、褒賞として、義兄に引き渡すの?」

「領地戦で負けたんだ。当然だ」

 まだ、領地戦、始まってもいないけど。

「何を勝手なことをしたんだ!! 我が家の騎士団全てを侯爵家に提供することになっておるではないか!!!」

「そうです。だから、貴様に貸す騎士団はない」

「我が領地の防衛はどうなる!!」

 義兄、アホなことをした。これでは、義父の領地は丸腰である。

 こういうのは、普通、防衛して、余った戦力の提供である。それなのに、全部、侯爵家に貸すというのだ。

 実際に、領地戦に義父が持つ私設騎士団が使われることはないだろう。契約することで、俺に義父の私設騎士団が渡ることを防いだのだ。

「俺が領地戦でぼろ負けした時、妻と子どもは、こちらで保護してもらえますか?」

「するわけないだろう!!」

「勝手に話を進めるんじゃない!!」

「父上、いい加減、目を覚ましてください!! あの女と義妹のせいで、正妻である母は、どれだけ惨めな思いをしたことか」

 義兄の恨みは深い。俺の妻は憎いのだ。それは、俺のこともだ。

 俺は、なんだかんだと義父と円満な関係を築いている。それに比べて、義兄は、いつも、義父に叱られてばかりだ。俺の目の前でも、義兄は、義父に叱られることがあるのだ。

 自尊心の高い義兄は、俺のことが目障りなのだ。だから、この領地戦で、俺を排除するのだ。

「俺はまあ、仕方がないが、妻と子どもは関係ないだろう」

「卑しい血筋だ。貴様と一緒に、滅びろ!!」

「………」



 俺の中で、ぶちんと何かが切れ、切り替わった。



 私は、立ち上がるなり、目の前のテーブルを蹴り倒した。

「貴様、何を!」

「領地戦を申し込む」

「申し込むって、ミリアムが今、領地戦の手続きをしている。貴様がする必要はない」

「違う、この家に、領地戦を申し込むんだ」

「何をバカなことを言ってるんだ!! 騎士団も持ってないくせに」

「なーんだ、勝つ自信がないのか」

「なんだと!!」

「私に負けたら、恥ずかしいからな。決闘でもいいんだが、難癖がつけられるから、領地戦で派手に決着をつけよう。領地戦の手続きは、私が行おう」

「いいだろう。ミリアムの領地戦の前に、貴様を負かしてやる!!」

「帝国からの許可の書類、貴様の手に届いた瞬間から、領地戦の始まりだ」

「すぐに、貴様の領地を攻め滅ぼしてやる!!」

「出来るといいな」

 私は、蹴り倒した机をさらに部屋の端へと蹴り飛ばした。

「私が勝てば、弁償しなくていいだろう」

「負けても、そんな請求はしない。もう、貴様は貧民になるんだからな」

「貴様は、生きていられるといいな」

 互いに下がることない。俺はさっさと部屋を出ていく。

「ま、待て!!」

 私を追いかけてくる義父。

「何を言ってるんだ!! 死ぬぞ!!!」

「お義父さん、体、気をつけてくださいね。今、死んだら、義兄の天下です」

「騎士団もないのに、領地戦なんて、出来るわけがないだろう!!!」

「妻と子を守るためには、戦うしかない。義兄は殺す」

「っ!!」

「約束したでしょう。一生、妻を大切に、幸せにする、と。生きて、約束は守ります。では、準備がありますので」

「………」

 大事な跡継ぎを殺すと言われたのに、義父は俺に何も出来なかった。







 馬車は遅いので、騎馬になって、王都にいる伯爵オクトの屋敷にお邪魔した。

「なんか、大変なことになってるね」

「騎士団を貸してくれ」

「いいよ」

「明日には行く」

「え、領地戦って、まだ、手続きされてる段階だよね。そんなに早く、帝国からの許可は下りないよ」

「私が領地戦を仕掛けるのは、妻の生家だ」

「なんで?」

「私が侯爵との領地戦でぼろ負けしても、私の妻と子どもは見捨てる、と義兄が言った。義兄、殺す」

「負けるって、お前が負けるわけがないだろう!! 我が家の騎士団を持っていけば、お前が勝つのに」

「勝ち負けの問題じゃない。私の妻と子を見捨てるという発言をした義兄を殺す」

 まだ起こっていない勝敗以前の話だ。義兄は、半分とはいえ、血の繋がりのある妻と、妻が産んだ子どもを見捨てると言ったのだ。もう、身内ではない。

「紙をくれ。ハガルに手紙を書く」

「わ、わかった。他には?」

「返事を待つから、今日はここに泊めてくれ」

「今日出した手紙の返事なんか、明日、来るわけがないだろう」

「友達の友達からの手紙だ。すぐに来る。もしかしたら、ハガルが直接、ここに来るかもしれない」

「何やろうとしてんだよ!!」

「だから、妻の生家と領地戦だ。義兄、殺す」

 絶対に、義兄は殺す。子孫なんて残させてなるものか。

 私は下書きもなく、ハガルへの手紙を書き、厳重に封をして、伯爵オクトに渡した。

「なんで僕?」

「どうせ、ハガルとの秘密の連絡手段を持ってるだろう。さっさとハガルに送ってくれ」

「………お前は怒ると、手が付けられないな」

「ちょっと、庭と木剣を貸してくれ」

「勝手にしていいから」

 伯爵オクトの屋敷で働く使用人に頼めば、快く、庭に案内され、なかなかいい感じの木剣も貸してくれた。

 毎日、日課として、素振りをしている。それは、ガキの頃からずっと続いている習慣だ。体調が悪くても、天気が悪くても、寄宿学校に通っている時も、借金で大変な時も、結婚してからも、ずっと、この素振りは続けている。

 日課の素振りが半分ほど終わった頃、伯爵オクトがやってきた。

「ハガルから返事がきたよ!! すごいな!!!」

「オクトを使って悪いな。私のほうが、爵位は下だというのに」

「友達だろう。困った時は、言ってよ。領地戦、手伝ってあげるよ」

「ありがとう」

 使用人から受け取ったタオルで汗を拭ってから、ハガルからの返事の封を切った。

 なかなか分厚い返事だ。私も分厚い手紙をハガルに送ったのだから、返事も張り合うように分厚い。

「今から、妻の生家へ移動だ」

「今から?」

「すぐに、騎士団を準備してくれ」

「………は?」

「持つべきものは、友達の友達だな」

 ハガルは、私の頼みを快く受けてくれた。

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