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呪いの支配者  作者: 春香秋灯
外伝-魔法使いの悪友の友達
95/101

今更な告白

 俺なりに、やれることはやったんだ、と納得させる。友達としては、ここが境界線、という行為をルキエルにはした。

 本音は、こんなこと、辞めさせたい。見知らぬ男たちに、ルキエルが抱かれるなんて、ルキエルのためにならないことだ。

 だけど、ルキエルがこの仕事を辞められない、という話は理解出来てしまう。

 ルキエルは、日常的に、父親に、こういう行為を受けていたのだろう。そういうものは、簡単に抜け出せないのだ。愛があれば、とかいう奴がいるが、そんなの、綺麗事だ。

 どんなに、イヤだと思っていても、人は、苦痛を悦楽に切り替え、耐えようとする。ルキエルは、父親にされる行為を耐えるために、受け入れ、嵌り、抜け出せなくなったのだ。

 もう、父親はいない。だったら、その身代わりとなる男を見つけるしかない。でも、そんなものは見つからないから、不特定多数の男に身売りするのだ。

 俺に出来ることは、ルキエルに、どうにか生きるための金を受け取らせることだ。こういう行為をしないと、と自尊心の上でいうのなら、俺に出来る最低限にことをしてやればいい。

 見るからに不燃焼なのは、見てわかるが、ルキエルはそれ以上、俺に求めない。

 だけど、恋人のように、俺に寄りかかる。

「お前も、頑固だな」

「オクトとはしているのか?」

「えー、オクトとは、絶対にないよ。あいつは、代理をたててる」

 ちょっと鎌をかけてやれば、ルキエル、簡単にオクトの所業を白状する。

 やっぱり、オクト、ルキエルが娼館で身売りしてる、って知ってたな!! それなのに、俺の前では平然としているのだ。あいつは平然と嘘をつくな。信じないようにしよう。

「なあ、口づけは?」

「オクトみたいに、代理をたてるような家臣はいない」

 それ以前に、代理にルキエルを抱かせたくない。嫉妬で殺したくなる。

 力づくでルキエルが迫ってきても、まず、俺には勝てない。どうにか、と迫ってきたが、俺の体術に、ルキエルが逆にベッドの上で羽交い絞めとなった。

「いたたたたたた!!」

「もう二度と、俺に迫るんじゃない」

「わかった、わかったから!!」

「いいか、俺の油断を狙ってきても、反射で跳ね返すからな」

「結構、鍛えてるな」

 もう、ルキエルの体の衝動は落ち着いたのだろう。俺の胸を軽く叩いて、ルキエルは笑った。

「貴族になるつもりはなかったから、別の道に進めるように、色々と準備してたんだ」

「もしかして、騎士になるつもりだった?」

「母がなりたがっていた文官は、ちょっと難しいと思ったんだ。せめて次席になれれば、と頑張ったが、届かなかった。だから、別の道を選べるように、体も鍛えていた」

「すごいな」

「俺は、環境が整っていたにすぎない。母の生家には金があった。お陰で、俺はちょっとした手伝いをするだけで、好き勝手出来た。有効活用する時間が、そこら辺の平民よりもたくさんあったんだ。きっと、平民も、貴族も、同じ環境に置けば、それなりに勉強が出来て、それなりに体術と剣術が出来るようになる」

「そんなことない。貴族のガキどもを見てみろ。その身分にふんぞりかえっているだけで、遊んでばかりだ。そこは、アクサの努力だ」

「………色々と、ルキエルのことは聞いた」

「そっか」

「どうしても、教えてほしいことがある」

「いいよ」

 ルキエルは笑顔で応じてくれた。だけど、握りしめた手が震えている。

 ルキエルは、俺には知られたくないことがたくさんあった。こうやって、男相手に身売りしていることも、俺には知られたくなかっただろう。

 笑っているが、軽蔑されたら、なんて恐れているルキエル。強がっている姿が、可憐と見えてしまうのは、俺の頭がおかしいんだ。

 だけど、どうしても聞きたいことがあった。

「どうして、俺の義弟を仲間に引き入れたんだ?」

「………は?」

「オクトから聞いたんだけど、義弟は、俺の暗殺を依頼してたって。けど、俺はこの通り、生きてる」

「お前を暗殺出来る奴を探していたから、声をかけたんだ」





 義弟は、俺が与えた金でどうにか食いつないでいた。平民にとっては十分な金だが、義弟は満足しなかった。もっと金があるとわかっているのだ。だから、全て奪い取りたかったのだという。

 そこで、俺を暗殺することにしたのだ。それなりに金は手元にある。義弟は、この金を使って、暗殺者を雇い、俺を殺そうと、考えた。

 海の貧民街は、領地に近すぎる。王都にどうしても戻りたかったので、義弟は、王都に移動した。

 王都に行けば、昔の知り合いがいる。どうにか、知り合いの伝手を頼ったが、門前払いを受けるばかりだ。

「今にみてろ!!」

 さらに怒りと恨みを募らせ、義弟は王都の貧民街に行き、暗殺者を探した。

 俺を暗殺する依頼、と聞いて、ルキエルは、義弟にわざわざ声をかけた。

「お前が暗殺者か?」

「俺の手下に、それが出来る奴がいる」

「これで、暗殺してくれ!!」

「うーん、これでは足りないなー」

「あいつを暗殺すれば、あいつの財産は全て、僕の物になる。そうなったら、もっと払ってやれる!!!」

「うーん、踏み倒されるとなー」

「だから、前金だ!!」

「だったら、俺の仕事を手伝って、稼いでもらおう。金が溜まったら、暗殺の依頼を実行してやるよ」

「今すぐ、やってほしいのに!!」

「金が足りないんだから仕方がない。すぐに、溜まるって」

 そうして、義弟はルキエルの言いなりとなった。



 それなりにルキエルのいう通りに動いているから、それなりに金が溜まっただろう、とルキエルに言えば。

「お前、誰の金でメシ食ってると思ってるんだ。お前が寝てる部屋だって、タダじゃないんだぞ」

「そんな!!」

「けど、お前は頑張ってるから、手下をつけてやるよ」

「やった!!」

 そうして、手下が一人ついた。



 手下が増えたけど、これがまた、役立たずだ。しっかり指示してやらないと、役立たずだ。逆に、足手まといになったりする。

「こんなのと一緒に仕事してたら、二倍、時間がかかるよ!!」

「お前、貴族の子のくせに、人を使うのが下手だな」

「こいつが無能なんだよ!!」

「貴族になりたいんだったら、もっと、うまく人を使え。手下が無能なんじゃない、お前の指示が悪いんだ」

「そんなぁ」

「うまく使えば、この手下の取り分の三割は、お前のものになるんだぞ」

「そうなの!!」

「あれ、言ってなかった?」

「言ってないよ!! よし、もっと動け!!」

 義弟は、張り切って、手下を使うようになった。



 人の扱いがうまくなったので、余裕が出来るようになった。

「もうそろそろ、金、溜まっただろう」

「人を一人、暗殺するんだぞ。そんなに安くない」

「いっぱい、いう通りに働いてるじゃないか!!」

「人を使うのが、上手くなったな。もっと、手下を増やしてみよう。そうしたら、もっと早く金が稼げるぞ」

「わかった!!」

 そして、どんどんと手下を増やしていったという。



 そんなある日、義弟は、貴族の学校の顔見知りに出会った。

「久しぶりだね」

「………」

「僕のこと、覚えてないよね。僕、地味だったから。君は、いつも、中心にいて、人気者だったね」

「そ、そうだな」

「君のお姉さん、大変だって聞いたよ。嫁ぎ先で、酷い扱いをされているって」

「そんなっ!!」

「僕、助けてあげたいけど、この通り、無力だから。君だったら、出来るよ」

「当然だよ!!」

 そうして、義弟は、手下と一緒に、義姉の嫁ぎ先を襲撃したのだ。




「………」

 あまりのバカバカしい話に、俺は開いた口がふさがらない。

「まだ、話、終わってないけど、大丈夫か?」

「もう、これ以上は聞かなくていいかな」

 義弟のバカっぷりに、呆れるしかない。こんなに簡単にルキエルに騙されて、言いなりになって、いいように使われ、挙句、罪人に仕立て上げられたのだ。

 義弟の同級生だって、どうせ、ルキエルの仕込みだ。

 義弟は、ルキエルのこと、これっぽっちも疑わなかった。それどころか、俺を暗殺してくれる、と信じて、バカみたいに従ったのだ。

「義弟の依頼を受ける奴が万が一にも出てこないように、ルキエルが防波堤になってくれたんだな」

「その内、諦めると思ったんだよ。復讐なんて、そのうち、どうでも良くなる。出来ることを増やしてやって、手下をつけて、おだてて、としてやったのに、あいつ、諦めないから」



 俺の義弟だからだろう。ルキエルなりに、優しく接したのだ。

 ハガルたちから聞いた、俺の知らないルキエルは、もっと残酷だ。甘い言葉で誘惑し、落ちぶれさせ、絶望の底に叩き落とすのだ。

 救いなんて、与えない。

 だけど、義弟は、ハガルの言いなりになりながらも、一つ一つ、身に着けていったのだ。最初は、失敗も多かっただろう。それをルキエルは優しく導き、失敗をなくし、として、義弟を成長させたのだ。

 だが、義弟は、俺の暗殺を諦めなかった。

 ルキエルの我慢の限界となった。時間をそれなりにかけて、導いてやったのに、義弟の根性は変わらなかった。だから、戻れないほどのどん底に叩き落したのだ。

 義弟は、とうとう、人を殺した。

 最初は、ルキエルが与えた手下がやっただろう。手下たちは、人を殺すことに馴れていた。そういうものを目の前に見て、手下がやっているから、義弟は後戻りできなくなったのだ。

「親分、さあ!!」

「こいつが、親分の姉貴に悪態をついてましたよ!!」

「俺がおさえてますから」

「これで、ずぶっと」

 そうやって、手下たちが優しい声で、義弟を悪行へと導いた。

 手下じゃない。手下のような顔をしているが、義弟のことを心の底では嘲笑い、バカにして、陥れたんだ。

 数度、凶行を行えば、色々と麻痺するものだ。そして、義弟は、強くなったと勘違いして、手下たちによって整えられた舞台で、可哀想な姉を救う強い弟となったのだ。

 世間知らずの愚かな義姉は、義弟が助けてに来た、なんて言葉を鵜呑みにして、悲劇のヒロインのように、義弟に飛びついたのだろう。

 こうして、義姉と義弟は、どん底に落ちて、戻れなくなった。



 俺のことを心配そうに隣りで伺い見るルキエル。俺は、溜息をつきつつ、ルキエルの頭を乱暴に撫でた。

「酷いことをさせちゃったな。俺が、義弟を追放しなきゃ、こんなこと、ルキエルにさせなかったのにな」

「こういうことは、慣れてるから、大丈夫」

「俺が、大丈夫じゃない」

 ルキエルは平然としているが、俺は、そういうことをルキエルにさせたくなかった。

「お前は、義姉も、義弟も、殺せなかった。だったら、俺がそうなるようにすればいい。別に、俺が手を下すわけではない。勝手に、あいつらが自滅していっただけだ」

「本当に悪いのは、俺の父親と、父親の正妻なんだ。あいつらが、根本的の悪なんだ。本当は、俺も、母さんも、貧民に落ちることはなかったんだ。そうさせたのは、あの二人だ」

 母が、俺を産んだからといって、貧民に落ちることはなかったのだ。母は、平民の学校を首席で卒業出来るほどの天才だ。どうすればいいのか、わかっている。

 俺が産まれると、すぐに、手続きをとった。俺の身分証を手に入れようとしたのだ。ところが、父親とその正妻が圧力をかけて、手続き自体、握りつぶされたのだ。

 だから、俺は貧民となってしまった。

 さらに、母の身分証も機能出来ないようにしたのだ。そのため、母は、平民として受けられるはずの恩恵を受けられなくなった。

 そうして、俺たち親子は、貧民街で生きるしかなかったのだ。

 頭が良過ぎた母は、逆に、切り開くための知恵が足りなかったといっていい。だから、俺のような乳飲み子を抱えて、貧民街で苦労することとなったのだ。

 さらに、追い詰めるように、母の生家に圧力をかけた。母を助けたかったが、商売がことごとく邪魔されて、借金まで抱えるようになってしまったという。

 そうして数年、ルキエルの母親が俺たち親子を救ってくれるまで、生家も苦労することとなったという。

「本当に許されないのは、父とその正妻だ。子どもには罪はない。だって、俺たち親子に何かする力がないんだ。だから、俺は、義姉と義弟はどうだって良かった」

「優しいな」

「それよりも、将来のことで手一杯だったんだ。本当は、父たちのことも、どうだっていい。母の手前、父とその正妻は憎んだが、将来のことを考えると、もういっかな、と俺は思っていた。そうしてたら、母の策略に嵌って、自滅してくし。寧ろ、母が怖くなったよ」

「えー」

「母は、人生を潰されたんだ。憎悪は人一倍ある。だから、仕方なかった。義姉と義弟のことも、憎悪していた。だから、俺は仕方なく、義姉を跡継ぎがいるトコに嫁がせ、義弟を追放した。そうしたら、母は満足して、ぽっくり死んだ」

「………」

「あの人にとって、復讐が全てだったんだ。復讐のその後がなかった。婚約者には簡単に捨てられて、生家は没落寸前にされて、それもこれも、俺の父のせいだ。そこに、ルキエルの母親から、復讐を教授された。それが、母の生きる力となった。逆に言えば、復讐が終わったら、母は生きる力を失ったんだ」

 復讐の先に何もなかった母。それを見せられ、俺は、復讐の虚しさを学んだ。

 俺は、ルキエルを見返した。ルキエル、俺の話を聞いて、呆然となった。

「ルキエル、復讐で終わるような生き方をするな。お前は、本当は、すごいんだ」

「俺、は」

「この仕事は辞めさせたい。でも、出来ないということも、理解している。そういう話、よく聞くから。だから、また、俺は来る。俺は、お前に金を受け取らせるために、また、同じことをする。約束だ」

「………」

「神と妖精、聖域の導きで、再会出来た。こんなことしないで、もっと、色々と話そう」

「話すくらいは、する」

「でも、ルキエルはこれを仕事してるんだ。仕事しないと、金が稼げないよな。だから、また、俺はルキエルを買う。ルキエルは不満だろうけど、仕事なんだから、きっちり、金を受け取れよ。あと、追加だ」

「追加って、なんだよ!!」

 俺は、ルキエルの手に金を押し付けた。

「男相手に、最後まで出来なかったんだ。口止めだよ」

「バカ、やらなかっただけだろう!!」

「そういうこと、誰にもいうなよ。オクトにはいうな。わかったな」

「………お前も、話すなよ。閨事の内容を漏らすような奴は、ダメだって聞いた」

「まず、ルキエルのことを買ったこと、義父に知られると、まずいな」

 相手は男である。浮気になるかどうか、そこは、義父の判断だ。内緒で娼館に来たけど、男を買ったことが、どう思われるか、とても心配になった。








 ルキエルを暮らしている所に送ろうとしたが、まあまあ強そうな男がルキエルが出て来るのを待ち構えていた。ルキエルが出ていくと、子犬みたいに喜んだ。そして、続いて出てきた俺を見て、ぶすっと不機嫌になった。

「まさか、男と付き合ってるとか?」

「ちょっと前に別れたな」

「………」

「お試しだ、お試し。いい体してたんだよなー」

「体目当てかよ!!」

「俺は、好きとかそういうの、わからなくって。体は良かったから、どうにかなるかなー、と思ったんだけど、体だけで、他はダメだった」

「それで、あの男は?」

「様子見。他にも言い寄られてる」

「言い寄ってくる女はいるのか?」

「………」

「気になる女はいるのか?」

「男の下で喜んでるような奴、女の方がイヤだろう。それに、女を抱けるかどうか………」

 ルキエル、自信がないんだな。これは、思ったよりも、重症だ。

 女抱けば、なんていう奴もいる。けど、失敗した時、もう二度と、立ち直れなくなる。これ、結構、難しい問題なんだ。

「俺からは、なんとも言えないな。俺の女の経験は妻のみだ。練習のための娼館通いも禁止されたからなー」

「婚約する前に、行かなかったのか?」

「借金で右も左もなかったからなー」

「爵位受け継ぐ前」

「寄宿学校って、かなり厳しいんだ。娼館側だって、寄宿学校の生徒を受け入れたら、大変なことになるんだよ」

「お前も、大変だったんだな」

「本読んで、どうにかしただけ。妻は満足出来ているかどうか、わからない。女は、演技するからな」

「演技って」

「男の一人よがりな行為をさも気持ちいい、と演技するんだって。妻の本音を知ったら、きっと、再起不能になるな」

「大丈夫だって。俺は気持ち良かった」

「同じ男だから、気持ちいいとこ、知り尽くしてたからな。男と女は違う」

「そうなのかー」

 いつの間にか、慰められていた。うーん、最後は締まらないなー。

 俺はルキエルに元気づけられ、ルキエルの彼氏候補に睨まれながら、娼館を出た。



 そして、屋敷に戻れば、寝ずに待っている妻とご対面である。



「夜泣きが止まらないなら、抱っこ、交代しよう。君は休んで」

「聞きました。貧民街の娼館に行ったとか」

 ダクトの奴、妻に吐かされたな。

 妻は、それはそれは綺麗な女だ。俺にはもったいない人だ。優秀で、貴族としても、妻には助けられている。

 だけど、妻は、ルキエルの教育を受けた女だ。

 そこら辺の世間知らずの貴族の娘ではない。貧民街で一通りの苦痛と苦労を受けたのだ。ルキエルの手ほどきによって、貴族の娘として、人として、完璧に仕上げられた妻を騙すのは不可能だ。

「ダクトに頼まれたんだ」

「聞きましたよ。王都の貧民街の支配者の娼婦に会いに行った、と」

「会って来てくれ、と頼まれたんだ」

「会うだけにしては、随分と、時間がかかりましたね」

「まさか、ルキエルだとは知らなくて」

「………」

 そっかー、妻は、ルキエルの身の上を知ってるんだなー。本当に、俺だけが、ルキエルの身の上を知らなかったんだな、ちくしょー!!

「あなたは、ルキエル様のこと、全て、ご存知ではないのですか?」

「俺は、ルキエルの表面的な所しか知らないんだ。俺のルキエルの印象は、初めて出会った頃に固定されてた。それも、ついさっき、ぶち壊されたけど」

 俺の初恋のルキエルは、男狂いになっていた。また、悪夢が増えたな。

 視線を感じてみれば、ダクトが、俺と妻のやり取りを盗み見ていた。あいつ、他人事みたいに見やがって。あ、帰ったらダクトを殴る、なんて決めてたのに、まだ、ダクト殴ってないな。ダクト殴るのは、明日にしよう。

 俺の予定を変更しつつ、妻を寝室に連れて行く。ダクト、盗み聞きはやめろよ。

 赤ん坊をベッドに下ろせば、すやすやと眠っていた。この様子なら、そう簡単に起きないな。

「それで、旦那様は、ルキエル様となさったのですか?」

 妻は、容赦なく、俺とルキエルのことを質問してくる。

「最後まではしてない」

 嘘はすーぐバレるので、本当のことを言った。

「どこまで?」

「そういうこと、言いたくない!!」

「度合によって、許すかどうか、決めます」

「それなりのことをしないと、ルキエルは金を受け取らないというから、仕方なく、したんだ!!」

「そ、それは………でも、旦那様は、ルキエル様のこと、愛していますよね」

「………」

 黙り込んだら、肯定したことになる。けど、妻に嘘は通じないんだから、逆に正直に話したほうがいい。夫婦円満の秘訣は、隠し事をしないことだと、誰かが言っていた。

 俺は、ベッドの端に座って、一息ついた。

「俺の初恋は、ルキエルなんだ」

「わたくしの初恋は、あなたです」

「女性相手では、君だな。人全てでは、ルキエルだ。そこだけは、譲れない」

「………」

 そぉっと妻を見る。うわ、いろんな感情が混ざったような、ドロドロとした目でこっちを見下ろしている。俺は、慌てて、妻を隣りに座らせた。

「ルキエルには迫られたけど、操は妻のものだと、守った」

「でも、ルキエル様が仕事をした、と納得するようなことをしたのですよね」

 目が怖い!! もう、色々とドロドロだよ!!! ここまで、目だけで感情を物語られるなんて、初めての経験だ。

 じーと、妻が俺の下半身を見る。

「してないけど、しないよ!! 夜泣きする赤ん坊が落ち着いてから、二人目は考えよう」

 そういうのに、妻は衣服の上から俺の一物を撫でる。それだけで、俺の一物は元気になってくる。

「ぜひ、わたくしの口で慰めさせてください」

「やめなさい」

 さらに指に力をこめる妻。発散してないから、すぐ、元気になる。

「ルキエル様を見て、興奮したのですね。あの方は、女のわたくしから見ても、とても綺麗な人ですもの。男も、女も、あの方に夢中になりました」

「君も?」

「………ルキエル様は、人の気分を良くする天才です。あの方が話しかけてもらえるだけで、一喜一憂しました。それは、貴族の子となって、いつ来るかわからない、手紙の返事を待っている時も続きました」

「それは、焼けるな」

「わたくしに嫉妬しますか」

「ルキエルにだ」

 妻をベッドに押し倒し、圧し掛かって、深く口づけする。

 こういうことは、妻が妊娠してからずっと、していなかった。妻の体を労わっていたし、出産後も赤ん坊は手がかかって、夫婦の営みどころではなかった。

 柔らかい、女の体に、俺は貪りついた。

「赤ん坊がいますよ」

 すぐ横で、赤ん坊が眠っているので、妻のほうが慌てた。

 確かに、こういう行為を赤ん坊の横でするのは、不謹慎だし、赤ん坊の眠りを妨げることになるだろう。

 夜着の妻を見下ろす。赤ん坊一人を産んだので、少しふくよかになったと思う。だけど、それが、触り心地をよくし、子持ちの人妻としての色香を醸し出す。

「だから、わたくしがお慰めいたします」

「いや、我慢しよう。少し、外の空気を吸ってくる。赤ん坊のこと、よろしく頼む」

 妖艶に笑う妻から離れ、俺は寝室を出た。

 てっきり、盗み聞きをしているかと予想していたが、ダクトはいなかった。

 ダクトに、と案内した客間にノックせずに入る。

「お前、ノックぐらいしろ」

「どうせ、許可しないんだ。いらないだろう」

「いくら俺でも、寝室での夫婦の会話を盗み聞きしない」

「そうか」

 ダクトは、一人、酒を飲んでいた。貧民街のことを聞きたいのだろう。

 だが、その前にやることがある。

 俺は、ダクトの胸倉をつかむなり、ダクトの腹を殴った。

「ぐっ、ごほっ!!」

 膝をついて、床で悶絶するダクト。

「お前、ルキエルが父親の手がついていることを知ってたのに、何も知らない俺を娼館に行かせやがって」

「し、仕方、なかったん、だ。俺は、どうしても」

「友達なら、商人の柵とか、そんなもの、無視して動け!! ルキエルは、俺にだけは知られたくない、とお前だって知ってただろう!!!」

「っ!!」

「オクトも、ハガルも、俺にはルキエルが家族にそんなことされてるなんて、言わなかった。ルキエルが頼んだんじゃない。察したんだ」

「ご、ごめん」

「俺に謝ったって、仕方ないだろう。ルキエルに、今更、会いに行くなよ。逆効果だ。お前は、もう、海の貧民街に近づくな」

「そ、そんなっ」

「お前がルキエルに会ったら、今回のことをルキエルに話すからな。あいつは、物凄く、傷つくぞ」

「卑怯だぞ!!」

「お前だって卑怯なことをしたんだ。お前が俺に全て話せば良かったのに、黙って、娼館で働くルキエルの元に俺を行かせたんだ。ルキエルは、笑って許すだろう。だけど、それは、ルキエルにとって、お前が大事な友達だからだ、我慢するんだ」

「………わ、わかった」

 俺は、ダクトを椅子に座らせ、貧民街で会ったルキエルのことを話してやった。

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