契約は、してしまったら、後の祭り
まずは、苦情を訴えようと、諸悪の根源に突撃訪問である。本当に、何やってくれてんだよ、商人ども!!
俺の肖像画の販売権を握っているのは、商人ダクトである。ダクト、俺の次兄の友達だ。だからといって、俺は快く顔を売るような事を許すはずがない。
全ては、俺が持っていた大金を使い果たすために、男爵家の元使用人メグルに投資したせいである。生家が商人だというメグルは、まあ、いい子だったんだ。男爵家でお世話になっていた時、メグルは俺のこと偏見なく、しっかりと俺付の使用人として仕事してくれてた。俺としては、そんないい子なメグルに、臨時収入をぽんとあげるように、投資したわけである。どうせ、失敗すると思ってたんだ。
メグルは、きちんとした子で、後で契約書まで作ってくれたんだ。そのまま持ち逃げしたっていいのに、と俺は言ったんだけど、メグルはそんなことしない、と激怒されてしまった。
賭け事するみたいな気分だったんだな。筆頭魔法使いハガルが賭け事する気持ち、わかるよ。ドキドキしたよ。
だけど、その投資、一年も経たないうちに、数倍になって返ってきたのである。
契約書には、失敗しても返さなくていいよー、とは書いたんだ。だけど、それでは申し訳がない、とメグルが、収益の半分は俺に渡す、という項目を設けた。
後悔した。こんなふうになるんだったら、あの項目、なくせばよかった!!
さらに、俺は契約の段階で、手伝えることは手伝う、みたいな項目を承諾したんだ。お互い、これは、肉体労働とかそういう程度だよね、と笑って話していた。
これが、悪用されたんだ。
メグル、使用人としては男装していたんだが、実は可愛らしい女の子なんだ。しかも、商人ダクトの息子の婚約者におさまったという。ダクトとしては、王都ばかり商売を広げていて、手狭になったから、子ども同士を婚約させて、王都の外に商売を広げていこう、と企んだわけである。
そんな時に、俺とメグルの契約を知ったダクトは、それを利用して、俺の肖像画の販売権をメグルを通して、委託されたわけである。
ダクト、商売がうまかった。俺の持ち物の複製品まで作って、売ったんだ。肖像画はちょっと手が届かないけど、持ち物の複製品なら手が届くから、とバカ売れした。お陰で、俺の顔だけが有名になったよ、ちくしょーーー!!
つまり、ダクトが俺の肖像画とかを王国に輸出したということだ。何やってくれてんだよ、あいつ!!
俺は護衛の仕事も終わる時間に、さっさと屋敷を抜け出して、王都の中心街にあるダクトの店に行った。
「ダクト、てめぇ!!」
「ロイド様、お待ちしていました!!」
「ロイド様が来たぞ!!」
「握手してください!!!」
「拝ませてください!!!!」
「ロイド様が好きだというお菓子、用意していますよ!!!」
店員総出で大歓迎された。俺、商人ダクトに文句いいに来たんだけど。
そして、いつもの部屋に案内された。そこには、店内が大騒ぎになっていたから、ダクトが待っていた。
「さあさあ、座って座って。食べ歩きしたいなら、俺がついていこう。いくらだって食べてくれていいぞ」
「お前、よくも俺の肖像画を王国に輸出しやがったな!!!」
「お前の顔は至宝だな。大事にするんだぞ」
「俺はこの親父そっくりの顔が大嫌いなんだぞ!!」
「帝国中、王国中には愛されてるけどな」
「ちくしょーーーー!!!」
文句言いに来たってのに、机には、俺が好きなものばっかり並んでるよ。このやすっぽい菓子が大好物だって、どうして知ってるか、教えてほしいな。怖いよ。
「やっぱり、それを食べるか。ルキエルがここに遊びに来ると、決まって、それを買って帰った。お前は、この菓子が好きだと言ってたよ」
「………そ、そうなんだ」
次兄が教えたのなら、仕方がない。俺は不貞腐れながらも、そればっかりつまんでいた。
「それで、どうして、王国に輸出出来たんだ? 王国への伝手なんてないだろう」
そこである。商人ダクトは、帝国の王都中心で、ほそぼそと続いている商家である。一度は没落はしたが、運と人柄で返り咲き、今では、王都の中心街にまで店を構えられるほどの大店となったのだ。ここまでの大店になったのは、ダクトが平民の学校に通うようになってからだという。
とても冒険をするような奴じゃない。いや、商売のためなら、友達の弟の見た目を売ったな。冒険はしないけど、容赦はないな。
王国へ輸出するには、それなりの繋がりが必要だ。それ専門の商人が海の聖域近辺にいる。どうしても、王国相手の商売は、海の商人の畑だ。王都の商人が参入するには、とんでもない仲介料が要求される。
「王国に一時帰国したサンセ様が、帰国前に、ここに挨拶に来たんだ。王国に土産を買いたい、というので、適当に見繕っていったんだ。あの方、話しやすいだろう。お前の肖像画を冗談であげたんだ。そうしたら、サンセ様がこれからも世話になるし、王国内で顔を売っておきたいから、と肖像画の販売をしてほしい、と頼まれたんだ。サンセ様としては、リスキス公爵家が戦争で活躍した、ということで、王国の面目を保ちたいという話だった。それなら、帝国で有名なロイドと一緒に戦ったことにしたらいいですよ、と提案したら、そのまま、受け入れられたんだ」
「………」
「帝国内の売買は、ちょっと俺もやり過ぎたから、委託に切り替えたんだ。それで暇になったし、ちょうどいいと思って、王国への輸出の許可とか伝手をサンセ様に仲介してもらったんだ。最初は、海のほうの商人どもと揉めたんだけど、王国側にとって、リスキス公爵の血縁は、王族よりも上のような存在だから、サンセ様の名前出しただけで、どんどんと決まっていったんだ。むしろ、海の商人が邪魔するから、といって、今後は俺以外とはやり取りしない、と王国側が言い出して、大変なことになったんだがな」
「………」
「結局、海の商人は、海の貧民街の支配者が間に入ってくれて、大人しくしてくれたよ。ルキエル、元気かな?」
「俺だって会いたいよ!!」
結局、最後は次兄ルキエルが割り込んだわけだ。いくら貧民といえども、貧民の支配者は別格である。商人といえども、貧民街の支配者の扱いを間違えると、一族郎党虐殺されることもあるのだ。
今の海の貧民街の支配者は、戦争の英雄として有名な軍神コクーンの孫娘である。その孫娘は、次兄ルキエルの寝込みを襲い、元気な男児を設けた、とんでもない女である。商人ダクトはルキエルの友達と知って、海の貧民街の支配者は手出ししたのだろう。
リスキス公爵の血縁サンセめ、俺を利用しやがって。ダクトを使ったのは、こういう商売の土壌が出来上がっているからだ。勝手にやってくれるから、サンセはただお願いするだけでいい。それに、うまくすれば、勝手に金が入ってくるのだ。リスキス公爵家の名も売れて、一石二鳥である。そこに、俺を利用すれば、目立つというものだ。きっと、抱き合わせで売ってるんだろう。そうすれば、どっちかが欲しい客は、両方買うからな。しかも、リスキス公爵の血縁サンセの肖像画なんて、大事に扱われるのは目に見えている。俺目当てでもいいんだ。
俺は顔をぺたぺたと触って、溜息をついた。俺、この親父に瓜二つな顔が大っ嫌いなんだけどなー。
「サンセ様から手紙がきたんだが、今度、王国の王族と一緒に、帝国に戻ってくるって」
「知ってる。その王族が、貴族の学校の入学試験を受けて、そのまま入学することが決まってる」
「また、どうして、そんなことに」
「お前が肖像画を王国に輸出しちゃったからだろう!!」
こいつのせいだよ。一度しか見たことがない俺のこと、そのまま諦めるはずが、市井に普通に肖像画として広まって、王族のほうが諦められなくなったのだ。どうして、こんな顔がいいのかな!! 俺、大っ嫌いなのに!!!
俺の心の叫びは口に出さず、俺は苦情の矛先をリスキス公爵の血族サンセに向けることにした。帝国に戻ってきたら、殴ってやる。俺にはそれが許される。理由なんて、いくらだって作れる。帝国は勝者が正義だから、どうにかなる、たぶん、きっと、うん。
「王国の珍しい菓子が露店で売られているぞ」
「え、欲しい!!」
「じゃあ、一緒に買いに行くか」
「行く行く!!!」
腹が膨れたから、すーぐ、怒りもどっかに飛んでいった。それよりも、珍しい菓子があると聞いて、ほいほいとダクトについて行った。
王国からの賓客が、きちんと書状で宣言して来るのだ。帝国側としては、お出迎えしないといけない。
相手は王族である。現在の国王の姪甥にあたるという話だ。一度は外に出たのだが、国王の男子である第一王子と王太子は戦死したことで、急遽、王族としての立場を高めることとなったという。もしかすると、国王の娘と結婚するか、それとも、押しのけて国王か女王となるかもしれない、それほどの実力があるという。
一部では、帝国への留学は、王位を得るための箔付けなのでは、なんて噂されているとか。わざわざ、皇族が在籍する貴族の学校に留学するのだから、皇族の権威を得ようとしている、と言われても仕方がない。
王位継承権でごたごたしている中で、王族二人が留学である。旅程まで教えられているので、帝国側としては、出迎えないといけないのだ。帝国側の港について即、暗殺なんかされたら、帝国側の責を問われるという。勝手に王国の中で王位継承で内戦してくれればいいのにな。
というわけで、次は二年生になる皇族セキラが皇族代表としてお出迎えである。皇族セキラが動くということで、俺も護衛として同伴だ。
「私好みの王族だったら、どうしよう」
何故か、筆頭魔法使いハガルも一緒だ。一応、お忍びなので、一魔法使いの衣服を着ている。女好きだから、女の王族の見た目が気になるのか。ハガルの偽装外した素顔の前には、誰も勝てないよ。
「これが、貧民街なのですね」
そして、義体に憑いた俺の母サツキも同伴である。サツキは、初めて見る海の貧民街を横目に眺めている。どうしても、港に移動すると、海の貧民街を見ることとなってしまう。
俺は、次兄ルキエルと別れてからずっと、海の貧民街にだけは近づかないようにしている。別に、行ったっていいんだ。海の貧民街には末の妹レーリエットが居候している。レーリエットが世話になっているから、と行くことだって許される。海の貧民街の奴らだって、気にしない。
だけど、俺は次兄ルキエルに会えないという事実に、悔しくなる。
次兄ルキエルは、海の貧民街にある支配者の建物の中の一室にずっと閉じこもっている。普段は、妖精の力によって、ドアが隠されて、誰も入れないようになっている。それでも、一度だけは、ルキエルに親しい人たちの前にドアが現れ、ルキエルと言葉を交わしたという。
俺の前だけ、次兄ルキエルに続くドアが現れなかったら、立ち直れない。
次兄ルキエルの貴族の友達である伯爵オクトは、それを聞いて、苦笑した。オクトでさえ、月に二、三回は海の貧民街に行っているというのに、たった一度しか、そのドアが現れなかった、と言っていた。ルキエルに、「二度と会わない」と言われたという。その言葉の通り、もう会えないだろう、とオクトは諦めていた。
俺は、海の貧民街の外で、妖精の悪戯で、たまたま、一度、次兄ルキエルに会った。その時、もう会わない、と言われた。だから、海の貧民街で、ルキエルには会えないだろう。
だけど、期待してしまう。もう一度くらい、海の貧民街で会えるんじゃないか、と。
複雑な心境で、俺は、皇族セキラと筆頭魔法使いハガルを乗せた馬車の横を母サツキを同乗させた馬を走らせた。
「あら、ルキエルったら、また、すごいことをしましたね」
母サツキは、何か見えたのだろう。海の貧民街で一番高い支配者の建物を見ていう。
「ルキエル兄、何かやったのか?」
俺の目も特殊なんだが、見てもわからない。そこは、経験と知識の差だろう。
貧民街にはそれぞれ、支配者の建物が存在する。それは、邸宅型魔法具だ。どういう仕掛けなのか、支配者の建物は、貧民街の支配者を主とする。逆に言えば、支配者の建物に認められないと、貧民街の支配者とは名乗れないのだ。
母サツキと俺は、特別だ。道具作りの才能がある。だから、道具も違って見えるのだ。
遠くに見える海の貧民街の支配者の建物は、他の建物とは違っているように見える。だけど、それだけで、そこから読み取れる能力が俺は足りないのだろう。首を傾げた。
「とんでもないことですよ。あの建物の主になれるのは、特定の血族のみです。ルキエルが仕様を変更したのですね」
「つまり、どういうこと?」
「今の支配者の子や孫、子孫しか、あの建物の主になれないようになっています。実質、海の貧民街の支配者は、支配者一族で継承するしかありませんね」
「そんなこと、可能なのかよ!?」
「不可能ですよ。いつかは、一族は滅びます。そうなったら、海の貧民街は消滅です」
「消滅って、そんな」
「貧民街というものは、あの支配者の建物によって成り立っているのですよ。王都にある城と同じです。貧民街は一種の小国です。邸宅型魔法具は、城と同じです。扱いを気をつけないといけません」
「………」
大昔、帝国は皇族、貴族、神殿がやらかして、滅びかけたのだ。その時、貴重な書物を焚書してしまった。そのため、魔道具や魔法具の存在意義を知らないまま、今も使われているのだ。
次兄ルキエルがやったことは、貧民街を滅ぼすようなことである。だけど、考えなしでやったわけではない。
今の海の貧民街の支配者の子は、次兄ルキエルの子でもある。ルキエルにとっては、寝込みを襲われ、勝手に生まれた子だが、やはり、何か思うところがあるのだろう。
因縁深い、海の貧民街の支配者の建物は、港からも見えた。
王都から騎士団を引き連れて、港で待ち構えていれば、これまた豪勢な装飾をされた船が到着した。王族用の船があるんだ。ちなみに、帝国にはそんなのはない。ほら、筆頭魔法使いがいるのだから、船なんか使わなくても、王国に魔法でひとっ飛びである。
王国からの賓客が来るということで、港は一時封鎖である。平民貴族を排除した。ついでに、海だって、帝国の軍艦がぐるりと囲んでいる。民間の船は全て、一時、帝国の軍部がおさえたのだ。
静かな港で思う。こういうこと、俺たちが王国の終戦から船で帰ってくる時にもやれよ!! 筆頭魔法使いハガルの主導のもと、、新聞で脚色された活躍を信じた帝国民が、港にいっぱい集まって、大変だった。あんなことになるとは、さすがのハガルも読めなかったとか。
だから、今回は、厳重に人払いを人の力でも、魔法でも行われているという。
王国の船が停まり、階段がおろされた。そこに、皇族セキラを先頭に立たせて、出迎えすることとなった。
船から最初に下船するのは、まだ、世の中の薄汚れた部分を全く知らなそうな二人の子どもである。服装からいって、あれが王族二人なのだろう。
この王族二人は、双子の姉弟だという。遠目だが、顔立ちがよく似ている。手を繋いで、仲良く階段を下りてきた。
そして、皇族セキラの前に立つと、王族の姉弟は綺麗な礼をする。
「お出迎え、ありがとうございます、セキラ様」
「………ありがとう、ござい、ます」
こういう時、女の子のほうがしっかりしているな。姉のほうははきはきと、弟のほうは姉の後ろに隠れるように立った。
「帝国へようこそ、ネメス嬢、ネイス」
皇族セキラは、頑張った。笑顔で、言ったんだ。震えそうなのも、手を握りしめて、耐えた。口上も短いながらも、舌を噛まずに言えた。上出来である。
王族の姉弟の後に下りてきたのは、リスキス公爵の血族サンセである。最初は笑顔だったけど、お忍びで一魔法使いに扮したハガルを見て、すぐに剣呑となる。ちょっと、故郷の空気を吸って、筆頭魔法使いハガルへの恨みを思い出したんだな。
「セキラ、また、世話になります」
ここで、サンセが立場を強く出す。王族の姉弟は、セキラのことを様付けであるが、サンセはセキラを呼び捨てである。
間違っちゃいない。サンセは帝国では臨時教師である。皇族とはいえ、セキラを教える側なので、呼び捨ては許されるのだ。
「サンセ、セキラ様のことを呼び捨てはいけませんよ」
「そ、そうですよ」
そこを王族姉弟が注意する。そう教えられたから、間違いを指摘したのだろう。純粋な子ども二人に、俺は心を洗われるような気になった。
立場的には、サンセ、王族姉弟よりも下のはずだ。どちらも王位継承権を持っているが、順位は、リスキス公爵の血族は王族よりも低い。
サンセは、振り返って注意する王族の姉弟に対しては人のいい笑顔を見せる。変わり身が早いな。
「今回は、非公式ですから、いいんですよ。それに、私はセキラを教える教師ですから」
「そういうものなんですか?」
「そういうものです。ほら、私の友人ロイドがいますよ」
そして、勝手に俺に飛び火である。俺は魔道具を使って、どうにか認識阻害で乗り切ろうとしたんだ。なのに、リスキス公爵の血族サンセがぶち壊してくれる。
最初は、王族の姉弟は、サンセが指さす先を見て、首を傾げたのだ。だけど、サンセによって正体を暴露されると、認識阻害の魔道具といえども、通じなくなるのだ。
「ロイド様!!」
「本物だ!!」
やっぱりお子様だ。礼儀とか忘れて、王族の姉弟は、俺に向かって突進してきた。
「ロイドはボクの護衛です!!」
皇族セキラも、とうとう、我慢できなくて、俺の正面から抱きついて、王族の姉弟に対抗したのだった。




