接待役となりました
いい歳の大人が、学生に混ざっているのは、かなり疲れる。まず、この平和が馴れない。常に緊迫していた日々を送っていたから、平和すぎて、旅に出たくなる。だけど、皇族セキラが貴族の学校を卒業するまでは、頑張らないといけないんだなー。
今日も、欠伸を我慢せず、すでに頭の片隅に記憶した内容を聞き流して、としていた。俺は護衛なんだけど、貴族の学校って、そんなに危なくないんだよな。
最初は色々とあったんだ。ほら、皇族様が通うのって、久しぶりだったから、どう対応すればいいのか、貴族の子息令嬢は知らないんだよ。だから、皇族の側で暴力沙汰しちゃったり、皇族の発言を否定したり、皇族の邪魔したり、とやっちゃいけないことをいっぱいしたのだ。だけど、学生だから、皇族への失敗は二回までは許してもらえるんだ。誰かが失敗して、賢い貴族は、気を付けよう、と学習するんだよ。そうして、どんどんと貴族の子息令嬢は、失敗しなくなるのだ。
そんな中、文化祭で行われた劇の俺の騎士役がバカ当たりして、一目会ってみたいと、貴族の学校に侵入しようとする不審者がいっぱい出たことで、帝国は皇族の安全のため、貴族の学校に、騎士団まで配備することとなったのだ。
結果、安全な貴族の学校の出来上がりだ。もう、俺、いらないと思う。よし、中退だ!! と筆頭魔法使いハガルに提案したわけである。
「あなたは、万が一の予備ですよ。絶対に貴族の学校を卒業してください」
月に一回の身体検査の場で、筆頭魔法使いハガルに冷たく言い放たれた。
月に一回、気持ち悪いことをされているが、馴れないんだよなー。今日も、体のどっかが気持ち悪い感じがする。寒気がするのは、きっと、そのせいだよ。ハガルが怒っているから、なわけではない。
化け物じみた妖精憑きの力での身体検査はハガルである。俺の片目に装着されている魔道具 妖精の目の整備は義体に憑いた幽体の母サツキである。器用に俺の装着した妖精の目を外して、触っている。
「うーん、もうそろそろ、普通の目に戻せなくなってきますね」
「え、戻せるの!?」
俺は普通の目に戻せる、という事実に驚いた。俺の抉られた目、どっかにあるんだな。見たくない。
「では、一度、元の目に戻してみますか? そういうことも、大事な実験ですし」
「そこは、妖精憑きの作業ですね。わたくしが出来るのは、妖精の目を装着するだけです。ただの目を外すのも、戻すのも、妖精憑きの作業ですよ」
「これは、もしかしなくても、初めての共同作業ですね!!」
「………そ、そうですね」
大喜びのハガルに対して、サツキは微妙な顔をする。使い方が間違ってるような気がするな、ハガル。
「あ、でも、サンセの時にやりましたね、初めての共同作業」
「確かに、あれが初めてですね」
サツキ、仕方なくハガルの調子に合わせた。すごいな、この女。だから、ハガルを手玉にとれるんだよな。女って、こわっ!!
「怖いこというなよ!!」
「ロイド、真剣に考えなければいけませんよ。妖精の目を外すのは、才能がない時です。それを想定して、元の目を外すのは、妖精憑きなんです。そうやって、安全対策を万全にします。ですが、才能があれば、妖精の目は装着されたままの仕様なんです。どうして、そういう仕様なのか、わたくしは知りません。何か、理由があってのことです。元の目に戻っても、不具合が起きた時は、すぐにハガルの元に来てください。いいですね」
「だったら、戻さなければいいだろう!! 別に、不便もないんだし」
「これもまた、実験です」
ハガルは容赦ない。母サツキが危ないと言っているのに、ハガルは決行するのだ。
地下のどこかから、箱を持ってきた。俺はそれを見ないようにした。すでに、母サツキによって、俺の妖精の目は外されている。サツキは、俺用に調整された妖精の目を大事に箱に片づけた。普通の、どこにでもある箱なのがびっくりだ。
そして、俺の元の目も、どこにでもある箱に保管されていた。てっきり、瓶とかで保管されているものと想像していたから、心配になった。
「大丈夫なのか? 腐ってるとか、ない?」
「状態保存の魔法をかけていますから、大丈夫ですよ。ちょっと痛いですよー。ほら、目を繋ぎ直すのですから。えーと、これとこれとこれですね」
痛いなんてものじゃないよ。暴れたくなるほどの激痛である。だけど、ハガルの妖精によって、俺は動けなくなっていた。声すら上げられない。
繋がっていくのだが、痛みと、気持ち悪さを感じる。ハガルの作業はそこまで時間がかかっていないから、すぐに解放された。
俺は声もなく、悶絶した。痛いし、気持ち悪いし、世界が変に見える。
「ハガル、どうにかしてください!!」
「もう少し、様子見しましょう。経過観測を」
「どうにか出来るって、ハガルがいうから、手伝ったんですよ!!」
母サツキは、俺に駆け寄って、意味もなく体をさすったりしてくれた。
「本来は、妖精の目と同化するのには一週間はかかると言います。ですが、ちょっと裏技を使えば、すぐです」
「はやくしてください!!」
「わかりました」
やめろ、と叫びたいが、叫べない。その声すら出せないほどの苦痛だ。
ハガルが俺の頭を撫でた。
「今回は、意識を保てるでしょうか」
そして、無理矢理、何かをつなげられるような、頭が焼き切れるような苦痛を受けて、俺は意識を手放した。
あんな酷い目にあったというのに、俺は真面目に今日も護衛である。俺、偉いなー。
筆頭魔法使いハガルは、俺の元の目を魔法で無理矢理、繋げたのだ。お陰で、俺は苦痛で気絶した。そして、ハガルは親切にも、俺がお世話になっている侯爵邸の離れにこっそり運んでくれたのだ。涙が出るほど嬉しいよ!! だったら、護衛、休ませてくれてもいいのに!!!
そして、俺は一転した世界で起きて、早速、乗り物酔いのような、不自由を感じていた。この感覚に馴れるのに、それなりに時間がかかったってのになー。
不幸中の幸いと言えばいいのか、リスキス公爵の血族サンセが王国に一時帰国をしていたので、醜態を晒さずに済んだ。いや、俺は、サンセにはいっぱい、醜態見せてるよなー。
サンセが妖精の目を装着をしてしばらくは、気持ち悪かったらしく、ベッドから起き上がれなくなっていた時は、大笑いしたな。サンセは賓客だから、ベッドで倒れるのは許されるが、俺はお仕事があるから、起きないといけないんだな。
俺が侯爵家の本邸で食事をとるのは、あまりない。普段は、筆頭魔法使いハガルが状態保存が出来る魔道具の中にいつの間にか補充されている食事に手をつけている。
悪い癖がついていて、椅子に座ると、野良の妖精たちが勝手に給仕してくれるから、俺は何もやらないのだ。実は、野良の妖精さんたちに、普段からお世話されているのだ。
さすがに、妖精の目を外した俺にはやらないだろうな、と椅子に座って気づく。ほら、今の俺は野良の妖精さんが見えないし、感じないし、声だって聞こえないんだ。意思疎通が出来ないから、きっと、俺は放置されるだろう、と思ったんだよなー。
ところが、当然のように、俺の前には食事が置かれ、服だって勝手に着替えさせられている。
「俺、お前たちのこと見えないんだけど」
声も聞こえないよー。だけど、見えなくても、野良の妖精たちは、当然のように給仕するのだ。綺麗な水が何もない所からコップに注がれる。
「いつも、ありがとな」
俺はお礼を言って、食事に手をつける。時間をかけて食べていると、護衛の仕事が成り立たないから、俺はささっと食べてしまう。
「はやく、妖精の目に戻してもらおう」
部屋が静かすぎて、居心地が悪く感じた。
生徒会室に行けば、珍しく、教師がいた。俺は、ドアを開けて、皇族セキラとお嬢さんサリーが生徒会室に入るのを確認してから、ドアを閉めた。それからすぐ、俺はセキラとサリーの席をひいて、座らせ、俺自身は後ろに立った。護衛だから、座っちゃいけないんだよなー。
教師は、俺の一連の動作を見て、感嘆としている。
「素晴らしいですね。もう、君は騎士か貴族になればいい」
「ならないから!!」
「勿体ないですね」
「貧民がいいんだよ!!」
何事かあると、勧誘されるから、俺は強く拒否する。こういうことは、大事なんだよ。考えてみる、なんて中途半端な返事をしたら、もう、翌日には騎士か貴族にされているから。筆頭魔法使いハガルは、常に狙ってる。絶対に、監視用の妖精をどっかに忍ばせてるよ!!
生徒会長と副会長と教師で、何か相談をしていた。ちらちらと俺を見るのはやめてほしい。俺、悪いことしたみたいじゃないか。
「計算とか報告書とか、どうせ、昨年の使いまわしでいいんだったら、わざわざ、集まる必要なんてないだろう」
生徒会役員って、地味に面倒臭い。権威もあるが、雑用も多いときている。しかも、面倒臭い問題が起こると、生徒会が仲介である。俺はいつもセキラとサリーと一緒に、現場に走って行ったなー。一年生って、生徒会の仕事を学ぶ学年だと聞いたんだけどなー。
「あなたって、この時期は、大事な行事があるでしょう」
二年の生徒会役員リコットが振り返っていう。何故か、生徒会役員の皆さんから、呆れたように俺は見られた。貴族の学校の行事なんて、貧民には関係ないもん。
「ロイドは裏口入学みたいなものだからな、知らないよね」
「ちゃんと試験受けたよ!!」
皇族セキラの言い方が犯罪っぽいから、俺はそこのところをしっかり訂正しておく。毎年、騙されて、俺は試験を受けていた。ただ、会場ではなく、筆頭魔法使いの屋敷だけど。
「ロイド様、この時期に、入学試験が行われましたよ。覚えていませんか?」
「あー、どうだったろうか」
サリーが入学試験を受けたのはいつ頃かなー、と思い出そうとしたのだが、思い出せない。ほら、サリーの外出って、特に変化はないから。いつも俺が同伴というわけではないんだな。貴族でないと行けない場所は護衛交代だ。
一年前のことなんか、覚えていないわけではない。いつも平坦だったから、印象に残らなかっただけだ。日記を書いていたら、きっと、「今日も平和だった」と書いていそうだ。
「入学試験も、裏方ですよ」
「面倒臭いな!!」
二年の生徒会役員リコットに小声で言われて、俺は叫んでしまった。俺、正直だから。
何故か、教師からは、俺を責めるように見てくる。だから、何故、こんなふうに俺が見られるんだ?
教師と生徒会長と副会長の密談は終わったようである。教師は部屋から退出していった。それを確認してから、生徒会長が口を開いた。
「皆さん、毎年恒例となりました、入学試験のお手伝いです。主に、受験生の案内ですね。今年は、城から騎士団が派遣されていますから、生徒から一般性とにお手伝いを募ることはありません。立ち入り禁止区域は、騎士団の皆さんが見張りとして立つこととなっています」
「だったら、生徒会役員の仕事も騎士団にやってもらいましょうよー」
面倒臭いから、そんな意見が出てきた。それは同意だな。
「そうしたいが、騎士団は常駐するわけではないからな。一度、こういう事を外に出してしまうと、騎士団がいなくなった時の引き継ぎが出来なくなってしまう。生徒会役員は、そういう経験の伝承のために、入学試験中はお手伝いとして強制参加だ」
頭がいいから、欠点をあげて、意見を却下する。そりゃそうだよなー。
王都の貴族の学校に騎士団を配備されたのは、皇族セキラがいるからである。貴族の学校に不審者の侵入が出てきたから、皇族の警備のために、騎士団が動いたのである。他の貴族の学校には皇族がいないので、通例通り、生徒会とボランティアでお手伝いだ。
意見を言ったやつも、こう反論されるとわかっているから、笑っている。一応、誰かがアホみたいなこと言って、議事録に残して、きちんと記録に残しておくのだ。頭のいい奴らは、本当に隙がないよな。
生徒会役員がやることといったら、巡回と、案内である。地図を広げられ、過去に迷子が出た地点をいくつか出して、そこに誰が行くか、と挙手で決めていった。
「一年は、裏方ね」
「二年と一緒に行動じゃないのですか?」
副会長からの指示に、二年の生徒会役員リコットが首を傾げた。昨年とは違うらしい。
「ここからが、本題だ。今年は、ともかく、異例尽くしだよ」
資料を配られた。俺まで手渡しされる。俺は軽く目を通して、何故、俺を執拗に見てきたのか、理由がわかった。
「みんな、目を通したね」
「通しましたー」
「はい」
そして、全員の視線が俺に集中する。俺は心を無にして、その視線を受け止めた。
「文化祭から、武道大会まで、ロイドくんが目立ったためか、今年の入学希望者に、平民がいます。例年であれが、十人いればいいところなんですが、今年はなんと、百人と帝国中から入学試験の申し込みがありました。ご存知の通り、貴族の学校は貴族であれば無償ですが、平民は有償です。今回、平民の受験者は、将来は貴族になるかもしれない平民です。さらに、遠隔地の貴族の子息令嬢がわざわざ、王都の貴族の学校を受験するという異例まで出てきました。こちらは、控え目ですが、五十人程という報告です」
生徒会長は俺を恨みがましく見てきた。
「俺は悪くない!!」
「いや、絶対にロイドのせいだろう」
「悪目立ちするから」
「俺は悪くないもん!!!」
強く否定しても、誰も味方してくれない。ちっくしょー、不可抗力なのに。もう、表に出るようなのは筆頭魔法使いハガルの権力で除外してもらおう。
「例年であれば、一年と二年が受付役ですが、ロイドくんが目立ちすぎるので、受付は二年と三年が行うこととなりました。一年は、試験監督の補佐です」
「一年は免除でいいんじゃないか?」
思い切って、俺は意見を述べた。そして、俺に恨みがましい、と教師たちの視線が集中する。
「えー、表向きは試験監督の補佐と言っていまずが、実際は、賓客の対応です。今回、王国の王族が、わざわざ帝国の貴族の学校の入学試験を受験します。王族ですから、皇族と同じ扱いです。別室で、試験を受けてもらうこととなります。それを一年生に持て成してもらうこととなりました」
「すみません、俺はさすがに、そんな上客相手はまずいのでは」
「お前目的に来るんだよ!!」
もう、建前とか、そういうのはかなぐり捨てて、教師たちは叫んだ。
どんと、皇族セキラとサリーお嬢さんの前に、新聞が叩きつけられた。それは、王国の戦争後の新聞である。そこに、何故か、俺の肖像画がデカデカと載っているのだ。
「君は、王国でも有名人なんだよ。王族が、君に一目惚れして、何者か、と大騒ぎになったんだ。そして、これだ」
俺は立ったまま、新聞を流し読みした。うわー、これ、酷いなー。
これは、王族のロマンスみたいに書かれていた。帝国から来た皇族の護衛に一目惚れした王族が、戦争終結後に、寝込んだという。それを心配した国王は、俺の正体を知っているので、諦めろと言ったのだ。
ところが、そこに、戦争に参加した英雄として、俺の肖像画が帝国から王国へ輸出されたのだ。謳い文句がすごかった。あの、リスキス公爵の血族サンセとともに戦った英雄!! だって。そして、リスキス公爵というのは、王国では大貴族である。名前だけでも皆知っている。そんな大貴族の血縁サンセの肖像画まで販売されたのだ。
こうして、民衆が勝手に大騒ぎするから、王族だって、俺の肖像画を手に入れてしまう。それを見て、諦めきれなくなった王族は、国王を説得したという。
そして、王国から帝国へ留学することが、大々的に公表されたのだ。
「あれ、留学って書いてあるけど、まだ、合格してないよな」
「合格確定だよ!! 皇族と同じだ!!!」
教師に叱られた。そうだよね。王族なんだから、試験受けなくても、合格決定だよね。点数だって、公表されない。
だけど、きちんと試験をしました、という姿勢が必要である。
「なあ、どうして、わざわざ王族なわけ? お姫様、とか、書けばいいじゃん」
「皇族と同じだ。王族と言ったって、国王の子なわけではない。国王の子であれば、姫、王子だが、そうでない場合は、王族だ。サンセ先生だって、リスキス公爵の血縁と呼ばれているだろう」
「………そうだね」
サンセが、”サンセ先生”と呼ばれるから、首を傾げちゃった。ほら、俺はもう、サンセのことは呼び捨てだから。
そういう新聞を見て、サリーお嬢さんがぶるぶると怒りに震える。
「やっぱり、わたくしも王国に行けば良かったです!!」
「大変だ、ロイドを盗られてしまう」
皇族セキラまで、焦ったように呟く。お前ら、俺は誰のものでもないからな。
俺は呆れて立っているだけだ。下手に口答えすると、想像を越えた応酬がくる。そんな他人みたいな顔をしている俺の肩を教師と生徒会長が叩いた。
「王族は、王国の賓客だ」
「くれぐれも、失礼のないように」
「前代未聞のことなんだよ」
「しっかりと持て成すように」
「間違っても、王国に連れて行かれるなよ!!」
「大変なことになるぞ!!!」
「………人生やり直すには、いいな」
『ロイドーーーーーーー!!!!』
とんでもない声があがった。冗談なのにー。




