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呪いの支配者  作者: 春香秋灯
外伝-武道大会の舞台裏-
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当主となるためには、実力を示さないといけない

 食事の席で、ルキエルから、武道大会の話をせがまれた。今更、話すようなことではないというのに、ちょっとしたきっかけである。

「武道大会の予選に出ることになったんだよー。もう、面倒くさい」

 養子オクトが、貴族の学校の催しの愚痴を言ったからだ。

「え、オクト、わざわざ出るの!? もしかして、いつも出場してたとか」

 珍しく、ルキエルが食いついた。貴族の学校の催しなんて、右から左に聞き流していただけに、珍しいことだ。

「今年は、クジで負けたんだ。ほら、生徒会役員だから、一人は出ないといけないから。これまでは、どうにか逃げてたんだけどなー」

「そうなんだ。オクトは、貴族の学校枠?」

「そうだけど」

「そうだよな。オクトは貴族だから、一般枠からは出ないよな」

「武道大会に興味があるんだ。言っとくけど、僕が出場する武道大会は、王都じゃないよ。応援は無理だよ」

「そうなの!? 武道大会って、王都だけじゃないんだ」

「そうそう、帝国中で五カ所だよ。僕は、その一カ所で出場なんだ」

「ふーん、そうなんだー。貴族だったら、みんな、出るわけ?」

「騎士になりたい奴が出るんだ。登竜門、みたいな。だけど、我が家は一度は一般枠で予選通過が義務なんだ。卒業してから、挑戦するつもりだったのに」

「じゃあ、あんたも一度は武道大会に出場したんだ」

 そして、私に話が振られたわけである。

 我が家は表向きはそこら辺の貴族なのだが、裏では、妖精殺しの伯爵、と呼ばれる、後ろ暗い仕事を生業としている。当主は、妖精を狂わせる香の作り方を口伝で知っているだけでなく、妖精の魔法が届かないように体を改造するのだ。妖精を狂わせる香と魔法が届かない体質で、妖精憑きを征服するのだ。最後は腕っぷしが重要なので、当主は体術と剣術も騎士並でないといけない。それを証明するために、一年に一回行われる武道大会に一般参加し、最低でも予選突破するのだ。

 この武道大会の本戦の枠は、貴族枠と一般枠の二種類だ。どちらが突破しやすいか、と質問されれば、貴族枠、と皆、答える。何せ、貴族枠と一般枠、それぞれ十人が予選突破である。それに対して、挑戦者は、圧倒的に一般枠のほうが多い。誰でも挑戦出来るのもあるが、本戦に出場して、優勝すれば、帝国の騎士になれるかもしれないのだ。それだけに、騎士になりたい挑戦者が帝国中から集まるのだ。難易度は、一般枠のほうが上だし、優勝者のほとんどは一般枠から予選通過した者たちだ。貴族枠で通過した者たちでは、気迫負けする。

 過去の話だ。だけど、ルキエルは何か期待をこめて私を見てきた。

「私は、貴族枠と一般枠、両方で出場した。貴族枠は、予選突破はしなかったぞ」

「そうなんですか!?」

「そうなのか!?」

 養子オクトとルキエルが声を揃えて驚いた。そんな、驚くことではないだろうに。

「貴族枠で本気を出したら、面倒だろう。それに、貴族でも、本気で騎士になりたい奴らが挑戦するんだ。私がそれを邪魔するのは気の毒だから、二回戦か三回戦で負けるようにしたんだ」

「だったら、挑戦しなきゃいいだろう」

「オクトと同じだ。私は入学から卒業まで、ずっと生徒会役員だ。それなりの学年になると、出場するように教師から圧力がかけられるんだ。面倒な事は全て、私に回ってくるんだ」

 身分的に、私は低かったから、問答無用である。同学年の生徒会役員は、皇族と公爵である。伯爵である私は立場的に弱いため、仕方なく、武道大会に出場させられたのだ。

「貴族の学校に通ってる奴らって、強い?」

「普通なんじゃないか。私は、裏の稼業を継いでいたから、実戦経験があるせいで、手加減が大変だった。間違って殺しそうになったな」

 武道大会は真剣を使う。うっかりすると、殺してしまいそうで、逆に疲れた。

「生徒会役員だから、それなりに勝ち進まなければならないし、空気を読みなさい、と妙な圧力をかけられて、予選突破しないように手加減してと、面倒臭かったな」

「それは大変でしたね」

「面倒臭そうだな」

 養子オクトはこれからのわが身だと気づき、ルキエルは一般的な感想である。

「あれ、じゃあ、オクトはいつか、一般参加するんだ」

「貴族の学校を卒業して、こっそりだよ。ルキエルも一緒に参加する? 予選突破すればいいだけだから、簡単だよ」

「え、オクトの腕折ればいい?」

「やっぱやめろ」

 オクトはルキエルの実力を思い出して、身震いした。今も、オクトはルキエルに勝てない。

 ルキエルは、一見、細身で華奢だから、簡単に叩き伏せそうである。だが、その技術が化け物だ。

 ルキエルは体を鍛えることを禁じられていた。だから、力がない。だが、それを克服するために、技術を身に着けたのだ。その技術に、妖精憑きらしい才能を発揮した。だいたい、一度か二度、見ただけで体得出来るという。

 ルキエルはたまに、訓練を見学して、少し相手をして、とどんどんと他人の技を盗んでいった。さらに、その技術を打ち破るための技術まで編み出したのだ。

 そんなルキエルのことを皆は、初見殺し、と影で呼んだ。

 貧民街に流れてきた暴れ者は、ルキエルの見た目をバカにして、ちょっと痛めつけてやろう、と向かっていっていく。だいたい、油断しているのだ。その油断を利用して、ルキエルは容赦なく相手の骨を折るのだ。養子オクトも、骨を折られたのだ。

 初見殺し、なんて蔑称なんだ。だが、そう呼んで、再戦しても、ルキエルには勝てない。本気を出しても、ルキエルは相手の力と技を利用して叩きのめすのだ。殺す気で向かえば、半殺しにされるのだ。

 だから、私はルキエルとは戦わない。私でも、本気のルキエルには勝てないだろう。ルキエルからも、私に対戦の申し込みをしない。だから、私とルキエルは均衡がとれた関係を保っている。

 ルキエルは料理にフォークを何度も刺すという、行儀の悪いことをしながら、考え込んでいた。ルキエルのマナーの悪さを注意する者はいないが、気になった。

「ルキエル、何か気になることでもあるのか?」

 養子オクトが気を利かせて、ルキエルに訊ねた。

「あっちこっちから、武道大会の話を聞いたから、気になっただけだ」

「誰から?」

「見習い魔法使いのハガルだろ、皇族だろ、あと、平民の知り合いのダクトだな」

 ルキエルの知り合いばかりだ。見習い魔法使いハガルと皇族とは、私は接点がない。平民ダクトは、生家が商売をしているので、その関係で、我が家とは取引をしている。

「武道大会って、勝敗を当てる賭博もやってるって聞いたんだ。やっぱ、当てるのって、難しそうだな」

「必ず勝つ挑戦者に賭けるのは、確かに難しいね」

「オクトなら、勝てる?」

「言っておくけど、今年は一般枠で出場しないからな!!」

「わかった、一般枠で出場する時は、オクトに賭ける」

「予選突破までだからな。本戦は棄権する」

「え、本戦って、棄権していいの?」

「そりゃ、怪我することもあるから、棄権は認められるよ。あと、我が家みたいに、予選通過を義務としている貴族家もいるからね」

「そうなんだー。ふーん」

 また、考え込むルキエル。珍しいことだが、私は強くは聞き出さなかった。






 養子オクトがいる時は、ルキエルとの閨事はしないこととしていた。だが、その日はルキエルのほうから迫ってきた。

「こら、欲しい道具でもあるのか? また今度にしなさい」

「もう、家にある奴、終わっちゃったから」

 せっかくベッドで横になってうとうとしていたというのに、ルキエルは私の上に乗って、執拗に口づけをしてきた。深く口づけし、舌を絡めとしてくる。

「やめなさい。今日はその気じゃない。道具が欲しいなら、今回は特別に持っていけばいい」

 本音としては、したい。だが、養子オクトがいるので、私はぐっと我慢した。

 何をやったって、私がその気にならないのだ。ルキエル、私の下半身にまで手を出して、無駄だと気づくと、不貞腐れ、私の上でうつ伏せになった。

「私は人が近いと眠れないと知ってるだろう!! さっさと部屋に戻りなさい」

「俺は逆に、人肌がないと寝られないんだよ。今日くらい、あんたが徹夜しろよ」

 すでにうとうとしているルキエル。本当に、我儘な男だな!!

 結局、私はルキエルに負ける。ルキエルをベッドに横にして、その隣りで徹夜することとなった。ルキエルは、私にすり寄って、だけど、何か悩み事でもあるのか、目を覚まして、考え込んでいる。

 仕方なく、ぎゅっと抱きしめてやると、ルキエルはかすかに笑顔を見せ、喜んだ。それを私は徹底して、気づかないふりをした。

 一度、私がこうやって抱きしめて喜んでいるから、それを指摘してやったら、ルキエルは私から離れたあげく、しばらく、距離をとられた。道具をちらつかせても、ルキエルは屋敷にも来なかったのだ。これには、私も滅入って、体調まで崩した。結局、私が倒れたところで、ルキエルは見舞いといって、屋敷にやってきたのだ。

 同じことをしないように、私は気を付ける。男としての自尊心はバカ高いくせに、好むことは女子どもだ。

「なあ、武道大会って、どうだった? その、一般枠のほう」

 食事の席で話した武道大会のことをルキエルは気にしていた。理由を聞きたいが、また不貞腐れるので、私はそこを我慢した。

「私は、片手間だな。物心つく前から、後継者教育を受けていたから、逆に、目立って、居心地が悪い感じだ」

「あんたは、見た目もいいからな」

 そう言って、意味もなく、ルキエルは私に軽く口づけして笑う。その顔に負けないように、私は別の何かを考えた。

「一応、平民に扮してだ。勝ち進めば、誰だって目立つし、大変なんだ。妙なのに絡まれる」

「どんなのに?」

「それは、色々とだ。正直、一般枠は、あまりお行儀が良くない。貴族の学校はお上品だが、一般枠は、育ちの悪いのが多い。賭け事にもなっているから、そのために、横槍が入ってくるんだ。出待ちしていて、絡まれたこともあったなー」

「そういう時は、どうしたんだ?」

「見えない所でやられるんだ。表舞台では、きちんと綺麗に戦うが、裏で、血なまぐさいことが起こっても、罪には問われない。それが、一般枠の予選だ」

「そっかー。オクトも大変だなー。一般枠の予選突破するだけじゃダメだなんてなー」

「そういう有象無象を自力で対処出来ないと、当主にはなれない。実際、それが出来なくて、私の兄は、お前の父親に殺されたんだ」

 私の兄は、ルキエルの父アルロを怒らせて死んだ。兄は、アルロを騙して、ルキエルの母サツキを皇帝の隠されたハーレムに送ったのだ。そして、サツキは骨となって戻ってきた。この事実に、アルロは怒り狂い、関わった貴族ら全てを殺したのだ。その第一の犠牲者が私の兄である。

 後ろ暗い仕事をしているのだ。それなりの自衛の手段を持つのが当然なのだ。しかし、私の兄は、爵位に胡坐をかいている暗愚な男だった。能力は低く、気位だけ高い兄は、呆気なく、アルロに殺されたのだ。

 私だったら、アルロといい勝負だったんだがなー。アルロは話せばわかる男だ。私も復讐の対象であったが、アルロは許した。そして、私はアルロと手を組んで、関わった者たち全ての情報を差し出し、家門の中にいた裏切者も差し出したのだ。

 そういう後ろ暗いことをついでに思い出した。ルキエルには絶対、話せない過去である。ルキエルは、妙な所で、私に怯えるのだ。だから、私はルキエルに対しては、無害と勘違いさせている。

 それは、養子オクトもだ。私の養子であるので、今では後ろ暗い仕事を平然とこなしている。そんな裏の顔を隠して、清廉潔白みたいな顔をルキエルに見せているのだ。お互い、ルキエルには嫌われたくないのだ。

 ただの話として聞いているルキエルは、その裏側を大したものではない、と聞き流していた。武道大会の裏側の話をしたって、大変そうだなー、程度にしか思っていないだろう。その思い込みが、世間知らずだで可愛らしい、なんて私は思うのだ。

「オクトが武道大会に出場する時は、一緒に見に行こう。お祭り騒ぎだから、珍しい出店が出るぞ」

「オクトにとっては、人生がかかってるんだぞ。そんな遊び気分で行くもんじゃない」

「武道大会なんて、毎年、五カ所で行われるんだ。王都でダメならば、別の武道大会に出場すればいい。そうしたら、それを理由に、旅行に行ける。そうだな、オクトには、王都の外の武道大会に出場させるか」

「親父の許可が降りない。行くなら、あんた一人で行け」

 ルキエルの父親はルキエルに対してだけは過保護だ。ルキエルを側から絶対に離さない。

 不可能な話をされて、ルキエルは不機嫌になって、私に背中を向けて目を閉じた。もう、何も話してくれなかった。






 武道大会の話が出たから、きっと見に行きたいのだろう。私は軽い気持ちで、ルキエルを武道大会の予選に連れて行こうと、約束もなく、貧民街に行った。

 ところが、ルキエルは、私に気づきもせず、横を走り抜けていった。声をかけても、振り返りもしない。

 何があったのかわからず、屋敷の前に行けば、ルキエルの父アルロが地面に転がっていた。起こしてやって、事情を聞けば、呆れた。

 数日前から、ルキエルとアルロは喧嘩していた。ルキエルが武道大会の予選会に参加したい、と言い出したからだ。もちろん、アルロは許可しない。その喧嘩は、夜の閨事まで拒絶するほどだったとか。

 結局、武道大会の当日、ルキエルがアルロに勝負を仕掛けたのだ。

 アルロは長年、貧民街の支配者をしている。その腕っぷしは、化け物だ。ルキエルの兄ライホーンでさえ勝てないのだ。だから、アルロは油断したのだ。

 アルロ、忘れていたんだ。そのライホーンでさえ、本気のルキエルには勝てない、ということを。

 ルキエルは普段から、男に蹂躙される側だ。男の下で嬌声をあげて、抵抗なんて軽いものだ。男の力づくで、ルキエルは簡単に負ける。だから、真剣勝負に持ち込めば、ルキエルは負ける、と皆、思うのだ。

 そして、その甘い考えが、アルロの敗北だ。

 私はアルロを嘲笑ってやる。

「どうせ、昨夜、力づくでルキエルを可愛がったんだろう」

「っ!?」

 怒りで顔を真っ赤にするアルロ。そうなんだ。疲れさせて、体力を削り、そして、ルキエルの抵抗を出来なくした。

「バカだな。ルキエルがお前の娼夫に成り下がって、何年になる? いつまでも、ただ下で喜んでいるばかりじゃない。お前を騙すくらい、簡単だ。反省するんだな」

「だったら、お前が止めてみろ!!」

「やりたいと言ってるんだ。やらせてやれ。酷いことになりそうなら、私が止めてやる」

「ルキエルの体に傷がついたら、どうするんだ!?」

「妖精憑きなんだから、すぐに綺麗に治る。心配なら、いい塗り薬を持ってきてやる。いつまでも、ルキエルを囲い込むな。だから、お前はルキエルに嫌われてるんだ」

「っ!?」

 アルロにトドメをさしてやった。ルキエルに嫌われている事実が、一番、アルロには堪えた。

 そう言ってる私だって、ルキエルの憎悪の対象である。懐かれてはいるが、心底では、私に復讐したいばかりだ。私も油断しないようにしよう。間違っても、アルロみたいに、力づくはしないようにしよう。私はきっと、足の骨を折られるな。

 アルロだって、体のどこかの骨を折られていたかもしれないのだ。ルキエルは、アルロを復讐の道具と見ている。だから、あえて、地面に叩きつけるだけで我慢したのだ。

 腑抜けになったアルロは放置して、私は武道大会の会場に向かった。武道大会の会場は、貴族の学校内にある闘技場である。普段は、貴族の子息が体術剣術の授業を受けるために、本当に無駄な場所である。それも、一年に一度、開催される武道大会のために、かなり立派な作りとなっている。武道大会開催中は、平民も貧民も観覧のために入れるようになっている。その分、治安も悪くなるので、貴族の学校は休みとなり、校舎内は施錠されている。

 ルキエルは大会出場をするために来たのだ。ということは、出場者の待機場にいるはずだ。そこは、貼りだされたトーナメント表も近い。私はルキエルの出番を見るために、トーナメント表を確認した。

 当日申し込みは不可能である。トーナメントを組むのも大変なことから、一週間前には申し込み締め切りとなっている。

「本当に申し込んでいたのか」

 父アルロの許可がとれないとわかっているのだ。だからといって、諦めたくないルキエルは、先に申し込んで、当日に賭けたのだ。

 ルキエルは、アルロとの行為を散々、拒絶して、武道大会の前日に、アルロに無理やられたみたいな体をとって、疲れたふりをして、油断しているアルロを叩きのめしたのだ。

 読み上げられる名前をトーナメント表から探してみれば、もうすぐだった。私が待機場に行く頃には、ルキエルは会場に立っている計算だ。

 仕方なく、私は試合の様子を見ていた。ルキエルの名前を呼ばれた。ルキエルの対戦相手は、ルキエルの二倍もある大男である。試合の勝敗は賭博になっている。すっかり、ルキエルは観客から嫌われた。

 心配する声もあがっていた。見れば、あの皇族三人と見習い魔法使いハガルだ。目立つな、あそこだけ。皇族三人が小奇麗だからだろう。見習い魔法使いも大変だ。友達付き合いをしながら、あの皇族三人の護衛もしているのだろうな。

 ルキエルは、審判から色々と説得されているが、笑って首を振る。そして、観覧席を見回すルキエルと私は目があったように感じた。

「始め!!」

 審判から開始の合図がおりれば、ルキエルは集中する。

 ルキエルにしては、珍しく、綺麗な戦い方だった。

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