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呪いの支配者  作者: 春香秋灯
外伝-遊び友達-
67/101

願い事

 武道大会予選が終わる頃には、ルキエルは人気者になっていた。あんな細身の男が、予選突破したのである。誰だって、夢中になる。

 そういう視線を潜り抜けて、ルキエルはハガルに抱きついた。

「ほら、勝ったぞ!!」

「すげぇな!!」

「約束したもんな、ハガルを勝たせてやるって」

「次は、本戦だな」

「あー、そっちは、棄権だな。俺、その日は都合がつかないから」

 途端、ルキエルは表情を曇らせる。

「えーーーー!!!」

「本戦も出て、勝ち進んでくれよ!!」

 皇族どもがルキエルの体を叩いたり撫でたりして訴えた。

「怪我するからダメだって、言われてるから。俺の家族、心配性なんだよ」

「じゃあ、仕方がないな」

 一番、話を理解する皇族アイオーンが、間に入って宥めた。

「よし、じゃあ、これ換金して、ぱーと使おうぜ!!」

「ルキエルのお陰で、勝ったんだしな」

「今日は帰る。思ったよりも疲れた」

 気が抜けたのだろう。ルキエルの顔色はよくない。それを見て、ハガルは心配して、ルキエルの額に手をあてたりしていた。

「そうだよな。今日は迎えはいるのか?」

「近くに、知り合いの店があるから、そこで休ませてもらう。ほら、そこだ」

「ルキエル様!!」

 ちょうど通りかかった店から、ルキエルの元に駆け寄ってくる男がいた。

「ちょっと疲れた。休ませてくれ」

「それはもちろん、かまいません。使いを出しましょう」

「あまり大事にするな」

「真っ青ですよ。ルキエル様を奥の部屋に連れて行ってくれ」

 男は店主なんだろう。従業員は真っ青になっているルキエルを支えて、奥へと消えていく。

 改めて、店主は私たちに頭を下げた。

「ルキエル様をここまで運んでくださり、ありがとうございます。この近くの店でお食事していってください。こちらを渡せば、支払いは全て、私の元にきます。ありがとうございます」

「いや、そんなつもりで付き添っていたわけではない」

「俺たち、ルキエルとは友達だから」

「そうそう、いらないって」

「お友達、ですか。それならば」

「親父、俺が対応するから、店みててくれ」

 さらに押し付けてこようとするのを、店主の息子が止めてくれた。店主は仕方なく、店の奥へと消えていった。

 代わって出てきた店主の息子は、ちょっと軽い感じの男だった。愛想笑いを浮かべて、軽く頭を下げた。

「ルキエルから聞いている。皇族のお三方と、見習い魔法使いハガル、えっと、誰?」

 皇族三人とハガルはわかるが、さすがに私は知らない。

「私は、こいつらの保護者みたいなものだ」

「そうなんですか。ルキエルの奴、何をしたんですか? 珍しく、疲れてるけど」

「武道大会の予選突破したんだよ」

「………は? あいつ、バカなの!?」

 店主と違って、息子は、ルキエルのことを友達扱いをしている。ルキエルが武道大会に出場したことに、激怒している。

 だけど、すぐに、予選突破という言葉の意味を理解して、店主の息子は呆ける。

「そっか、予選突破したんだ。言ってくれれば、応援に行ったのに」

 驚いて、そして、また、怒った。黙っていたことを店主の息子は悔しいのだ。

「ルキエルのことは怒らないでやってくれ。家族説得できるかどうかわからない、と言ってたから、言えなかったんだろう」

「そりゃそうでしょう。武道大会の予選会といったって、怪我するようなこと、誰も許さないよ。よくもまあ、許可が下りたな」

「そんな、怪我を心配するくらいなら、鍛えればいいだろう」

 華奢な姿を思い出し、私はそう言ってしまう。鍛えていないから、怪我をするのだ。だったら、怪我しように、鍛えればいいだろうに。

 ルキエルは、店主から敬称をつけられるほど、それなりの立場だろう。体術剣術の教師をつけらるほどの稼ぎもあるだろうに。

「あー、ルキエルは、ちょっと複雑で。ま、まあ、今日のところは、ありがとうございます。また、別の日に声かけてください。店にある商品でしたら、おまけしますよ。可愛い女の子のお土産にいいものも扱っていますから」

 店主の息子は、すぐに場を誤魔化した。こう言われてしまえば、誰も、深入り出来ない。

「そうだ、いいのがある。ルキエルに今度、持たせようと取り寄せたんだ。良かったら、可愛い女の子の贈り物に持っていってください。今日のお礼です」

 そして、女の子向けのいい感じの商品を手渡された。確かに、若い女は、こういう感じのものを喜ぶな。見た限り、大した額の商品ではないのだろう。

 皆、それを受け取って、店から離れた。

 ハガルは、少し離れてから、店を心配そうに振り返った。武道大会の真っ最中で、観光客が大勢いるというのに、店は閉店の看板を出していた。







 どさくさで、皇帝の儀式に持ち込んだが、ハガルの抵抗は酷かった。

「今日は、そういう気分ではありません」

「私はそういう気分だ」

「ルキエルが倒れたんです。心配ぐらいしたい」

「………わかった。これで、我慢してやろう」

 ハガルが真剣に拒否したので、私は我慢した。ただし、ハガルを胸に抱いて横になる。

 皇帝の儀式に持ち込んで、何もしなかったのは、これが初めてのことだ。ハガルは、私の胸に当然のように顔を埋めながらも、暗い顔をする。本当に、心配しているのだ。さすがに、ここで手を出すほど、私も愚かではない。

「ラインハルト様、もし、ルキエルが、本戦でそれなりの成績を残せた場合、騎士になれますか?」

 突拍子もないことをいうハガル。どうなるかなど、ハガルが一番、わかっていることだろう。

 あのルキエルという男は、騎士になれない。優勝したとしても、騎士にはなれない。何故って、騎士になるための体力がない。

 ルキエルは、技術が化け物だ。だが、予選だけで倒れてしまうほど、体力がない。それでは、騎士には出来ない。

「わかっています、無理だということ。別の道を作ってやれたらいいのに」

「指導者にはなれるだろう。あれほどの技術を持っているんだ。だいたいは腕っぷしを鍛えるだけで、技術が疎かになってしまう。その技術を教える指導者としては、取り立ててやれる」

「では、本戦に………でも、ルキエルは棄権する、と言ってました」

「明日は貴族の学校の予選だ。一日もあれば、体も回復するだろう。そんなことをいうなら、ハガルが魔法でちょちょいとやってやればいいだろう」

「それは、卑怯なことです。ルキエルは実力で戦ったんですから」

 妙なところでハガルは堅いな。

 ハガルは私から離れて起き上がった。

「ハガル、どうしたんだ?」

「ルキエルの知り合いの店に行ってみます。ルキエルの体調が回復しているなら、本戦に出られるように、口添えしてもらいます」

「そこまでしなくても」

「ルキエルには、別の道があってもいいはずなんです。諦めたくない」

「やめなさい」

 私は無理矢理、ハガルの腕を引っ張って、胸に強く抱いた。

「離してください!」

「あの男が望む時、力をかしてやれ。そうでないのなら、やめなさい」

「私がしたいだけです。私の我儘です」

「あの男は、望んでいないぞ」

 なんとなく、そう感じる。ルキエルは、表舞台に出たいわけではない。

 予選では、あれほど目立ったというのに、ルキエルはすぐに気配を消して、ハガルの元に戻ってきた。予選を見た者たちは、ルキエルを英雄のように称えていた。なのに、ルキエルはそれを避けた。

「だいたい、今回の出場だって、あの男は、賭けを勝たせるためのものだというじゃないか」

「私が、いつも賭けで負けるから、勝たせてやる、とルキエルが言いました。確かにそうです。ですが、私はわざと負けてるだけです!!」

 本当か? 頬を膨らませていうハガルを私は疑う。勘だけで本気で賭けて、負けてるように見えるんだが。

 ハガルは不機嫌になって、私に背中を向ける。それでも、私は後ろから、ハガルを抱きしめて眠った。






「なんで付いてくるんだよ!?」

「別にいいだろう」

 朝から、私はハガルにべったりくっついていた。ずっとくっついて、そのまま、お忍びで、街に下りたのだ。

 心底、うんざりした顔をするハガル。私はそんなの気にせず、ルキエルの知り合いの店の前までついて行く。

 武道大会中であるというのに、この日も、閉店の看板が立っていた。その周囲はとんでもなく賑やかだというのに、異様だ。

 たまたま、従業員が裏手から表通りに出てきた。それをハガルは捕まえた。

「なあ、ルキエルはいるか?」

「あの、どちら様で」

「見習い魔法使いのハガルだ。俺の名前、知らないわけがないだろう」

「………少々、お待ちください」

 従業員は、疑うようにハガルを見ながらも、裏手から店の中へと入っていった。

 ハガルは有名だ。王都民で知らないのは、流れものくらいだろう。それでも、一週間もいれば、噂くらいは耳にする。それがハガルだ。顔を知らなくても、名乗られてしまったら、知りませんとは言えないな。

 しばらくして、店の裏手から出てきたのは、ルキエルだった。

 ルキエルは、まだ、体調が良くないようで、顔色が悪い。だけど、ハガルを見ると、笑顔を見せた。

「どうした? 今日は、貴族の学校の予選を見に行くと言ってたよな」

「ルキエルが来ないんだ。今日の観戦はなくなった」

「そんな、俺一人いないくらいで」

「ルキエルがいないと、詰まらないからな。体調、あまり良くないのか?」

「昨日のは、思ったよりも疲れた。難しいな、手加減するのって」

「手加減してたのかよ!?」

 驚いた。私は声を出さないように、耐えた。あれで手加減していたということは、本気になれば、どうなっていたのやら。

 話が長くなりそうと感じたルキエルは、近くの軽食屋を提案した。

「えっと、この人はー」

「気にしなくていい。別の席に行かせればいいから」

「ハガル!?」

「あんたが勝手に付いてきたんだろう。離れろ」

 不機嫌に私を押すハガル。本気だ。

 お忍びだから、権力を振りかざすわけにはいかない。ルキエルは私の正体を知っているから、困っているが、ハガルの態度に、苦笑する。

「まあ、いいじゃん、一緒で。今日は、ほら、どこも席がいっぱいだ」

 ルキエルのほうから譲歩してくれた。

 実際、どの食事処も、席がいっぱいだ。相席をという声まで聞こえる。

 丁度、三人分の席が空いているテーブルについた。ルキエルは馴れているようで、ハガルの分までは同じものを頼んだ。しかし、私の分は頼まなかった。

「えーと、あんたは、甘いのは大丈夫? ここ、甘味屋なんだけど」

「茶だけでいい」

「わかった」

 ルキエルは、私の好みかもしれない飲み物を頼んでくれた。あれだけで、甘いのはダメだと悟ったのだろう。

「わざわざ、俺を探しに来るなんて、珍しいな。何か用か?」

 約束以外で会うことが珍しいのだろう。ルキエルは首を傾げた。

「昨日、あんなに顔色悪かったから、心配になったんだ。大丈夫か?」

「まだ疲れた感じかなー。本戦は棄権にしておいて良かった。絶対に負けてたよ」

「え、本当に棄権したのか!?」

「そうだよ。さすがに本戦を手加減で勝ち進むのは無理だ。予選で懲りた」

 さらりと信じられないことをまたいうルキエル。

 見た限り、華奢で、力のない感じの男だ。こうやって、ルキエルとハガルが並んでいると、似通っているものを感じる。きっと、腕っぷしも同じだろう。

 嘘のように聞こえるが、ハガルは信じているようだ。昨日の予選を見ていたからだ。

「なあ、ルキエルは、騎士団の指南役とかやってみたくないか?」

 前触れもなく、ハガルはそんなことをルキエルに質問する。らしくないな。

 突拍子もないことだ。ルキエルは最初、呆然とする。そして、首を傾げる。

「ごめん、周りが煩すぎて、よく聞こえなかった。何?」

「だから、騎士団の指南役にならないか?」

「………お前、バカだろう」

 耳の近くで言われたルキエルは、片耳をおさえて顔を顰めた。

「あのな、騎士団の指南役ってのは、よほどの腕前だぞ。それこそ、騎士になれる奴だ。俺みたいな非力な男になれるわけないだろう」

 ルキエルは細腕を見せていう。私の前に、その細腕を差し出して、非力っぷりを見せびらかした。

「あんだだって、わかるだろう。こんな細腕では、あんただって投げ飛ばせない」

「それでも、お前は、大男を叩き伏せたな」

 不可能であるが、倒せた事実を私から言ってやる。相手の力と体躯を利用して、最小限の力で、ルキエルは腕も体躯も立派な男たちを叩き伏せた。あれを見て、私だって興奮したものだ。

 まさか、私がいうとは思ってもいなかったルキエルは呆れた。

「あんた、その、あの貴族から聞いたけど、こ、皇帝、なんだろう?」

 周囲に聞こえないように、ルキエルはいう。

「私は、ハガルの将来を買っている貴族ラインだ」

 そして、それを笑って否定してやる。今はお忍びだ。認めない。

 隣りで聞いていたハガルは、呆れたように私を見た。そして、苦笑する。

「ルキエル、こいつは、そこら辺の一貴族だ。無視しろー」

「酷いな!!」

「いいんだよ!! 勝手についてきたんだからな」

「そんなこというな。大事にしろよ」

 同じように見えるが、ルキエルのほうが落ち着いている。ハガルより二歳上、と言っていたな。ハガルは長男気質が強いが、ルキエルの前では、弟な感じだ。ハガルは、不貞腐れて、食べ物よりも先にきた飲み物を一気に飲み干した。

「ハガルは、俺なんかのことよりも、今の立場を大事にしろよ。せっかく、覚えが目出度いんだ。一人前の魔法使いになって、俺にご馳走を驕れよ」

「俺は、ただ、ルキエルと一緒に同じ所で働きたいんだ」

「お前なあ、遊びだから対等だけど、城で働いたら、それがなくなるぞ。俺がそこら辺にいる奴だから、お忍びの皇族様相手でも、ため口だ。城で働いたら、もう、ハガルともため口ではなくなる。この関係でいいんだ」

「………」

 言われて、ハガルも気づかされた。

 本来、ルキエルとハガルは対等ではない。ハガルは見習いとはいえ、魔法使いである。しかも、大魔法使いの側仕えだ。実際の身分は、実は、高いのだ。

 お忍びで遊んでいる皇族三人だって、貴族よりも上なのだ。

 ルキエルは、城とは関係ない一般人である。関係ないから、遊び相手として、無礼なことも出来る。だけど、城仕えとなれば、それは許されなくなるだろう。ハガルと皇族三人が、どれほど言葉を重ねても、ルキエルはそういうわけにはいかないのだ。

 ルキエルは、ハガルの頭を乱暴に撫でた。

「ありがとな。俺のこと思ってだもんな。同じようなこと、皇族の人たちにも言われたぞ」

「そうなのか!?」

「俺は、覚えが目出度いからなー。けど、みんな、物分かりよく、納得して、諦めてくれた。お前も、諦めて、ただの遊び友達で満足しろよ」

「ずっと、遊び友達でいてくれるのか?」

「遊びでない友達になれるといいな」

「俺は、友達だと思ってるからな!!」

「そうなんだ。それは、嬉しいな」

「おいおい、それじゃあ、俺だけが友達と思ってるみたいじゃないか」

「友達友達」

「軽い!!」

「あはははははは」

 怒るハガルに、ルキエルは年上の余裕であしらう。笑って、だけど、すぐに真面目な顔をするルキエル。

「俺は、まあ、この通り、腕っぷしはないから、騎士は無理なんだけど、俺の弟は、腕っぷしも才能もあるんだ。だから、その、もしもの時は、弟のことは、目をかけてやってほしい」

「ルキエル?」

「聞き流してくれていい。頭の片隅でいいから、覚えていてくれればいいんだ。大事な弟なんだ」

「それ、わかる。俺も弟たち妹たちは、大事だ」

 ハガルの家族愛は狂っているけどな。私は頑張って、口を噤んだ。二人っきりだったら、間違いなく、叫んでたな。ハガルの家族への愛情は気を付けないと、破滅である。父親がそうだからな。ハガルが甘やかしすぎて、最低最悪な父親になった。

 少し、泣きそうな顔をしていたルキエルは、すぐに笑顔に戻り、どこかへと視線を向ける。

「悪い、あいつが来た。支払いは済ませておくから、ゆっくりしてってくれ」

「え、そんな」

 ハガルは止めようとするが、ルキエルはさっさと席を立って、店を出ていった。その先には、いつぞや、ルキエルにべったりくっついていた貴族がいた。ルキエルは、貴族の前で子どものように笑って、甘えていた。

 視線を戻せば、嫉妬で顔を歪めるハガルを見ることとなった。ハガルは、ルキエルが甘える貴族に嫉妬の視線を向けていた。

「私を前にして、他人に嫉妬するとは」

「私の友達なのに」

 私と二人っきりだから、ハガルは丁寧な口調で怒った。力の強い妖精憑きの悪い部分が出てきた。

 力の強い妖精憑きは妖精寄りだ。妖精は欲張りだ。あれもこれも欲しがり、囲うのだ。ハガルは千年の才能の持ち主だけあって、かなり貪欲なのだ。そして、力が強いから、諦めない。力強い分、手に入れられる能力が高いからだ。

 可哀想に。ルキエルは、ハガルの執着の一つとなっていた。ハガルは諦めない。どうやってでも、ルキエルという友を手に入れるのだ。そのために、もう、囲うための算段をハガルはたてている。ハガルにとって、それは簡単なことのはずだ。

 しかし、ルキエルという男は、そう簡単に手に入る者ではない。表向きはただの人である。だが、実際は野良の妖精憑きだという。その実力は計り知れない。

 もしかしたら、逆かもしれない。ハガルがルキエルに執着しているように見えて、ルキエルがハガルに強く執着して、囲っているのかもしれない。

本来は、年齢制限ありように書いていたのですが、そういう要素がなかったので、ここに更新しました。思いつきなので、読み流してください。

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