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呪いの支配者  作者: 春香秋灯
戦争派、融和派
54/101

戦後処理は穏便に

 聖域間の移動が出来るのだ。母サツキはただ、敵国に強襲をかけただけではない。遅れて、王国の国王がやってきた。

 国王は、まだ回復しきっていないが、しっかりとした足取りで、この歩くのも大変な所を抜けて、王国側の陣地に立った。

 国王がきたのだ。すぐに、王国側は膝をつく。第一王子アリオットと王太子イオス、リスキス公爵の血縁サンセは軽く頭を下げる。帝国側の人間も、頭を下げるだけである。

 会談が始まると気を利かせた誰かが、椅子を持ってきてくれた。その椅子に国王は座り、拘束されたまま、立たされている敵国側の代表たちと対峙する。その中に、王弟もいた。

「あ、兄上」

「お前はもう、死んだんだ。そう、契約をした」

 せっかく生きて再会したというのに、国王、冷たい。王弟は絶望で真っ青になる。きっと、感動の再会を夢見てたのだろう。

「父上、叔父上ですよ」

「叔父上が、生きていましたよ」

「黙れ。お前たちの叔父は、お前たちが生まれる前に死んだ。その男は他人だ」

「そんな」

 肉親の情なんてない。国王は息子二人からの訴えも切り捨てた。

「さて、不可侵条約をまた、結ぼう」

「和睦を要求する!! 我々は、王国の王族を長年、保護しました。その返還にも応じます」

「死んだ者だ」

「生きてます!!」

「兄上、どうか、受け入れてください!!」

「往生際が悪いな。これだから、妾の子は」

 とうとう、国王の本音が漏れた。国王、王弟のことなど、これっぽっちも家族なんて見てない。

「父上、なんてことを!?」

「それは、つまり、私のことも、そう思っているということですか」

 王太子イオスは父親を責め、第一王子アリオットは絶望した。

 こんな、会談の場で、親子喧嘩かー。そんなこと、俺は他人事のように見て思った。それどころじゃないだろうに。王国側は犠牲なしだが、敵国側は、とんでもない被害を受けている。親子喧嘩に、怒りしかないだろう。だが、負けたのだから、黙っているしかない。

「そんなにいうなら、お前たちが、拘束をといてやれ」

「わかりました」

「叔父上、今、解きます」

 第一王子アリオットと王太子イオスは、素直に敵国の代表の拘束を解いた。敵国側の陣地には、母サツキが強襲に使った戦力は、すでに王国側に戻っていた。誰も、アリオットとイオスを手伝わない。

 簡単に拘束はとれた。が、すぐに、形勢逆転とばかりに、アリオットとイオスは、敵国の代表に羽交い絞めにされた。

「さあ、大事な息子は人質となった。和睦を要求する」

「父上、お願いです!!」

「どうか、外交をしてください!!」

 必死に訴えるアリオットとイオス。それを国王は嘲笑った。

「確か、あの二人も、妖精の契約をしたんだったな」

「もちろん、しました」

 母サツキは嫣然と微笑んで答える。

「そうか、なら、死んだものとして、扱う。お前たちはもう、死人だ」

「そんなっ」

「サツキ、どういうことだ!?」

 国王の言葉に、アリオットとイオスはサツキを責めた。

 サツキはいつものように笑っている。

「契約は、きちんと説明したでしょう。あれは、昔から行われている、絶対の契約です。妖精の契約、と呼ばれていますが、神を介した契約ですから、絶対に破れないのですよ」

「だからって、死人になるなんて」

「あれは、捕虜になった場合だろう!?」

「今、捕虜になっています」

「これは、芝居だ」

「そうだ!!」

「どうでしょうか。そこは、神の判断です」

 味方と思っていたサツキは、アリオットとイオスを突き放す。

 母サツキは、この戦場へ向けて出発する前に、妖精の契約を強行したのだ。もう、サツキの言いなりになっていたアリオットとイオスは、素直に妖精の契約を行った。

 それに、戦場に向かうリスキス公爵の血縁サンセが集めた兵士たち騎士たちにも行っていたから、普通にやったのだ。

「愚かですね。この契約、余程のことがない限り、王族、皇族には施しません。こうやって契約させるのは、戦争で、わざと、捕虜にして、始末するためです」

「裏切ったのか!?」

「痛みを知っているいい人だと思ったのに、全て嘘だったのか!!」

「こんな失敗作、よくもまあ、王太子と第一王子にしましたね」

 蔑むようにサツキは国王を見た。

 常に笑っていたサツキが笑顔を消した。本性を現した、とばかりに、見えただろう。

「私の子ではないからな。そりゃ失敗する」

 せせら笑う国王。それを聞いて、その場にいる全員が驚愕する。

「叔父の側がいいのだろう。良かったな、それが、お前たちの父親だ」

「な、何を」

「そんな話」

「お前たちは、本当に弟そっくりだな。その甘い考え方といい。やはり、血は争えないなぁ」

 この場で、国王は暴露した。

「もう、帝国にも知られている。隠す必要はない。お前たちも、計算とかしたらどうだ。お前たちの種付けは、婚姻前だ。一応、国王となって戦争に行くため、婚姻はした。しかし、私は手をつけていない。なのに、王妃は妊娠していた。そして、弟の恋人も妊娠していた。誰が手をつけたのか、王妃に問いただしてみれば、弟とだという。どちらにしても、王族だ。だから、私は我慢した。弟の恋人も、王族の子の妊娠だからと、私の子として、側室に迎えた」

「そ、そんな、王妃は、嘘を」

「見てみろ。よく似ている。私の子ではないな。私には似ていない」

「あ、兄上」

「お前は本当に、私の物ばかり欲しがった。まさか、私の婚約者にまで手をつけるとはな。泥棒は、母親似か」

「母上のことを悪く言わないでください!! 母上は、身をわきまえて、日陰の人として生きました!!!」

「そう見えただろうな。何かが起こると、王妃が、と泣いて先王に縋るから、母はいつも、先王に殴られていた。そして、お前の母親が泣くと、私の母が責めれる。調査も何もされていない」

「それは、王妃様が」

「だから、私は我慢してやったんだ。お前は先王に愛されていた。そして、お前を排除する機会を狙っていた。戦争で捕虜になるようにしてやったんだ。だから、お前には妖精の契約を施したんだ!!」

 国王の憎悪は深かった。

 王弟は、幸福過ぎて、わからなかったのだ。女の嘘も見破れない、そんな軽い頭だから、簡単に、敵国に篭絡されたのだろう。

 そして、王弟の血をひくと暴露された第一王子アリオットと王太子イオスは、真っ青になった。確かに、この二人、王弟の息子だな。頭の軽さが同じだ。

「お前たち、恨むなら、母親を恨め。そう教育したのは、母親だ。立派な王族であれば、私も許してやった。私は国王だからな。王国第一だ。だが、国を売るようなお前たちを許さぬ。それが、国王だ」

「さ、サツキ、どうか」

「助けてください」

 まだ、母サツキに縋る第一王子アリオットと王太子イオス。

 サツキはというと、いつもの笑顔をアリオットとイオスに向ける。

「何を言っているのですか。あなたがたは、帰りたいのであれば、帰ってこればいいのです。もう、あなた方も、王弟も、第一王子も、王太子も、役には立たないと気づいたのでしょう。解放してあげてください。それが、文化的なあなた方がするべきことです」

「確かに」

「そうだな」

「もう、王国に戻るがいい」

 敵国側は、捕虜人質である王族三人を解放する。

 王弟は迷った。王国ではすでに死人だ。行ったとしても、行く場所がないのだ。

「おじ、いえ、父上、戻りましょう」

「我々がいます」

 第一王子アリオットと王太子イオスが、王弟の腕をとる。アリオットとイオスは、人質となったが、ついさっきまで、王国側にいた。

「そうだな、皆で、兄上に謝ろう」

 そして、三人仲良く、王国側の領土へと足を踏み込んだ。

 一瞬にして、三人は火だるまになった。三人は仲良く繋いでいた手を離し、地面に転がり、どうにか火を消そうと暴れまわった。だが、火の勢いは緩まることはなく、最後は、動かなくなった。

 真っ黒こげになった三体の死体が、王国と敵国の国境の境の上に転がった。

 目の前で起こったことに、敵国側は蒼白となった。それは、王国側もだろう。

 だが、国王は平然としていた。母サツキもそうだ。皇族セキラは知っていたのだろう、呆れていた。

 俺は、見慣れているから、気にならなかった。

「妖精の契約は絶対です。捕虜となった者は、王国帝国では死人となります。逆に言えば、王国帝国に足を踏み入れた途端、契約通り、死人となるのですよ」

 母サツキは三体の死体を見下ろして、嘲笑った。




 敵国と王国の不可侵条約は、さっさと締結された。もう、敵国は王国の言いなりだった。それどころか、さっさと王国から離れたくて、不条理を受け入れた。

 戦争では、卑怯な方法で、王国は勝ったようなものである。帝国へ苦情が出てもおかしくないのだ。

 しかし、不可侵条約の締結の場には、母サツキがいた。あの女は、また、王族二人を篭絡したように、敵国を篭絡したのだ。自らの出自を話し、綺麗事を言い、王国にも、敵国にも、味方と思わせるように甘言を弄した。

 側で聞いていた国王でさえ、母サツキに恐怖した。





 帝国へと戻る船が出発するまで、まだ時間があるので、俺たちは、港町を散策していた。

「船なんか乗らなくても、そのまま、聖域使って転移すればいいのに」

 三日間の船旅がイヤなのだろう。だから、珍しく、皇族セキラはひらめいた。

「あれ、嘘です」

 ところが、母サツキはあっけなく、嘘だと言ったのだ。

「え、出来たって」

「ハサンへの嫌がらせです。自尊心の高い妖精憑きの鼻っ柱を折ってやるための嘘ですよ」

「だけど、聖域間の転移をしないと、奇襲は不可能ですよね」

 どう考えても、敵国への奇襲するには、まず、敵国へ侵入するための方法がないのだ。

 不可侵条約が生きている間は、王国民は敵国の領土に行けない。それは、帝国民もだ。

「簡単です。出来る人に協力してもらえばいいのです。もともと、奇襲をすることは、ハガルと話し合って決めていました。あの戦地の地図も、帝国で前もって見せてもらいました。敵国側の戦地の近くに聖域があることがわかりましたので、ハガルに協力してもらいました」

「だから、王都の貧民街の奴らがいたわけか」

 矛盾が解消された。

 俺は、元々、王国へ船で渡る日程よりも前に、俺の手勢を別の船で王国へ渡らせていた。この事は、リリーベルと母サツキには話してあった。万が一、王国内で内乱が起こった時、俺たちは真っ先に危険だからだ。そうして、密に手勢を隠し持ち、王国で会談である。実は、王国の城の周囲を俺の手勢が囲んでいた。万が一の時は、王国の城が攻められることとなっていた。

 結局、母サツキのお陰で、内乱は起こらなかった。順当に戦争が起こるということで、わざと母サツキとリリーベルには王都に残ってもらったのだ。そして、ハガルと道具で連絡をとりあって、戦争開始を待っていた。

 あの石、制作者であるハガルであれば、使用がわかるのだ。だから、戦争の開始はすぐにわかった。そして、ハガルは帝国から王国へ移動した。その移動の際、ちょっと戦力足りないかも、とハガルは思って、無理矢理、王都の貧民の手下を巻き込んだのだ。

 簡単な騙しである。冷静になれば、母サツキの嘘なんて見破れる。しかし、魔法使いハサンは、散々、サツキの後手に回っていたし、排除されていた。気づいた時には、王族たちはサツキの手のひらで踊らされていた。もう、魔法使いハサンの出る幕は失われていたのだ。

 そんな、自尊心を傷つけられていたハサンに、サツキはトドメを刺したのだ。女って、本当に怖いねー。気を付けよう。

 そして、当のハサンは、離れた所で、小さくなっていた。戦争でも大した活躍もない、地味な存在であった。

「そういえば、国王に毒を盛った奴、見つかりましたか?」

 まだ、王国内の問題は解決していない。国王を毒殺しようとした犯人は見つかっていないのだ。その報告を受けていない。

「王妃と側室ですよ」

「あれ、病気療養って、まさか」

「よくある話です。表向きは、病気療養と言っておいて、実際は幽閉です。生きているかどうか。今回のことで、さすがの国王も、我慢をやめたのでしょう」

 母サツキは溜息をついた。

「国王の気持ち、わたくしは理解出来ます。優秀な人であるゆえに、許したのですよ。ですが、さすがに、その許しの回数を越えたのです。国王は、決して、悪い人ではありません。優しい人ですよ。ただ、王妃も、側室も、子どもたちも、王弟も、国王に甘え過ぎて、反省しませんでした」

「俺も気を付けよう」

 俺はよく、ハガルに謝ってばかりだ。ほら、よく悪いことする。妖精の呪いの刑だって、もうやりません、と言いながら、やったんだ。だけど、俺が謝ると、ハガルはすぐ許してくれる。

 もうそろそろ、ハガルも我慢の限界だろうな。

「何を気を付けるのですか?」

 何気ない呟きなんだが、母サツキは耳ざとく聞きつけた。

「俺、ハガルに謝ってばかりだからさ。謝らなくていいようにしないと」

「謝っているからいいんですよ」

「けど、すーぐ、やっちゃうから。兄貴にもさ、いっぱい、叱られるし」

「謝っているのでしょう。それでいいんです。実は、それが一番、大切なことなんですよ」

「同じ失敗するのに?」

「謝られると、まあいっか、と思ってしまうのです。ロイドなら仕方ない。それでいいのですよ。逆に、寂しくなります」

「えー、そうかなー」

「あなたはわたくしの子の中で、一番、我儘でした。ものすごく手がかかりましたよ。それが、普通なんです。ですが、今のあなたはただ、甘えているだけではありません。きちんと、反省しています。また、同じことをしても、皆、許してくれますよ。だって、あなたの失敗は、小さいことですから」

「そっかー」

 心、広すぎだ。

 俺はちょっと安心していると、母サツキは、俺を心配そうに見てくる。

「ですが、反省するべきことはあります。契約書のこと、聞きましたよ」

 耳が痛い話が出てきた。

 俺は、元使用人のメグルと、投資の契約をした。俺はお嬢さんサリーの護衛で報酬を受け取ってはいたんだが、使い道がないため、貯まっていく一方だった。しかし、使うには多いし、持ち歩くと、泥棒扱いされるかもしれない。そこで、生家が商人だというメグルに投資したのだ。

 メグルは、俺が渡した金を元に商売を始めた。俺は、ほら、失敗してもいいから、と言ったんだが、メグルは誠実でいたいらしく、契約書を作ったのだ。

 俺は、失敗しても返金しなくていい、という条項を書かせた。メグルは、これはさすがにダメだ、というので、他の条項を増やした。

 万が一、売上が出た場合は、儲けの半分を俺に渡すこと。

 俺が金銭以外で手伝えることは、協力すること。

 この二つを突きつけてきた。俺は失敗すると思っていたし、手伝うといっても荷物運び程度だろう、と笑って承諾したのである。

 そして、俺は失敗した。俺の肖像画の売買権を次兄の友人である商人に売られたのだ。ほら、金銭以外で手伝えるkとおは協力する、を承諾したのだ。俺の肖像画も、それに含まれる。

 契約だし、そこのところは、俺も反省した。筆頭魔法使いハガルからは、認識阻害の道具を渡されたので、帝国内では常に身に着けるようにしている。

 この事に、母サツキは注意しているのだ。

「あなたも、契約の恐ろしさを今回でわかったでしょう」

「ごめんなさい」

「安易に、契約をしてはいけません」

「すみません」

「どうしても、という時は、ハガルに相談しなさい」

「以後、気を付けます」

 俺、とうとう、母サツキにまで説教されちゃったよ。もう、俺、どうしようもないな。

 俺の謝る態度に、サツキは疑いの目を向ける。

「今回は、相手が優しかったからいいですけど、これ、奴隷の契約ですよ。まだ、妖精の契約でないだけマシですが、本当に気を付けてくださいね」

「気を付けます」

「なんだか、イヤな予感がします。何か、見落としているような感じです」

 サツキは、何か、悪いものを感じているようだ。幽体だから、そういう予感が鋭くなったんだろうな。

「今回は、別に失敗してないし、俺、何もやってないから」

 むしろ、母サツキが暗躍してたな。俺、戦争に参加したけど、何もしてないよ。

「契約が引っかかります。こんな短期間で、大きな変化が起きるとは思えませんが」

「そうそう、半月も経ってないよ。何もないって」

 心配しすぎだ。やっぱり母親だから、子どものことが心配になるんだな。そう、俺は呑気に考えていた。

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