王太子と仲良くしよう
次の会談は王太子イオスである。さすがに王太子との会談には、王国の騎士の数が多い。威圧されちゃったよ。
「王太子を後回しというのは、とても失礼なことをしてしまいましたね。アリオット様も恐縮されていましたよ」
「兄上のことは名前で呼ぶのですね。どうか、私のことをイオスと呼んでください」
「わたくしだけでは、さすがに出来ません。この場にいる帝国民に許可をください」
「もちろん。皆さん、帝国からの賓客ですから」
こっちも、すっかり、母サツキの言いなりだな。最初は、俺だけでなく、サツキだって、貧民め、と蔑んでたのにな。
ここからは、通例通り、皇族セキラが出る。
「アリオットから、話は聞いた。君も、融和派なんだってね」
「セキラ殿は、戦争賛成派か?」
「もちろん。皇族は戦争を恐れない。戦って、勝利する。帝国では勝利こそ正義だ。間違っていても、勝利すれば、正義になる」
「そういう考えだから、野蛮と言われるんだ」
それぞれの考え方が違うからなー。俺は話し合いとか、面倒なので、暴力で解決のほうが楽なんだよ。
アリオットで、色々と出尽くした。また、王太子イオス相手に、同じ対応は詰まらないなー、なんて俺は思っていた。本当は、二人一緒に会談が楽だったのに。
母サツキのお手並み拝見となる。サツキは、いつものように笑顔である。
「サツキも同じ意見ですか?」
さっきは、言葉を濁してたな。王太子イオスにも同じ対応をすると思っていた。
「まず、わたくしは、戦争に出られるほどの力を持っていません。だから、無責任なことが言えないのです」
「戦争に出られれば、戦争賛成派なんですね」
落胆する王太子イオス。サツキに何か期待してたんだな。この女、復讐に一生を捧げたから、生易しい考え持ってないんだよ。
だが、サツキの意見って、とても深かった。
「どちらが正しい、とは言えないのは、どちらの経験もないからです。わたくしは、騙されて、お家乗っ取りをされました。融和派は、まず、話し合いが出来たのでしょう。ですが、わたくしは、話を聞いてもらうことすら出来なかったのです。亡くなった母の友人たちにも会いに行きましたが、相手にもされませんでしたよ。話し合いって、対等にならないと、出来ないのですよ」
言葉も出ない、深い話だった。王太子イオス、真っ青になって俯いた。きちんと最後まで話を効かないから、失敗しちゃったな。そこは、兄弟だ。
「話し合いが出来ないのなら、次は武力です。ですが、わたくし、この通り、力もありません。結局、どちらを選んでも、わたくしは失敗します。帝国では、わたくしは敗者であり、弱者なんです」
「それは、帝国だ。王国なら、力になろう。今からでも」
「もう、随分と時間が経ちました。知っていますか? 帝国では、成人前の後継者は、保護される対象なんです。わたくしが乗っ取られたのは、まさしく、成人前です。結果、家族も、婚約者も、一族も、皆、犯罪者となりました。ですが、わたくしは貴族を捨てました。終わった後で助けられたって、もう遅いのです。生家を追い出され、そんなわたくしを助けてくれたのは、平民や貧民です。貴族なんて、わたくしにとっては、最低最悪です。だから、捨てたんです」
「………」
「アリオット様もイオス様もお優しいですね。わたくしの力になりたいと言ってくださって、ありがとうございます。そういう人に溢れる世の中でしたら、きっと、わたくしは貴族の当主となって、立派になっていたでしょう。どうか、イオス様も、手が届く所だけでいいですから、助けてあげてください」
「もちろん、そうする」
「約束しなくていいのですよ。そういう気持ちを少し、持っていてくださいね。王族は、王国第一です。切り捨てる残酷さも必要ですよ」
「………」
「どうかしましたか?」
黙り込む王太子イオス。イオスは、周囲にいる騎士たちの前では言いづらいことをサツキに言いたいようだ。
「悪いけど、お前ら、出てってくんない? 王国帝国で、大事な話があるんだよ」
「な、貴様はどうするんだ!?」
「俺は、セキラ様の側離れるわけにはいかないんだよ。俺、口は堅いから心配ない。妖精の契約してるし」
「信用出来るか!?」
「さっき、騒ぎをおさめてやったのは誰だ? 皇族の前で暴力沙汰となった王族の失態、黙ってやってんだぞ。本来、お前らが止めるべきことだ」
「っ!?」
「リリーベル、相手をしてやってくれ」
「はーい」
騎士どもよりもいかついリリーベルは気持ち悪い品で、騎士たちを押した。うーん、あの騎士全員が相手でも、リリーベルには勝てないな。
王太子イオスは、まだ、迷っている。俺がいるからだなー。皇族セキラは、この場からは離れられないんだよなー。
「ご心配なく。息子は、きちんとわきまえていますよ。黙れと言ったら、貝のように堅く口を閉ざしていますもねー」
「俺、帝国でも、皇族とか、筆頭魔法使いの秘密、いっぱい知ってるんだ。ぜーんぶ、死ぬまで口外しません」
「貧民だと聞いてたんだが」
「色々とあるんだよ。貧民なんだけど、皇族の護衛をやらせるほど、俺にもすごい秘密があって、それを帝国に握られてる。お互い様だ」
「それ、どういう秘密なの!?」
セキラが俺の秘密に食いついてきた。
「話すわけないだろう!!」
「ハガルから聞き出してやる。そして、一生、ロイドにボクの護衛をしてもらうんだ!!」
「やめろ」
冗談じゃない。帰国したら、ハガルにきっちり口止めだ。
そんな俺とセキラのやり取りで、王太子イオスは肩の力が抜けたようだ。座る姿勢を崩した。
「私はね、王太子でいたくないんだ。むしろ、王族でもいたくない」
「それはまあ、お気持ち、お察しいたします」
「わかるはずないだろう」
「わたくし、母を亡くしてからずっと、当主のお仕事を押し付けられていました。一応、貴族の当主の心得を母から教えられましたから、当然とやっていました。ですが、わたくしの悪い噂を信じる領民に石を投げられた時、バカらしくなりました。こんなに頑張って、良い領地運営をしているというのに、誰も彼も、感謝もしませんもの。だから、生家を追い出された時、喜んで、全て捨てたのです。イオス様は王太子ですもの。重責ですものね」
「そ、そうだったんだ」
頭の軽い貴族令嬢ではなかった。サツキの過去に、王太子イオスは驚いて、ありきたりな言葉しか吐けなかった。
「イオス様の側近はどうですか? そんなことをいうからには、何かされたのでしょう」
「い、いや。ただ、兄上のことを悪く言われて」
「まあ、お兄様のことが好きなのですね」
「羨ましい、と思っている。兄上は、第一王子だけど、勉強も、武術も、努力しなくてもこなしてしまう。私は、倍やって、やっと、兄上並の成績だ。私が兄上に勝てることは、血筋くらいだ」
「まさか、王太子をお兄様にお譲りしたいのですか?」
「本当は、兄上が王太子だ。私は、予備になるべきだ。そうすれば、こんな派閥は生まれなかった」
王太子イオスは、派閥が出来たことに、蟠りを持っていた。
「派閥が出来るということは、両者、いい所があるのでしょう。アリオット様にも、国王にする何かを感じる何かがあるのでしょうね。ですが、イオス様にも、血筋以外に、何かあるのでしょう」
「何だろう」
「アリオット様と同じように、平和を思う気持ちではないでしょうか。派閥で二分しているということは、甲乙つけがたいのでしょうね。平和なんて、王国らしい考え方ですよ。それを王族が持つというのは、実は、難しいことです。王族教育では、平和よりも、王国の安寧を重要視します。そのための非情さを王族に教え込むものです。イオス様、優しいのですね」
「叔父に会った時、戦争の悲惨さを聞かされた。たくさんの犠牲が出たんだ、と。さらに、帝国の魔法使いの非情さを聞いた。魔法使いは、一瞬にして、敵の軍勢を燃やし尽くしたんだ。それを叔父は捕虜となって見たと言っていた」
なるほど、それで、魔法使いハサンの同席は拒否られたわけか。
一応、ハサンも同席を望んだのだ。サツキが拒否したのもあるが、王族側もハサンを拒否したのだ。魔法使いの力を恐れたのだ。
「きっと、魔法使いのせいで、王国は、恨みを買うこととなる」
「そうなりますね。ですが、それを受け止めるのが、王族皇族です。あなた方は、そういう立場によって、恩恵を受けているのです。こうやって、最高の衣食住を与えられるのは、為政者であるためです。育ちと立場って、どういう所でも重要なんですよ。わたくしが貧民と聞いた時、王国の皆さんはどう見ましたか? そういうことです。勝手に、とか、そう言ってはいけません。王族であるからこそ、特別なのです。その特別を正しく使ってください。国王って、それが上手に使えるかどうかですよ。不勉強をロイドがいいましたが、優秀な側近を一人つけておけば、問題解決します。優秀過ぎる為政者は、時には、孤独となります。まずは、人を見る目を養ってください。あと、せっかく仲が良い兄弟なんです。仲良くしてください。周囲に振り回されるなんて、勿体ない」
「あなたは、家族に裏切られたというのに」
「わたくしは、仲良くしようとしました。一方通行ではいけません。両者が同じならば、手を取り合えます。わたくしの家族は、残念ながら、わたくしを嫌っていました」
「わかりました、兄上と、話してみます」
「親としては、子どもたちが仲良くしてくれることを望みます」
「はい」
こちらも、母サツキの言いなりのような終わり方だった。
王国側が準備してくれた部屋に行けば、俺はベッドに倒れ込んだ。
「つっかれたー。なんだ、この茶番は」
第一王子と王太子の会談が、なんか、甘っちょろすぎて、疲れた。もう、甘い夢を見てるみたいだよ。大丈夫か、この国。
「戦争時に、すでに敵国側の暗部が王国に潜入してるなー。帝国でもあったんだ、そういうこと」
「え、あるの?」
「不可侵条約なんて、穴はあるよ。戦争中なら、不可侵条約は意味がない。その隙に、入られちゃうんだ。そして、不可侵条約を結んだって、戦争中に侵入されちゃったら、その効力はない。連絡は取り合わなくても、一つの密命を持って行動すれば、どうにかなるさ」
「詳しいな、セキラ様」
「そりゃ、父上にみっちり教えられたからね。ボクの父うあは、暗部の親玉だよ」
「聞きたくない!!」
「その跡継ぎはボクなんだから。やだなー」
皇族セキラには、一番、向いてない職業だな。
しかし、やっぱりいい教育を受けているから、セキラ、考え方がしっかりしている。他人の意見に揺れそうな感じなのに、そうじゃない。でなければ、他の誰かの言いなりになってたな。
「ハサンはいいなー。観光だって。俺も観光したい」
「戦争が終わってからだね」
「戦争、やるんだ」
「サツキがいうには、絶対だって」
「どうやってって、リスキス公爵がいるか」
王族が戦争準備を放棄しても、リスキス公爵が独断で戦争準備しているのだろう。ただ、戦力が少ない。
「ねえ、ロイド、戦力、どうにかならない?」
「どうして俺にいうの?」
「ロイドなら、どうにかしてくれそうだから」
「まず、戦争を起こしてくれ。戦力を無駄に動かすと、後々、大変なんだよ」
「え、戦力、どうにか出来るの!?」
「………」
沈黙する。出来るけど、どうにかしたくないんだよなー。
「それより、国王との面談、大丈夫なのか? さすがに、俺は同席出来ないよ」
「戦争をやるにしても、やらないにしても、国王とは話さないといけないから。大丈夫、相手は病人だから!!」
自分よりも弱い相手だから、セキラ、強気だな。心配してないよ。セキラだけは絶対に無事だから。病身の国王は消し炭だけど。
この後、国王と皇族セキラの面談である。お見舞いなんだけどね。一応、お見舞いの品として、花を準備している。この花を持ってきたのは、リスキス公爵の血縁サンセだけど。サンセ、仕事が出来る男だなー。ああいうのが、王族の側近でいると心強いんだけどね。残念、思想の相違だ。
「国王陛下がお呼びです」
もう、休む暇がないな。もう、国王からの案内がきた。
一応、俺は国王が休む部屋の前まで、セキラと同伴である。中には、セキラのみ、入れる。俺には見張りがついている。これまた立派な騎士だ。
話すこともないので、俺は気配を伺いながら、大人しくしていたが、すぐに、動き出す。
「貴様、やはり」
騎士が俺を邪魔しようとするが、そんなの投げ飛ばして終わりだ。経験が違うよ。
ドアを蹴り開けて、すぐにセキラの元に行く。
セキラは豪奢なベッドの脇にいた。困ったように何かを見下ろしている。
「セキラ様、無事ですね」
「ま、まあ、ボクも国王も無事なんだけど、ごめん、殺しちゃった」
「あー」
セキラの足元に、黒づくめの暗殺者が倒れていた。生きているかどうか確かめてみたが、死んでるよ。そりゃそうだ。短剣で心臓を一突きだ。
「貴様ぁ!!」
どうにか復活を遂げた騎士は国王の寝室に入るも、明らかに暗殺者の装いの者が床に倒れているのを見て、目を丸くして止まる。
「貴様が、やったのか」
「いや、セキラ様です。俺が乗り込んだ時には、遅かったー」
「す、すみません、後ろから襲われたから、つい、殺しちゃって」
「つ、ついって」
人畜無害な顔をして、とんでもないことするな、セキラ。
「向こうにも倒れてるよ。額と首に短剣投げ刺したから、もしかしたら、生きてるかも」
慌てて、もう一人、倒れているだろうトコに行ってみれば、虫の息の暗殺者がいた。
「なんか、真っ青なんだけど」
「毒が塗ってあるから、それで苦しんでるかも」
ただの短剣じゃないのかー。そりゃもう、無理だ。
「ど、どういうことだ!? あんた、皇族の護衛だよな。皇族は、弱いんじゃ」
「誰も、そんなこと言ってないよ」
まず、根本が間違っているのだ。俺は、皇族への攻撃を防ぐために、護衛をしている。皇族を守るのではなく、皇族の周囲を守るための護衛なのだ。
皇族は常に、筆頭魔法使いの妖精が守護している。だから、皇族に暗殺なんて無駄なのだ。それを散々、訴えたし、依頼主も知っていることだろう。では、何故、皇族セキラに暗殺者が向けられたのか?
簡単だ。皇族セキラを守護する妖精に国王が消し炭にされた、とするためである。暗殺者が二人いるのは、一人は、国王を暗殺するためだ。そして、もう一人の暗殺者は、皇族セキラを攻撃して、妖精の力を発動させるためだ。そうすれば、消し炭なんだよ。
「ど、どうしよう、暗器使ったと父上にバレたら、叱られる」
ガタガタと震える皇族セキラ。人殺したことよりも、父親の説教が恐ろしいときてる。
俺の見張りについていた騎士の肩を俺は叩く。
「あんたにも、色々と聞かないといけないな。国王の暗殺を企んだ奴、誰?」
「し、知らない!! こんな話、聞いていない!!」
「誰から聞いてないの?」
「まずは、調査を」
「医者も代えよう。この薬は毒だな」
セキラがわざわざ舐めて確かめた。今頃、薬を作った奴らには、妖精の復讐がいってるな。
「こういう解毒は、まだ間に合うんだよな」
俺はこっそり妖精の目を発動させた。城にいる野良の妖精さんって、力強いんだよな。
医者は妖精の復讐により酷いこととなっていた。もちろん、暗殺の関係者も、酷いこととなっている。失敗しても、違う意味で、無事じゃないんだよ、実は。
そして、国王は元気になった。
「まさか、帝国に助けられることとなるとは」
元気だけど、年寄だから、ベッドに上体を起こして、頭を下げる国王。
「こちらは、戦争の協力の要請に応じただけです。これもまた、協力ですから」
「私が毒で動けなくなっている時に、和平を結ぼうとするなんて。随分と、甘い教育をされていたのですな。今すぐ、調査する」
「まずは、戦争です。神のお伺いをたてて、戦争の許可が下りています。あとは、この石を敵国へ投げつけるだけです。筆頭魔法使いハガルは、この役目をボクに、と言っています。それでいいですか?」
「………」
物凄く悩んでる。ダメに決まっている。これは、王国の戦争だ。皇族が先頭に立ったら、帝国の戦争になってしまうのだ。
「あの、ハガルから、国王に手紙を渡すように、と頼まれたんですが」
俺も知らない話だ。ハガルの手紙を国王は受け取って、すぐに読んだ。読み進めていくうちに、真っ青になっていく国王。ハガル、一体、どんな内容なんだ!?
そして、手紙をぐしゃぐしゃにする国王。
「この手紙の内容、君は知っているのか?」
「知りません!! ただ、渡せと言われて。俺は、一皇族だ。筆頭魔法使いより、立場は下なんだ」
「………わかった、帝国にお願いしよう。どっちにしても、時間がない。私の体からは毒が抜けても、体力は戻っていない。すぐに、国境線に向かってくれ」
「時間って、そんな」
「その石には期限がある。その期限を過ぎると、神の怒りを王国が受けることとなる」
「まさか」
「その期限を決めるのは、神と筆頭魔法使いだ。とんでもない男だな」
どうやら、期限がかなり短いらしい。大変なことになった。




