↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪いの支配者  作者: 春香秋灯
戦争派、融和派
51/101

第一王子と仲良くしよう

 会談は一時休止となった。俺がやっちゃったからなー。

 俺はすぐに土下座だ。

「すんませんでした」

「い、いや、我々にも落ち度が」

「勉強不足ですまない」

「ロイドは悪くない」

 王族二人、リスキス公爵の血縁サンセは優しく許してくれた。

「優しい人で良かったー」

「かっこよかったですよ、ロイド様!!」

「今、それ言っちゃダメ!!」

 リリーベル、謝罪の場で俺の所業を誉めるとは。大変なことになるよ。

「ロイド、いつもありがとう。助かってるよ」

 皇族セキラまで言ってくる。まあ、セキラのは許されるな。俺の上司なんだから、行動、誉めないといけない。

 しかし、王国側の騎士の皆さんからの視線は厳しい。ほら、王族に手をあげたようなものだから。暗い夜道は気を付けよう。

「ロイド、無茶しないでください。もう、怪我をしたらどうするのですか」

 母サツキは、俺が怪我をするんじゃないか、と心配した。この人、俺のこと、いつまでも小さい子ども扱いだな。もう、サツキだって片腕で抱き上げられるくらい、力持ちだってのに。

 母親の心配する姿には、皆、心打たれるものなんだろう。

「我々の勉強不足で、ご迷惑をかけてしまった」

「今後は、もっと精進しよう」

「ロイドのことは、罪に問うことはない。万が一の時は、俺が助けよう」

「ありがとうございます。最初は、皆さん、怖い空気を持っていましたが、やっぱり、優しい子なのですね。でも、王族は、貴族、平民相手に、謝ってはいけません。間違っていても、謝ってはいけないのですよ。そして、間違った時は、責任をとらなければならない。それが、上に立つ者の役割です」

「これはまた、よくご存知で」

「わたくし、生まれ育ちは貴族ですよ。婚約者に騙されて、家を乗っ取られて、貧民になったんですよ」

 そして、皆、母サツキの見方を変えた。

 柔らかい空気を持つ母サツキが貴族だと知れば、そうなるだろう。話し方、作法も全て、完璧だ。相手をきちんと立て、不快にならないように話を誘導する。

 それゆえ、疑問を持つのだ。

「あなたのような素晴らしい人が騙されるなんて」

「仕方がありません。わたくし、家族にも捨てられ、一族にも裏切られ、貴族にも見捨てられました。わたくしが家を追い出されたのは、貴族の学校に通ってすぐです。こんな、口だけの女は無力です」

 声も出ない。聞けば聞くほど、母サツキが憐れでならない。

 笑顔で平然と過去を話すサツキ。こういうのを聞いて、見ると、サツキの味方になってやりたい、と男は思うのだ。その姿は清楚華憐で、常に笑顔を見せて、魅力的だ。

 だけど、油断しちゃいけない。実際は、復讐のために、容赦しなかったのだ。生家を潰し、一族を苦しめ、貴族を破滅させた。実際は、口だけではなかったのだ。協力者を得て、死ぬまで、復讐した。

「さすが、ロイド様のお母様ですね。アタシも見習わないと」

「あら、リリーベルちゃんは、わたくしの、どこを見習うのかしら。わたくし、女らしい事、何一つ出来ませんのよ。包丁を持つと、手が傷だらけになるから、料理も禁止されました」

「では、そういうものは、どうしてたのですか?」

「夫が全てやってくれました。わたくし、手伝うと、だいたい、失敗するのです。わたくし、頭は良かったのですが、それ以外は本当に役立たずで」

「それは、よく生きていられたな」

 俺はリリーベルとサツキの会話に割り込んだ。正直、この女が生家を追い出されて生きていられた事実に驚いた。

「生きるだけでしたら、簡単ですよ。わたくしの家族は、わたくしの食事を抜くことなんて、いつものことでしたから、家を抜け出しては、食べられる草や虫で、飢えを凌いでいましたよ。蜂の子は、栄養価が高かったですね。技術がありませんでしたから、素揚げして食べました。ハチミツ付けにすると、保存も出来ましたから、いい食糧でしたよ」

 ドン引きする過去まで笑顔で語られた。そっかー、この女も、虫平気で食べちゃうんだ。

 ふと、母サツキは遠くに視線を飛ばした。

「生家を追い出されて一か月、平民に混ざって、食堂で住み込みの仕事をしていました。生家にいるよりも、まともな扱いをされていましたよ。おかしな話です。貴族であった時は、使用人からも暴力を受けていたのに、生家を追い出されたわたくしに、平民は優しかったのです。熱が出ると、生家では水をかけられました。ですが、平民の皆さんは、どこの誰かもわからない他人なのに、甲斐甲斐しく看病をして、高価な甘味を食べさせてくれました。家族よりも、他人のほうが、わたくしには優しかったです」

 場の空気が暗くなった。その事に母サツキは慌てた。

「いえ、家族だから悪い、といいたいわけではありませんよ。世の中には、家族だから大事にする、そういう人はいっぱいいます。ですが、王族皇族は、そういうわけにはいきません。王族皇族は、王国民帝国民の平穏を背負っています。家族だからと、許してはならないこともあります。そのことは、頭のどこかで覚えておいてください。謝罪をしない代わりに、責任があるということ」

 とてもためになる話に、王族だけでなく、皇族も、感謝をこめて、母サツキに頭を下げた。






 母サツキはすっかり、王国側の心をつかんだ。その見た目だけでなく、心がけに、サツキを信頼したのだ。

「出来れば、相談に乗っていただきたい」

「これからの政治について、話を聞いてもらいたい」

 とうとう、母サツキに直接、第一王子と王太子が頼んできた。サツキは、ちらっと俺を見る。

「息子同伴で、ぜひ、お話をしたいと思っていました。それに、皇族の方の意見を聞いたほうが、王国側のためになるでしょう。もう、サンセ様には、船の移動中、ためになるお話を聞きました。次は、王族の皆さんと、ためになるお話をしたいです」

 しかし、第一王子と王太子は、俺と皇族セキラ同伴に難色を示した。

「皇族と一緒というのは」

「さすがに危険が」

 あー、皇族セキラを守護している妖精を警戒してるのだ。そんな、暴発することはないのに。

 その警戒を母サツキも気づいた。

「セキラ様の妖精が怖いのですか? ですが、船での移動でも、何も起きませんでした」

「我々には、敵が多い」

「そう、命を狙われている」

 じっと王族二人に見られるリスキス公爵の血縁サンセ。こう、王位簒奪を狙っている、と認めてるからなー。暗殺を疑われてる。

「だから、息子を同伴です。絶対に、セキラ様を息子は守ってくれます。そうですよね、ロイド」

「それは、まあ」

 いざとなったら、野良の妖精さんの力を借りればいいだけである。俺はある意味、万能だ。

「それに、王国には立派な騎士がいっぱいいるではないですか。頼りにしています」

 笑顔で母サツキに言われてしまって、王国側の騎士は姿勢を良くする。この女、美人だからな。男は皆、こういう美人に弱いんだ。

「それでは、まあ」

「順番は、やはり、年功序列といきましょう。わたくしの子も、長男を先に扱わないと、不機嫌になりました。そこは絶対です」

「他にも子がいるんですね」

「そうですよ。ロイドは三男です」

「っ!?」

 王国側、驚きだ。いやいや、この人、子ども五人産んでるからね。見た目は義体だから、若くなっちゃうんだよ。

 こうして、サツキが穏便に順番をつけて、会談となった。魔法使いハサンは、リスキス公爵の血縁サンセと一緒に、街に降りることとなった。

 最初は、サツキがいう通り、長男である第一王子アリオットである。

「アリオット様、と呼んでいいのかしら。第一王子殿下、というと、時には嫌味になってしまいますね」

「もちろん、皆さん、アリオットと呼んでくれ」

 すっかり、母サツキの言いなりだな。第一王子アリオットは、俺たちにまで、名前を呼ぶ許可を出しちゃう。ちょろいな。

 しかし、サツキが前に出るのはここまで。きちんと皇族セキラが働かないといけないのだ。ほら、セキラの父である皇族サイに叱られちゃうよ。

「リスキス公爵の血縁サンセから、船で聞きましたが、アリオットは、融和派なんですね」

「そうだ。戦争なんて、野蛮なことは、もうここで止めたい。敵国も捕虜となった叔父を丁重に持て成し、生かしてくれていた。戦争を続けるのは、王国を野蛮だと認めることだ」

「王弟殿下が生きていると、聞きました。良かったですね」

「あなたには、家族のことを話すのは、心苦しいですが」

「わたくしの母は、父の愛人に毒殺されたのですよ。母が生きている間は、わたくし、どこにでもいる貴族令嬢でした。家族が生きているということは、悪いことばかりではありません。生きていたことで、違う未来があったと言えます」

「そうだったんだな」

「そうです。最初から、不幸だったわけではありませんよ。わたくしにも、貴族として、幸福な時はありました。王弟殿下は家族に見捨てられた、と不幸と感じたかもしれません。ですが、あなた方の立ち回りで、また、家族に幸福を見出すかもしれませんよ」

「そう言ってもらえると、俺も心強い」

 すっかり、母サツキに心まで許している第一王子アリオット。王弟の今後には、色々と悩んでいたのだろう。サツキの言葉に、何か決意したようだ。

「俺は、このまま、戦争をせず、話し合いをして、外交で、敵国と繋がっていこうと考えている。どうだろうか」

 そして、母サツキに意見を求める。サツキは、少し首を傾げる。

「まず、順序を守らないといけません。それは、帝国でも同じです。戦争をするにしても、外交をするにしても、皇帝一人で決められるわけではありませんよ。いえ、最後は皇帝判断です。皇帝が全て背負うのですから。でも、支持が多いにこしたことはありません。ですが、アリオット様は、王太子ではない、ということを忘れてはいけませんよ。意見にも順位があります。どんなに素晴らしい意見であっても、身分が必要です。王太子の意見が、さらに上の国王陛下の意見が強いのです。地位を越えるためには、周囲を固めなければなりません。アリオット様を支持する方は、たくさんいますか? 席が多いことが、意見を覆す力となります」

「そこは心配ない。弟も、俺と同じ意見だ」

「では、国王陛下は?」

「もう病身で、動くことも出来ない。何を言ったて、無駄だ」

「その意見は、変わらないのですね?」

「もしかして、サツキは、戦争賛成派なのか?」

 あまりにしつこく確認するから、アリオットが再び、サツキに警戒する。憐れな過去を聞いても、付き合いがわずかである。ほら、ついさっき、会ったばかりだ。信用を得るには、まだまだ時間がかかる。

「わたくしは、どちらがいい、とは言い切れません。責任を負いきれませんから。わたくしに、王国を左右する意見を求めてはいけません。王国の命運を担っているのは、王族ですよ」

「個人的に聞きたい」

「では、セキラ様に聞いてみてください。セキラ様は皇族です。まさしく、同じ立場です」

 サツキはあえて、皇族セキラを出した。

 セキラは他人事みたいに聞いていたのに、話を振られて、すぐ、俺にしがみついてきた。

「サツキ、急に話振らないでよ!!」

「セキラ様の考えをそのまま言えばいいのですよ」

「それは、まあ、確かに」

 俺にしがみついたまま、恐る恐るとアリオットを見る。アリオット、堂々としているな。もう、皇族セキラのこと、皇族とも見てないな。

「ぼ、ボクは戦争賛成派だ」

「なんだと!?」

「ひぃ」

「アリオット様、最後まで聞きましょう。優秀な為政者は、優秀な者の意見に耳を傾けるものです。それが、逆の意見でも、きちんと最後まで聞かねばなりません」

「わ、わかった」

 サツキに嗜められ、アリオットは大人しくなった。

 アリオットが怒ったので、セキラは視線をあわせないようにしながらも、口を開いた。

「帝国でも、融和派は確かにいた。しかし、その融和派が、戦争には出ないで、戦争で金儲けをしていたんだ。融和派といっておけば、戦争に出なくてすむ。戦争って、金がかかるんだ。融和派だといった貴族は、物資やら、武器やら、いっぱい売って、金儲けをしてたんだ」

「それは、戦争をするから」

「融和派ならば、戦争のための物資や武器を売らなければいいんだ。しかも、融和派は、あえて、役に立たない一族を出兵させて、いかにも戦争にはいやいや協力しました、という顔をする。戦死しては、だから反対だったんだ、と帝国から渡される保証金を受け取る。戦争反対ならば、責めて、金だって拒否すればいいんだ」

「戦争すると決めたのは、皇帝だろう!! 皇帝が戦争をやめて、交易に切り替えていれば、そんな事は起こらない」

「長いこと、戦争がなかった時代もあったんだ。平和に見えた。しかし、貴族と敵国が裏で手を結んで、内政を滅茶苦茶にしてくれたんだ。敵国は、内部から腐敗させようとしたんだ。結局、筆頭魔法使いによって、そのことが表沙汰にされ、貴族は破滅した。敵国側には証拠まで突きつけたが、知らぬ存ぜぬと逃げていった。停戦協定の穴を突かれたんだ。それから、不可侵条約となったんだ」

「今の敵国は、そんな卑怯なことはしない。それに、捕虜となった叔父をきちんと保護してくれている」

「王族だからだよ。捕虜は他にもいた。他の捕虜には会った?」

「会談の場なんだ。立たせるわけがないだろう!!」

「なら、次の会談の場に、連れて来てもらうんだ。王国では死人扱いといえども、きっと、記録が残っている。それと照らし合わせて、確認するんだ」

「他の捕虜が無事でないみたいな言い方だな!?」

「無事なら、会談の場にはいたさ。王弟の側近になっている。同じ王国民だ。一番、信用が高いんだ」

「疑ってばかりだな。だから、そんな暗くて、隠れてばかりなんだ」

「疑わなかったから、ボクは、食い物にされた。逆だ」

 皇族セキラの闇は深い。話では聞いていただけだが、当のセキラは、相当、辛い目にあったのだろう。だから、誰が信用できるか、見極める力を持っている。

 俺は、セキラにとって、信頼できるのだろう。だから、俺を側に置きたいのだ。

 いつまでも意見は平行線である。まず、根底が違うのだ。

 口にはしないが、第一王子アリオットは、教育が足りない。年下である皇族セキラでさえ、ここまで疑り深く、物事をきちんと見ている。年上であるアリオットは、表面しか見ていない。

 これは、第一王子ゆえだろう。アリオットは、国王になる気が全くないのだ。そして、周囲も、アリオットを跡継ぎとは見ていない。あわよくば、という勢力が、アリオットを祭り上げているだけである。

 アリオットとセキラの話を聞いても、母サツキは笑顔のまま、綺麗な姿勢で聞いている。このまま、口論が続きそうで、俺は、サツキの脇をつついて、止めてほしい、という合図らしきものを送った。

 俺の願いはサツキに聞き入れられた。サツキは手を叩いた。

「お二方とも、素晴らしいお話ですね。セキラ様がこんなにお話するのは、初めて見ました。アリオット様も、きちんと受け答え出来ています。しかし、両者の意見は平行線です。どうしてだと思いますか?」

「思想の違い」

「そうだ」

「いえ、情報が足りません。両者の意見は、両者の情報です。アリオット様は帝国の、セキラ様は王国の情報が足りません。互いに、王国の事情、帝国の事情を言っています。別に、それが悪いとは言いません。ですが、王国と帝国は、土壌が違うのですよ。そこをわかっていますか?」

 アリオットも、セキラも首を傾げる。土地の大きい小さい程度の認識だな。俺もわからないけど。

「帝国は、弱肉強食でる。強者こそ正義なのです。どれほど正しいことを口にしても、敗者は悪とされます。それが帝国です。それに対して、王国は、神と妖精、聖域の信仰を元に生きています。大昔、聖女エリカ様に救われた頃から、二度と、聖域を穢さないために、粛々とした生き方を心がけるようになりました。帝国では、聖域の穢れは魔法使いたちがどうにかしてくれますが、王国ではそんな力技は存在しません。互いを尊重し、正しく生きる、それが王国です。そこから、王国と帝国では、意見が分かれてしまっているのです」

 それは、聞いたことがある。言われて、思い出した。

 帝国で、妖精憑きとか魔法使いとか、身近にいるから忘れがちなんだが、それは、帝国のみである。王国には、妖精憑きを見つけるための方法がない。だから、妖精憑きに頼らない生き方をしないといけないのだ。

「アリオット様の意見、王国としては間違っていません。まずは、信じることからです。セキラ様の意見も同じです。皇族は、常に強者でなければいけません。国が違うのです。だから、互いの国を理解してから、改めて、意見交換するといいでしょう。王国は王国の良い部分、帝国は帝国の良い部分があります」

「しかし、帝国のやり方では、サツキのような人は救われないではないか」

「そうです。ですが、帝国という所は、ただ、弱肉強食なわけではありません。わたくしのように、成人前の娘からお家乗っ取りをすることは、犯罪なんです。帝国では、成人前の弱者は守ることとなっています。きちんと、法にもなっていますよ。つまり、わたくしを裏切った家族も、婚約者も、血族も、皆、犯罪者なんです」

「じゃあ、サツキの今の立場は」

「わたくしは、貴族を捨てたのですよ。だって、誰も助けてくれませんでしたから。言ったではないですか。わたくしに優しかったのは、平民だった、と。貧民と底辺となりましたが、わたくしは貴族であった頃より、幸福でした」

「………」

「どうか、わたくしのような不幸な者が出ない王国にしてください」

「ああ」

 強く頷く第一王子アリオットであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。