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呪いの支配者  作者: 春香秋灯
復讐の連鎖
29/101

喧嘩って、片方だけでは成立しないんだよ

 大泣きして、止まらない侯爵令嬢クララを放置するわけにもいかず、俺たちは、生徒会室に連れて行った。

 グズグズと泣き続けるクララ。それをサリーは無表情に見返した。

「お嬢さん、何も言うなよ。絶対に逆効果だからな」

「だったら、サリーと呼んでください」

「は? こんな時に何を」

「クララのことは、クララお嬢さんと呼んで、わたくしはお嬢さんというのはおかしいです!! わたくしのことは呼び捨てにしてください!!!」

「お前なー、一応、俺は男爵に雇われてる立場だぞ。呼び捨て出来るわけがないだろう」

「だったら、黙りません」

 可愛らしく拗ねるサリー。今は可愛いサリーが拗ねると、仕方ないなー、と思ってしまうんだな。

「まずは、男爵に確認だ」

「お父様のことだって、呼び捨てですよね」

「わかったわかった、サリーお嬢さんと呼ぶよ!!」

 そこは妥協してもらおう。お嬢さんをつけるのは、俺なりにサリーと距離をとるためだ。俺は貧民でサリーは貴族令嬢である。

 どうにかサリーには黙ってもらって、改めて、クララの様子を見る。

 クララ、泣き腫らした顔で俺とかを睨んできた。きっと、周りにいる奴ら、全て敵に見えるんだろうなー。決闘の代理としてクララに味方したメッサまで敵視されているよ。

「だいたい、どうしてメッサは、この私的な決闘に関わったんだ? 暴漢から助けたなら、さっさと親元に届ければ良かっただろう」

「元々は、相談に乗ってたんだ。彼女、見た目はきつい感じなんだが、本当は、気の弱い子なんだ」

 話はこうだ。




 クララの父親は、同じ立場である男爵が、いつの間にか侯爵に返り咲いたことが気に入らなかった。人望もあるので、男爵マイツナイトは社交界でも悪く言われない。悪く言われても、マイツナイトは気にしない。それがまた、クララの父親が気に入らなかった。

 しかし、クララは同じ立場のサリーとは、きっと仲良くなれると思っていた。だから、サリーと仲良くなろうと話しかけたが、断られた。この事でさらに激怒したクララの父親。

「我が家を下に見下しおって!!」

 そこから、クララの父親はどうにか男爵マイツナイトに連なるもの全てに無駄な闘争心を燃やしたのだ。

 その闘争心の犠牲者は、サリーと同い年であるクララである。クララは、父親に、サリーには負けるな、と散々、言われたのだ。

 だが、クララは優しい子なので、サリーだけが男爵を名乗っているのが可哀想だった。だから、それをそのまま口にしたのだ。だが、社交の場では、これは逆効果であった。こうして、サリーは社交界に出られなくなったのである。

 これに大喜びのクララの父親。対して、ただ思ったことを口にしていただけのクララは、サリーと仲良く出来ないと絶望した。

 サリーが表に出たのは舞踏会である。そこでもどうにかクララはサリーと仲良くしたかったのだ。サリーのことを知り合いの貴族子息に聞かれたので、こう答えた。

「サリーは可哀想なの。本当は侯爵家なのに、男爵家として名乗っているのよ」

 その貴族子息、サリーの正体を知ると、身分を傘にサリーを脅したのだ。ここでも、クララは失敗してしまった。

 貴族の学校の入学試験でも、クララは頑張った。

「絶対に上級クラスになるんだ!!」

 クララの父親は、厳しいと有名な家庭教師をクララにつけた。家庭教師、鞭を打ち付けたりするのだ。クララは平凡だから、毎日のように鞭を腕や足に受けながら頑張ったが、結局、中位クラスとなった。

 どうせ、サリーが通う貴族の学校は別だし、とクララは安心して入学式に出れば、サリーがなんと同じ学校で首席となっている事実に驚かされた。これにより、クララの父親は激怒したという。

 貴族の学校に通うというのに、護衛をつけることも出来なかった。

「今年から、皇族が通います。護衛は場合によっては、皇族を傷つける密偵となる場合もありますから、諦めてください」

 なのに、サリーの護衛は皇族の護衛も兼任しているから許されるという。それに抗議したクララの父親だが、皇族の護衛だから、と全て撥ねられた。

 サリーは生徒会役員となって、皇族とも仲良くて、可哀想な所がなくなった。そうなると、クララはサリーに嫉妬するしかなかった。





 色々と愚痴を聞いていた騎士団副団長メッサの話を聞いて、俺は脱力する。クララちゃん、いい子なんだねー。

「わたくしとサリーは、同じなのにぃ、ぐずっ」

「可哀想にー!!」

 メッサも、過去を振り返って、同情したんだな。メッサもなー、やることなすこと、不幸になるからなー。悪い奴じゃないんだけど。

 クララの場合は、その見た目だな。見るからに気が強そうだから、話すと悪く受け取られるのだろう。いるんだ、こういう子。

 俺の姉だ。俺の姉は、もう我儘で、性格の悪い女、と周囲は言っていた。実際、我儘なんだが、性格が悪いわけではなかった。見た目がものすごい美女なんだが、それが悪女っぽいのだ。しかも、やることなすこと失敗する。それをどうにか責任をとろうとして、さらに泥沼にはまっていく。それが、性格の悪い女、と周囲は見てしまう結果となったのだ。

 結局、家族である俺でさえ、姉の本性を知ったのは、王都の貧民街を追い出された後である。野良の妖精はおしゃべりだ。色々と教えてくれる。姉の所業を教えてもらって、俺は呆れて、だけど、後悔し、反省した。俺は姉の無事なんて、これっぽっちも考えてもいなかった。

 俺の姉にはもう優しく出来ない。だけど、目の前にいるクララは、今から優しくしてやれる。俺は、改めて、クララとは、仕切り直しすることにした。

 それには、サリーが必要だ。

「サリーお嬢さん、クララお嬢さんとは仲良くしてやれ。可哀想だろう」

「ロイド様は、わたくしよりもクララのほうが大事なのですか!?」

「サリーお嬢さんのほうが大事に決まってるだろう!! まあ、両方、危険になっても、俺は両方とも助けられるけどな」

 妖精の目があるから、どっちか選べ、という選択肢は通用しない。両方、危険になれば、両方とも助ける。

 無駄な駆け引きをしようとしていたサリーは言葉を飲み込んだ。そういうのは、俺には意味がないことを思い出したのだろう。

 俺はご機嫌取りのために、サリーを片腕で抱き上げる。

「どっちに情があるかといえば、サリーお嬢さんに決まってる。だけど、サリーお嬢さんはいつまでも一人でいていいわけじゃないんだ。もっと、友達を作れ。狭い視点は、狭い価値観になる。もっと広い世界を見ろ」

「そういって、逃げるつもりでしょう」

「どうせ、在学中はずっと護衛だ。皇族の護衛は逃げられない。その間は、側にいてやる」

「わかりました」

 ご機嫌とりがうまくいったようで、サリーは不機嫌ながらも、頷いてくれた。

 サリーは俺の腕から下りると、クララの元に行く。

「あなたは社交が下手なんです。あなたの言動は、いいように使われています。お友達作りも気を付けないといけません。あなたの言動を利用しようとする者たちばかりです。あなたを矢面に立たせて、いざ、失敗したら、あなたを悪者に見捨てようとしていますよ」

「そ、そんなぁ」

「今日の決闘だって、誰かに唆されたのでしょう」

「わたくしのためだと、いうから」

「あなたのためという言葉をそのまま受け止めてはいけません。いいですか、あなたのためと言われたら、代わりにやってください、と返すのです。本当にあなたのためならば、逆に、言った本人のためにもなることです。やってごらんなさい」

「う、うん」

「もう、顔がぐちゃぐちゃですよ」

 サリー、普段は言動がおかしい子、と見られがちだが、実際はしっかりしているのだ。サリーは持っていたハンカチで、クララの顔を綺麗にふいてやる。

「どうせ、あなたの父親は、あなたにも皇族の友達になれ、と無茶なことを言っているのでしょう」

「そ、そうなの!! 無理なのにー」

「あまり図に乗ると、爵位返上することとなりますよ。皇族のお友達になることは可能です。ですが、今、帝国にしている要求は取り下げなければ、帝国の敵となってしまいます。帝国はご褒美与える側です。ご褒美を要求していい相手ではありません。帝国はご褒美を与えようとなんて考えてもいないのに、ご褒美を要求することは、帝国の考えに逆らうこととなります。ご褒美が欲しかったら、まずは、与えてもいいと帝国が思うことをしなさい。お父様が帝国からご褒美を貰えたのは、帝国からの好意です。お父様が要求したことではありません。そこをはき違えてはいけません」

 まず、前提が違う。

 男爵マイツナイトは爵位を取り戻したいなんて思ってもいなかったのだ。だが、帝国はマイツナイトの潔さに、爵位を返したにすぎない。だが、クララの生家は、帝国に何も示していない。不幸な伯爵令嬢サツキを虐待した父親と義妹と縁を切ったが、それは、マイツナイトも同じである。クララの生家は、ただ、縁を切っただけで、他は何もしなかったのだ。ただ、被害者面して、居座っていただけである。

「で、でも、お父様がぁ」

「大人だって間違えます。もしかすると、一度、爵位返上するほうが、目が覚めるかもしれませんよ」

「そんなぁ!?」

「わたくしがそう言った、と告げ口してみなさい。悔しくて、やめますよ」

「やってみます」

 泣きすぎて顔が腫れてしまったクララ。俺は妖精の目を使って、こっそり、クララの顔を綺麗に戻してやった。







 クララがやらかした決闘事件は、ちょっとした注意で終わった。その注意の場に立ったのが、よりによって、クララの父親である侯爵とサリーの兄である侯爵マキラオである。

 注意をするのは、皇族の護衛である俺と、帝国の騎士であるメッサが関わったということで、筆頭魔法使いハガル直々である。

 筆頭魔法使いハガルは、この大人の中で、実は、一番若い。むしろ、説教される側なんだよな、ハガルが。だけど、帝国で二番目の権力者なので、説教するしかないのだ。

「伯爵令嬢サツキの事件は、私が生まれるよりもはるか過去の話です。ですが、彼女の不幸を忘れてはならない、と帝国は毎年、彼女の不幸を帝国中で喧伝しています。これは、力のない成人前の跡継ぎを帝国が助けられなかったという恥です。この恥を二度と起こさないように、帝国は様々な取り組みを行っています。ですが、この恥を利用して、私欲を得ようとすることは、恥ずかしいことです」

「あの、これ、決闘の話じゃ」

「私も、そう聞いていますが」

 口答えしちゃダメ!! と俺は叫びたい。だけど、俺も心の底で突っ込みたい。この場にクララの父親と侯爵マキラオがいなかったら、俺も叫んでたな。

 しかし、ハガルは基本、優しいのだ。何度、口答えしたって、あまり気にしない。今回の口答えも、ハガルの中では予想されたことである。

「そもそも、決闘が起こったのは、侯爵同士が不仲であった、と聞いています」

「不仲って、私は別に、彼とは面識もありませんし」

「なんだとっ!?」

 侯爵マキラオに認識すらされていないので、クララの父親は悔しがった。あるよなー、一方だけ熱をあげてるやつ。今、目の前にそれを見た。

 同じなんだ。クララはサリーのことが気になっているが、サリーは無関心なんだ。まず、ここから平行線である。

「そうなのですか!? てっきり、同じ立場ですから、関わりあっていると思っていました」

 知っていながら、あえて、こういうハガル。うまいなー、ハガル。わざとだよ。

「どうせ、我が家は爵位返上しなかった、恥知らずだと思っていたんだろう!!」

「えーと、何が? 爵位返上しなければならないこと、したのですか?」

「伯爵令嬢サツキだよ!! サツキの父親と義妹は、我が家の者だ!!!」

「そうなんですね。ですが、もう、過去のことです。今、生きている者たちには関係のない話です」

「あんたの所はそうだろうな。爵位返上して、それなりに責任をとったんだからな!!」

「そもそも、死んだ後に責任をとるなんて、おかしな話なんです。死んでしまったんです。死んだら終わりです。生きている側が出来ることは、二度と、同じことを繰り返さないことです。帝国も、それを教えるために、不幸な伯爵令嬢サツキの死を利用しているにすぎません。あなたもまた、利用されているだけですよ。私もよく、そう言われましたが、普通にしていたら、誰も言わなくなりました。気にしているだけ、無駄です。利用されるだけですよ」

「………」

 侯爵マキラオは、よくわかっている。この男は、出来ないわけではないのだ。侯爵を受け継いだのだから、優秀なんだ。ただ、腕っぷしと精神が足りないだけである。

 優秀だから、近づく人間の思惑をきちんと見極めている。きっと、マキラオはそういう利用しようとする相手を笑顔で排除したのだろう。

 クララの父親は逆だ。いいように利用されているのだ。今回の訴えだって、周囲から、マキラオが侯爵となったのだから、もっといいものが貰える、なんて唆されたのだろう。周囲は見ているだけだ。失敗したら、嘲笑って、悪くいう。責任なんてとるはずがない。ただ言っただけで、やったのはクララの父親だ。

 クララの父親は悔しそうに顔を歪める。まさしくその通りなんだろう。侯爵としてはまだ若いマキラオに言われて、悔しいのもある。

「お、お父様、ごめんなさい。わたくし、つい、そう言われて、決闘を申し込んでしまいました」

 クララは思い切って謝った。後で叱られるだろう、とクララは全身を震わせていた。見ていて、可哀想になった。

 そんなクララの肩を優しく叩くのが筆頭魔法使いハガルだ。

「まだ何も知らない一年生です。こういうことは、なかったことになります。酷い先輩がいますね。誰なのかはわかりませんが、名前を教えてください。後で、その家族のほうに、厳重注意をします」

「でも、悪いのはわたくしで」

「不幸な伯爵令嬢サツキと同じです。弱く守られるべき存在に、悪い事を吹き込むなんて、帝国では卑怯なことです。例え、成人前といえども、模範となるべき先輩が、そのようなことをして、許されてはいけません。それは、将来、帝国に仇名すきっかけを作ることとなります。今から、駆除しないと」

 優しい笑顔で、恐ろしいことをいうハガル。さすが、帝国第一だ。学生といえども、容赦ないね。

 クララは根が優しい。

「どうか、お手柔らかにお願いします。無知で、勉強が出来ないわたくしが悪いのですから」

 そう言って、クララは決闘のことを教えて学生の名をハガルに教えた。

 そして、クララは改めて、サリーの前に立った。

「サリー、どうか、わたくしに勉強を教えてください」

「どうしてですか? 勉強なんて、教科書を読めばわかります」

「わたくしは、頭が悪いのです。ですが、あなたのお友達になりたい。そのためには、まず、同じクラスになって、同じ所に立ちたい。どうか、お願いします」

「ダメです」

「そんなぁ」

 また半泣きになるクララ。

「泣くな泣くな。あのな、サリーお嬢さん、人に教えるのが下手なんだ。そうだ、勉強会しよう。そこで、教えあったほうがいい。けど、サリーお嬢さんにだけは聞くな。無理だから」

「わかりました。勉強会に入れてください」

「それならいいですよ。ですが、ロイド様には近づかないでください!!」

「ご心配なく。わたくしには婚約者がいます」

「そうなのですか!! どうやって婚約者になったのですか!?」

「それは、まずは、普通にお茶会で知り合って………」

 サリー、逆にクララに教えを乞うこととなった。






 さて、勉強会である。すっかりサリーとクララは仲良くなった。ちなみに、クララの父親と侯爵マキラオも仲良くなった。クララの父親の一方的な蟠りが解けたのだ。

 勉強会だというのに、サリーは大衆小説を読んでいる。

「最近の流行りです。これもきっと、参考になりますよ」

「お父様は古い本しか持っていないから、新鮮ですね。そうそう、過去問と問題を作る教師の癖から、対策問題作りました」

 サリーの頭脳は天才である。情報さえ与えれば、きっと、試験の予想も当ててしまうだろう。

 皆、喉から手が出てしまうほど欲しい対策問題である。俺はそれを平然と手にしてペラペラとめくる。

「これで完璧に出たなら、すごいな。ほら、試してみろよ」

 まずは、実験である。こういうこと、俺もハガルに似てきたな。

 結局、出るかどうかわからない対策問題を手にする面々。

「ロイド様は使わないのですか?」

「俺はいらない。散々、やらされたから、一通り解ける」

 もう、お腹いっぱいだよ。むしろ、勉強なんてやりたくない。

 もういい大人が、成人前の若い子どもに混ざって勉強してるなんて、変な感じだ。

 そう言ってやると、何故か尊敬の眼差しで見られた。居心地悪いな、これは。

「ロイド様も読んでください」

 俺が勉強しないとわかると、サリーは大衆小説を持ってくる。

「こういうのって、だいたい、決まってるんだよな。大昔の流行りが戻ってくるんだ。二十年分の流行りを読むと、だいたい、飽きると言ってたな」

「そんなに読んでいるのですか!?」

「お袋が、こういう本が好きだったみたいでな。いっぱいあったんだよ。読んだなー」

 文字とかの勉強のために、読まされたよ。時代時代によって、こう、考え方とか、文章の書き方とか違ってくるのだ。

「最近の文章の表現は見てないな。どれが面白かった?」

「どれも面白かったですが」

「じゃあ、これでいいや」

 題名を見て、無難なのにした。どうせ、恋愛小説だ。どれ読んでも同じだ。軽い気持ちで選んで、俺は勉強してる奴らから離れて、大衆小説をペラペラとめくるようにして読破するのだった。

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