↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪いの支配者  作者: 春香秋灯
復讐の連鎖
30/101

嘘はついていない、抜けているだけ

 さて、ここで、筆頭魔法使いハガルをご立腹させた貴族の問題が未解決なのに、俺は気づいた。だって、ハガルが滅茶苦茶にしていた肖像画の貴族、クララの父親ではなかったのだ。

 同じ訴えをしていたので、俺はてっきり、クララの父親かなー、なんて話合いの場に立ち会ったのだ。

 実際に会ってみれば違ったので、驚いた。違うじゃん。

 ということで、俺はまた、深夜に筆頭魔法使いの屋敷に訪問である。

 いつ行っても、筆頭魔法使いハガルは笑顔で受け入れてくれる。

「何か御用ですか?」

「ほら、前に暗殺してほしい、とか言ってた貴族って、どこのどいつ? 俺はてっきり、クララの父親かと思ってたんだけど」

「まず、侯爵家として訴えが出ている、という話ですね。まだ、取り下げられていません」

「クララの父親は取り下げただろう」

「一人ではありませんよ。正確には、本家は取り下げたけど、別の貴族が訴えているのです。そこがまた、声が大きいのですよ」

「えー、別の貴族って、どういうことだ?」

 全く、わからない。こういうのは、関係ある生家だけが訴えるものだろう。

「この訴えは、当時、侯爵家の縁談を潰された、伯爵家からです」

 それは、こんな話である。





 不幸な伯爵令嬢サツキ関係で、サツキの父親と義妹は、生家に助けられることとなった。生家としては、このままでは、大変なこととなる、ということで、よく言われる、真実の愛とやらを利用して、サツキの父親もまた不幸であった、と訴えたのである。

 この頃は、まだ、サツキへの虐待は隠されていた。それを表沙汰にされていないし、そんなこと知らなかった侯爵家は、どうにか名誉回復しようと、サツキの義妹と侯爵家の跡取を婚約させたのである。

 ところが、侯爵家の跡取には、すでに婚約者がいた。伯爵家とは、随分と前から婚約を結んでいたのだ。しかし、侯爵家はちょっとした慰謝料を渡して、婚約破棄したのである。

 伯爵家は、縁談を潰されたということで、いい笑い者となった。そのことで、なんと、婚約を結んでいた娘は自殺したのだ。

 その後、伯爵令嬢サツキに対する虐待が表沙汰となった。そのため、サツキの父親と義妹は、生家である侯爵家から縁を切られ、追い出されたのだ。侯爵家は、知らなかった、被害者だ、と訴え、その場を逃げたのである。

 しかし、伯爵家は笑い者のままである。捨てられて、自殺して、愚かなことをした。生きていれば、もう一度、侯爵家と婚約が結ばれたかもしれないのに。

 実際、侯爵家からは、別の娘との婚約の打診があったのだ。伯爵家の娘は三人いた。しかし、伯爵家は拒否したのだ。もう、これ以上、利用されてなるものか、と。







 その怨恨が今更、再燃したのである。

「あの女は、復讐のためといって、どこまで不幸を振り撒くのやら」

 現在進行形で、不幸はどんどんと広がっているのである。女は怖いっ!! 気を付けよう。

「つまり、侯爵を唆したのは、この伯爵様というわけか」

「そうです。元凶はこの男です」

 もうぐちゃぐちゃになってる肖像画を壁に飾っているのは、怒りをぶつけるためだな。また、最近、何か言われたんだな。

「何かでっちあげて、爵位取り上げちゃえばいいだろう」

「仕事は出来る男なんです。辺境の貧民街の支配を三分割にしたのは、この男です」

「えー、どうして、そうするかなー」

 何考えて、こんなことしたのか理解出来ないな。支配を三分割にしたって、争いが続くだけだよ。被害は平民にだって及ぶんだ。いいことなんてないんだ。

 それをあえてしたという。アホなのか、何か企んでいるのか、本当にわからない。俺では、これっぽっちも理解出来ないな。

 領民だって被害にあっちゃうかもしれないことだ。やりたいから、という理由だけでやるのなら、寧ろ、この男を暗殺したほうがいい。

「あなたよりも、サリー嬢のほうがわかるかもしれませんよ。彼女の視点は特殊ですから」

「おいおい、サリーお嬢さんはああ見えて、ガキだぞ。そんな恐ろしいこと、理解出来るわけがないだろう」

「本当に、そう思っていますか?」

「………嘘つきました!!」

 嘘です。サリーならわかるかも、なんて考えた!!

 何か引っかかることがあるような気がするが、過去を思い返しても、会話なんて曖昧だ。よく、過去を振り返る、という表現を大衆小説とかで使われる。実際は、会話とかそんなもの、正確に思い出すというのは稀だ。記憶は脚色され、都合がいいように塗り替えられるのだ。

 ハガルは嘘をついていない。ただ、話の内容に何か不自然な部分があったはずだ。それをどうにか思い出そうとしたけど、結局、思い出せないでいた。

 最初、この肖像画の男のことを詳細に聞いておけば、勘違いもなかった。この肖像画の男こそ、問題の侯爵だと思っていたのだ。

「じゃあ、辺境の保養地行きは決行なわけなんだな」

「それと、皇族セキラの身柄はしばらく、侯爵家行きです。長期休暇中も、あなたは皇族の護衛です」

「大変なことになるぞ!?」

 おもに、侯爵マキラオが!! とんでもない話となった。どういう話合いで、こんな決定となったんだ!?

「侯爵家は色々と恩恵を受けています。ついでに、負債も受けてください」

「受けたくて受けた恩恵じゃないぞ。侯爵、本当に普通の貴族なんだ。争い事が本当に苦手で」

「それでも、ライホーンと仲良く仕事をしています。出来ないわけではありません。心配いりません。皇族に良からぬことした者たちは全て、消し炭です」

「お前なぁ、そんなことになったら、あの侯爵の屋敷も消し炭だろう!!」

「賠償しますよ。次は、もっと立派なものになるでしょう」

 笑顔で言い切るハガル。もう、何を言ったって無駄なんだ。この男がやる、と言ったら、決定なんだよ。

 俺は努力した。マキラオ、きっとまた、血反吐吐くんだろうな。いい薬をまたやろう。

 妖精の万能薬で、マキラオの体調は良くなる。だけど、苦労はなくならないから、再発するのだ。マキラオが苦痛から逃れられることはない。






 試験が終わると、心の余裕が出てくる。すっかり、サリーとクララは仲良く帰りも一緒に歩くことが普通となっていた。

 クララ、最初は色々と友達だという奴らに言われたのだ。

「きっと、また、騙すつもりよ」

「気を付けないと」

「私たちは味方ですよ」

「一緒に行きましょう」

 そう言って、呼んでもいないのに付いてくるクララの友達。

 そして、皇族の洗礼を受けることとなる。

「知らない女がこんなに!! ひぃ!!!」

 皇族セキラ様は女嫌いで有名なんです。

 というわけで、セキラは俺の後ろに逃げ込んで悲鳴をあげるのだ。

「わたくしのお友達ですよ」

 クララはセキラに話しかける。クララは恋愛のはてに結婚前提でお付き合いをしている婚約者がいるので、セキラにとって安全圏なのだ。だから、クララが近づいて話しかけても、セキラは平気なのだ。

 しかし、クララが友達だという女どもを見るセキラの目は警戒である。

「友達だというのなら、ど、どうして、クララ嬢の決闘を止めなかったんだ!! 知ってるぞ。お前たち、頑張ってください、なんて言って、クララ嬢を応援してたな!!!」

「そ、それは、友人ですもの」

「そうです!! 友人ですから、クララの味方をします。それが友達ですもの」

「ぼ、ボクはサリー嬢とロイドは友人と思っている。この二人は、間違いは間違いだと、きちんと言ってくれる。騎士を代理にしたけ、決闘なんて、間違っていることだと、これだけの人がいて、知らなかったなんて、おかしい!!!」

「まだ、習っていませんでしたから」

「そうです!! 知らなかったことです」

「そうなんだ」

 そう言って、セキラは魔道具を机に置いた。それは、音を保存する魔道具だ。

『クララ嬢ったら、本当にやってしまいましたわ』

『これで、クララ嬢もおしまいね』

『いっつも、侯爵だからと偉そうに』

『身内に、あの可哀想な令嬢を虐待した血縁がいるというのに』

『いつもバカ正直に言っていることが、悪く受け止められても気づかない』

『これで、あの女も退学で、貴族になれないわね』

 そして、笑い声で終わる。

 真っ青になるクララの友達と名乗る女子生徒たち。

「こ、皇族が、通うから、あちこちで、普段は使わない魔道具が、設置されてる。映像もあるけど、見たい?」

「クララ嬢に騙されたのですよ!!」

「そうよ!!」

「わたくしたちは悪くないわ!!!」

 全てを侯爵令嬢クララに押し付ける女子生徒たち。それを聞いて、クララは傷ついた顔をして黙り込む。

「て、帝国は、弱肉強食、だ。騙される弱者は、悪い。だけど、それは、大人になってからだ。無知な子どもを騙すのは、卑怯、だ。正々堂々ではない。お前たちは、卑怯者だ。近づくな。卑怯者は裏切る」

 これにより、彼女たちは皇族の信用を失った。クララを利用して、どうにか皇族にいい顔をしようとしたのだが、それが仇となったのだ。セキラは、警戒心が人一倍強い。

「クララ嬢に謝罪して、罪を認めれば、見逃した。しかし、今回のことは、悪質だ。皇族の名のもとに、彼女たちを処罰する。一度目だから、厳重注意だ」

 そして、クララを利用しようとした女子生徒たちは、逃げたが、結局、顔の名前もバレているから、そのまま、警備や騎士に連行された。生家でこっぴどく叱られて、懲りただろう。

 というわけで、クララには皇族セキラが味方となったことが学校中に知れ渡り、クララを利用しようとする輩はいなくなった。

 ちょっと気になるのはクララの婚約者である。クララ、どうも、人を見る目がない。というわけで、今日、クララの婚約者を紹介してもらうこととなっていた。




 試験も終わって、待ち合わせや、ちょっとした談笑にも使われる食堂で待っていると、クララは一人の男子生徒と並んでやってきた。婚約者は二歳年上だという。

「丸いですね」

「太いな」

「あ、転んだ」

 クララは綺麗な子なんだが、一緒にやってくる男子生徒は、なんというか、対照的だ。別に、ぶさいくなわけではないんだ。顔立ちは普通なんだ。

 ただ、太っていて、背が低くて、どじっぽい。ニコニコと笑っている男子生徒に、クララはいつものきつい顔で怒っている。

「もう、ドジなんだから。さあ、立って」

「気を付けるよ」

 クララの手をとって立つ男子生徒。嬉しそうに笑っているが、ちょっとあれだ、邪だよな。

「なんか、妙な感じがするんだが」

「ぼ、ボクは、ああいう人、初めてかも」

「いいんじゃないですか、クララ嬢はあれがいいというのですから」

 皆、あの男子生徒の本性を読み取っている。

 そしてやってきた男子生徒は、三年生だから、それなりに礼儀がわかっている。皇族がいるので、膝をついて頭をさげる。

「クララ嬢の婚約者と聞いてる。名乗りなさい」

「ボクは、男爵家次男ナッシュと申します。以後、お見知りおきを」

「クララ嬢の婚約者ナッシュ、以後、膝をつかなくていい。同席を許可する」

 もう、皇族セキラも馴れてきた。いっぱいやったからな。ただ、きちんと練習してからだが。

 いきなり、大勢が押し寄せてくると、セキラ、すぐに俺の後ろに逃げるんだよな。まあ、俺の後ろで、きちんと皇族様やっているから、いいんだけど。

 それからちょっとした茶会である。菓子を持ち寄って、食堂にある茶を飲んでとしている。

「もう、ボロボロと落として」

「えへへへ」

「口にもいっぱい」

「ありがとう」

「わたくしがいないと、あなたは本当にだらしないですね」

「気を付けるよ」

 砂吐きそうだ。この二人、普段から、こんなにベタベタなんだろう。仲睦まじいな。

 クララ、意外にも世話好きなんだな。手がかかる、と口では言っているが、顔が笑っている。こういう抜けた男がいいんだ。

 そんなクララとナッシュをサリーは羨ましそうに見ていた。そして、俺をちょっと見上げたりする。

「サリーお嬢さん、ほら、口にクリームついてる」

「とってください」

「はいはい」

 ご機嫌とりも、護衛の仕事なんだよな。ほら、上司はサリーの親だ。後でサリーが不満を述べたら、男爵マイツナイトが馬に乗って、王都にやってきちゃうよ。大変なことになる。

「今回は、クララのこと、ありがとうございました。お陰で、ボクも、貴族のままでいられます」

 清々しいままにクズなことをいうナッシュ。ナッシュはすでに、クララの元へ婿養子に行くことが決まっているという。ナッシュは男爵家の次男である。本来は平民となる負け組だけど、クララに見染められて、勝ち組となったのだ。

「呆れた。わたくしを平民になって支える、と言ってくださらないなんて」

「そりゃー、やるよ。けど、クララは平民では生きていけないよ。クララ、平民の暮らしは苦しいよ」

「そうですけど、嘘でも、そう言ってほしいものです」

「男爵領は、食べるには困らないから、贅沢しなければ、生きていけるけどね」

 違った。これは、クララのためだった。

 クララの周囲はともかく酷いものだ。クララは餌食になっているのだ。あまりに酷いので、サリーまで口出ししたほどである。

 確かにクララは侯爵令嬢である。しかし、社交は向いていない。嘘はつけないし、言い方が良くない、何より、あの悪女のような見た目が足を引っ張っているのだ。

 だから、ナッシュにも騙されてるんじゃないか、と心配はしていた。こういう子は、俺たちみたいな薄汚れた側は、守ってやりたくなるんだよな。

「そうだ、クララ嬢とナッシュも、長期休暇中なんだけど、辺境の保養地に来ない? 人数が少ないから、体裁が悪くて」

 安全とわかると、皇族セキラは饒舌となる。

 結局、生徒会役員の親睦のため、と皇族セキラから最果ての保養地を招待したのだけど、様々な理由により、お断りがほとんどだった。さすがに、生徒会役員の二年二人は、一年の面倒をみないといけないから、参加してくれるという。だけど、それよりも上の上級生は、やっぱり生家での手伝いや、勉強もあって、遊んでいる余裕がないのだ。ほら、生徒会役員を続けるためには、成績を維持しないといけないから。

 結局、最果ての保養地の招待を受けたのは、俺、サリー、生徒会役員の二年生二人の四人だ。俺は、護衛だから、人数には含まれないな。

 さすがにこの人数に、セキラも危機感を抱いたのだ。父親である皇族サイは、人数まで指定していない。しかし、あまりにも少ないと、何か言ってきそうなんだろうな。我が子には特に厳しいな、サイ。

「最果ての保養地は、わたくし、よく行きます。ぜひ、ご一緒したいです」

「ボクは、もともと、最果てに生家があるので、現地で待っています」

「え、王都出身じゃないの!?」

 皇族セキラは代表して驚いてくれる。俺もびっくりだよ。

 王都の貴族の学校って、だいたいは王都出身なんだ。まあ、権力の関係で、わざわざ王都の学校に通う貴族もいる。

「今は、クララの生家でお世話になっています」

 笑顔でとんでもないことをいうナッシュ。クララはというと、ちょっと頬を染めて恥ずかしがる。おいおい、お前ら、きちんと健全なお付き合いしてるよな? これで破談となったら、大変な醜聞になるぞ!!

 熱い若者たちのお付き合いを羨ましそうに見ているサリー。俺にべったりくっついているが、俺は絶対に間違いは起こさないからな。育っているといっても、まだまだだ。

 しかし、この二人の馴れ初めも特殊だな。王都と最果てなんて、社交でも接点なんてないんだ。なのに、婚約までしている。しかも、財産目当てとか、そういうわけでもないのだ。

 クララだって、親の反対があっただろうに、それを説得したんだから、ナッシュに関しては、逆らえるんだな。

 真実の愛、というのは、正直、俺はバカバカしい、と思っている。しかし、クララとナッシュの真実の愛は、見守ってやろう。いい結果であってほしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。