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先制のドロップキック

「さて、どうしようか?これ。」

 俺は目の前に転がる包丁女の処置を考えていた。

 さすがにこんな危険人物を野放し状態にして、ケンジとヒカリを探しに行くわけには行かない。

「トドメを刺しちゃいましょう。」

 そう言ってキョウコは腰のマチェットを抜く。

「テメーはもうしゃべんな。」

 極端な答えを出すキョウコをバッサリと切り捨て、俺は腕を組み考え込んだ。

「警察に通報?・・・いや、それだと色々面倒くせー事になる。・・・じゃあ、ふん縛っとくか?いやいや・・・」

 悶々と対処方法を思案し、口からぶつぶつとキャパオーバーした情報を垂れ流す。

「きゃあああ!」

 突然、けたたましい悲鳴が響く。

「え・・・?この声は・・・八坂!?」

 一瞬、何が起こったかわからなかったが、すぐに声の主がヒカリだと気づく。

「先輩、行きましょう!」

 キョウコに促され、弾かれるように俺達はリビングを飛び出した。外に出ると暗い廊下の先のホールで酷く怯えた様子のヒカリが座り込んだまま後退る様子が見える。そして、それを追うようにして壁の死角から四つん這いの筋肉質なクリーチャーがゆっくりと現れる。

「この野郎!」

 その姿を見た俺は全力疾走し、今にもヒカリに飛び掛かりそうなクリーチャーに先制のドロップキックをブチかます。靴越しに硬い不快な感触が伝わる。

 横向きになったまま床に着地した俺は、その勢いで瞬時に立ち上がる。

 一方、クリーチャーは盛大に吹っ飛ぶが、ひらりと体をこちらに向け華麗に着地した。

 異様にデカい目でこちらを睨みながら、頭を下げていつでも攻撃できる態勢を取っている。完全にクリーチャーのヘイトを買ってしまった。

 しかし、無我夢中でのドロップキックだったためその後の行動を全く考えていない。

「どうする?俺。」

 必死の思考も虚しくクリーチャーが両手の鋭い爪を振り上げこちらへ飛び掛かる。

 あ、死んだ。

 そう思ったその時だった。

「うおおぉぉ!先輩から離れろぉぉ!」

 キョウコが怒号を上げながらマチェットを逆向きに振りかざし、クリーチャーの横っ面に峰打ちを叩き込んだ。

 一瞬怯んだクリーチャーだったが、すぐに目標をキョウコに変え攻撃態勢を取り、互いに睨み合う。

 数秒沈黙が続いた後、クリーチャーが襲い掛かる。しかし、キョウコは身を引いて攻撃をかわすと、すれ違いざまに背中にマチェットの峰を振り下ろした。

 さすがに効いたのかクリーチャーは仰向けになってのたうち回るが、すぐに復帰し鋭い爪をキョウコに突き立てる。

 ガキィン。

 キョウコがマチェットで爪を受け止め、激しい衝突音とともに火花が散る。そして、すかさず反対の手に握られていたラバーカップを、クリーチャーの顔めがけて突き立てる。

 ベッタン。

 勢いとは裏腹に間抜けな音がし、クリーチャーの顔にラバーカップがガッツリ吸着していた。

「・・・あぁぁああぁぁぁ!!」

 クリーチャーは奇声を上げながらその場でのたうち回ると、凄まじい速度で壁を這って逃げて行ってしまった。

 顔面に使用状態不明のラバーカップを突き立てられる。想像するだけでも身の毛もよだつことだが、それはクリーチャーであっても同じことだったのだろう。

「ふぅ・・・」

 クリーチャーを見送り、周囲の安全が確保されたことを悟ったキョウコは一息ついた。

「あ。」

 そして、顔を上げ何かに気づく。視線の先には壁に取り付けられた照明のスイッチ。キョウコはそれに歩み寄りホールの電気をつけると、俺の前に立った。

「さすがに斬りつけるのはマズイだろうと思って峰打ちに徹しました。」

 そう言うとキョウコは口元に薄っすらと笑みを浮かべた。

「ナイスファイト。・・・助かった。ありがとう。」

 俺は目の前で繰り広げられたスタイリッシュな戦いに賛辞を贈り、助けてもらったことに対する礼を言う。

「いえいえ、ご褒美はキスでお礼はそれ以上の物でお願いします。」

「ああ・・・よし、飯を奢ってやろう。」

 いつも通りの発言によって全てが台無しになり、嘆きの声を漏らしつついつも通りの素っ気ない返しをする。

「二人ともありがとう。」

 やや置いてけぼり気味のヒカリが立ち上がって礼を言った。

「あのクリーチャーは何なんだ?」

「わからない。いきなり出てきて追いかけて来たの。」

 ヒカリは俺の質問に首を横に振って答える。

「さっきの包丁女はまだしも、今の奴は完全に人間じゃないですよ。」

 クリーチャーが逃げていった方向を再び振り返るキョウコ。

「化け物が出るって噂はマジだったのか・・・。でもいわくなんて何もない筈だぞ?」

 俺はこの場所にまつわる噂と過去の調査結果を思い出し、事実との相違に頭を抱えた。

「そんなことよりまずここから出ないと・・・」

 そう言ってヒカリは玄関ドアに向かう。

「ちょっと待った。」

 俺はドアノブに手を掛けるヒカリを呼び止めた。

「ケンジは?」

 忘れていた訳では無いが、先程からケンジの姿が見当たらない。

「さっき二階で・・・」

 ヒカリはこちらに向き直ると語り始めた。

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