ダメだこいつ早くなんとかしないと・・・
「あ、あのすみません!すぐに出ていきますんで・・・!」
明らかに普通じゃない奴の登場に、後退りながらテンパりMAXで必死に弁明する。
しかし、包丁女は何も言わずニタニタと気味の悪い笑みを浮かべながら近づいてくる。
こいつは一体何なんだ?
テンパりながらも脳内では、目の前の存在の正体を考えるが全く持ってそれらしい答えに辿り着かない。
「どうやら話が通じそうにないですね・・・」
包丁女から視線を外せずに、永遠にも似た時の流れを体験している俺の横から、キョウコの落ち着き払った声が聞こえた。
「え?」
その声によって現実に引き戻された俺は、反射的にキョウコを見るため首を横に向ける。
「私に任せてください!」
次の瞬間、その言葉とともにキョウコが視界を横切り、それを追って今度は首を前に向ける。
「野郎オブクラッシャー!!」
威勢よく叫び飛び出していくキョウコの手にはマチェットが握られていた。
「キョウコ、待て!」
包丁女にマチェットを振りかざし、突進するキョウコ。これはマズイと俺は咄嗟に手を伸ばした。
「あ・・・!」
しかし、急な動きに身体が追いつかずバランスを崩してしまい、前のめりに倒れ込み無我夢中でキョウコのジーンズを掴む。その拍子にキョウコもまたバランスを崩し、倒れ込む勢いでロケットのごとく不動の姿勢で前にすっ飛んでいく。
そして、キョウコは短い距離を飛翔した後、頭から包丁女の顔面に直撃した。
後ろにひっくり返り床に頭を打ちつけ轟沈する包丁女と、ヘッドスライディングのような姿勢で着地するキョウコ。
なんとも異様な状況に辺りは静まり返る。
「・・・大丈夫か!?」
俺はハッとして立ち上がると、うつ伏せ状態で倒れているキョウコに駆け寄った。
「いたたたた・・・」
キョウコが痛そうに頭頂部を押さえながら起き上がる。
「な、なんとか大丈夫です。」
「そうか、よかった。」
苦笑いで返すキョウコを見て俺は胸を撫で下ろした。
「全く、無茶苦茶なことしやがって・・・」
「・・・にしても、何なんですかね?こいつ。」
小言を始める俺をよそにキョウコは、白目を剥いている包丁女を見つめる。
「・・・ここの住人かイカれたホームレス?わかんね。」
俺はすぐに思いつく最も現実的な答えを述べ、早々に匙を投げた。
「どちらにしても何らかの病気か薬をやってますね。」
そこまで理解していてあの行動を取ったのかと、俺はキョウコの頭のネジの外れ具合にドン引きした。
「全く、エライもんと遭遇しちゃいましたね。」
そう言いながらキョウコは、包丁女の肩をマチェットの刃先でつつく。
「やめろって!捕まるぞお前。」
倫理観の欠けた行動に対し、俺はキョウコの腕を掴み強制的にマチェットを引っ込めさせた。
「正体がわからない以上、直接触るのは危険かと。いきなりガーッと来るかもしれないので・・・」
マチェットを腰の鞘に収めながらキョウコは淡々と語る。
「正体がわからないなら間接的にも触らないのが普通だ。なんだよガーッて・・・」
しかし、俺はその言い分に正論を叩きつけた。
「それにこいつ良い包丁持ってますよ。」
そう言ってキョウコは床に転がる包丁を拾い上げた。
「だから触るなと・・・」
「・・・うん、これは良い。」
俺の言葉など聞こえていないかのように、照明の反射で煌めく刃をまじまじと見つめながらキョウコが呟く。
「先輩、帰ったらこれで美味しい手料理を作ってあげますよ。」
包丁を片手にキョウコは得意気な笑顔をこちらに向けた。
俺からすればいつも通りのキョウコなのだが、傍から見れば普通にヤベー奴だ。
「そんな得体の知れない包丁で作った料理などいるか。置いてけ。」
そんなキョウコを俺は突っぱね、本気で持ち帰ろうとしていた包丁をその場に置かせた。
「それより先輩。」
キョウコが屈んで包丁を置いた姿勢のまま、首だけをこちらに向け呼び掛ける。
「普段嫌がってる割に結構大胆なことしますね。」
口角をいやらしく上げながら立ち上がるキョウコ。
「ん?」
その言葉と行動に俺は意味がわからず首を傾げる。しかし、キョウコの視線を辿ると、俺の右手から垂れ下がる見慣れたジーンズに行き着いた。
「は・・・っ!」
反射的にキョウコを見ると、白い下着と細い生足が剥き出しになっていた。
「え・・・!?」
そして、何度もキョウコとジーンズを交互に見る。
どう考えてもこのジーンズはキョウコが穿いていた物だ。そこからどうしてこうなったか必死に記憶を辿ると、先程の転倒で咄嗟にジーンズを掴んだ拍子にすっぽ抜けた事に思い当たる。
「あの時か・・・いや、違うかんね!?いや、これ事故だから!」
大慌てで言葉にならない弁明をしながらキョウコにジーンズを放り投げる。
「いえいえ、恥ずかしがらなくてもいいんです。こういうことがしたいんならいつでも言ってください。私はいつでもどこでもウェルカムです。」
ジーンズを上手くキャッチしたキョウコは、それを穿きながら穏やかに言う。
ダメだこいつ早くなんとかしないと・・・




