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ドアの向こうから現れた者

「ここが最後ですね。」

 キッチンを出た俺達は廊下の突き当たりの部屋の前に到達した。それでもまだ一階部分の約半分だ。まだまだ先は長い。

 うんざりする俺をよそに楽しそうなキョウコは、右手に持ったラバーカップをドアに吸着させ、左手でノブを回してラバーカップで押し開ける。

「普通に開けろよ。」

 室内はソファーやテーブル等の調度品が置かれた広いリビングだった。庭に通じる大きな窓の傍にはグランドピアノも置かれている。そして、その反対側の壁にはドアがついていた。

「良い素材を使ってる・・・ここの家具は確実に高いですね。」

 立派で座り心地の良さそうなソファーをバンバン叩きながらキョウコは言った。

「そうだな。どれもそれなりにデカくて重そうだ。」

 俺は適当に返答しながらもう一つのドアを少し開け、隙間に頭を入れて中を確認する。

 見覚えのある光景。ここはさっきのキッチンだ。

「繋がってたのか・・・」

 詳しく検索する必要がないため、すぐにドアを閉めてリビングの探索に戻る。 

 とりあえず、近くにある人が隠れられそうな場所から探し始めた。

「あれ?」

 部屋の中程まで検索をしたところで、棚に置かれた大きめの写真が目に止まる。女性の顔が大きく写され、黒い額に入れられたそれは遺影だった。

「この人って・・・」

 まじまじとその遺影を見つめると、寝室で見た写真の女性と同一人物のようだった。

「ここにも居なさそうですね。」

「ん?・・・ああ、やっぱり二階だな。」

 不意に声を掛けられ言葉を詰まらせながらも返答をし振り返ると、キョウコはグランドピアノの前で何やら冊子のような物を手に取っている。

「月光か・・・」

 そう呟いて譜面立てに冊子を置く。どうやらそれは楽譜のようだ。

 キョウコはそのまま流れるように椅子に座ると、静かに鍵盤の蓋を開けた。

「おい。」

 俺が止める間もなくキョウコはピアノを弾き始める。

 意外にも演奏の腕は中々のものだった。

 そして、演奏を終えたキョウコは、何もない壁に期待の眼差しを向ける。

「いや、壁の隠し扉が開くとかねーからな?」

 キョウコの視線の意図を読み取った俺は、ため息混じりに言った。

「ちぇー、やっぱりないかー。」

 落胆したキョウコが鍵盤を閉める。

 やはりホラーゲームよろしく、壁にピアノ演奏で開くタイプの隠し扉があると思っていたようだ。

「余計なことしてねーでさっさとあのバ

カップルを見つけて帰るぞ。」

 既に日も暮れ、室内はライトがなければ行動出来ないレベルの暗さだ。そして、俺のイラつきレベルも限界に近い。

「・・・ったく、あいつらどこに行きやがったんだよ。」

 俺は悪態をつきながらポケットからスマホを取り出すと、ライト機能のスイッチに指を伸ばした。

 周囲が明るくなる。

 しかし、俺はまだスイッチをタップしていない。

「あれ?」

 辺りを見回すと天井に取り付けられた照明が点灯している。

「あれ?ついた。」

 スマホをポケットに戻し声のした方向を見ると、いつの間にか壁際に移動していたキョウコが、スイッチに触れたままの体勢で点灯する照明を見上げていた。

「・・・ここ電気通ってんだな。」

「そのようですね。」

 壁から手を離し歩み寄ってきたキョウコが答える。

「普通、ブレーカーが落ちてたりするもんじゃねぇか?」

 予想外の出来事に焦りが滲む。

「その辺はよくわかりませんが・・・あ、もしかしてヒカリ先輩達がブレーカーを上げたのかも・・・」

「あー・・・」

 都合の良い話だが、ないとも言えないことに俺は言葉を濁した。

「いずれにせよ長居しない方が良さそうだな・・・急ぐぞ。」

「待ってください。」

 焦燥感に駆られ部屋を飛び出そうとするが、キョウコに引き止められる。

「何か聞こえませんか?」

 シャリン・・・シャリン・・・

 自らが向かおうとした廊下の方から金属を擦り合わせるような音が響く。

「何の音だ・・・?」

 シャリン・・・シャリン・・・

 音がさっきより大きくなっていることから、それはこちらに近づいて来ている。

 正体不明の音の接近に心拍数は上がり、嫌な汗が滲む。

 シャリン・・・シャリン・・・

 金縛りに掛かったように身動きが取れず、近づく音にひたすら神経を集中させる。感覚からして音の主はドアのすぐ向こうだ。

「・・・。」

 一定の間隔で響いていた音がピタリと止まる。

「・・・ケンジ?八坂?」

 どうにか声を絞り出し姿の見えない相手に呼び掛ける。

 ドアの向こうから二人が出てきたらどうしてくれよう?緊張状態ではあったが、そんな考えも薄っすらと浮かんでいた。

 そして、呼び掛けに答えるようにゆっくりとドアが開いた。

「・・・!」

 ドアの向こうから現れた者を見て、薄っすらと浮かんでいた考えはいともたやすく吹き飛ばされ、一気に血の気が引いた。

 そこに立っていたのはケンジでもヒカリでもなく、薄汚れた黄色いワンピースにボサボサロングヘアの女だった。そして、女は口角を上げニタリと笑うと、両手に持っている出刃包丁を擦り合わせシャリンという音を立てる。

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