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そのまま開けずに帰ればよかった

「おいケンジ!てめーふざけんなよ!」

 奥に向かって大声で呼び掛けるが、当然返事はない。

「はぁー・・・帰ろ。」

 大きなため息をついた俺は早々に匙を投げ、玄関ドアに手を掛けた。

「さすがにそれはマズイっすよ。ひとまず二人を探しましょう。」

 ドアを半分ほど開いたところでキョウコに引き止められてしまう。

「まったく・・・その前にスマホを鳴らすか。まあ、無駄だろうけど。」

 不満を垂れ流しながらポケットからスマホを取り出し、ケンジとヒカリに電話発信をするが予想通り応答なし。

「だろうな。」

 電話発信をやめた俺は、ケンジのラインに暴言を送信しスマホをしまう。これでキョウコと屋敷を探索しながら、直接二人を探すしかなくなった。

「クソ面倒くせぇ・・・しゃあねぇ、行くか。」

 ため息混じりにうなだれるが、動かなければ事は進まないと覚悟を決め、上の階へと続く階段に足を掛ける。

「ちょちょちょ・・・なんでいきなり上の階に行こうとするんですか。」

「ケンジのことだ一番離れた部屋に隠れてるに違いない。」

 屋敷を二人きりでじっくり探索したいであろうキョウコだが、俺としてはあまり時間を掛けたくない。

「一階からゆっくり二人っきりで探してきましょうよー。」

 恥ずかしげもなくキョウコは本音をぶちまける。

「俺は早く帰りたいの!」

 こちらも本音をぶつける。

「もしかして、真っ先に上を探すことを見越して下にいるかも知れませんよ?」

「・・・うーむ。」

 キョウコの一言に気持ちが揺らぎ、腕を組んで考え込む。

「一利あるな。」

 結局、キョウコの意見を採用し一番近くにある引き戸を開けた。

 外より薄暗い室内はさほど広くはなく荷物が大量に積み上げられており、若干埃っぽい。ここは倉庫だ。

「おい、居るのはわかってんだぞ。出て来い。」

 ダンボールや布製品が所狭しと置かれているため、人が隠れられるスペースはないと判断し、中には入らず入口からスマホで照らしながら声を掛ける。

「・・・はずれか。」

 返事がなかったため、舌打ちとともに戸を閉めて隣の部屋にスライドする。

 目の前の扉のすぐ横の壁には電気スイッチが縦並びに三つ付いていた。

「このスイッチはトイレですね。」

 スイッチをまじまじと見つめるキョウコの横で、中で二人が隠れていることを想定し勢いよく扉を開ける。キョウコの予想通り中には蓋の閉じられた洋式トイレが鎮座していた。

「当たりだ。」

 予想が当たったことを薄ら笑いで称賛する。

「連れウンしますか?」

「ブチ殺すぞ。テメェ。」

 キョウコの汚い発言に対し、ナチュラルに最大限の暴言が出る。

 とりあえず蓋を開けて確認をしてみるが、誰もいないことは明白なため、長居はせず次に向かう。

「ところでキョウコ。」

 廊下を移動する道中、俺はキョウコに声を掛けた。

「はい?」

「何それ?」

 キョウコの手には棒の先にゴム製のカップが付いた、トイレの詰まりを解消するアレが握られていた。

「トイレの詰まりを解消するアレですよ。正式名称はラバーカップっていうらしいです。因みに英語ではプランジャーと言います。」

 俺の発した四文字の質問に対し、キョウコは十倍以上の字数で返してきた。

「そこまで聞いてねぇよ。何で持って来てんだよ?」

「いやぁ、一度使ってみたかったんですよー。」

 へへへっと笑いながらラバーカップをこちらに向け、突くような動作をする。

「こっち向けんな。」

 元々わけがわからんやつだとは思っていたが、余計にわからなくなってきた。

 そして、トイレの隣の引き戸を開ける。

 そこは一般的な洗面台と縦型洗濯機が置かれた何の変哲もない脱衣所と、蓋の付いた湯船のある小綺麗な広めの浴室だった。

「先輩、一緒に・・・」

「黙れ。」

 碌でもない発言をすることが明白だったので、俺はキョウコの言葉を途中でぶった切る。

 そして、人が隠れられそうな洗濯機と湯船の蓋を開けて中を調べ、念のため洗面台下の収納スペースも確認した。

 しかし、予想はしていたが誰もいなかった。

「野郎、どこに行きやがった?」

 毒づきながら脱衣所を出て、流れるように次の部屋に入る。

 中央に配置されたテーブルと椅子。壁際のガスコンロと流し台、そして冷蔵庫。ここはキッチンだ。

「何も入ってないですね。」

 速攻で冷蔵庫を開けたキョウコが報告する。

「入ってたら大変だ。」

 真新しい食材が入っていれば屋敷に住人がいるという証拠。逆にいなければ入っている食材は・・・考えたくもない。

 グロテスクな想像をしかけたが、頭を振って余計な思考を掻き消しガスコンロ下の収納等、片っ端から開けられる所を開けていく。

「ここにもいねぇ・・・。あれ?」

 空っぽだった床下収納の蓋を閉じ振り返ると、冷蔵庫をいじっていたキョウコが居なくなっている。

「キョウコ?」

 呼び掛けるが返事はない。

「おい、マジか。ふざけんなよ。」

 キョウコまで悪戯を仕掛けているのかと腹が立ち悪態をつく。

 ガタガタ。

「をっ!?」

 突然、冷蔵庫が音を立てて激しく揺れ、思わず俺は飛び退いた。

「・・・キ、キョウコ?」

 ガタガタ。

 緊張が僅かに解れた俺が恐る恐る呼びかけると、それに呼応するかのように冷蔵庫が揺れる。

「・・・。」

 俺は警戒しながら忍び足で冷蔵庫に近づき、扉の取っ手を掴むと一気に開放した。

「助かった〜・・・」

 中から安堵した様子のキョウコが出てきた。

「・・・何してんだ?」

 呆れと安心が入り混じった感情で聞く。

「先輩を驚かそうと思って入ったはいいんですが、出れなくなっちゃって・・・」

「そうか。」

 何故か照れくさそうにするキョウコに対し、俺は無表情で返す。

 そのまま開けずに帰ればよかった。

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