ホラー物のお約束みたいな状況
玄関ドアをくぐるとそこは広いホールになっていた。
二階からこちらを見下ろすことが出来るロフトにそこに通じる広い階段。階段横には更に奥へ通じる扉。そして、左右に伸びる廊下と、内部もかなり立派で予想以上に綺麗だ。
「へー、結構綺麗じゃん。」
ケンジは白いフローリングに土足で上がり込むと、ホールの中心に立って楽しそうに言う。
「マジで玄関から入れちゃったよ・・・」
トントン拍子の展開に俺は呆然としていた。
「でも、ちょっと気味が悪いね・・・」
長い髪を揺らし辺りを見回していたヒカリは苦笑いをすると、さり気なくケンジの袖を掴む。
確かにヒカリの言う通り、夕暮れ時の薄暗さと独特の静寂さが相まって不気味な雰囲気を醸し出している。
「なあ、やっぱ昼間に来ないか?」
先程の見間違いの件もあって俺のやる気は低迷していた。
「せんぱーい、ここまで来て何言ってんすか?あ、怖いんですかぁ?」
俺の提案に対し、キョウコはニヤニヤと笑いながら顔を覗き込んできた。
うぜぇ。
「まあまあビビリ君・・・あ、間違えたタカオ、後で飯奢るからさ。」
さらに笑顔でケンジが煽る。
「あ?テメー今、ビビリっつったか?」
そして、俺も笑顔で拳をわかりやすく発射態勢に持っていく。
ガシャーン。
奥の方から響く謎の衝撃音。
「お?」
「ぶ・・・っ!」
突然の音に拳が暴発し、ケンジの顔に命中する。
「いって・・・テメェ、マジで殴りやがったな・・・」
「あ、わりぃ。ついやっちまった。」
謎の音を気にしつつ、恨めしそうな顔をするケンジに軽く詫びた。
「何?今の音・・・」
音がしたであろう廊下の奥をヒカリが目を細め見据える。
「先輩、偵察に行きましょう。」
キョウコは俺を指名し、提案した。
「えー・・・」
乗り気でない俺は露骨に不満の声を漏らす。
「行きましょうよぉ!」
そんな俺に業を煮やしたキョウコは、駄々っ子のように腕を掴み引っ張って行こうとする。
「わかった!わかったから・・・!」
キョウコの勢いに、拒否し続けても面倒だと悟った俺は音の原因を探ることに同意した。
「はぁ・・・」
気の進まない事の中でさらに気の進まない事をすることになり、俺は長い廊下を歩きながらため息ばかりを吐いていた。そして、隣のキョウコは先程から何やら不気味な鼻歌を歌っている。
「・・・先輩先輩、せっかくポケモントラウマソングと名高いシオンタウンのテーマを口ずさんでるんですから、キャー怖いーとか言ってくっついたりしないんですか?」
「お前は何を言ってるんだ。そもそも俺のポケモントラウマソングはポケモンタワーだ。」
キョウコのカオス発言に俺は真顔でツッコミを入れた。
「あ、そっちか。」
「そもそもこんなマニアックなネタ、今わかるやついるか?」
そんな奇妙なやり取りをしてるうちに、音の発生場所と思われるドアの前に到達する。
「よし、開けるぞ。」
慎重にドアを開けるとそこは立派なベッドが置かれた寝室だった。壁には複数の絵画が飾られている。
「立派な寝室ですねー。」
部屋の中央に立ってキョウコが辺りを見回し、何を思ったのかベッドに入り込む。
「先輩・・・」
そして、マットレスを叩いて熱っぽい目で誘う。
「バカなことやってねーで原因を探すぞ。」
キョウコを嗜め、視線を床に移すとそれはすぐに見つかった。壁際にA4サイズほどの額縁がガラス片をまき散らし、裏面をこちらに向けた状態で落ちていた。
「これが犯人か。」
そう言って表面を向けると、幸せそうに微笑む男女の写真がいれられている。
「じゃ、回収しときますね。」
しゃがんで床の写真をまじまじと見ていると、キョウコが両手でひょいとそれを持ち上げる。
「・・・いや、え?」
キョウコの行動に理解が追いつかず、言葉にならない声を発した。
「ほら、後々キーアイテムとして・・・」
「いやいやいや、意味がわからん。そもそもどう使うんだよ?」
「これを分解すれば中に鍵か何らかのメッセージが・・・」
そう言いながらキョウコは額の分解を始める。
「そりゃお前ゲームのやり過ぎだろ。」
「えー、先輩ってそういうのにロマンを感じないタイプの男の子なんですか?」
呆れる俺を尻目に、黙々と手を動かしながらキョウコが聞く。
「そりゃ感じないわけはねーけど、現実に起こるとは思ってねーよ。」
「あ、お金が出てきました。」
顔を上げたキョウコの手には、額から取り出された三枚の一万円札が握られていた。
「元に戻しときなさい。」
俺はガチトーンで即答した。既に不法侵入という罪を犯しているが、これ以上罪を重ねることは俺の良心が許さない。
「はーい。」
ガチトーンが効いたのかキョウコは素直に従う。
一万円札を額に戻すとき、ちらりと写真の裏に書かれた「レイジ、ヒトミ」という文字が目に入った。
写真の男女の名前か?
そして、額を元に戻すとその場に置いて俺達は寝室を後にした。
「おいぃぃ・・・」
ホールに戻った俺は声を上げて脱力した。
なんとケンジとヒカリが忽然と姿を消しているのだ。
「はああぁぁー・・・」
ホラー物のお約束みたいな状況にクソデカため息が漏れる。




