お前、捕まるぞ・・・
俺達は目立たないよう庭の隅にバイクを停め、その場で屋敷を見上げた。
「相変わらず雰囲気があるね。」
西に傾いた太陽によって伸びる屋敷の黒い影が更なる不気味さを演出している。
屋敷へと向かう三人の後に続きぼんやりと二階部分を見ていると、窓に髪の長い女のようなものが見えた。
「あれ?」
ハッとしてその窓を見ると、そこには何も居らず間の抜けた声が漏れる。
「どうした?」
声に反応して足を止めた三人が振り返り、ケンジが口を開く。
「あー・・・いや、なんでもない。」
「ちょっと気になるじゃないですか〜」
言葉を濁すとキョウコが絡んで来た。
「ただの見間違いだって。」
「何か見えたの?」
今度はヒカリが食いつく。
「そこまで言ったんだから気になるから言えよ。」
そして、ケンジが肩に手を回してくる。
「わかったわかった。そこの窓に一瞬だけ女みたいな影が見えた。」
ケンジの手から身を捩って抜け出ると、女が見えたような気がした窓を指し示した。
すると、それを聞いた一同が静まり返る。
「お前マジか。見ちまったか!」
「おおー、盛り上がって来ましたねー。」
「動画撮っとけばよかったー。」
沈黙から場のテンションが急上昇する。
「落ち着けって、どう考えても見間違いだろ?」
必要以上に盛り上がる三人をどうにか抑え込む。
「いやいや、レポートを盛り上げる良いネタだ。」
そう言ってケンジは笑顔で親指を立てた。その背後ではヒカリがスマホで屋敷を撮影している。
オカ研としてはまあまあ美味しい状況なのだが、見てしまった本人としてはあまり気分の良いものではない。
そして、再び歩を進め古びた動物の置物やひび割れた鉢等、不気味な雰囲気を演出するオブジェの横を通り過ぎた俺達は玄関ドアの前に到達した。
「とりあえず、建物を一周回ってみるか。」
「でも、前来た時より大分草が伸びてるぜ。」
提案をするケンジだが、荒れ果てた庭は所々背の高い雑草に侵食されていた。
「ああ、それならお任せを・・・」
そう言ってキョウコは愛車に駆け足で戻ると、車体後部に取り付けられたサイドバッグをゴソゴソと漁る。
「確かこのバッグに・・・あったあった。」
そして、キョウコはバッグから何やら長い物を取り出し、行きと同様走って戻って来た。
「これさえあれば多少の草むらなら排除出来ます。」
自信満々に言うキョウコの手には、厚めで幅広の尖った刀身を持つ剣のようなものが握られていた。所謂マチェットというやつだ。
「お前、捕まるぞ・・・」
にこやかなキョウコとは対照的にドン引きする一同。職質をされてこれが見つかろうものなら言い逃れは絶対に出来ない。
「・・・ま、まあ、時間もないことだし、とりあえず行くか。」
ケンジの一声によってキョウコの露払いの元、屋敷周辺の探索が始まった。
「雑草の侵食以外は特に変わりはないね。」
バサバサと雑草を薙ぎ払うキョウコの後ろに続いて屋敷の裏手に到達すると、ヒカリは壁の比較的綺麗な部分に手を置いて言った。
「だな。新たに侵入経路が出来た感じでもなさそうだ。」
俺は屋敷に貼り付けられた傷ひとつない窓ガラスを見上げる。
「いや、あそこから行けんじゃね?」
ケンジが指し示す場所を見ると、一階と二階の中間ほどの位置に長方形の穴が空いていた。
「何だありゃ?」
俺は首を伸ばすようにして目を凝らす。前回来たときはあんな穴などなかった筈だ。
「通気口じゃないでしょうか?」
キョウコが穴にピッタリハマりそうな白い樹脂製のグリルを地面から拾い上げ、こちらに見せる。
「ああ・・・」
それに全員が頷き納得した。
「ちょっと見てみるわ。」
そう言ってケンジはレンガの凹凸に手足を掛けて壁を登ると、スマホのライトで穴の内部を照らし十秒ほどでするすると降りてきた。
「どうだった?」
「入れることは入れるけど、暗くて埃っぽいからあくまで最終手段かな。」
ヒカリの問いに少し渋めの顔でケンジが答える。
「あ・・・!」
不意にキョウコが小さく声を上げる。
「どうした?」
「先輩、ウサギが居ます。」
キョウコの指し示す方向を見ると、背の低い雑草から茶色い野ウサギが顔を出していた。
「ホントだ。可愛いー。」
「今晩は私がウサギのパイを作りますね。」
はしゃぐヒカリを尻目に、キョウコは静かにマチェットを振り上げ投擲の姿勢を取る。
「おい、やめろ。」
「あ、逃げちゃった・・・」
俺が止めに入ると何かを察知したのかウサギは逃げて行ってしまった。
「ま、まあ、これと言って変わったところはなさそうだな。」
なんとも変な空気になってしまい、ケンジが流れを変えるべく口を開く。
「じゃあ、さっさとメインに行こう。暗くなってからの探索はさすがにキツい。」
そうして屋敷を一周し、俺達は玄関前に集まった。
まずケンジがドア横のインターホンを押し、一同が耳を澄ます。・・・が、故障しているのか電気自体が来ていないのか、前回同様反応はなし。
次にいかにも立派な両開きの木製ドアをガチャガチャと押し引きし、直接開放を試みるがもちろん施錠されている。
「やっぱ開かないか・・・じゃ、片桐ちゃんお願い。」
「はい。」
ケンジの要求に、工具を持ったキョウコは笑顔で答えドアに取りついた。
「ディスクシリンダー・・・これなら余裕。」
作業を始めるキョウコを尻目に俺は庭の入口を見張った。
この状況を他の誰かに見られたらヤバい。
「開きましたぁ。」
五分もしないうちにキョウコの明るい声が背後に響く。
そして、俺達四人は玄関から化け物屋敷に入っていった。




