コイツは何を思ってアメリカンをチョイスしたんだ?
「ただいまー。」
着替えと移動手段確保のため帰宅した俺は、玄関で奥に向かって声を掛けるが返事はない。両親は共働きであるためこの時間帯はまだ仕事中だ。
俺は靴を脱ぎ家に入ると、キッチンに夕食は要らない旨のメモを残し、自室へと向かう。
そして、手早く私服に着替え深緑色のレプリカフライトジャケットを着込むと、フルフェイスヘルメットを掴み再び玄関へと向かった。
そして、親父のお下がりの青白ツートンの中型バイクで自宅を出発した。
本来、校則でバイクの所持及び免許取得は禁止されているが、調査等で辺鄙な場所へ行ったりする特性上、柔軟な移動手段が必要になるため、各々がこっそり免許を取得している。
十分ほどで待ち合わせ場所のコンビニに到着した。駐車場には既に黄緑色のカウルに覆われたケンジのスポーツバイクと、大型バイクと見間違うほどのサイズ感があるキョウコの青いアメリカンバイクが停まっている。ちなみにヒカリは免許を持っておらずケンジと二人乗りだ。
店内に入ると雑誌コーナーで、ジーンズに革ジャン姿のキョウコが結婚情報誌を立ち読みをしていた。無駄なことだが見つからないよう気配を消して奥に移動しようとするが・・・
「先輩、お疲れ様です。」
瞬殺。
「チッ、バレたか・・・」
「ちょっと見てくださいよ。この式場すごいオシャレですよ。」
キョウコが鼻息荒く式場特集のページを、顔に押しつけんばかりの勢いで見せつけてくる。
「ちょ、おい・・・」
勢いに押され満足に反論することが出来ない。
「式はここで挙げましょう。あとこの雑誌、なんとピンクの婚姻届が付いてるんですよおぉー。」
「待て待て待て!」
「お、来たな。」
どうにか態勢を整え反転攻勢に出たところで、レジ前に来たケンジに声を掛けられる。ヒカリも一緒だ。
「相良君もなにか買う?」
ケンジの会計待ちのヒカリが聞く。
「ん・・・コーヒー。」
二人の合流により唐突にクールダウンした俺は短く答えると、店内奥のドリンクコーナーへ向かった。
キョウコも同じく頭が冷えたようで俺の後に続行する。しかし、その手には結婚情報誌がしっかりと握られていた。
会計を終えた俺は、退店と同時にペットボトルを開封しよく冷えたコーヒーを一口飲んだ。そして、バイクの前にいるメンバー達の元に向かうと、談笑するケンジとヒカリの横でキョウコがショーウィンドウを下敷き代わりに婚姻届を書いていた。
「なあ、キョウコ。」
「何ですか?」
俺の呼び掛けにこちらを向くことなくキョウコが答える。
「色々言いたいことがあるが、まず書くのをやめろ。」
「大丈夫です。今、書き上がりました。ケンジ先輩、保証人の記入お願いします。」
「よしきた。」
婚姻届を引き継いだケンジがショーウィンドウに張りつく。
「だから書くなって!」
「冗談だよ。冗談。」
悪戯っぽく笑いながらケンジは、保証人欄未記入のまま婚姻届をキョウコに返した。
「え?私は本気だったんですが・・・」
そして、寂しそうな顔をするキョウコ。
「それじゃ、時間も押してきてるし行くか。」
ケンジの一声で各々が愛車に跨り、国道へと繰り出した。
ケンジとヒカリ、キョウコ、俺の順で国道を街の郊外へ向けて走っている。帰宅ラッシュまでまだ少し時間があるため、道路の流れはまだスムーズだ。
風切り音とエンジン音、インカムを通した仲間達の会話を聞きながら、ぼんやりと前を走るキョウコの後ろ姿を眺めていた。
銀の半ヘルを被った小柄な身体に、アンバランス過ぎるデカくて重いアメリカンバイク。
こいつは何を思ってアメリカンをチョイスしたんだ?
「先輩。」
「・・・ん?」
突然キョウコに名指しされ、ワンテンポ遅れて反応する。
「さっきからずっと私のことを見てますけど、そんなに見られると穴が空いちゃいますぅ。」
こいつは後ろに目かセンサーでも付いてんのか?
「オメーが前を走ってるからだろ。なんだよ穴が空くって」
「あんまり見過ぎて追突すんなよ~。」
そんな感じにわいわいやっていると、徐々に家屋や店舗などの人工物でひしめいていた周囲の風景が、畑や田んぼなどの緑に置き換わり始め、道路の両脇が完全な緑になった辺りで側道にそれる。その道は舗装されているが、かろうじて車がすれ違えるほどの狭さの農道だ。
「そう言えば・・・」
話題が途切れ沈黙していたインカムにキョウコの声が入る。
「部室で前に屋敷の調査をしたと言ってましたが、その時は何をしたんです?」
キョウコは質問をした。
前回の調査時、キョウコはまだ入学前だ。
「屋敷周辺と学校内での聞き込みとネットサーフィン。」
俺は当時を振り返りながら答える。
「あと市役所とかにも行ったよね。」
「個人情報が絡んでるとかで大した事は聞けなかったけどな。」
情報をつけ加えるヒカリに、それに対する具体的な話をするケンジ。
中に入れないだけあって調査活動は限定的になり、得る情報も少なく、レポート自体も中々薄味なものになってしまった。
「それでどんなレポートを書いたんですか?」
「ああ、出回ってる話は全部噂に過ぎないって結論で、あとは字数稼ぎ見たいな内容になったな。」
「もっと詳しく聞かせてくださいよ。」
更にキョウコが食いつく。
「部室にレポートがある。それを読んだほうがいい。」
出回っている噂について大きくまとめると、昔屋敷には金持ちの夫婦が住んでいて、ある日ちょっとした口論から夫が妻を殺してしまい、その死体を床下に埋めてその後夫は失踪。以後、屋敷で怪異が頻発といった具合だ。
そして、俺達の調査で判明した真実は、確かに仲の良い夫婦が住んでたのは事実だ。ただ殺人事件などがあった事実はなく、妻が病気か何かで長期入院をし
そこから何処かに移り住んだのか住人を見かけなくなったという話だ。
気がつけば周囲の風景は田畑から鬱蒼とした森に変わっていた。まだ夕方近いとはいえ日が高いのに街灯すらない森は薄暗く気味が悪い。
その森の奥、農道の右手に件の化け物屋敷はあった。
年季を感じさせる蔦の絡んだ赤茶のレンガ造りに深緑色の三角屋根。荒れ果てた庭といかにもな雰囲気の屋敷だ。




