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無差別級自由研究

 住宅街の中に数棟の白い校舎と広いグラウンドを持つとある高等学校。放課後の部活動に打ち込む生徒達の声が響く広い敷地の片隅に建つ、こじんまりとした灰色のコンクリート製の建物。その中の一室で俺、相良タカオはオカルト雑誌のバックナンバーを読みふけっていた。

 ここはオカルト研究部の部室で、教室の三分の一の広さの室内には会議用の長机二つと、それを囲むように配置されたパイプ椅子、そして壁際の本棚には大量のオカルト関連書籍と部員の私物が収納されている。

「おーっす。」

 ガラリと扉が開き、制服のブレザーを僅かに着崩した少年と、あとに続いて黒髪ロングの清楚系な少女が入ってくる。

 オカルト部部長の笹田ケンジと、その彼女にして部員の八坂ヒカリだ。

「はいよー。」

 雑誌に目を落としたまま生返事を返す。

「相変わらず一番乗りだね。相良君。」

「まあ、教室から直で来てるからな。」

 この二人は授業が終わるとお互いを迎えに行ってるので、いつも部室に来るのが少し遅い。

 ドタタタ、バン。

「先輩!クッキー焼いてきたんで食べてください。」

 小柄なショートヘアの少女が慌ただしく部室に入って来るなり俺にそう言って、肩に掛けていたボストンバッグを机の上にドスンと置く。

 こいつは後輩の片桐キョウコだ。

「たくさん焼いたんで皆さんもどうぞ。」

 キョウコがバッグのジッパーを開けると、中には様々なフレーバーの手作りクッキーがこれでもかというほど詰め込まれていた。しかも、全てにキョウコの顔がプリントされている・・・。

 この様に狂気じみた手段で俺に求愛してくるため、距離の取り方が全く分からず日々困惑している。

「おい、限度ってもんがあるだろう・・・」

 クッキーは好きだが、これは色々キツい。

「先輩への愛は限度なんて安っぽい言葉じゃ抑えられません。」

 キョウコが熱意の籠もった目で自信満々に胸を張る。

「安いとかそういう問題じゃねぇだろ!」

「とりあえず、これ分けて冷蔵庫に入れとこうか。」

 俺とキョウコのやり取りに苦笑いをしながらヒカリが提案する。

「当分、お茶菓子には困らんね。」

 オカルト研究部本日最初の活動は、大量のクッキーの取り分けとラップ掛けから始まった。


「さて、ミーティングを始めようか。」

 分け切れなかった山盛りのクッキーを取り囲み全員が席につくと、部長のケンジが取り仕切る。

「早速だけど、次どこ行く?」

「この間は近場の遊園地に行ったから、次は県外の水族館とかどうよ?」

 固めのクッキーを噛りながらケンジの問いに答える。

 この部の活動の大部分はミーティングという名のお茶会か、取材や調査名目のお出掛けだ。

「ああ、あそこね。私気になってたんだぁ。」

 水族館の場所の見当をつけたヒカリが嬉しそうな顔をする。

「うん、いやちょっと待て。今回に関してはいつものお出掛けじゃなくて、報告書向けの企画会議な。」

 仲良しグループと化しているが正式な部として登録されているため、定期的に何らかの活動を学校に報告しなければならない。

「方針は決まってるか?」

「今までの調査報告をまとめた冊子を作って即売会にでも・・・って思ったけど」

 何やら大きめの計画を話そうとするケンジだが、早々に否定的な締め方をする。

「それをやるとしたら時間が足りなくない?」

 ヒカリが言葉の続きを予測し発言した。

 執筆、データチェック、製本の段取り、それに加えて即売会の検索や手続き等を考えると、明らかに時間が足りないのは誰の頭にも明白だ。

「そう!それと参加出来そうなイベントがない。」

 学生という身分であるため活動範囲は狭く、参加可能なイベントは限られてくる。

「だろうな。」

「今回も何らかのオカルト関連の事を調査して、そのレポートをそういうのを取り扱ってる所に提出しようと思う。」

「いつものやつですね。」

 今日この言う通り、オカルト研究部の活動実績に関しては毎回、適当にオカルトっぽい事をしてそれっぽいレポートを作り、それっぽい事を募集してる所に応募する。というような最早アリバイ作りのようなことばかりだ。

「ちなみに提出先は決めてある。」

 そう言ってオカルト雑誌の最新号のあるページを出す。ページには無差別級自由研究大募集と大きく書かれていた。年齢や内容に制限はなく、文字通り自由に研究した結果を募集する企画で、優秀なものには賞金が出るらしい。

「これなら報告として上げれそうだな。」

「しかも最優秀賞の賞金は五十万!分配すると一人あたり十二万五千円だ。これだけありゃやりたいことが大体出来るな。」

 応募は愚か何をするかすら決まっていないのに何を言ってんだか。

「ま、当たるかどうかはさておき、この企画への応募は決定事項だから案を出してくれ。」

「なんだ、ちゃんと現実見えてたのか。」

「当たり前だろ。人を空想世界の住人扱いすんな。」

「じゃあ、オカルト雑誌は去年一年で滅亡という単語を何度使ったかっていうのはどうです?私が空き時間にやってるんですが、あと半年分で終わります。」

 挙手をしながらキョウコが真顔で案を出す。

「何やってんだよ。お前は・・・」

「意外性があって良いと思うが、ちょっと地味だな。」

 キョウコの不毛とも思える行動に呆れるが、ケンジは関心と難色の両方を示した。

「タカオは何かあるか?」

「俺?・・・まあ、オーソドックスなもんしかないな。」

「ほう、例えば?」

 煽り成分の混じった表情でケンジがこちらに目を向ける。

「心霊スポットにある噂の検証とか、博物館とかに展示してるオーパーツの独自研究とか?」

「つまんねー。」

 とりあえず、パッと思いつくそれらしい案を並べるが、煽り成分全開の顔になったケンジがバッサリとぶった斬る。

「じゃ、テメーがアイデア出せよ。」

 普通にムカついた俺はカウンターを入れた。

「ああ、心霊スポットの噂といえば・・・!」

 ヒカリが何かを思い出したように顔を上げる。

「お、何かある?」

 俺を華麗にスルーし、ケンジは嬉しそうな顔をヒカリに向けた。

「ほら、街外れにある・・・」

「ああ、化け物屋敷か。」

 ヒカリが言いかけたところで、ケンジは手をポンと叩いてその先を言う。

 化け物屋敷とは街外れの森にある大きな家のことで、いつの頃からか殺人があっただの死体が出ただのと良からぬ噂が立ち、そこから暗い部屋の窓から不気味な女が見ていた。笑い声が聞こえたなどと言われるようになったためそう呼ばれている。

「そう、その調査は?」

「過去にやったろ。」

 俺は事実を突きつけた。

 この化け物屋敷に関しては過去に周辺の聞き込みや、図書等での調査をして出回っている噂は根拠のないものという結論でレポートを書き上げている。

「やったけど、中はまだ調べてないよね?」

「あそこ鍵が掛かってて中に入れないぞ。」

 確かに以前の調査では、ドアや窓は全て施錠されており侵入経路が見つからなかったため、内部の探索までは出来なかった。

「あ、私鍵開け出来ますよ。」

 そう言ってキョウコは鍵開け道具を机の上に広げた。

「何でだよ!?」

「よし、じゃあそれで行こう。」

 俺のツッコミも虚しくどんどん話が進む。

「待て待て。明らかに犯罪行為だぞ。」

「大丈夫だよ。俺達が入って調べたんじゃなくて、入った人に取材したっていう体でやれば良い。」

 ケンジは口元に笑みを浮かべ親指を立てた。

「現行犯で捕まったらどうすんだよ・・・」

「それじゃ、行くか。善は急げだ。」

 俺の呟きなど聞こえていなかったかのようにケンジは立ち上がる。

「いや、今からかよ!」

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