事故処理
ケンジの着地地点に到着すると、既に事は終わっていた。
そこにはバラバラになったバイクの残骸の中心で呆然と佇むケンジと、暴れる獣を寝技でホールドするアカバネが待っていた。
「ケンジ・・・大丈夫?」
ヒカリが恐る恐るケンジに近づく。
「バイク以外は無事だ。保険屋になんて言おう・・・?」
そう言ってケンジは被ったままだったヘルメットを脱ぐと、ため息混じりに頭をかいた。
「随分と派手に壊しましたね。」
「にしても、飛び降りたとはいえこんなバラバラになるか?」
目を丸くするキョウコだが、あまりにも不自然な破損具合に、俺はケンジが飛んだ法面を見上げた。飛び降りた高さはせいぜい五メートルだ。一五〇キロは軽く出るようなバイクの剛性を考えれば、こんな壊れ方はしない。
「ちげーよ、オッサンがシートの上でスーパージャンプしてあのデカブツに飛び掛かったんだ。」
そう言ってケンジがなおもホールドを続けるアカバネを顎で示した。
「マジか、すげー脚力・・・」
とても信じられるような話ではないが、この状況を見れば信じざるを得ない。
「すまないことをしたね。弁償しよう。」
唖然とする俺を尻目に、アカバネが獣の上で寝そべったまま言う。腕の中の獣は既に沈黙している。
「高いですよ。これ」
ケンジが恨めしそうに言う。
それもその筈、ケンジのバイクは数年前より憧れに憧れ、購入時には数え切れないほどのこだわりと妥協を詰め込んだ代物だ。・・・しかし、それでよくガードレールから飛ぼうなどと考えたものだ。
「わかったわかった。要望には出来る限り答えよう。」
獣を背負って立ち上がったアカバネは宥めるように言った。
「ただ、その前にやらなきゃならんことがある。誰か電話を貸してくれないか?」
「どうぞ。」
俺はポケットからスマホを取り出し、ロックを解除してアカバネに渡す。
「すまないね。」
礼を言ってスマホを受け取ったアカバネは、何処かに電話をして二言三言言葉を発し通話を終了した。
「ありがとう。」
「どこに電話を?」
返されたスマホを受け取りながら質問する。
「会社だよ。さすがにこれを放置するわけにはいかんからな。専門部署に回収を依頼した。」
アカバネは短く答えると、散らばる残骸を見回しながら続けた。
確かにロードサービスを呼ぶにしても、この状況を説明するのは非常に難しい。
十五分ほどで黒塗りのセダンが、黒いバン二台を引き連れて山道を登ってくると、近くの道路脇に連なって停車する。
そして、それぞれのバンから作業服を着た複数の男達が下車し、セダンからは黒いスーツのいかにもエリートな男が降りてきた。
「アカバネ博士、いくらあなたといえどもこういった事をされるのは困ります。」
黒スーツがアカバネに詰め寄る。
「すまない。だが、興味深い実験データが取れた。」
「まあ、いいでしょう。では回収と補修に関する説明をします。」
黒スーツと打ち合わせをするアカバネの周辺では、作業服の男達が、獣と残骸の回収を黙々と行っていた。
「なんか映画みたいですね。」
「だな。」
「ね。」
その様子を見てキョウコが目を輝かせるが、俺とヒカリは呆然としていた。
オカルト研究部の活動で心霊スポットの調査をしてた筈なのだが、どうしてこうなった。
そう考えると俺は無意識に頭を抱えた。
「先輩、具合でも悪いんですか?」
俺のちょっとした動きを察知したキョウコが、心配そうに聞く。
「いや。」
それに対し俺は短く答えた。
「おい、ちょっと、俺の愛車をどうする気だ?」
不意にケンジが作業員の一人を引き止めて問い詰める。
「いや、あのー・・・自分らは回収をするようにとしか言われていないもので・・・」
作業員は困ったようにお茶を濁す。
「あーすまない。悪いようにはせんから彼らの邪魔をせんでやってくれ。」
黒スーツと話し込んでいたアカバネが、ケンジに気づいて声を掛けた。
「・・・。」
宥められたケンジは、黙って作業員を開放した。
「君達は先に私の家に戻っていなさい。」
そして、アカバネは続けてこちらにも声を掛ける。
「いや、ここで待たせてください。」
しかし、俺はそう返すとバイクに腰を預け、作業を見守る態勢に入った。
恐怖体験をしたあの屋敷に自分達だけで戻るのは気が引ける。
その後は流れるような速度で事が運んだ。
それから十分ほどで回収作業が終了すると、バンが一台離脱し山道を下っていった。そして、黒スーツとアカバネがセダンに、残った作業員がもう一台のバンに乗り込むと、こちらは屋敷に向け出発する。俺はケンジを後ろに乗せると、キョウコ達とともにセダンとバンの車列を追った。
屋敷に到着すると、俺達はアカバネとともに再びリビングに通され、黒スーツと作業員達はキッチンの方へと入っていった。おそらく化け物達を回収するのだろう。
その後はアカバネの奢りで取った寿司を食べながら、ケンジのバイクに関する口裏合わせ等の打ち合わせを行い、帰路に就く頃にはまあまあな時間になっていた。
そして、家に帰り着いた俺は、屋敷での濃密な体験の疲れによって気を失うようにして眠りにつき、翌日大寝坊をぶちかますのであった。




