屋敷での一件から二週間後
「いやぁ、崖下にバイクが落ちるなんて思いませんでしたよ。」
行きつけのバイク屋でケンジはスタッフと談笑していた。傍らにはアカバネの弁償によって納車された、オプション増し増しのハイグレードな新車が鎮座している。
それを横目に見ながら、俺は缶コーヒー片手に所狭しと並べられた展示車両を眺めていた。
崖近くに駐車したケンジのバイクに、アカバネの運転する車が突っ込みそのまま落下したというのが、屋敷での打ち合せで導き出されたシナリオだ。
「はい、もうその辺にしてそろそろ行かないとキョウコちゃんが待ってるよ?」
会話にさらなる盛り上がりを見せるケンジだったが、蚊帳の外状態だったヒカリによって強制終了させられる。
「結局、代替えの活動はどうするよ?」
バイク屋を出て国道を走行する俺は、予想だにしない事態によって、振り出しに戻ってしまった活動について先行するケンジに問い掛ける。
あの日の屋敷での事はアカバネに口止めされている。されていなかったとしてもあまりにぶっ飛びすぎていて発表出来るものではない。
「化け物屋敷で行く。」
「はあ?!アカバネさんに口止めされてんだろ?」
さらりと言い放つケンジに思わず声が大きくなる。
「いや、屋敷の住人によるお宅紹介って内容のレポートを書く。」
「それオカ研的にどうなの?」
ケンジの後ろに乗るヒカリが引き気味に聞く。
最早、オカルト要素が見当たらず、単なる悪足掻きのようにしか思えない。まあ、そんな事は今に始まったことではないが・・・
「要はこじつけだよ。こじつけ。全てはタカオの文章力に掛かってる。」
「いや、書くの俺かよ!」
「大丈夫。賞金を狙う必要もなくなったから好きに上手いこと書いてくれればいい。」
俺のツッコミに対しフォローになっていないフォロー発言をするケンジ。その口ぶりから親指を立てるケンジの姿が目に浮かぶ。
「一応、賞金は狙ってたのな・・・」
そして、俺達は化け物屋敷ことアカバネ邸に到着した。
当初の目的はアカバネへのお礼も兼ねたケンジのバイクのお披露目だったが、先程の会話でもあったようにお宅紹介ということで、改めて屋敷内を見て回ることになるようだ。
「昼間に来ると大分雰囲気が違うね。」
ヘルメットを脱いだヒカリが屋敷を見上げる。
確かに屋敷の安全が確保されたこともあってか、当初感じていたおどろおどろしさは消えむしろ爽やかささえ感じる。
まるで初めて来た場所かのように庭を見回しながら、玄関へ向かいインターホンを押した。
「皆さんようこそいらっしゃいました。」
チャイムから少しのタイムラグの後、パタパタという足音とともに、玄関口に現れたのはキョウコだった。
「何でナチュラルにお前が対応してんだよ。」
「いやぁ、早く着いたんで博士に先輩のクローンを量産出来ないか交渉しつつ、オカルト雑誌の滅亡を数えてました。」
俺の発言に対しおぞましくもツッコミ所満載な答えが返ってきたため、脳が溶け出しそうな感覚を覚える。
「やあ、よく来たね。」
キョウコの背後から穏やかな表情のアカバネが顔を出す。
「アカバネさん、こいつの脳みそを改造してまともにすることって出来ますか?」
「無理だ。落ち着きなさい。」
気の利いた言葉が見つからず、脳内に浮かんだ言葉を口にするもアカバネは短い言葉で俺を宥めた。
「お邪魔します。今日はよろしくお願いします。それとバイク、納車されたよ。」
キョウコのぶっ飛び具合に頭を抱える俺の隣で、ケンジが礼儀正しく頭を下げると、ニヤリと笑って庭に停められたバイクをアカバネに見せた。
「青と白のツートンカラーが素晴らしいね。」
「アカバネさん、それ俺のバイク。」
ケンジの新しいバイクは黒だ。
「冗談だよ。バイクの事はよくわからんがカッコイイじゃないか。」
アカバネは口元に笑みを浮かべると満足気に頷いた。
「皆さん、お茶の準備も出来ているので中に入りましょう。あ、特製クッキーも焼いてきたんですよ。」
「お前・・・またアレを焼いたの?」
そうして俺達は再び屋敷に足を踏み入れた。
そして、俺達は化け物屋敷の住人によるお宅紹介という内容でレポートを作成し、オカルト雑誌主催の企画「無差別級自由研究」に応募。それを活動実績として学校に報告した。
応募結果については勿論、苦し紛れのこじつけレポートが採用されるはずもなく落選であったが、同時に応募したキョウコの滅亡カウントがまさかの入選を果たしたのであった。




