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初期段階の試作

 屋敷から飛び出していった大型の獣を追えというアカバネの叫ぶような要求に、スクランブル発進をする戦闘機パイロットのごとく、俺達は玄関から飛び出しそれぞれの愛車に飛びついた。

 そして、俺は愛車に跨ると、ヘルメットを引っ掴み勢いに任せて頭を突っ込み、エンジンをスタートさせた。

「私も乗せてくれ。」

 隣でバイクに跨り、ヘルメットを手に取るケンジにアカバネが要求する。

「そこは彼女専用だ。」

 しかし、ケンジは先程の丁寧な態度とは打って変わって素っ気なく突っぱねた。

 それもその筈、ケンジの言うように後部座席はヒカリ専用の聖域だ。俺自身、過去にケンジの答えを聞く前に、後部座席に乗り込んでマジギレされたことがある。

「ヒカリ先輩、私の後ろに乗ってください!」

 既に愛車の猛々しいVツインサウンドを轟かせていたキョウコが、座り心地の良さそうな後部座席を叩きヒカリを呼ぶ。

「では行こう。」

「・・・。」

 バイクの後部に乗り込むアカバネに何か言いたげではあったが、切迫した状況なだけにケンジは何も言わずエンジンを掛けた。

 そして、ケンジを先頭に俺達は屋敷の前を走る山道へ飛び出していく。

 街灯のない真っ暗な山道を、三台分のヘッドライトを頼りに突き進む。全員が無言になる中、俺は口を開いた。

「あの獣は一体何なんだ?」

 先程からずっと気になっていた事だ。あの獣に関しては、地下の日記にも登場しておらず詳細が全く不明だ。

「屋敷で始末した三体を作る準備として試作したものらしい。」

 俺の質問に対し、インカムを着けていないアカバネに代わってケンジが答える。

「初期段階の試作だから屋敷からの脱走防止プログラムもしてない。」

 ケンジの中継は続き、あまり聞きたくない情報も流される。

「屋敷内とはいえ、なんでそんなのを野放しに・・・」

 ヒカリが絶句した様子で口を挟む。

「今まで問題がなかったから大丈夫だろうと高を括っていた・・・そうだ。」

 中継の締めに回収済みのフラグを突き立てる。

「絶対にいつかなんか起きるパターンじゃねーか!」

 まあ、そのいつかが今日になってしまったわけだが・・・。

「見えた!」

 キョウコが声を上げる。

 先頭を走るケンジのハイビームが、疾走する犬型の獣の後ろ姿を捉えた。

「でけぇ・・・」

 ケンジの驚愕する声が耳に届く。

 確かに最後尾を走る俺から見ても、そいつのサイズは視力がバグったとしか思えないようなデカさだった。

 そして、前方に交差点が現れ、獣は横跳びをするようにして右折する。

 俺達も後に続き右折すると、街灯が立ち並び片側一車線の広くて綺麗な道路に出た。

「え・・・?ここは・・・?」

 風景の大きな変化に俺は思わず声を漏らす。

「先輩、よくツーリングで来る山道です。ここ。」

「ああ、ここか。」

 キョウコの助言により、記憶の中にある風景と今現在見ている風景が合致し、納得の声を上げる。

「よっしゃ、それならもう勝ったも同然だ。」

 そして、道路が走りやすくなったことにより、ケンジは水を得た魚のようにぐんぐん加速し、獣との距離をどんどん詰めていった。

「おいおい、速すぎんだろ・・・」

 それとは対照的に、普段スピードを追い求めるような走りをしていない俺はじりじりと離されていく。

「この先で決着をつける。みんなは無理せずついてきてくれ。」

「既についてけねーよ・・・」

 ケンジの言葉に、俺は聞こえるか聞こえないか微妙な声量でぼやいた。

 そして、遥か前方に下り方向へ折れ曲がるヘアピンカーブが出現する。ケンジはここで勝負を決めるらしい。

 しかし、先行する獣はカーブに到達すると、速度を落とすことなく道路外側の法面を蹴ってターンをした。

「上等だ・・・っ!オッサン、振り落とされんなよ。」

 そう言ってケンジも負けじと、車体を真横にする勢いで倒し、膝のプロテクターをアスファルトに擦りつけながらカーブの向こうに消えていった。

 後ろから見ても迫力のある絵面だったが、一般的に見ればノーヘルのオッサンと二人乗りで、公道をオーバースピードで膝擦りとモラルハザードのオンパレードだ。

 俺とキョウコがカーブを抜けた頃には、ケンジはより小さくなり、獣に至っては確認出来ないほど距離が開いてしまっていた。

 そして、この先にも再びヘアピンが待ち受けている。

「しゃあねぇ、奥の手を使うか・・・オッサン、バイク壊れたら弁償してくれよ。」

 もうすぐヘアピンに差し掛かるであろうケンジの不穏な発言をする。

 その直後、遠くに見えるケンジのバイクが、凄まじい音ともにタイヤから白煙を撒き散らしながら真横を向いた。そして、慣性による横滑りが収まると、流れるように前輪を大きく上げ、そのままガードレールを乗り越えて真下の道路へケンジはバイクもろとも飛び降りた。

「あいつ・・・いつか死ぬぞ。」

 思わず停止した俺は、ケンジが飛び降りたガードレールを呆然と見つめた。

「先輩、私らは普通に行きましょう。」

 俺と同じように前方で停止していたキョウコは、そう言うとゆっくりと発進し俺もその後に続く。


「大惨事じゃねーか。おい。」

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