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四人で突撃の先制攻撃

「以上だ。」

 そう言ってケンジは文章の入ったファイルを閉じた。

「おいおいおい、とんでもねぇもん遺してくれたなぁ。このマッドサイエンティスト。」

 化け物達の生立ちと生みの親の末路を読み終えた俺は顔を押さえ苦悩した。

「この部屋にはこれ以上得るものはないな。」

 そう言ってケンジがパソコンデスクから立ち上がる。

「まだ書類のチェック終わってないけど?」

 ヒカリが手に持っていた、何らかの実験器具のマニュアルと思われるものが綴じられたバインダーを見せる。

「それはもう時間のじゃね?」

 ケンジの言う通り今まで見てきた書類に、内容が理解出来るものは一つもなかった。

「じゃあ、他の部屋を探しましょう。なるべく培養室には行かない方向で」

 キョウコが自分の希望を交えて提案した。

 そんなやり取りを見ながら、俺は無意識に腰のサイドポーチに手を突っ込んだ。

「・・・?」

 触り慣れない四角い物体が手に触れ、視線を手元に落とす。

「ああ、これか。」

 ポーチから引き抜かれた手には、クッキータイプの栄養調整食品のパッケージが握られていた。

 一週間ほど前、移動時の非常食にとスーパーのワゴンセールで買ったものだ。ちょうど良い、小腹が空いていたところだ。

「タカオ、出発だ。」

 クッキーのパッケージを見ていると、次の行動に出るためケンジが声を掛けてくる。

「その前にちょっと一息つこうぜ。」

 俺はそう言ってパッケージを見せた。クッキーはちょうど四個入りだ。

「・・・いや、俺は遠慮しとく。」

「私もやめとく。」

 パッケージを見つめながら、少し考える素振りを見せたケンジは断り、ヒカリもその後に続く。

「私は頂きますぅ。」

 キョウコは喜々として受け取りに来た。

「ほらよ。」

 パッケージを開封し、クッキーが二つ入った包装を丸ごと渡す。

「ありがとうございます。大事に取っておきます。」

 そう言ってキョウコは包装をジャケットのポケットに仕舞い込んだ。

「あれ、食わねぇの?・・・まあ良いか。」

 俺は包装を破り長方形のブロックを一口かじる。

 その瞬間、口の中の水分が一気に奪われ思わずむせ返ってしまった。

「ぶふぉ・・・っ!く、口の中の水分が・・・」

「ほらな。だから遠慮したんだ。」

 そう言ってケンジは肩をすくめる。

「先言えよ・・・」

 ケンジを睨みつつ、俺は食べかけのクッキーを包装に戻した。

「よし、一服できたな。行くぞ。」

 ケンジは何事もなかったかのように出発を促した。

 そして、俺達四人は突入前の特殊部隊よろしくドアの横の壁に沿って隊列を組む。

「・・・よし、行こう。」

 外の様子を確認した先頭のケンジがゴーサインを出し、僅かに開けていたドアを大きく開き、素早く廊下に飛び出す。バイクでの移動時と同じ順で俺が最後尾だ。

 隊列はスピードを緩めることなく隣の資料室と書かれた部屋に流れ込む。しかし、部屋に入る間際、上の階に続くドアから地下フロアに侵入する包丁女が見えた。

「やべぇ。包丁女がいた。」

 部屋に入るなり、俺は吐き出すように告げた。

「気づかれたか?」

「そこまではわかんねぇ・・・」

 深刻な顔のケンジに俺は頭を振る。

「一旦身を隠しましょう。」

「そうだな。それで様子を見よう。」

 キョウコの言葉に賛成し、俺達は部屋を見回した。部屋はそう広くはなく、難しそうな本が詰め込まれた本棚が乱立している。そして、端の方には観音開きの縦型ロッカーがある。

「どう考えてもこれしかないな。」

 そう言いながらケンジがロッカーに近づきドアを開ける。幸いにも中は空っぽだった。

「マジか・・・」

 通常のロッカーより幅広ではあるが、四人で入るには少し狭い。

「とにかく入りましょう。」

「お、おい・・・!」

 俺を引きずり込むような形で、キョウコが真っ先にロッカーに入る。それに続いてケンジとヒカリもロッカーに身体を押し込んだ。そして、ドアが閉じられる。

「せ、狭い・・・」

 ロッカー内の狭さは予想以上で、腕の一本も満足に動かせない。

「先輩、こんなとこでそんなとこ触っちゃダメですよ〜。」

 キョウコが色っぽい声を出す。

「わりぃ。片桐ちゃん、それ俺・・・」

「離れてください。」

 ケンジの申し訳無さそうな声に、声色が急に無感情になる。

「ちょ・・・相良君、詰めて貰える?手が変なとこに当たってる・・・」

 今度はヒカリが恥ずかしそうに言う。

「これ以上無理だ。」

 何やら右手に柔らかいものが当たっているが、完全に腕をホールドされてしまっているため全く動かすことが出来ない。

「先輩、何してるんですか!?私というものがありながら・・・」

「タカオ!テメー、表に出ろ!」

「うるせー!テメーが出ろ!」

 狭さと息苦しさによる高ストレス状況下で、さらにキョウコとケンジが騒ぎ出したため、俺は怒鳴り返した。

「ちょっと、みんな静かに!気づかれちゃう!」

「・・・!」

 ヒカリの言葉によってロッカー内は強制的に沈黙する。

 カチャ・・・。ペタ・・・ペタ・・・

 しばらくしてドアの開く音がし、床を裸足で歩く足音が響く。

 恐らく包丁女だろう。どうやら見られてたようだ。

 ペタ・・・ペタ・・・ペタ・・・ペタ・・・カチャ。

 足音は部屋を歩き回った後、再びドアの開く音。そして、訪れる静寂。

「・・・行ったか?」

 しばらく外に耳を澄ましていると、ケンジが恐る恐る口を開く。

「いや、行ったと見せかけて安心したところを一気に来るパターンも考えられます。」

 キョウコが不吉なことを淡々と言い放つ。

「いちいち不吉なこと言うなよ。」

 キョウコの発言によって、自分の意志とは関係なく恐ろしい想像が加速する。

「それでその一気に来るパターンだったらどうする?」

 質問をするヒカリだが、緊張のためか声が強張っている。

「今すぐ出来るのは、四人で突撃の先制攻撃ですね。」

「よし、もうそれで行こう。」

 この状況を一刻も早く切り抜けたい

のかヒカリは、キョウコの直情的な提案を一方的に受け入れる。

「わかった。一、二の、三で行くぞ。」

 そして、すぐさま実行に移そうとするケンジ。

「・・・一、二の・・・」

 カウントが始まり、心拍数がこれまでにないほどの上昇を見せる。

「三!」

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