階段の上からこいつをぶつけるぞ
「さっきの両腕がデカい女って?」
出口を目指すべく四人で居室を出た直後、俺はケンジに知らない化け物の詳細について聞いた。
「ああ、服の袖が破れるくらいムキムキで、顔は不釣り合いにも美人だった。」
「美人ねえ・・・」
俺はケンジの説明通りのものを想像するが、出来上がったのはなんともシュールな生き物だった。だが、そんなシュールな存在もこの状況ではただただ不気味だ。
「先輩、気になるんですか?」
「いや?」
嫉妬の気配を滲ませた質問を投げかけるキョウコだが、あまりのバカバカしさに俺は即答する。
「走ってる最中それがいきなり前に居たんだから、びっくりしてすげぇ勢いでコケちまってさ。」
そして、ケンジはその当時の状況説明を淡々と始めた。
「それでよく逃げ切れたね。」
「自分でも訳わかんねぇ動きで神回避した。」
ヒカリの合いの手に、ケンジは疲労の混じった薄ら笑いで答える。
「ところでお前が言ってた包丁持った奴って?」
話を終えたケンジが顔をこちらに向けて来たため、俺はリビングで起こった事を説明した。
「なんか色々ヤバいな。」
俺の説明が終わるとケンジは何とも言えないような顔をした。
「ああ、今考えると俺自身もどこから突っ込めばいいのかわかんねぇような状況だった。」
話をしてみてあの時の情報量の多さに改めて困惑する。
そして、情報共有をしながら慎重に歩を進めていた俺達は、無事二階ホールへと到達した。
各々が安堵し、ホッと息を吐く。
「・・・!」
しかし、それも束の間、全員が息を飲んだ。
一階ホールを見渡せるロフトの手摺り越しに、玄関前を徘徊する両腕が肥大化したモンスターが見える。
「あれは・・・」
その顔に見覚えがあった。
「ん?」
俺の小さく漏らした声にケンジが反応する。
「下で見た遺影の女によく似てる。」
そう返し下の階をうろつくモンスターをよく見ようと目を凝らす。
「・・・!」
しかし、その直後にモンスターが振り向き、バッチリ目が合ってしまった。
こちらの存在に気がついたモンスターは両腕を揺らしながら、のっしのっしと階段に向かって歩き出す。
「やっべ・・・」
慌てて周囲を見回し打開策を模索するが、あまりに切迫しているため視界に映るものが全く思考にマッチしない。
「タカオ!」
突然の大声に振り向くと、ケンジが壁際に配置されたガラス戸付きのコレクション棚を持ち上げようとしていた。
「階段の上からこいつをぶつけるぞ!」
「わかった!」
ケンジの提案に同意し、棚の反対側を持ち上げる。
「・・・おい、そっちじゃない!どこ行く気だ!」
一歩進んだところでケンジは声を荒らげた。
「そっちこそちゃんと持てよ!行き先が定まんねーよ!」
カチンと来た俺はすかさず言い返す。
「何やってんの!モンスターが来てるよ!」
モンスターの様子を見ていたヒカリは悲鳴のような声を出す。
「私が誘導します!」
キョウコが棚に飛びつき、三人態勢で運搬が再開される。
「せーのっ!」
誘導が加わったことにより、どうにか階段の縁まで到達すると、俺達は息を合わせ棚を放り投げた。
「ちょ・・・待っ・・・!うわあっ!」
しかし、手を離しそびれたキョウコが棚諸共飛んでいってしまった。
キョウコがくっついた棚は、そのまま踊り場から数段登った所にいたモンスターを直撃し下敷きにする。
「ぐえっ!」
そして、衝撃によって投げ出されたキョウコは、逆さまの状態で踊り場の壁に背中から張り付いた。
「あちゃー・・・」
階段の途中で破片を撒き散らし背板を向ける棚と、壁から剥がれ落ちたキョウコを見て唖然とし声を漏らす。
「キシャアアア!」
背後から静寂を破る奇声。反射的に振り返るとそこには、四つん這いのクリーチャーが歯をむき出しにしていた。
「おい、マジか・・・」
「なんか物凄く怒ってないか?」
ケンジの言う通り、クリーチャーからは怒りのオーラが滲み出ている。
「そりゃキョウコがこの世で最も汚いであろう物を叩きつけてるからな。」
「逃げよう!」
ヒカリの一言で弾かれたように棚を踏みつけながら階段を駆け下り、まだダウンしているキョウコを強引に担ぎ上げてさらに階段を下る。
「うわっ!」
真っ先にヒカリが玄関ドアに飛びつこうとするが、行く手を阻むようにクリーチャーが着地する。
「こっちだ!」
ケンジが声を上げ大きく手招きをし、俺達は誘導されるがままにその先にある扉を目指した。追い掛けてきたクリーチャーが真横から飛び掛かるも、咄嗟に姿勢を低くしギリギリのところで攻撃をかわす。
そして、ケンジに追いつくと扉を押し開き、中に足を踏み入れる・・・が、足は空を踏みバランスを崩し、前に倒れ込んで予期せぬ階段を転げ落ちた。
派手な音を立て階段下の床に全身を投げ出す。
「いって・・・キョウコ、わりぃ・・・」
痛みに悶えながら放り出されたキョウコに詫びを入れる。
「今日、私、皆より災難続きッス・・・」
「大丈夫か!?」
ケンジが階段を駆け下りて来る。
「痛ぇ・・・」
「よし、大丈夫だな。行くぞ。」
余裕がないのかいつものおふざけなのか、ケンジは安否を一方的に決めつけると、ずんずん先に進みさらにその先にあるドアをくぐり抜けた。




