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ミステリーリレー小説2021『カガミの呪い』  作者: ミステリーリレー小説2021「ホラー×ミステリー」参加者一同
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第19話 恐怖の総和 (にのい・しち)

 日が暮れてくると気温も下がり爪が紫色に染まった。

 冬の寒空はこたえるから早く目的の場所を見つけたいところだ。


 霧音の脳裏にM街カタコンベの概要が蘇る。


 都市伝説においては、


《その昔、豪邸で一家連続殺人事件があった。その地下に当たるのが此所の洞窟》とある。


《M街の墓所なんです》これは悠玄の情報。


 一家惨殺事件は未解決といこともあり炭の残骸を残した敷地を、警察と自治体が所有し保存していた為に、立ち入ることが出来なかった。


 M街墓所は数多あるので各務家の先祖が眠る墓に絞った。

 各務家はM街では有名な一族らしく、一族の墓は不動産屋や寺に聞くとあっさり場所が解った。


「お防さん。本当にここにカタコンベの手がかりがあるの?」


 墓石は日本の形式とは違いキリスト教の形式に似てるが、独自の家紋が墓に彫られていた。

 そして、どの墓石にも中央に鏡がはまっている。


 悠玄は墓の家紋を見て嫌悪するような眼差しで見つめ、言葉を閉ざす。


「にしても変な墓だな? 墓石に鏡がついて……うぉ!? 眩しい!」


 と、改めて悠玄の方へ視線を移すと、そこには神秘的な光景が写された。


 おぉ……ゆ、悠玄の頭が電球が光るように、いや、後光が射すように輝いている。


 悠玄は仏の表情で笑みを見せた。


「おやおや、これは失礼」


 なんなんだ、この坊さん?

 こっちの目が害されてるのに詫びれる様子もなく、むしろ照かり輝く頭を見せつけるてるようだ

 まるで自分のハゲ頭を自慢するように。

 やっぱり、ただ者じゃねぇ!


 じゃなくて、沈みかけた夕日は悠玄を真正面から照してる。

 なのに坊主頭の後頭部から光を放つということは……。


「坊さん。ちょっとどいてくれ」


 悠玄が退くと夕日が全ての墓に飾られた鏡に当たり、反射光を放っている。

 その内の一つ、墓所の隅にある小さな墓の鏡だけ、ホログラムのように紋様が浮き出た。

 二人は駆け寄りまじまじと見つめる。

 浮き上がった像は波模様を縦にした形で上部が膨らんでいた。


「何これ?」


 霧音とは逆に冴えた声で解説する悠玄。


「これは、魔鏡です。かつて隠れキリシタンが幕府の目をかいくぐり神に祈りを捧げる為に考案された物です。原理は表面に薄い凹凸があり、光の角度で像が浮かび上がります」


「この模様は? キリストには見えないけど?」


「おそらく、”蛇”」


「蛇?」


かがみの由来をご存知ですか?」


「いや」


「鏡が日本に持ち込まれたのは中国が起源とされ、名前の由来は現実とあの世のさかいなど諸説あります。後付けでつけられた仮説もありまして事実はわかりません。仮説の中で興味深いのが”カガの目”や”カガを見る”から名づけられた説です」


「カガ?」


「カガとは現代の言葉で蛇を意味します」


「蛇から鏡?」


「カガのメ。カガをミる。蛇は体を輪っか状にしたり威嚇の時に見つめる目が、鏡の中の自分が見返すように思えるなど、様々な仮設があります」


「なんだか強引な気がする」


「後付かもしれず真偽の程は定かではありませんが、古代人の言葉は母音に近い言葉を使っていました。蛇はカガと言い表されており国内の蛇で、ヤマカガシという種目がいて、おそらく古語の名残です」


 悠玄の一呼吸は解説が長くなることを予告した。


「日本には様々な信仰があり、大化の改新以前、卑弥呼よりも前の信仰は大地や野生の生物でした。日本において神が人の形になる前は蛇だったのです。その証拠に一万年前の縄文時代は土器に縄の模様が使われていますが、縄は蛇を表していたのです」


「で、カガやら蛇やらがなんの関係があんの?」


「その蛇を信奉する民族、カガ一族と称されいました。各務家はカガ一族の末裔です」


「本当に?」


「各務家の祖先は蛇には魔力があると信じ、その力を得ようとしてました。現に蛇に見つめられると不安になったり噛まれると毒があるので、神と同等の力を持ってると考えていたのでしょう。一族が蛇の力を得る方法は……その、一族の若い娘を無数の蛇の海へ身を投じる儀式を行うのです」


 考えただけでも気色悪い。


「十五年前、各務家の当主は自分の娘を儀式から守る為に離反しました。そして一族の怨みを買い、一家惨殺という痛ましい事件に……」


「理解できない」


「ですが一族の娘は一人です。何故、四人姉妹の遺体が出たのか謎です」


 ここに来て、謎に輪をかけるように不可思議な話を持ち出す。


 魔鏡の墓を調べると、石の台座にレールのような傷を見つけ、墓石を押してズラす。


「こいつ、動くぞ?」


 すると、人一人やっとくぐれそうな四角の穴が現れ、階段が深淵に続いていた。


 深淵を見て霧音の頭に再び概要がよぎる。


《入ったら最後、出てこられない》


 霧音と悠玄は目で意思の疎通を測ると、用意が良い坊さんは、ペンライトを出して光を灯し先頭を行く。

 霧音は悠玄の後をついて闇の中へ呑まれていった。

 

 思いの他、階段は短いがその先の狭いトンネルは長く窮屈な姿勢で進む。

 徐々に上半身が上がっていきトンネルが歩きやすくなると、急に開けた場所へ投げ出され冷たい空気に悪寒が走った。


 悠玄が空間を確認するのにライトの光を四方へ回すと、光に当てられたソレを見て霧音は短く悲鳴を上げてしまった。



《洞窟の中には、白骨化した哺乳類の頭蓋骨――髑髏が埋まっている》

 


「こ、これが……カタコンベ」


 壁一面びっしりと髑髏と骨が埋められ、暗がりのせいか虫の大群が張り付いているように見えた。

 どの髑髏もこちらを観察するように空虚な目を向けている。

 

 叔父のカフェで見せられた写真で知っていたとはいえ、戦慄する。

 なにより霧音が夢で見た光景が、そのまま具現化したような景色だ。


 二人は恐る恐る歩みを進める。

 異様な光景が二人の口を自然と塞いだ。

 

 しばらく歩くと「うわぁ!?」と霧音が飛び退く。

 彼は床に転がる髑髏を踏みつけ砕いてしまった。

 霧音は手を合わせて念仏を唱えるように謝罪を呟くと、その側で悠玄は砕けた髑髏の破片を拾い、ライトで切り口を観察する。



「これは……本物の骨ではありません」


「は?」


 悠玄は人骨の壁に歩み寄ってライトの尾で壁を叩いた。


「ぼ、坊さん? 仏の人間がバチ当たりなことしいいのか?」


 悠玄は人骨を三つ四つ砕くと破片を手の平に乗せて霧音へ見せた。


「これは石膏で作られた、まがい物の人骨です」

 

「つまり、偽物のカタコンベ?」


 一面の壁を見渡し最初の印象とは別の気味悪さがこみ上げる。

 

 悠玄が真っ暗な通路に灯りを向け、先を探ろうとした。

 彼は何かを見つけたようで一人で先へ進んだ。


「坊さん? 待てって!」


 悠玄が向かった先は髑髏の壁から、まるで仲間外れにされたような空間。

 無機質な壁には錆びた鉄の扉があり、扉には暗号めいた数字が書かれた表札があった。


『五一六』


『七三一』


 霧音が困惑していると悠玄の顔がみるみる青ざめて行く。


「こ、これは! なんと恐ろしい」


 悠玄が神妙な顔で念仏を唱えだしたので語気を強めて聞く。


「なんだよ。この数字?」


「かつて第二次世界大戦の際、旧日本軍の科学部門に割り当てられた識別番号です。五一六は毒ガス開発。七三一は細菌兵器の開発です」


「毒ガスに細菌兵器だって?」


 廃墟のような暗い室内の空気が、研ぎ澄まされたように変わる。

 かすかな足音に二人の神経は引きつけられた。


 誰かいる。


 足音はリズムを早めて強引に距離を詰めて来た。

 影が暗闇を率いてくるような切迫。


 悠玄が前へ出て対処しようとする。

 彼は襲って来た影の腕を掴み動きを止めると、手刀を振り上げる。


 が、その手は振り下ろさずに氷ついたように動かない。


「何してる? 坊さん!」


「私にはできませぬ…………女性を手にかけることはできませぬ」


「女?」


 すると、悠玄の腹部に鈍い物音が聞こえた。

 ペンライトのかすかな光で見えたのは、刃渡りの太いナイフが突き刺さる様だった。


「坊さ……」


 霧音の呼ぶ声は背後から忍びよる二つの手によって阻まれ、口を湿った布で押さえつけられた。

 何かの薬品か、意識が遠のきさらなる暗闇へ沈む――――。 

 


 意識を取り戻した霧音は霞む目で顔を上げた。

 身体の自由が利かない。

 椅子に縛り着けられていると解った。


 仄かな光が蜃気楼のように中央の影を浮かび上がらせる。

 髑髏に囲まれた部屋の中心にロウソクを持った人影。

 細身の女の輪郭が見えた。


 耳を撫でるような魅惑の声が室内で反響する。


「あの腕の立つお坊さんも、女相手じゃ殴れないわね。シャイなのが弱点」 


 意識を失う前に見た悠玄が人影に刺される光景を思い出し、影に潜む女を警戒した。


「坊さんは? 悠玄はどこに?」


 女の横で幽霊かと思えてしまう黒ずくめの人間が、墨汁からすくい上げられたように姿を現し、負傷した悠玄を損材に床へほおる。

 

「坊さん!?」


「この悠玄、一生の不覚」


 腹部から血が滴り白い袈裟姿が鮮血に染まった。


「坊さん! 喋るな」


 黒ずくめの人物が醸し出す佇まいは、アパートで霧音を襲った輩に思えた。

 そして黒のマスクを取り素顔をさらす。


 霧音には見覚えがある。

 妹の霧音は異径の存在を見ない為に街の景色、行き交う通行人を極力見ないようにしていたが、バイト先のカフェに置いては別。

 一度来した客でも顔と名前を覚えるように習慣付けていた。

 常連になるかもしれないし、客の顔と名前を覚えていた方が、仕事しやすいからだ。


 妹のおかげで今、目の前にいる男の顔は記憶に残っていた。

 蜃気楼のように浮かぶ像を強くイメージさせ、記憶をはっきりさせる。


「環希……と一緒にいた、彼氏か?」


 女のクスクスと笑う声が暗い室内で反響し、魔性の魅惑として響く。

 困惑する霧音に丁寧に話をする。


「本当に馬鹿な子。環希の彼氏以前にアナタは彼を知っているのよ?」


「知っていた?」


「アナタが住むアパートの隣人、苦学生の”赤井・太郎”。アナタを監視する為に偽名で変装もしていたのよ。本当に店以外の人間には興味ないのね? 常に他人をあしらって来たから身近な異変や変化に気がつかなかった」


 霧音は激しい憎悪が芽生え、女を睨みつける。


「誰だ……お前は誰なんだ?」


「ここに来れば私を思い出すと思ったけど、それも記憶にないのね? 薄情な子。私の名前は――――各務・秋菜。一家惨殺事件で死んだ家族の妻よ」


 女が近づくとロウソクの灯りで顔がはっきりと見えた。

 黒いドレスを着た各務・秋菜は四十を過ぎているだろうが日本人とは違う、中性的な印象を与える美を持ち合わせている。

 

 長い黒髪は手入れがされているのか、薄暗い灯りでも艶が出ていた。

 だが、目は蛇のように尖り見つめられると不快感と不気味さを植え付けられる。


 状況が整理できず霧音は思わず問う。


「なっ、各務家は惨殺されて死体も燃やされたはずだ?」


「その事も忘れてるのね……幸せな子」


 秋菜は呆れたように目を細めて問に答える。


「家族の死は擬装よ。この国の行方不明者は八万人から九万人。自殺者は二万から三万人いる。寂しい人々を集団自殺に集めて代わりに死んでもらったの」


「でも、本人確認はどう……だから家ごと燃やしたのか?」


「死体を燃やして炭にしても、他人を本人にしたて上げるのは難しい。だからカガ一族に通ずる行政機関や医者、弁護士、警察に便宜を図ってもらい、医療記録や鑑定を捏造した」


「そんな簡単に嘘を現実にするなんて……」


「私の祖父は旧日本軍のマッドサイエンティストだった。この場所も元々は祖父が陸軍省から与えられた研究施設だったのよ。そのコネが今だにつながっている。人脈、法律、組織、制度。結局は神になれない未熟な人間がつくった社会。裏もほころびもある」


 容認しがたい話に困惑する霧音へ、秋菜は子供に言い聞かせるように話を続ける。


「アナタがここへ来たきっけは鷹野橋から聞いた日本版カタコンベ。でもその後で働くカフェで言われた一言」


「カフェで言われた……」


《私、見たことあるわ。貴女に似た人》


 あの時の環希が言った話か?。


「来店した環希……本名は各務・珠菜の言葉に誘導された」


「環希……あの客が各務家の人間?」


「おかしいと思わない? 店ではアナタと環希は初対面ということになってる。普通、別々の場所で同じ顔の人間を見たら、たまたま違う場所で見かけただけと思うのに環希は”似た人”と、はなっから別人・・だと示唆した。文脈に倒置法を用いてあえて違和感を残し印象付けさせた。全てはニセのカタコンベへ誘導(ミスリード)する為」

 

「お前が全部仕組んだのか? なんで?」


「始まりは夫、各務かがみ藤吉郎とうきちろうが一族を離反したこと。 実の娘を儀式から遠ざけカガ一族から守る為、我が子を四分割した。親のいない子供で尚かつ実の娘に似ている子供達を養子にして目くらましにした」


「目くらまし?」


「四姉妹の内、三人の姉、珠菜、瑛菜、柚菜……このらは偽りの姉妹。全ては各務家の正当な血筋、音菜を隠す為の森にすぎない」


「外道の考えだな。で、お前の目的はなんだ?」


 霧音は息を呑んで秋菜を見つめ、艶めかしい口が開くのを待った。


「日本版カタコンベには悪しき怨念が封じられている。その封印を解く」


 霧音が怪訝な顔見せるが、かまうことなく話は進む。


「蛇信仰より後に現れた卑弥呼の系統達が神を封じたことで、カガの血筋は聖地には近づけない。でも近づく必要はないのよ。昔から同じ星が二つあると不吉の予兆と言われ、双子が生まれると一族は滅びると考えられていた。王族の場合、上位の継承は一人と決まっていたから、全く同じ顔が現れると争いになるから不吉とされた」


 霧音はこれも思考を誘導されているのではと思いつつ、よぎる憶測を語る。


「封印を解く為にもう一つ同じ物を作る。そうすれば、自然の摂理が勝手に封印を解いてくれると?」


「夫もバカね。儀式をやればこの国の政治すら支配できる力が手に入るのに……カガとは神の力宿いし蛇のこと。儀式が完結すれば人も神になれる。神の力はS市カタコンベに封印されている」


「ふざけるな! 俺が邪魔してやる」


 秋菜は不敵な笑みを見せて語る。


「できるかしら? カガの系統に属するアナタに」


「系統? 嘘だ……俺を騙そうとしてるんだろ?」


「本当に幸せな子ね。アナタは各務家の長男で四姉妹の兄、そして夫と私の間に産まれた紛れもない蛇の血を引く子孫」


「俺がお前のような汚い人間の子供?」


「真実を言えば全て思い出すかしら? 屋敷を全焼させたのはアナタ。志乃河・霧音と名乗る各務・霧人よ」


「馬鹿な、でまかせ……」


 霧音は秋菜の持つロウソクの火に意識を吸い込まれるように引き付けられ、時を超えたように遠い記憶が蘇った。


 赤赤と燃え盛る屋敷が目の前にが広がる。

 ぼんやりしていたビジョンが鮮明に映った。

 

 知らないはずの屋敷が炎に包まれる様を自分は見ている。

 何故?


 思考が通電を断ったように途切れ髑髏の壁が埋め尽くす現実に戻る。


「お、俺が……屋敷に火を着けた?」


 秋菜は霧音の耳元で囁いた。


「受け止めがたい真実よね。だから記憶を上書きする為に催眠と精神療法で別の人格を作り、過去の記憶を封印した。そして封印を解くべき時期が到来した際、忌まわしき過去の場所へ来るようにアナタを操作した……内在する妹の霧音は人工的に作られた人格」


 都市伝説の一文がフラッシュバックし点と点が線で繋がり形をなす。


《洞窟からの奇跡的な生還者は、入っていく時と出てきた時で人格や容姿が変わっている》


 霧音は秋菜の言葉も都市伝説も振り払うように叫ぶ。


「信じられるか!」 


「妹人格には見えてのでしょう? この世の者ではない『何か』が。それは多重人格の負荷が脳に異常を起こさせたことで見せる、幻覚」


 秋菜は椅子に縛り付けられる霧音の周りを歩きながら話を付け足す。

 

「そもそもアナタがM街(ミスリード)カタコンベを目指したのは鷹野橋と環希から話を聞いたからじゃなく。父と妹達と再開して記憶の断片が蘇った。無意識な思考の中で、記憶が完全に蘇れば自分のアイデンティティを取り戻せると思い、この場所を求めたのよ」


 秋菜は霧音の顔を除き込み蛇のような目で、心を射抜くように見つめて言った。


「妹人格たる霧音はアナタの心の寄りどころではない。人間に取りついた寄生虫。醜いウジ虫。ロイコクロリディウムがカタツムリを死の運命へ誘うように、マッソスポラがセミの生涯を支配するように、主たる人格のアナタを乗っ取りカタコンベへ連れてくる為の人形。なぜなら各務一族がそうプログラムしたから」


「ありえない!」


「そうとも知らず、お兄様のアナタが謎を追えば追うほど事態は悪くなる。まさに事件が探偵を呼ぶのか、探偵が事件を呼ぶか、ね」


「嘘だぁあ!!」


「『人の理解力は非常に小さいが忘却は大きい』アドルフ・ヒトラーの名言よ。ナチスは脳科学や精神医学の有用性を早くに理解し、それが洗脳や人格作成を可能にすると解った。同盟国だった旧日本軍の科学者もそれをマネしてあらゆる実験をした」


 聞く耳を持とうとしない霧音へ秋菜は詰め寄り講釈を押し付ける。


「近代でもそれは応用されケネディ大統領暗殺の際、CIAは一般人の男を洗脳して暗殺者にしたてた。洗脳された本人は自分が暗殺者だと心の底から信じきったのよ。それと同じでアナタの妹人格は全てを忘れる為に作られた」


 霧音は反論しようにも思考と心が追いつかず、唸るような声しか発せなかった。

 秋菜はさらに追い打ちをかける。


「妹人格はアナタの心を守る役割もあった。精神医学で言うISH(イッシュ)は妹の霧音。人によっては人格の入れ代わりは精神への負荷が強くかかる。人格を壊しかねないわ。アナタが霧音の影に隠れていたのはその為ね? 大切な妹を壊さないように……後、

何回で妹は壊れるかしら? 二回。いえ、後一回?」


 霧音は身体は震え自身では諌めることができない。

 暗い虚空に顔を上げて一筋の涙を流すと、糸の切れた人形のように縛られた椅子に沈んだ。


 すぐに意思を取り戻すも霧音の様相は一転。

 周囲を忙しく見回した後に言葉を発する。


「あ、あなたは誰なの?」


 秋菜は無垢な瞳を見てニコやかに話しかける。


「可愛い可愛い、音菜ちゃん。これで封印を解く鍵が揃ったわ。二つのカタコンベ。二人の人間。後は自然に委ねるだけ……」


 恐怖に身を置かれた霧音と負傷した悠玄を置いて、各務・秋菜と黒い襲撃者は立ち去る。


 流血が治まらず腹部を押さえた悠玄が苦痛に耐えながら、世の皮肉を口走った。


「カ、カガという言葉には、もう一つ側面があります。古代の日本人は『カ』と『ハ』の発音が区別出来なかったという説があり。古語であるカガは『ハハ』とも発音していたようです。なんとも皮肉な。母親が今事件の首謀者だったとは……滑稽な……」

 

「あ、あの、お坊さん? ねぇ、大丈夫……何が起きたの? お兄様は……私はどうなったの?」


「あ、あなたに複雑な事情があるのは行動を共にして感じ、理解しようと努めていました……何度でも言いましょう。”六道輪廻のどこまでも、それこそ地獄の果てでも、お供しましょう”、と。ですが……地獄まで共にすると言いましたが……この体たらく、お恥ずか……しい」


「お防さん? ねぇ? お防さん! いやぁぁああ!」


 ***


 二人の邪悪な人間は一家惨殺事件の現場、焼けた残骸が残る屋敷の地下から姿を見せる。

 M街カタコンベは一族の墓と屋敷の地下で繋がっていた。


 ポツ、ポツと雨が降って来た。

 まるで涙が溢れるように加速して行き、ひとしきり降ってきて豪雨となり全てを濡らす。


 秋菜は身に沁みた汚れを流すように、雨を浴びながら呟く。 


「長った……きっと明日はいい日になるわ」


 激しい雨は自然の形をも変えた。

 M街から遠く離れたS市にある山の斜面を溶かすように、雨で浸して土砂崩れを起こす。


 崩れた山には、もう一つのカタコンベが深淵を開けて待っていた。

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