像
※短編です。
昔、昔、江戸は後期。とある村に、次郎と言う名の、それはそれはたいそう賢い少年がいたそうだ。児童の中で学問において、これ、彼の右に出る者はいず。しかし、天は二物を与えずとはよく言ったもので、彼の家は貧しさの中にあった。そんな中にもかかわらず、次郎少年は家事など身の回りの雑務をこなしながら書物を読むなどし、見識を広めていったそうだ。
ある日の事であった。いつものように次郎少年は山で薪として使う木を集めた後の帰路の途中、木苺を見つける。作業ですっかり腹も減ってい彼は、疑いもせずにその木苺を一つもぎ取り口にしてしまう。しかしその木苺、正体を「文躯」と言い、食べた者の体に異変をもたらす作用があった。直後、次郎少年は意識を失った。
──その日、次郎少年の住む町に、ある坊さんがやってきていた。この坊さんが道を歩いていると、何やら人々が騒がしい。近くの者に騒ぎの原因を尋ねると、どうやら寺子屋に光り輝く少年がいるとのこと。はて、たしかに奇妙ではあるが、しかし一体それの何処に騒ぐことがあろうか。だが、より詳しく聞くと、なんと一人ではないとのこと。たくさんの同じ顔をした少年がわんさかと押しかけてきたと言うのだ。はてさて、これはなんとも奇妙だ。坊さんが人をかき分け渦中を覗くと、そこにはあの次郎少年が無数に分身を作り出し、黄金に輝きながら無造作にゆっくりと歩きまわっておった。
「これはたまげた、同じ顔の人間がぎょうさんおる」
近くにいた一人の村人が坊さんを掴むと、すがりついた。
「ああ、お坊さんおたすけくださいませ。あの子は何か取り憑かれているに違いません」「悪霊の仕業とな?」
「はい! そうに違いません」
坊さんは腕をまくり、考えを述べた。
「おそらく彼はこの地に何か強い思いがあるに違いない。では私が彼を封印しましょう」
坊さんは恐ろしい形相で呪文を唱えた。すると無数の少年の体はピタリと動きを止め、あれよあれよというまに石化していった。「なんと……ありがとうございます!」
村人は感謝の言葉を述べた。坊さんは言った。
「彼はきっと寺子屋に通いたかったのだろう。しかしそうする時間さえなかった。彼の像は寺子屋にひとつ置いておきなさい。残る像は手分けして他のところの寺子屋に運んでおきなさい。そうすればもう安心でしょう」
村人は、ありがとうございますありがとうございますと何度も繰り返し頭を下げていった。坊さんはその場を去った。
ちなみにこの村の名は、日ノ宮村という。そこで起きた金色に輝きだしたる次郎の話。
それが後に全国の小学校に置かれることになる二宮金次郎像であることを、この時はまだ誰も知る由はない。




