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【書籍化】意味がわかると怖いお話・解説付き  作者: 絢郷水沙


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連がる動き

 僕はある日、不思議な能力を手に入れてしまった。

 例えばこれ。この手元にあるハサミ。

 この指を入れるところを両手でもって、目の前に突き出す。そしてこれを人に見立てて、近くにいる人の姿と重ねる。


 するとどうだろうか。


 僕がハサミをチョキチョキと動かすと、姿を重ねられた人は、左右の脚(あし)を交互にチョキチョキと動かすんだ。まるでその人の動きがハサミに乗り移られたように。動きが連動していた。

 不思議で面白い。初めはそう思っていた。

 しかしこの能力を得て、得したことはなかった。むしろ損をした。

 というのも使い道が思いつかない。

 そして使う時も注意が必要だ。

 これは不慮(ふりょ)の事故と言い換えてもいいだろう。それは能力に気づいてから、数日後のことだった。


 僕は会社近くのとある定食屋にいつも足を運んでいた。そこに通っていた理由は、近くて美味しいというだけではなく、とある人を見るのが目的だった。

 名前は知らない。

 ただ、お昼時になるとやってくる。

 美人で可愛い二十代後半と思われる女性がやってくる。

 その人を一眼(ひとめ)見ることで、午後からの仕事も頑張れるというものだった。


 だからこそ僕は、もうそこには行かない。いや、行けない。あんなのを見て行ける奴がいるとしたらそいつの頭はどうかしている。


 店内はさほど大きくなく、さりとて小さすぎることもない。その時は僕と彼女のほかに、サラリーマンらしき男性二人組とおじいさんが一人いるくらいだった。いつもこんな感じだ。

 他の男性客が彼女を見惚(みほ)れているのをよく見かける。僕だけじゃない。だからその日も、僕が料理が出てくるまでの間、ぼーっと彼女のことを眺めていたことは想像がつくだろう。

 たまに彼女と目が合いそうになる。

 そうした時、僕はさっと顔を背けて、割(わ)り箸(ばし)なんていじって、料理はまだかなぁ、なんて顔で素知らぬ顔をする。

 そして彼女の視線が僕ではない方に向くと、僕はたまらず彼女に目を移す。


 そんな時だった。


 不意に後ろから声をかけられておどろき、振りむいた。

 料理が運ばれてきた。

 僕は慌てて、何もなかったように愛想笑いを浮かべて、取り繕って、ではさっそくいただきますかと、


 割り箸と共にふたつに割(さ)いた。




2020年最後の投稿です。

今年は激動の一年でした。

皆さんお疲れ様でした。

来年は良い年と思えるような一年になってほしいと願っています。

それではまた次回。

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