第35話:五里霧中
今回から???となるシーンがはいります。
続きを読んでいただければ理解できると思うので今後もよろしくお願いします。
ではどうぞ。
※ ※ ※ 中州 ※ ※ ※
「では各自、報告!」
「はいっ!」
中州の大広場に騎士団が集合している。定期報告の時間だ。
「通りでぶっ倒れていた酔っ払いを寮舎に連れて行きました。嫁さんに連絡がついて、迎えに来ることになってます。」
「銀行の警備隊から不法侵入者の引き渡しが完了しました。道に迷ったと自供してますが、泥棒と見て間違いありません。」
中州から悪霊がいなくなってから、騎士団は中州の治安維持に全力を注いでいる。
我が家に帰還する者、空っぽの家を狙って空き巣を働く者、事業を再開する者。
悪霊に奪われる以前の生活に戻ろうと、てんてこ舞いなのだ。
「大工と祭りの運営が一触即発だったところを仲裁しました。工期とクオリティで揉めたようです。」
そしてトランの報告はこれだ。
そこでさらにお祭りが待っていると来た。
都に起こった奇跡による人々の熱気でトラブルの種がいっぱいなのだ。
「ご苦労。悪霊に関する報告はあったか?」
「いえ。騎士たちも、都の人々からも悪霊に遭遇したという報告は0です。」
悪霊の巣窟だったというのに、彼ら完全にその姿を消したようだ。
「よし!では再び職務に励め!終わったら酒場に集合だ!お嬢様の驕りだそうだ、存分に飲め!」
「おおおおぉぉぉー!」
「楽しみだなー、もうすぐお祭りだろ。ワクワクするぜ。」
トランとロスーのコンビは川岸の通りをパトロールしていた。
順調に復興されていく中州を見ているだけで気分が上がる。
騎士達は中州の復興に一役買った。この光景が自分たちの活躍あってのものと思うと、誇らしい気分だ。
「気を抜くなよ。どこで騒ぎが起こってるか分からないんだから。」
「そうだけど、思ったよりみんな穏やかだぜ。この空気のおかげかもな。」
あれから都には爽やかな空気が漂い、それに影響されてか治安も思ったほどに酷くない。あの奇跡はこの中州に浄化以上のものをもたらしたようだ。
「よお、騎士さん!さっきはありがとな!」
トランとロスーに作業中の大工たちが声をかけた。
喧嘩の仲裁をした大工たちだ。
「大工さん、もう大丈夫なのか!?」
「おおよ!祭りのギリギリまで待ってくれるってことになった!今回は滅茶苦茶すんげえのをお披露目してやるから期待してくんな!」
トランは大工たちが作っている建設物に目をやった。
ギャングに破壊された橋を基にして、川の上に建設されている木造の大きな足場。そしてその上に積み上げられている組み木。凄い大きさと高さだ。
今は祭りが優先。橋の再建は祭りが終わってからだ。
「いやー、またあれが見れるとはな。世の中、何が起こるか分からねえな。」
この都の名物、お祭りのメインイベントがこの組み木だ。
今からその光景を思い浮かべるだけでワクワクするトランであった。
※ ※ ※ ??? ※ ※ ※
「お坊ちゃま、サムソン坊ちゃま!どうかお止めください!なぜこんな残酷なことをする必要があるのです!?」
薄暗い廊下を子供と大人が歩いている。
必死な表情な大人と、真剣な顔をした子供が。
「うるさい!力無くして何も守ることは出来ない!そこまで戦火が迫ってきているんだぞ!僕には力が必要なんだ!僕だって民を救いたいんだ!」
「何をしようとしているのか分かってるのですか?あなたはこれから人を・・・。」
会話から察するに子供はやんごとなき身分で、大人は家庭教師といったところだろう。
「奴は捕虜、そう敵だ!逃がしてやるといってここまで連れてきたんだ!敵には容赦するな!お前は僕にそう教えたじゃないか!アリアンナ家の教えだろ!これをやれば”彼”は力をくれると言ってくれたんだ!圧倒的な力を!」
これから彼らが何をしようとするのかわかる。
それが罪深いことであることが。
「分かりました。もう止めません。しかし、私にも手伝わせてください。共にこの手を罪に染めましょう。どうか私のわがままを聞き入れてください。」
家庭教師の顔からは罪の意識を感じ取れた。この少年の心に残酷な教えを叩き込んだことに対する罪悪感だ。
「…いいだろう。」
子供はその進言を了承すると、安心したようだ。
この2人が強い絆で結ばれているのだろう。
「始めるぞ。」
そして2人はある部屋には入っていった。
不気味な力が満ちた部屋へと。
※ ※ ※ 実験用の部屋 ※ ※ ※
「んん…。」
バルマンはひどい頭痛に苛まれながら目を覚ました。
昨夜の酒の飲みすぎを後悔するような朝はいくらでもあったが、この頭痛はそれを遥かに上回っている。
「なんなんじゃ、今の夢は…。」
しかしバルマンの意識は頭痛よりも、夢の内容に向けられていた。
どこか2人が歩いていた廊下には見覚えがあったからだ。
「確かサムソンは…。」
子供はサムソン坊ちゃまと呼ばれていた。
そしてその名前にもどこかで聞いた覚えがある。
「そして部屋に…、んん…!」
凄まじい頭痛が夢の内容を思い起こすことを中断させた。
今はこの事を考えるのは止めるべきだという体からの警告だろう。
「ぎー、ぎー!」
「すまんな。餌を忘れておった。」
犬用の檻の中で金切り声をあげる元ネズミの魔物に餌をやる時間だ。
バルマンは絞めた鶏を檻の中に放り込むと、魔物は鶏をむさぼり始めた。
一日に5羽の鶏を喰らう大食漢だ。
「クソ…!」
旺盛な食欲を満たす魔物を尻目にバルマンは頭を抱えて、部屋を見回した。
複雑な数式、異国の文字、紋様の書かれた紙が壁を埋め尽くし、魔法陣が床のいたる場所に描かれ、魔術の材料が悪臭を放っていた。
あれから数日、この魔物を元に戻す方法を模索していた。
しかし知る限りのあらゆる知識を駆使しようともまるでこの魔物に変化はない。
「ロレイン、すまん…。」
うず高く積まれた書物の山を見た。
ロレインと便利屋がずっと都中の魔術の書物を読み漁り、役立ちそうな本を送ってくれている。
どれほど心身を削って調べ物をしてくれているか想像に難くない。
なのに自分は彼女の想いにまるで答えてあげられないことが歯がゆくてしょうがないのだ。
「なにか他に…、奴が使ったアーティファクトでもないものか…?そうすれば魔力を浄化するヒントになるやもしれぬというのに…。」
何でもいい。
もっとバルべリスについての情報が欲しい。
知識だけじゃなく、その力に関する何かが。
「そうじゃ!」
バルマンの叫びが魔物の食事を一瞬、中断させた。
何故、忘れていたのだろうか。
あったではないか。便利屋が魔王の懐から盗んできた、凄まじい力が染み込んだ品が。
※ ※ ※ 図書館 ※ ※ ※
この数日間、少年と少女はずっとこのポーズをとっている。
机が潰れそうなほどに書物が積まれた机で、向かい合って座って読書だ。
「ロレイン、休憩したらどうだ?」
便利屋は投げ遣り気味に提案を投げかけた。
返ってくる答えなど分かり切っている。
「結構よ。」
そう返事するロレインの目の下にはクマが出来ていた。
疲れ切って朦朧としながら調べ物をしているのだが、もはや限界を迎えつつある。
「俺の進言をことごとく無視して君はここ数日間、食事も睡眠もほとんどとってない。口にしてくれたのは水だけだ。図書館に籠って調べ物、外出はお祈りだけ。そして教会ではよろめく君を修道士さんはハラハラしながら見守っているそうじゃないか。」
「何が言いたいの?だったらはっきり言ったらどうなのよ?」
ロレインは理知的で穏やかな少女だ。
そんな彼女がこんなにも喧嘩腰になるということは普段では考えられない。
「君は自分を見失っている。君の無理は効率の悪化や、周囲の心労を招いているんだ。それに見てくれ、このお菓子を。カート5つ分なんてやりすぎだ。」
お菓子の山が載せられたカート。
1つでさえとんでもない量なのに、それが5つ。
もはや正常な判断ではない。
「なによ!そう言いながら全部食べてるじゃない!」
「ああ。美味しいから気づかずについ食べてしまう。そして君も気づかずに十分な量を食べてくれた。」
便利屋の言葉にハッとなったロレインが自分の手を見ると食べかすで汚れていた。
横を見ればいつのまにかお菓子が乗ったカートが置いてあった。いつしかつまんでいたのだ。
「出来れば肉や野菜も食べてほしいが、そうも言ってられない。じゃあお休み。」
「何言って…。」
ロレインが後頭部につつかれる感触を感じると、あっという間にまどろみへと落ちて寝てしまうのだった。
「お休みなさい。」
背後にいたのはマデリーンだ。
疲れたものを直ちに寝かせるツボを突いた。
「ありがとうございます。この子の体調を気遣ってこんな作戦を立ててくれて。」
「どういたしまして。」
ロレインを図書館の床に敷いたマットレスに寝かせ、2人は一息ついた。
マデリーンの見立てでは丸一日は目覚めないそうだ。
「彼女の気持ちを考えると無理もありません。母親を失い、今は父親も失いかけているのですから。」
母を失い、そして父が正気を失って魔物に変えられたと知ったのだ。
それが年頃の少女の心にどれだけのショックを与えたかは計り知れない。
闇雲にでも行動をしなければおかしくなってしまいそうなのだろう。
「おぬしら、ここにおったのか!」
「教授?どうしたんですか、そんなに慌てて。」
その声はバルマンだった。
息を切らして図書館に入ってきたようだ。
「例の欠片じゃよ!おぬしらは持っておらぬのか!?」
「伯爵の部屋から手に入れた金属片ですか?いいえ。」
便利屋が伯爵の部屋から奪った手持ちのケース。その中に入れられていた金属片。
それを視界に入れるだけで怖気が走るほどに、おぞましい魔力がこもった品だ。
魔王が血眼になって探している謎の欠片。
「私も持っておりません。教会の宝箱に保管しているはずです。宝箱の鍵だってあなたが持ってるでしょ。」
最も魔術に長けたバルマンが欠片の管理者になる。
至極当然の判断だ。
「ないんじゃよ!さっき開けたが宝箱は空っぽじゃった!」
便利屋とマデリーンは言葉を失った。
バルマンのジョークと信じたかったが、今の彼にそんな余裕があるとは思えない。
「ありえません!そもそもこの都であれの存在を知っているのは、ここにいる4人だけなんですよ!」
便利屋、ロレイン、バルマン、マデリーン。
欠片の所在はおろか、その存在すらこの場にいる4人しか知らない。
気づかれぬように、誰にも口外すらしていないのだ。
「あの金属片にはおそらくバルべリスの魔力がたっぷりと染みついている。奴の魔力を浄化する大きなヒントになるかもしれなかったんじゃ…!それが…!」
何一つ光明を見出せない現状で、ようやく見つけた希望。
それが霧のように消え去ってしまった。
一同を絶望が包み込むのであった。
読んでいただき、ありがとうございます。
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