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湖面の月  作者: 山田ビリー
月に狼
27/38

4.

「恋人ですか?いませんよ、残念ながら。そろそろ嫁き遅れです。私、なんだか男の人に敬遠されるみたいで。」

とお姫様本人は自己申告していたが、恐らくその認識は間違っている。村での様子を見ればわかる。むしろ男共は、高嶺の花に声をかけられなかったのではないか。それに彼女は、一介の村人にしては所作が綺麗すぎる。宮廷でも通用する程だ。俺自身が庶民の出だからこそわかる。祖母君或いは母君が仕込んだのだろうが、これは田舎では浮くはずだ。

ディディエ殿下が入れ代わり計画を説明したところ、

「無理です!そんなの上手くいくはずありません。」

などと言っていたが、これは案外上手くいくかもしれない。


ヨハンナ殿も、宿で彼女と対面した時には、ディアナ様だと思ったようだ。殿下に簡潔に説明されたものの、未だ半信半疑のようである。

麗しい女性二人の部屋とは異なり、俺達は男三人でのむさ苦しい相部屋だ。部屋に揃った所で、マルセルが一枚の紙片をポケットから取り出す。小さく折り畳まれたそれは、どうやら手紙のようだった。


「殿下方が不在の間を狙って、馬車に矢が打ち込まれました。これは矢に結ばれていた手紙です。読み上げます。


王女の娘に手を出せば殺す。我らが常に見張っている。


また村人に聞き込みをしたところ、以前ルナ様に不埒な行いをしようとした男がしばらく行方不明になり、帰ってきたときには青ざめて発狂寸前だった、という事があったそうです。

何者かはわかりませんが、同一人物、又は集団の仕業と思われます。」

「成る程。心当たりが無くもないが……。今も見張られていると思った方がいいかもしれない。ふふっ、馬車でノヴァがしたことを知ったら本当に殺されるかもしれないね。」

「あれは殿下の命に従っただけです。」

「だからって普通服切り裂かないよ。それにその後じろじろ見てたし。」

不可抗力です。だからマルセル、こっちをニヤニヤ見てくるのはやめろ。


翌日から、ヨハンナ殿はルナ様を厳しく指導していた。これは殿下の、

「彼女をどこにでも嫁がせられるように教育しておいて。」

という命によるものだろう。

ヨハンナ殿は既に名前呼びされている。殿下など、お兄様、と呼ばれてヤニさがっている。基本別行動のマルセルですら、マルセルさんと呼ばれている。なのに俺は……

「……ノ、ノ……」

呼び辛いらしい。

「早くして下さい。」

「ノ、ノヴァ……さん。」

呼び捨てにしてくれるまで、返事はしませんからね!


王都までの短い旅が終わり、黄金宮を初めて見たルナ様は、呆けたようにぽかんと口を開けていた。気持ちはわかる。この宮殿は、やたらとキラキラして派手なのだ。

殿下とルナ様が謁見の間にいる間、俺は一人裏庭にいた。道中ずっと気配を感じていたのだ。果たして、現れたのは一人の男。これといって特徴の無い姿、しかし全く隙が無い。

男が口を開いた。

「我らは我が主デュナン公爵の命により、隠された王女と姫を守ってきた。主は王家を信用していない。そこでお前に聞く。

お前は信用に足る者か?」

咄嗟に答えが出なかった。

「次に会う時までに、答えを考えておけ。お前は何を守るのか。我らは常に姫を見守っている。」

男が去ってからも、俺は動けなかった。

俺は、殿下の騎士で、殿下に忠誠を誓って、でも、いざとなったら彼女を殺す?平和な村から無理矢理連れて来られた彼女を?


ルナ様がディアナ様として黄金宮に滞在する間、俺の定位置は部屋の扉の入口だ。マルセルは例によって裏の護衛である。

初めての王宮に、雲の上の人だと思っていた陛下方との御対面。ルナ様は相当疲れて心細そうだ。人恋しいのだろう、ヨハンナ殿に一緒に居て欲しそうにしている。

「俺が一緒に寝ましょうか?」

軽い冗談のつもりだったんですが。そんなに赤くなられるとこっちも照れます!

「冗談です。」

だから殿下、爆笑するのは止めてください。

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